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今さら聞けない 建設業の労務管理/ 人材確保のために今日からできること #03

社員定着のために大切な「ルールの見える化」

目次

  1. 建設業の就業者数の推移と高齢化の現状
  2. なぜ、定着率が上がらないのか?
  3. 定着率を上げるためには?労働条件の整備が必要
  4. 就業規則を見える化・ルールブックの作成
  5. 給与の見える化・評価のズレを軽減
  6. ルールは「説明」が鍵!社員説明会実施を
  7. 定着率向上への第一歩を踏み出そう

少子高齢化が進む中、建設業において見逃せない重要なテーマの一つが「担い手確保」です。仕事はあるのに施工ができない、といった問題に直面する方も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、建設業において社労士として活躍する株式会社アスミルの代表 櫻井さんに、「人材確保のための労務管理」というテーマで解説いただきます。

新しい人材の確保はもちろん喫緊の課題ですが、今いる大切な社員の皆様に、いかに長く活躍してもらうか、ということも重要です。
そこで第3回目となる今回は、建設業において社労士として活躍する株式会社アスミルの代表 櫻井さんに、「社員の定着率」というテーマで解説いただきます。社員の皆様が「この会社で長く働きたい」と心から思える環境をどう作るか。これこそが、持続可能な組織運営の鍵を握っています。

櫻井 好美 氏
社会保険労務士法人アスミル 代表
株式会社アスミル 代表取締役
一般社団法人建設業サポート室 代表理事
特定社会保険労務士 / ファイナンシャルプランナー / キャリアコンサルタント
大学卒業後、営業事務やコンサルティング会社での営業職に携わった後、社労士資格を取得し開業。国土交通省委託事業「建設業における労務管理セミナー」の他、大手ゼネコン協力店会や各企業安全大会、専門工事業団体において、「労務管理セミナー」「法定福利費セミナー」「建設業における働き方改革セミナー」等多数実施。

建設業の就業者数の推移と高齢化の現状

建設業就業者数の推移を見ると、1997年の685万人から、2022年には479万人へと大幅に減少しています。

建設業就業者の高齢化は深刻で、55歳以上が全体の35.9%を占める一方、29歳以下はわずか11.7%に留まっています。2021年から2022年にかけて、55歳以上が1万人増加する一方で、29歳以下は2万人減少していることからも、この傾向は加速しています。

さらに、60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.7%)を占めており、その大半が今後10年で引退すると見込まれています。次世代を担う29歳以下の割合が約12%程度であることから、技術の継承も大きな課題となっています。

出典:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf

出典:年齢階層別の建設技能者数 出典:国土交通省「建設業を巡る現状と課題」(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf

なぜ、定着率が上がらないのか?

インターネットの発達により、私たちは様々な方法で情報を入手することができるようになりました。これにより、建設業界の労働条件や職場環境は、他業界と比較されることが増え、残念ながらまだ十分に魅力的とは言えない側面があるのも事実です。加えて、かつて主流だった終身雇用という考え方も薄れ、特に若い世代は仕事に対する価値観や「幸せ」の基準が多様化しています。

例えば、以前、弊所の顧問先で20代の男性の大工の方から退職の申し出がありました。彼は以前から仕事は好きだと話をしていたので、退職の申し出を疑問に思い理由を尋ねてみたのです。すると「子供ができたからです。子育てを妻と一緒に楽しみたいので、休日が少なく、有給休暇もとりづらいこの会社でこのまま働き続けるのは無理だと思いました」と返事がきました。

これは、経営者の皆様にとってすぐには納得しにくい意見かもしれません。しかし、若い世代にはこうしたワークライフバランスを重視する価値観を持つ人がいることを、私たちは認識する必要があります。もちろん、若い世代は全員がこう考える、というように一括りにすることはできませんが、多様な働き方を求める声がある中で今までのような正社員一辺倒な働き方だけはでは、定着は難しくなってきているのが現状です。

定着率を上げるためには?労働条件の整備が必要

このような現状を踏まえると、今いる社員の方々が安心して働き続けられるよう、より魅力的で働きやすい職場環境を構築することは、建設業界全体の持続可能性にとって不可欠です。具体的には、担い手の処遇改善、働き方改革、そして生産性向上を一体的に進めることが、これからの建設業を支える鍵となるでしょう。

それでは、社員の定着率を向上させるために何が必要か、具体的に考えていきましょう。まず最初に取り組むべきは、他業界と同水準の労働条件を整備することです。たとえば、労働時間、賃金、休日・休暇、退職に関する事項など、働く上での基本的なルールを明確に定めることで、社員はこの会社で働くことに対する安心感を得ることができます。

就業規則を見える化・ルールブックの作成

建設業の場合「どこまでが労働時間で、どこからが休日出勤なのか」が曖昧になりがちです。こうした不明瞭さは、働く人にとっては不満につながってしまいますので、ルールの「見える化」を進めることをお勧めします。

就業規則は作成をしていても、法律用語が多く、読み慣れていない人には理解が難しいです。社内のルールは法律で定められたことだけでなく、経営者と従業員が共有したい大切な情報でもあります。これをイラストなどを活用して、もっと分かりやすく伝える工夫をしてみませんか?労働時間、賃金、休日・休暇、退職等の考え方ももちろん大切ですが、経営理念、日常のルールである残業の申請の仕方、普段守っておくべきルール等も重要です。経営者にとっては「当たり前」だと感じることも、世代が変われば常識も変化します。そうした状況だからこそ、社員全員が確認できるルールブックを作成してみましょう。

出典:建設業界の仕組みと労務管理(2024)

社内での決まり事をまとめた「ルールブック」の作成例。出典:建設業界の仕組みと労務管理(2024)

給与の見える化・評価のズレを軽減

ここまでお伝えした通り、心身ともに健康で、安心して仕事に集中できる職場環境の整備の一つとして行う「ルールの見える化」は重要です。そのほかにも大切にしたいのが、それぞれの頑張りが正しく評価され、将来が見通せるような仕組み作りだと考えます。

そこで、ルールの見える化と同時に取り組んでいただきたいことが「給与の見える化」です。

「あの人はいくら教えても全然できないな」と後輩に対して感じる先輩がいたとします。この先輩が考える「できる」の基準は一体どれくらいなのでしょうか?後輩も決して頑張っていないわけではありません。しかし、目指すべき「できる」の基準が互いに異なっていると、評価にもズレが生じてしまいます。

これは、登山に例えると分かりやすいかもしれません。例えば「今年は、山登りに挑戦しよう」という目標があったとして、先輩のイメージした山は富士山で、後輩がイメージした山は地元の小さな山だったとしたらどうでしょう。この場合、後輩は自分のイメージした小さな山は十分に登れていたとしても、先輩からみれば、富士山が基準となっているので、まだまだ登れていないという判断になってしまうのです。このような誤解がないように、給与の基準も「見える化」していくことが重要です。

ここで1つの例として等級基準書の作成をご提案します。これは、例えば1等級から6等級といった枠組みを作り、それぞれの等級で求められるレベルや給与の目安を具体的に示していくものです。

「等級基準書例」出典:建設業界の仕組みと労務管理(2024)

ただ、これだけでは具体性に欠けるかもしれません。それぞれの職種で「必要な資格」や、現場監督であれば「〇棟以上の管理ができる」といった具体的な内容まで想定してみるのも良いでしょう。資格や就労日数ということであれば、CCUS(建設キャリアアップシステム)のレベル判定(※)を利用するのも有効です。CCUSのレベル判定をされているのであれば、自社の等級基準書のなかで、どの等級がどのレベルに相当するのかを明示化しましょう。

等級基準書を作成することで、何を頑張ればいいのか、何が足りていないのか、というのが見えていき、社内の共通言語にもなっていきます。また、中途採用の方の賃金の決め方も難しいと思いますが、一定の基準があれば説明しやすくなっていきます。最初から完璧なものを目指すのではなく、まずは、今みなさんがイメージしている社員像を明文化することからはじめてみましょう。

CCUSとは
建設技能者の皆様のスキルと経験を「見える化」し、業界全体で共有するための仕組み。具体的には、技能者の保有資格や社会保険の加入状況、そしてそれぞれの現場での就業履歴といった情報を、業界全体で横断的に登録・蓄積し、活用していくシステム。

(※)レベル判定には、能力評価を受けたい技能者ご本人、または同意を得た所属事業者などが、定められた「能力評価実施団体」に対し、所定の手続きで「申請」を行う必要があります。HP:https://www.ccus.jp/

 
ANDPAD ONE編集部より
そのほか、企業側が「同一職種内でスキルアップし、段階的に成長するための道筋(キャリアラダー)」を明確に示し、社員が「描きたいキャリア」と「現在の立ち位置」のギャップを埋める取り組みを進めているANDPADのユーザー様をご紹介します。

ルールは「説明」が鍵!社員説明会実施を

せっかく時間をかけてルールブックを作成しても、社員の皆様にしっかり伝わらなければ意味がありません。ルールブックの内容を浸透させるために、社員の方々への丁寧な説明を心がけましょう。

私自身、お客様の会社でのルールづくりをした後に必ず説明会を実施するのですが、説明会では日常の疑問も解決できますし、会社と社員の方が働く環境について考えるとても良い場だと感じています。

以前、ある工務店さんの説明会で「土曜日のバーベキュー大会は労働日ですか?」といった質問が挙がったことがあります。この会社は土曜日には、レクリエーションのためのボーリング大会、バーベキュー大会、また地元のイベント等が多くあり、土曜日はほとんどが出勤といった状況でした。会社はレクリエーションだと考えていましたが、社員の方達は休んでいいものなのか?を非常に気にしていたようでした。今までの慣習についてはなかなか会社側に聞きづらかったようです。

そこで会社は、説明会の場で、業務とみなされる行事への参加時には振替休日を確実に取得できること、そしてレクリエーションはあくまで自由参加であることを明確に伝えました。会社側はレクリエーションの参加者が減ることを懸念していましたが、実際には参加者は減りませんでした。社員の皆さんにとっては、曖昧だったルールがはっきりしたことで、かえって安心して参加できるようになったのでしょう。

この会社では小さな不満がオープンになることで、いろいろと話し合う土壌ができたように見受けられました。小さな不満がたまることは離職にもつながっていきますので、こうした機会をつくることは風通しの良い会社をつくるきっかけにもなるでしょう。

定着率向上への第一歩を踏み出そう

今回は定着率をあげるために必要なことの1つとして、労働条件の整備と、ルールの見える化について解説をしてきました。

中小企業の場合、就業規則はあるものの、周知がされていない、何年も前の規則がそのままになっている、就業規則と実態が違う等様々な問題点があります。また、社長に聞かなければルールがわからないということでは、とても働きやすい環境とはいえません。長く働くことができるというのは、安心して働ける職場であるかどうかと思います。

これから家族が増えていくのに、将来どれくらいの給与がもらえるかわからないのでは、社員はその会社で継続して働こうとは思えません。経営者の方々は、もちろん社員の生活を考えていらっしゃると思います。しかし、その思いは言葉にして伝えなければ、社員には届きません。

社員が安心して働くことのできる職場づくりの第一歩として「ルールの見える化」に取り組んでいきましょう。

株式会社アスミル / 社会保険労務士法人アスミル
URLhttps://www.asmil.co.jp/
代表者櫻井 好美
所在地〒270-0034 千葉県松戸市新松戸3-33 京屋ビル3F
  
寄稿: 櫻井好美(株式会社アスミル / 社会保険労務士法人アスミル)
企画・編集: 平賀豊麻、原澤香織、齋藤夏美
デザイン: 森山人美、岩佐謙太朗
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