#03 教えて!秋野弁護士!建築業界の法律トラブル相談所  R70社員が活躍できる環境整備、改正高年齢者雇用安定法について

秋野卓生 氏
弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士 

弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。
2017年度 慶應義塾大学法科大学院教員(担当科目:法曹倫理)。2018年度慶應義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習(民法))。
2020年岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師に就任。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

改正高年齢者雇用安定法 

 2021年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法は、企業に対し、従業員が70歳になるまで就業機会を確保する努力義務を新たに負うことに改正しました。
 高年齢者雇用安定法は65歳まで従業員を雇い続ける義務を企業に課しており、(1)定年の引き上げ(2)継続雇用制度の導入(3)定年の廃止のいずれかを使用することとされており、大半の企業は、継続雇用制度を採用しています。
改正高年齢者雇用安定法は、定年を70歳まで引き上げるなど(1)~(3)の対応に加え、 (4)業務委託契約を結ぶ制度の導入(5)企業自らのほか、企業が委託や出資する団体が行う社会貢献活動に従事できる制度の導入という選択肢も加えました。

参考:70歳までの就業機会確保(改正高年齢者雇用安定法)(令和3年4月1日施行)

建設業法の技術者配置

現在、建設現場で働いている技能労働者のうち、約1/3が今後10年間で高齢化等により離職する可能性が高い事が想定されています。

 技術者を現場に配置して、常に確認・チェックを実践していく事もとても大切ですが、現場の進行を写真や映像に収め、技術者がチェックリスト等をもとに事務所にてチェックする方法も十分に効果的な確認手法となるのではないかと思います。
 
 そのように考えるのは、災害対応の現場では、各職員が撮影した災害状況の写真や映像データを集約して災害対策本部にて情報集約し、確認をして次の手を検討しているからです。ある程度の規模のある建設現場においては、むしろ情報を集約していく事が重要であり、このようなITを活用した対応も可能となる時代が来ると思います。

高齢者でも活躍できる環境整備

 現状の建設業法による「専任」の要件を備えるため、注目に値するのが「会社を定年退職した高齢者」の活用であると思っています。本当は、現役世代のバリバリの技術者が担当するのが良いと思うのですが、「専任」の要件を備えるためには、現場の掛け持ち(兼任)は、例外を除き、原則禁止されているので、どうしても現役技術者に担当させることは費用対効果的にあわないということになる可能性もあるのです。

 他方で、もともと仕事をしていない高齢技術者は、現場の掛け持ち等したくはないでしょうから、法令順守の観点からは、確実に「専任」の要件を遵守できる高齢技術者の活用を検討する事となります。

 しかし、高齢者が現場に常駐することは難しく、この点、現場のデジタル活用が重要なテーマとなります。例えば、現場監督が撮影した写真、もしくはウェアラブルカメラやドローンからの写真情報をANDPADなど関係者に共有できる環境にアップロードをし、高齢のベテラン技術者が自宅から写真をチェックしANDPADのチャットなどを通じて指示を行うなど、IT環境が整備されれば、「専任」のベテラン技術者による最良の「専任」体制が構築できるのではないかと思います。

高齢の監理技術者をサポートする技術士補の制度を活用しよう!

2020年10月1日施行の改正建設業法では、新たに技術士補の制度を創設し、元請けに技術士補がいる場合(監理技術者がその職務を行うための基礎的な知識および能力を持つと認められる者を補佐として配置した場合)には監理技術者が複数の現場を兼任することが認められることとなりました。

参考:建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律(令和元年法律第三十号) (令和元年6月5日成立、6月12日公布)

建設DX促進に向けた国の動き

 国土交通省は直轄土木工事で監督・検査業務の効率化を進めるべく、建設現場の遠隔臨場に関する「試行要領(案)」と「監督・検査試行要領(案)」を、令和2年3月2日付で北海道開発局と内閣府沖縄総合事務局を含むすべての地方整備局に送付しました。

 これまで監督職員が現場で立ち会っていた臨場確認に代えて、映像データを用いて発注者の事務所内でリアルタイムに承認・確認する「遠隔臨場」を試行する案であり、発注者は現場への移動時間、受注者は立ち会い調整時間がそれぞれ削減できる案となっています。

 建設DXを戸建て住宅建築現場で実現する場面を想定すると、現場監督は、現場に行かなくても各現場工程完了時に、現場職人から連絡を受け、Webカメラで現場を写してもらいながら説明を受ける。その過程で必要な写真を撮影するといった事務所内作業が可能となります。

 また、当該現場の工事監理者も各工程完了時に、現場職人から連絡を受け、上記同様、Webカメラを活用して設計図書と現場との照合作業を実施することができますので、高齢技術者でも現場管理を十分に対応できる環境になる可能性を建設DXは秘めています。

建設業法に基づく施工管理技術検定の不正受験と施工管理技士資格の不正取得

 建設業法は、技術者の配置を要求する法律であり、建築会社においては、技術者の育成、資格者を定期的に増やしていくことが企業経営上不可欠の課題となります。

 そして、資格者の多くが定年退職していく中、受注件数を増やすために無理をしようとすると、建設業法に基づく施工管理技術検定の不正受験や施工管理技士資格の不正取得の問題を生むこととなるのです。

 資格者の定年退職のペースと新規資格取得のペースがアンバランスである事が想定される建築会社では、改正高年齢者雇用安定法に基づく高齢資格者との契約続行の選択肢を検討すべきでしょう。

高齢技術者が働きやすいIT環境の整備

改めて、高齢者は体力的に、現場に常駐することは難しいことが予測されます。この点は、現場のIT化を促進し、労働環境の改善を果たす事が急務でしょう。

 国土交通省で進められている「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組であるi-Construction(アイ・コンストラクション) の取り組みを進めることによって、高齢技術者が体力的にも働き続けることができる環境を整備することも重要な課題であると考えます。

事務所名:匠総合法律事務所
https://takumilaw.com/
代表者:秋野卓生
住所:〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-8 第2紀尾井町ビル6階

文責:秋野卓生弁護士
編集:平賀豊麻
デザイン:安里和幸