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大切なのは「人」と「技術」。職人集団の塗装会社が手探りで進めたDX

〜前編〜360度評価で多面的に成果をチェック、社員のモチベーションアップに

山形県上山市で塗装工事、防水工事などの外装工事から内装工事まで、「総合仕上げ工事のスペシャリスト」としてトータルで対応しているゆうき総業株式会社。社員の半数が職人、しかも複数の技能士資格を持つ多能工が多く、高い技術を武器に戸建て、マンション、公共工事など幅広い案件に対応している。

同社は創業者である結城伸太郎代表が刷毛(はけ)1本で独立、立ち上げた会社だ。デジタルに強みを持ち、ITツールを活用して現場管理や社内の業務効率化に努めてきた。ANDPADを導入したのは2020年。翌年にはANDPAD引合粗利管理も取り入れた。

今回は代表取締役の結城伸太郎さん、山形営業所の加藤やよいさんにインタビューを実施。前編では創業からのあゆみや同社の強み、ANDPAD導入の経緯などを伺った。

結城 伸太郎氏
ゆうき総業株式会社 代表取締役

10代から土木、足場などの仕事を経験し、塗装職人に。数年の修行を経て2001年に独立し、2011年にゆうき総業株式会社を設立。職人歴26年

加藤 やよい氏
ゆうき総業株式会社 山形営業所

ブライダルの衣装の仕事をした後、簿記などの資格を取得し、ゆうき創業に転職。育児と両立しながら山形営業所で事務から営業サポートまで幅広くこなす。

INDEX

 

塗装にのめり込み、20歳のときに“刷毛1本で独立”

同社は塗装職人だった結城さんが独立、創業した会社だ。塗装工事から始めて防水工事、左官工事など外構工事全般に業務範囲を広げ、現在は内装工事も含めた大規模修繕にも対応。公共工事を建築一式工事で落札するなど、提案力と対応力を強みに事業を拡大し、地域で厚い信頼を集めている。結城さんに創業までのあゆみを尋ねた。

結城さん: もともとあまり勉強が好きではなく、高校も進学はしたもののすぐに中退。知り合いの土木会社で働き始めました。親方はとても厳しい方で、そこで「社会に出て働くって、こんなに大変なんだ」と身をもって知りましたね。

ゆうき総業株式会社 代表取締役 結城 伸太郎氏

その後足場職人になるなど業界内で転職を繰り返した結城さん。たまたま参加した開業セミナーで出会った人の紹介で、今度は塗装職人となった。

結城さん: 建築関連でさまざまな仕事をしてきましたが、塗装はやり始めるとともかく楽しくて、毎日あっという間に時間が過ぎていきましたね。師匠のもとで弟子として塗装職人をして数年経ったころ、近所の人から受注すると、師匠が「自分で見積もりを出して、一人で準備して塗ってみろ」と言ったんです。それをなんとかこなすと一人で仕事を任されることが増え、独立を勧められました。

当時、結城さんはまだ20歳。同級生は大学に通っている年齢だ。だが結城さんはすでに結婚して子どもがいた。そのため土木会社でお世話になった大工らに営業をかけるなどして、がむしゃらに働いたという。

仕事が順調にいっていた23歳のとき、何気なくインターネットで「塗装」と検索をしてみた。当時はまだホームページを持っている塗装会社はわずか。だが結城さんは各社のページを読むのに夢中になった。

結城さん: どの会社も自分が持っている技術とは全然違う技術を持っていて、新鮮でした。しかも文章に仕事への情熱があふれていた。それを見て「ホームページを持っていれば、仕事につながるんじゃないか」と思ったんです。

そこで寝る間も惜しんでHTMLやSEOなど、ホームページ制作に必要な技術を学んだ。そして独力でホームページを完成させた。

結城さん: 山形県内の塗装業者の中では、うちが一番早くホームページをつくったと思いますよ。そうしたらホームページ経由で依頼がくるようになったんです。そこからPCに詳しくなりましたね。

 

スタッフが驚いた採用面接。家庭のことは問いもせず「何かあったら休んでいいよ」

建設業界一筋で働いてきた結城さんと違い、山形営業所の加藤さんはまったく関係ない業界からの転職組だ。

加藤さん: 前職ではブライダルの貸衣装の仕事をしていました。やりがいがあって、ずっとそこで働き続けるつもりでした。でも出産を機に考えが大きく変わったんです。

結婚式は土日・祝日や夜に行われることが多い。そのため出産前と同じように働くのは難しかった。女性が多い職場で理解はあるものの、独身のスタッフにしわ寄せがいくことは心苦しかったという。

加藤さん: 育児との両立や健康のことを考えると、この仕事を一生続けていくのは難しいと思いました。それで長く続けられる仕事を探し、事務職に転職することにしたんです。

ブライダルの仕事をやめた加藤さんは専門学校に通って簿記などの資格を取得、ゆうき総業に就職した。

加藤さん: 社長の前なので言いにくいのですが、正直、業種は何でもよかったんです(笑)。お休みが取りやすくて長く続けられそうで、家庭と両立できることが最優先でした。ゆうき総業に応募したのは、自分と同年代の男性社員が多かったからです。彼らの奥さんの中には、私と同じような境遇にある人もいるはず。事情を理解してくれると思いました。

幼い子どもがいると就職で不利にとらえられることは珍しくない。実際、加藤さんも面接で「小さい子どもがいるのに、どうしてフルタイムを希望するの?」と聞かれたことがあったという。だが同社の面接は違った。

加藤さん: 家庭のことを全く聞かれなかったんです。衝撃でした。逆に私の方が不安になって、「子どもが小さいのですが……」と言いました。そしたら「なんかあったら休んでいいよ」って(笑)。その一言で心配が消えましたね。

ゆうき総業株式会社 山形営業所 加藤 やよい氏

初めての事務職だったが伝票や請求書の整理から初め、慣れると自ら進んでカラーコーディネーター検定、エクステリアプランナーなどの資格を取得。営業のサポートも行うようになっていった。

加藤さん: 同じ作業を続けていると、より短時間でできるようになります。空いたキャパシティは自分で埋めなければ成長できません。だからいろいろ挑戦したんです。

 

業界未経験の新人を新店の所長に抜擢。スタッフを「信じて任せる」

ホームページにあるスタッフ紹介のページには、それぞれの入社の経緯や仕事への思いが掲載されている。同社のブログはスタッフが交代で執筆しているが、参加は自由だ。

結城さん: 表現をするのが苦手な人に無理矢理書かせても、仕事へのモチベーションを下げるだけですからね。だったら得意な人だけやればいい。ただ書いた人にはインセンティブは出しています。

同社にはスタッフの家庭の事情や得意不得意を理解し、個性を尊重する風土がある。結城さんは「平均的な人がいないんですよ」と笑う。だがバラバラであればあるほど、会社としては管理しづらくなるのではないだろうか。

結城さん: スタッフからは指示をしても反論されるので、たまに自信をなくします(笑)。でも大事なことは反論されても押し切りますし、一理あるなと思えば尊重します。

自分が責任者になると、モチベーションって上がりますよね。責任の重さに苦しむこともあると思いますが、その経験で成長するし、それを楽しいと思える瞬間がきっとくる。だから新しいことを任せるときは最初だけ伴走して、あとは余計な口出しはせずに信じて結果を待ちます。

「信じて任せる」。それを実行したケースがある。新規店舗として福島店を開設する際、店長に業界未経験の新人を抜擢したのだ。

結城さん: 他社の事例を見ていて、人に何かを売ることについては未経験でもマニュアルさえ揃っていれば、その人の人柄や会社のPR次第でうまく回ると感じました。ただ中間管理職の経験は持っていてほしかった。そこでレジャー産業出身者で、副店長の経験があった新人に店長を任せました。

「スフィア盤」でスキルアップを支援。資格のポイント化、相互評価制度で職人を360度評価

同社では社員の半数にあたる15人が職人だ。その職人の技術向上のため、定期的に社内で講習会を実施。職人はそれぞれ複数の資格を持つ「多能工」として活躍している。一般的に技能の高い職人は会社を離れ、独立することも珍しくないが同社ではどうだろうか。

結城さん: 独立したい人は応援するつもりです。ですがスキルに見合った報酬を出しているからか、離職者はかなり少ないですね。

その職人の評価については、2022年夏に「360度評価(多面評価)」を取り入れた。職人が所定の資格を取得すると1〜5ポイントが評価に加算される。次はどのスキルを身につければいいかわかるように、有名ゲームを参考に「スフィア盤」という表を作成し、スキルアップをサポートしている。

同社の「スフィア盤」。中央からスタートし、専門領域に向かって枝分かれするようにつくられている。

周囲からの意見も大事な評価要素だ。工事部では職人全員がお互いに点数を付けあう相互評価を行っている。

結城さん: 弊社では年に3回、全体集会を開催しているのですが、数年前からその席で相互評価制度の導入について尋ねていました。全員に目をつぶってもらい、賛成の人には手を挙げてもらったところ、年々その数が増えていったんです。

相互評価制度は「諸刃の剣」と言われる。個人の感情が入るため、トラブルにもつながりかねない。だが結城さんは導入へと舵を切った。

結城さん: 社長の評価ですべてが決まるなら、それが一番楽かもしれません。ですが私自身忙しくて、現場に行ってみんなの働きぶりを見ることができなかった。その状態で評価することに疑問を感じていました。

それに業績が良かった際に、全員に同額のボーナスを支給したら「がんばっていない社員とどうして同じ金額なんだ」と不満の声が上がったんです。だったらお互いに評価をさせてみようと思いました。

現在、相互評価を実施しているのは工事部だけで、ほかの部署は営業成績やお客様からのアンケート、結城さんと社員の個別面談で評価している。

結城さん: 職人は現場に出てしまえば誰の監視下にもありません。だからまずは工事部だけでやることにしました。正直、人によってポイント数はかなり開きがあるので補正はかけています。職人のモチベーションが下がってしまっては、導入した意味がありませんからね。私は評価というのは本来良い面を見るものであり、悪い面は加味する必要はないと思っています。

ITツール多用で管理が煩雑化。一本化できるツールを探しANDPADを導入

同社では2020年にANDPADを導入した。結城さんが自分で会社のホームページをつくるなどPCに詳しかったため、同社ではすでにさまざまなITツールが使われていたが、便利になった一方で弊害もあったという。

結城さん: スタッフがそれぞれ自分が使いやすいツールを使っていたため、資料のフォーマットが統一されておらず、共有もしにくかったんです。また現場写真や資料の保管先もバラバラで、管理が煩雑でした。

いろいろなツールを導入したことが、逆に手間を増やしてしまっていたのだ。そこでさまざまな作業が一つで完結できるツールを探した。目を付けたのがANDPADだった。

結城さん: 以前からANDPADに注目していたのですが、多機能であるがゆえに、職人や協力会社が使いこなせないのではないかという懸念もありました。ですが使い方の講習会を開いたり、会議の際にみんなで一緒に使ったりしたところ、徐々に使いこなせるようになりました。今では60代の職人もスムーズに操作していますよ。

社内講習会やユニークな「スフィア盤」の活用で職人の技術向上を後押し、相互評価制度の導入で多面的に評価をする。「人」と「技術」を大事にする同社の姿勢が、制度にも明確に現れている。後編ではITツールを積極的に導入してきた同社が、ANDPADを活用することで感じたメリット、今後の展望などを聞く。

ゆうき総業株式会社
URLhttps://yuukisougyou.com/
代表者代表取締役 結城 伸太郎
設立2011年9月
本社山形県上山市藤吾三辻464
取材・編集:平賀豊麻
編集・デザイン:原澤香織
ライター:にしみねひろこ
デザイン:森山人美、安里和幸
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