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自然素材エコハウスの注文住宅の設計・施工を展開しているオーガニックスタジオ新潟株式会社。高い断熱性能とパッシブな設計によって快適なエコハウスを実現しながら、新潟の風景に合う、庭と一体の「佇まいのよい住宅」を提供し、お客様から高い信頼を獲得し続けている。
今回、総務経理部 部長 眞名垣 麻衣子さんに実施したインタビューをご紹介。前編では、YouTubeなどのオンラインマーケティングやコンテンツマーケティングの取り組みを通して安定的な受注を実現する顧客の「ファン化」に迫る。
一級建築士が建てる自然素材を取り入れた高断熱住宅
「新潟で自然素材の家に住みたい」「気持ちのいい無垢の床」「漆喰や珪藻土の壁にしてみたい」。そんな夢を叶えるべく、自然素材を取り入れ新潟に最適な住宅を追求しているオーガニックスタジオ新潟株式会社。寒さが厳しい新潟の気候に合わせて、北海道基準の高断熱住宅を手掛けている。庭と一体の設計による落ち着いた佇まいや窓からの景色の美しさ、自然素材を使った調和のとれた品位ある空間をつくり上げる同社の家づくりへの思想は業界からも注目され、地方工務店において影響力のある存在だ。
同社には営業がおらず、社員10名程度のうち一級建築士は5名で、現場監督のなかには一級建築士取得者も。建築への深い知識と造詣があり、そしてなにより住宅建築が好きという社員が多いことが強みだ。同社の目指す家づくりをしっかりと実現していくために、代表取締役である相模さんの目の届く範囲の棟数に絞り、新築住宅は年間22棟程度に決めているという。片道1時間程度のエリアを商圏とし、平均価格は35坪で3,500万円前後。コスト意識が高いエリアのなかで一見すると高価格に見えるが、庭などの外構も含めたトータルの金額であることを加味するとリーズナブルとも捉えられる。
同社のモデルハウス。外構、調光、借景、中間領域(縁側など)、断熱・気密省エネ性能、耐震性能、建材など素材の再構成、機能性、メンテナンスのしやすさで構成される心地良い空間。
眞名垣さん: 物価も高騰しているので、リノベーションを選択肢の一つにする方もいらっしゃいます。骨組みまでスケルトンにする、ほぼ新築レベルの性能向上リノベーションになるのですが、人気の新潟駅近郊エリアでリノベーションに適した物件は少ないため、当社が手掛けられる最大25棟のうち2〜3棟しか請け負っていません。建て替えてしまったほうが楽ではありますが、基礎、構造、屋根を再利用することで新築に比べて1〜2割程度はコストを抑えることができます。
オーガニックスタジオ新潟株式会社 総務経理部 部長 眞名垣 麻衣子氏
自社の家づくり哲学・思想を発信してファンを育成
以前からモデルハウスだけでなく、ブログ、Twitter、YouTube等さまざまなアプローチでオンラインマーケティングやコンテンツマーケティングに注力してきた同社。代表の相模さんが登場する同社のYouTubeのチャンネル登録者数は1.8万人を超える人気ぶり。そこで語られる家づくりの哲学・思想に共感した人が“オガスタファン”となり、受注、さらには紹介にも繋がり好循環を生み出している。
眞名垣さん: YouTubeを始めたのは1年半ほど前。ご好評をいただいている理由について、代表の相模は「YouTubeは、代表が会社を背負って喋るからこそ説得力がある」と言っていますね。
本来は、新潟県内で住宅建築をご検討されている方に伝えるためのものですが、まずは全ての住宅検討者に向けて具現的なテーマを訴求してチャンネル登録者数を増やしてから、自然素材や断熱性能など自分たちの家づくりの世界観やメッセージしたいことを伝えていくというアプローチにしています。
かねてから社長自身がブログやメルマガ等で“自社の家づくりの哲学”を発信してきたコンテンツマーケティングの文脈からつづく、こうした緻密なマーケティング戦略によって、同社の今期分の受注は埋まっている状態だという。契約から着工までの期間が空くと着工時の資材価格が変動することもある。特に、近年はウッドショックなどの影響による原価高騰が顕著だ。契約時よりも値上がりしてしまうケースにはどのように対応しているのだろうか。
眞名垣さん: 当社では、ほとんどの場合契約から着工まで期間が空くので、資材価格などが変動する可能性については契約書だけではなく具体的な覚書を交わして、お客様にご理解いただいています。「最終的にはこれがいくらになりました」とその都度説明しながら進めています。
有難いことに「工務店側に身銭を切らせても、無理をした結果会社が立ち行かなくなってしまっては元も子もない」と、全てのお客様にきちんとご理解いただくことができています。
契約時から着工時の原価変動分のコストを工務店が持ち、結果的に粗利益が下がってしまうというケースは多い。しかし、同社はその可能性についてお客様と事前に合意形成しておくことで、粗利益は圧迫されない。
また、着工が先になればなるほどお客様のライフスタイルが変わってしまう可能性も。1年2ヶ月先までの受注が確保されている状態は、受注残のバランスの妙と言えるだろう。
【参考】ウッドショックによる原価高騰に対応するための合意書についての記事はこちら
https://www.s-housing.jp/archives/273229
アフターメンテナンスの自動化で接点を構築し、安心感につなげる
機能美を追求した高性能住宅を提供する同社は、引き渡し後の暮らしへの満足度を高めるためにアフターメンテナンス対応にも注力。アフターメンテナンス担当者は設立当初から在籍している社員のため、今まで手掛けた施工履歴を把握している。そのため、過去の知見を基に先回りした的確な動きができるのが大きな強みだ。こうした的確な対応によって、お客様に安心感を与えている。
しかし、お客様の安心感や満足度を支えているのは、そういった属人的な面だけではない。以前はExcelで顧客データを管理していたが、OB顧客の増加に伴いアフターメンテナンスの履歴管理が課題となり、同社は顧客管理のためのシステム導入を検討することに。とある顧客管理システムを導入し、その後2020年にシステムの切り替えを図りANDPADとANDPAD引合粗利管理を導入した。ANDPADの案件ごとに点検のレポートや写真を保存し、ANDPAD引合粗利管理で5回の定期点検のタイミングにアラートが上がるよう設定している。
また、換気扇のフィルターや床のワックスなどのメンテナンスアイテムの購入や、網戸の修理見積もりや随時点検の依頼などに関しては、stores.jpを活用することで商品として購入することができる。細かな対応を自動化することで担当者の業務負担を軽減することが狙いだ。
眞名垣さん: 定期点検時に口頭でお客様に依頼されたことを、担当者がつい忘れてしまうこともあります。またお客様も当社のスタッフが少ないことを知っているので、ちょっとしたお困り事については遠慮してしまうことも。こういったことを回避して、社員を介さずにアフター対応が進められるように、アフターメンテナンスの入り口の自動化をスタートしました。stores.jpは、お客様がWEB上で決済するとメールで通知がくる仕組み。その後担当者が発送対応するだけで請求書も切らなくていいのでスピード感のある対応ができます。
stores.jpのように、お客様が社員を介さずにメンテナンスグッズの購入ができる入り口を設ける一方で、追加工事やお困りごとなどを直接相談したいというお客様に対しては、メッセンジャーアプリを活用して入り口を設けています。気軽に相談ベースでやり取りできるので、こちらがご返信して解決するケースもありますし、stores.jpで購入できるものはURLをご案内しています。一度お問い合わせをいただいた方とのやり取り情報が残るため、社員同士で共有や引き継ぎもしやすく、そこから検索してご連絡することもできます。
また、stores.jpがあることで、お客様がメンテナンスの意識を持つきっかけにもなります。画面を見て「そろそろエアコンの掃除をしなきゃいけないな」という気づきにもなってくれたら。
先回りをした動きができるベテランのアフターメンテナンス担当者への信頼感や、stores.jpやメッセンジャーアプリによる気軽な接点構築によって、お客様からの同社への安心感に繋がっている。
ファン化によって口コミが広がり、高い紹介率を実現
同社では、会社の個性・理論をもとに、立地に合わせて一棟一棟プランニングしている。同社に家づくりを依頼するお客様は、「機能美を追求した快適な住まい」に信頼を寄せていたり、家づくりの思想に共感していたりする「ファン」も非常に多く、高い紹介率にも繋がっている。
眞名垣さん: お客様は当社のYouTubeをご覧になっている方も多いので、われわれの家づくりに対する想いなどもご理解くださっています。当社で建てたご自宅に友人を招いて「オガスタがいいよ!」と実際の住み心地を伝えてくれる方が多い。なかには、ご予算が合わなかったり、家を建てるタイミングが合わず断念された方が、「自分は建てられなかったけど、オガスタがいいよ!」というご紹介をしてくださることも。また、Instagramで家づくりが進んでいく様子を投稿してくれる方もいらっしゃいます。お客様からの発信は、われわれが投稿するよりリアルで面白い。こうした、当社で建てたお客様自身にファンが付いていくこともあるんですよ。お客様は当社のブログやYouTubeを読み込んでくださっているので、代表の相模と同じ言葉で、営業担当のように語ってくれます。
最近では、年間の受注件数の3割程度は紹介案件と、安定的な紹介率を獲得している同社。営業不在の組織体制だからこそ、お客様の「ファン化」はとても重要な役割を果たしている。
ブログやYouTubeが入口となり同社のファンとなったお客様からの問い合わせは、モデルハウス見学予約を前提に案内している。
眞名垣さん: 当社は営業担当がいないので、お問い合わせをいただいたらまずモデルハウスにご案内します。来場いただいて実際に空間や性能を体験していただけたら、ファンになっていただけるという当社側の自信もあります。モデルハウスでの体験を経て、予算感も含めてこちらからお出しできる情報は包み隠さず全て伝え、「ご興味があれば、毎月内覧会をしているのでまた来てください」とご案内しています。プッシュ型の営業や、営業的な駆け引きなどはしていないですね。
期間が空いてから再度連絡がくるケースもあるため、お客様から最初の問い合わせがきた段階で、ANDPAD引合粗利管理に顧客情報として登録する運用にしています。
お客様だけでなく、社員及び協力会社も同社の「ファン」だ。家づくりの思想に共感して入社し、同社が建てる家に誇りを持つ社員によって構成されている。
協力会社に対しては、大工の稼働に合わせて1年間の着工枠を埋めて、大工のスケジュールが空かないように継続的に仕事を依頼することで信頼関係を構築。現在5組に依頼しているが、大工のスケジュールに合わせて工期を調整している。
また、年に2回安全大会を開催し、その後の懇親会で親睦を深めている。安全大会ではANDPADの使い方を周知するために、全員でANDPADを触りながらチャットや報告を使ったり、写真をアップするグループワークを実施した。気軽にANDPADに触れる機会を設けることで、元々デジタルに苦手意識を持っていた協力会社にも浸透してきたという。
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お客様、社員、協力会社の関わる全ての方々を「ファン」にすることに対して努力をいとわず、丁寧に寄り添うことで、顧客が顧客を呼び、好循環を生み出している同社。こうした信頼関係が構築できるのは、断熱性能や機能美、メンテナンスサポートといった同社の家づくりにおける揺るぎない信念と確かな品質があるからだろう。
後編では、サスティナブルな経営に向けて取り組むデジタルシフトについて、深掘りしていく。
URL | https://www.organic-studio.jp |
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代表者 | 代表取締役 相模 稔 |
設立 | 2009年8月5日 |
所在地 | 〒950-1101 新潟市西区山田3077 |