教えて!秋野弁護士!建築業界の法律トラブル相談所#05 設計段階における「説明義務」とは?

  • 設計

秋野卓生 氏
弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士 
弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。
2017年度 慶應義塾大学法科大学院教員(担当科目:法曹倫理)。2018年度慶應義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習(民法))。
2020年岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師に就任。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

秋野先生の寄稿コラム連載「教えて!秋野弁護士!建築業界の法律トラブル相談所」の第5回の今回は「設計段階における『説明義務』とは?」と題して、そもそもの「設計」とは何かというポイントから法律家の視点でご解説いただき、工務店の設計者や営業担当者がお施主様に対して負う責任とはなにか、また説明義務に違反しないために必要なポイントについてお話しいただきました。

はじめに

設計段階における説明義務とは、設計契約、請負契約及び信義則より認められる、設計者や住宅営業の担当者が施主に対して説明を行わなければならない法律上の義務のことをいいます。
具体的には、施主の要望を的確に引き出し、施主に適切な意思決定をさせるのに足りる設計情報等について、説明を行う必要があります。
設計者や住宅営業の担当者と施主の間に生じるトラブルは、どちらに原因があるかは別として、設計者や住宅営業の担当者の説明の内容・程度が問題になるケースが多くを占めています。
まず、説明義務の前提として、そもそも設計とは何か、設計契約によって設計者や住宅営業の担当者は何を行う義務を負うのかについて、考えてみたいと思います。

設計の目的とは何か?

設計契約の目的は、特定の建物の設計を行うことですが、設計とは何か?という問いには、明確な答えがありません。
建築士法は、建築工事の実施のために必要な図面及び仕様書を「設計図書」と定義し、「設計」を、その者の責任において設計図書を作成することであると定めています。しかし、設計図書は、設計の最終的な表現手段の一つに過ぎず、この条項は設計のある一面しかとらえていません。

一方「建築主の要求に対し、創造性を発揮しつつある一定の解を出すこと」 という答えでは、法的責任を導き出すのに、やや漠然とした感じもします。
当事務所では、インプットとして、設計者や住宅営業の担当者が要望と各種の制約を的確に把握すること、及び、アウトプットとして、一つの解である建物を具体化し、設計図書に表現することが、設計の内実であると考えております。

そして、設計においては、結果としての設計図書だけでなく、具体化へのプロセスが重要であると考えます。
まず、設計とは施主が要望する建物の具体化ですから、設計の各段階における施主自身の意思決定が重要です。もっとも、建物の設計は技術的かつ専門的であり、施主において理解や判断が容易ではないことが通常ですから、専門家である設計者や住宅営業の担当者が施主の意思決定に必要な情報を提供しなければならないと考えられます。

次に、設計内容が施工されて設計どおり建物が完成してしまうと、仮に建物に設計の瑕疵(新民法では契約不適合責任)が現実のものとして発生した場合、是正が困難となり、大きな損害が生じてしまうという問題があります。そのため、設計段階で瑕疵(新民法では契約不適合責任)の発生を阻止する必要性は極めて大きく、設計は「完成建築物のシミュレーション」として重要な意味を持ちます。少なくとも、施主の要望との食い違いを避けるためには、設計の各種のケーススタディを施主に理解できる形で提示し、理解を促すことが重要となります。

設計において具体化へのプロセスが重要であると考える理由は、以上の点から、適切なプロセスを経ていないアウトプットは、施主の要望や各種の制約を満たしていない可能性が高いからです。
なお、設計者や住宅営業の担当者は、建築士法に基づく義務として、「建築士は、設計を行う場合においては、設計の委託者に対し、設計の内容に関して適切な説明を行うように努めなければならない。」とされています(建築士法18条2項)。

設計者や住宅営業マンの債務としての説明義務

施主の要望する建物の具体化という設計の内実と、施主と設計者や住宅営業の担当者が設計契約で結ばれた関係であること、建築士法上の義務等からすると、設計者や住宅営業の担当者は、設計契約・請負契約に基づく債務として、以下の義務を負うと思われます。

まず、設計者や住宅営業の担当者は、施主の意向を十分に聴取し、設計の方向性や設計の内容について十分に協議しなければなりません。
そして、そのためには、設計者や住宅営業の担当者は、適時、施主から要望を的確に引き出し、適切な意思決定をさせるのに足りる設計情報を説明する法的義務を負っているという結論となります。
なお、どの程度の説明で足りるかは、建築についての施主の知識・理解のレベル、契約目的となる建物の規模・用途や設計の複雑さ、設計に要する期間など、諸々の事情により決せられると考えます。

設計者や住宅営業の担当者の信義則上の説明義務

一方、設計者や住宅営業の担当者は、契約の範囲外に関する事項についても、信義則上の説明義務を負う場合があると考えられます。
設計という業務は、先の設計の定義の広さ、曖昧さからわかるように、契約の対象となる業務の特定が困難なことがしばしばあります。
そのため、契約に基づく業務の遂行を円滑に進める上でも、契約の周辺の事項についても説明を行うことが望ましく、場合によっては説明を怠ったことについて法的責任を問われる可能性もあるという結論になります。

法令に基づき説明義務が発生する事項を忘れないこと

令和2年8月28日施行の宅建業法規則改正では、不動産売買契約時における浸水リスクの説明義務が、令和3年4月1日施行の改正建築物省エネ法では、省エネ基準への適合の有無などについての説明義務が課されました。
特に、改正建築物省エネ法に基づく説明がなされていない実態があると言うことが業界新聞でも報告されています。
この説明義務を果たさないと、建築士法に基づく立ち入り検査の際に、説明していない事実が確認されると、建築士法に基づく懲戒処分のリスクがあります。
しっかりと法令に基づく説明義務は、忘れず実施して頂きたいと思います。

対応履歴を残して“関所”を設けることの重要性

営業段階、設計段階において、それぞれの段階で「確認しなければならないこと」があり、これが社内でしっかりとルール化され、且つそのルールが履行されることが非常に大事になります。「確認しなければならないこと」を確認し忘れてしまうと、法令違反や瑕疵(契約不適合)が発生する事があるので注意が必要です。
しかし、この「確認しなければならないこと」を逐次上司に報告して決裁を求める運用を徹底するとなると、働き方改革の観点からみても、部下と上司双方の時間のロスとなり、負担が大きくなってしまいます。この点では、ANDPAD[引合粗利管理]のワークフロー機能を活用して“関所”を設けておくと良いでしょう。

他には対応履歴に重要事項説明等の「確認しなければならないこと」の項目を一つひとつ確認して履歴を残しながら進めて、施主とのコミュニケーションにおいて必要な情報をここに集約して一元管理する運用にすることで、自動的に処理を行えるので効率的であろうと思います。

事務所名:匠総合法律事務所
https://takumilaw.com/
代表者:秋野卓生
住所:〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-8 第2紀尾井町ビル6階

編集:平賀豊麻
ライター:金井さとこ
デザイン:安里和幸