人口減少に伴って今後の新設住宅の着工数減少が見込まれ、若手の採用が難しくなるなど市場環境が大きく変わる中、創業時代とは違う戦略をとらなければと奮闘している2代目経営者は多いだろう。
そんななか、ANDPADの施工管理や引合粗利管理、受発注、さらに入金管理機能(*)を活用し、ANDPADで一元的に管理することによって、施工管理業務における負担と無駄なコストを削減し、浮いた時間でより“ぬくもりのある仕事”をしようと考えているのが、岡山県津山市にある株式会社兵恵建設だ。平成元年に創業し、木と自然素材の家をつくり続けてきた地域密着型の工務店である。
同社の代表、兵恵慎治さんは2代目経営者として先代から積み上げてきたものを守りたい気持ちと、新たに挑戦していきたいことがある。そこにどうANDPADを活かしているのか。家族経営の工務店として、これまで培ってきたやり方があるなかで、ANDPADのような新しいツールを取り入れて業務を改革していくことは簡単ではない。前編では、兵恵さんがそのことにどう向き合い、取り組んでいるのかに迫った。
*入金管理機能は、株式会社兵恵建設様にてテスト運用中の、ANDPADの検証段階機能です。
一級建築士、一級建築施工管理技士、宅地建物取引士、福祉住環境コーディネーター2級、インテリアコーディネーター。趣味はイカ釣り、建物探訪、格闘技、 Bリーグ観戦。
地域の人と材で気候風土に適した精緻な家を作る地元密着型工務店
岡山県津山市で「ぬくもりでつくる、ちょっといい暮らし」をキャッチコピーに家づくりを行う兵恵建設。つくる家は自然素材をふんだんに利用しつつも、高気密・高断熱、省エネと機能性を重視している。現在ではリノベーションや古民家再生事業に加え、薪ストーブの事業も行う、地域密着型の設計事務所兼工務店だ。2代目の兵恵 慎治さんはどんなことを重視して経営をおこなっているのだろうか。まずは兵恵さんの家づくりにかける想いを聞いた。
兵恵さん: 小さな頃から父(現会長)の仕事を見ていて、自然と将来は自分も同じ道を歩みたいと思うようになりました。そこで大学では建築学科に進み、一級建築士の免許を取れるまでは修行をしようと大手建設メーカーに就職して、施工管理などの仕事をしました。兵恵建設に入社したのは10年前の2014年1月です。
株式会社兵恵建設 代表取締役 兵恵 慎治氏
兵恵さん: 入社した当初は何も分からず、目の前のことをとにかく一生懸命にやろうと無我夢中でやっていました。そのうちに、次第に父がつくり続けていた「木と自然素材の家」の美しさに気づくようになって、それを兵恵建設の特徴としてはっきりと打ち出したいと思うようになりました。同時に、関東から帰ってきて気づいたこの地域の冬の厳しい寒さを、自分のつくる家ではなんとか対策したいとも感じました。
「明るくて暖かい家」を建てたい、という施主様のご要望のもと、できる限り自然の素材を使用しながら、少しのエネルギーで快適に過ごせるお家に。
2021年に代表に就任してからは、その思いを実現すべく「本当に快適で、健康に暮らせる家づくりをしていこう」と、断熱性能グレードをエリアトップのG2に保つ方針を打ち出しました。ただ、木と自然素材の家で断熱性能の基準を高くすると、家の価格はどうしても上がってしまいます。そこで、兵恵建設の注文住宅と同等の性能はそのままに、箱型の家にすることでコストを抑えた独自の企画型住宅「KIBAKO」も作ることにしました。
株式会社兵恵建設 KIBAKOシリーズ建築事例。兵恵建設のつくる家はすべて、G2断熱性能基準を満たしている。
兵恵建設のつくる家はすべて、断熱性能基準はエリアトップレベルだ。こういった変化を兵恵さんは簡単に起こせたわけではない。先代や長く会社にいる社員には、そこまでの性能を求める必要はあるのかと問われ、理解してもらうまで時間がかかったという。
兵恵さん: この性能のほうが津山の気候風土に適した家になるのは確かなんです。私の家もその性能で建てていますし、同じ性能で注文してくださったお客様にも喜んでいただいています。私は家づくりを通して、地元を豊かにしていきたいと思っています。良いものを知りながら採用しないのは嫌だったので、こだわりました。
そう話す兵恵さんが強調したのが「精緻な家づくり」だ。精緻な家をつくるには、腕の高い職人を確保する必要がある。職人が減少し続けている状況で、なかなか難しいことでもあるが、兵恵さんは地域の工務店の人と紹介し合っているという。
兵恵さん: 昔は仕事がたくさんあったから、同じ商圏の工務店さんと仲良くして職人さんの仕事を融通しあったりしなくても、職人さんの仕事は途切れることもなかったし、職人さん自体も多かったので何も困ることがなかったんでしょう。だから同じ商圏の工務店さんは単純にライバルだと思っていたのかもしれませんが、今は切磋琢磨する仲間という意識を持って助け合っています。良い職人さんが廃業してしまったら困りますから、仲間内でその職人さんの仕事が途切れないように融通し合って依頼するようにしていますし、職人さんを紹介し合うこともあります。仲間との付き合いが非常に重要な時代だなと感じています。
IT活用×人材活用で達成する監督業務の分業化
こういった、良いものを積極的に採用したい、地域の人々と一緒に仕事をしていきたいという兵恵さんの姿勢は、会社のIT活用にも現れている。同社では、2021年からANDPADを、2022年からはANDPAD引合粗利管理とANDPAD受発注の利用を開始したのだ。
しかし、38歳の兵恵さんは正社員のなかで最年少。エクセルすら不慣れな社員やITが苦手な現場監督が多いなかでANDPADの活用は難航した。その状況が変わり、ANDPADのなかでも受発注の活用が進み出したのは、兵恵さんの長年の知り合いである一級建築士の女性が結婚後に仕事を辞めて家庭に入っていると知ったことがきっかけだ。パートで週20時間、在宅可という条件で仕事の打診をしたところ、引き受けてもらえるようになった。この方には、ANDPAD受発注を使って現場監督に代わり発注業務を担当してもらっているという。
兵恵さん: 発注の前段階の、協力会社さんから見積もりをいただくところから対応してもらっています。建築士の方なので、たとえば外周に貼るシートなどの必要量を、図面から拾ってもらうことができるんですよね。こういった仕事のお願いの仕方であれば、優秀な人材でありながら、さまざまな事情でオフィスに週5日出社して正社員として勤務するのが難しい方にもスキルを活かして仕事をしていただくことができます。
監督さんの仕事の一部を切り出してやっていただいているので、監督さんは単純計算で週20時間分は別の、監督さんにしかできない仕事に専念できます。今、どこの地域でも監督さんの人材不足は非常に深刻です。でも人材不足を憂いても仕方ない。今回のことで、テクノロジーを活用しながら、作業や業務から属人性を排し、新たな雇用機会を作り、チームとして生産性を高めるようなオペレーションを構築していくことの可能性を改めて感じました。システムを使ってできることはあると思いますね。
週20時間の監督業務が削減できることは時間削減だけがメリットではない。これまで監督が行う発注業務は、忙しさゆえに「足りなくなるよりはいい」と多めに発注して余らせてしまったり、同じ性能で安いものを探すゆとりがなかったり、価格よりも発注しやすさを優先して業者を選んで、結果的に数万の差額が出たりと、とにかく無駄が多かった。こういったことを発注業務を専門に行う人を配置することで改善できるようになったという。
兵恵さん: ただ、この方はご家庭の事情で退職なさることが決まっています。この方のおかげでDXに向けてまずは一歩踏み出せたので、発注業務の切り出しというのはこれからも続けていきたいと思って、人材を募集し新たな方々の雇用も決まりました。今までやったことと業務手引書を引き継ぎ書類として作ってくださっているので、それを次に担当してくれる人に渡して、続けていきたいですね。
兵恵さんは監督業務の分業化を発注業務だけに留めておくつもりはない。同じように監督業務の分業化を進めているベンチマーク企業を参考に、今後は工程管理、品質管理、原価管理、安全管理といったそれぞれの監督業務を分業化していきたいと話す。
兵恵さん: 守るべき業務フローとチェックリストがあって、工程・品質・原価・安全それぞれの担当者がそれをなぞるとちゃんとした家ができるというのが、一番望ましい姿だと思います。それに向かって今、第一歩を踏み出したと感じています。
分業化の先に見えてきた完全発注
兵恵建設では、設計やインテリアコーディネートの打ち合わせまで完了させた上で、着工2ヶ月前までに工事請負契約を締結している。ANDPAD受発注を活用することで発注業務の分業化が進み、着工までの完全発注も目指せるようになってきているという。資材の高騰が続く中で、着工ギリギリ、もしくは着工してから資材を発注するとコストが嵩むことも多い。早い段階で粗利を確定させ経営の見通しを持ちやすくすることが狙いだ。
兵恵さん: 発注の内容については、事前に社内の関係者全員に回覧し確認してもらっています。そうすると、けっこう訂正が必要なものが出てくるんです。この段階で気付けることは大きな前進です。以前はガラスやサッシのサイズが誤っていることに気が付かないまま発注してしまって再発注になり、粗利を削ってしまうといったこともあったのですが、回覧することでそういったことも防げています。
ただし、これに関しては悩みも多い。完全発注には、社内の設計担当者の協力が欠かせないが、兵恵さんよりも古参の、年上の社員に今までやっていなかったことを頼もうとしても難しい。結局兵恵さん自らが手を回す必要が出てきている。
兵恵さん: DXに取り組むことの真価は、システム化することで浮いた時間で必要なコミュニケーションを行えるようになることだと思うんです。だから本当は、もっと進めた方がいい。
僕の向かう方向に共感して一緒にやってくれる人と、ANDPADのようなツールを組み込んだ新たな業務フローを作成していくことで、会社としてのDXは加速するものだと思っています。社内に仲間を増やしていきたいですね。
高性能で美しく、天然素材をふんだんに使った家づくりを行う兵恵建設。2代目として経営を担う兵恵さんは、これまでの兵恵建設の良さを保ちつつ、新しい取り組みを積極的に開始している。その一つがANDPADの導入であり、それによって監督業務の分業化に乗り出したことだ。監督の仕事の一つであった「発注業務」を、ANDPAD受発注を活用することで切り出し、優秀なパートさんに担ってもらうことで、「完全着工を目指せる土壌が整った」と兵恵さんは言う。後編では、同社が活用するANDPADの入金管理機能を中心に、地方工務店とお金の問題に迫っていく。
URL | https://hyoe-kensetsu.com/ |
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代表取締役 | 代表取締役 兵恵慎治 |
設立 | 1989年 |
本社 | 〒708-0006 岡山県津山市小田中2270-2 |