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「仁を尽くす」長野県の注文住宅会社がDXで目指す、オーナー・パートナーとの最高の家づくり

~前編~社内の仕組みづくりで働きやすい職場に。高い顧客満足度につなげる

1999年に長野県松本市で創業以来、顧客とその家族の幸せな暮らしのために「仁を尽くす」を社訓に、『信州に根差した暖かな家造り』を探求しつづけ、信州の気候風土を活かした新築注文住宅を実現してきた株式会社アルプスピアホーム。地元密着型の工務店として、大手設備メーカーなどと連携し、何十年経っても快適に住める設備・仕様の基準=「未来基準」を満たした家づくりにこだわってきた。

同社は2021年から、ANDPADおよびANDPAD受発注、ANDPAD検査を導入した。今回、業務改善や働き方改革の実現に向けて導入したANDPADと、「建設業法を遵守する受発注の仕組み化」の実現に向けて導入したANDPAD受発注の活用事例を中心に、経営企画部 DX推進室 責任者 清水良憲さん、工事管理部 工事統括 責任者 標(しめぎ) 正輝さんにインタビューを実施。前編では、同社の住宅づくりにかける想いを聞いた。

清水 良憲 氏
株式会社アルプスピアホーム 経営企画部 DX推進室 責任者
建築学校を卒業後、建築設計の知識を活かして地元のゼネコンに就職。3年間勤めた後、IT系企業に転職して技術営業を経験。2006年、同社企画部に入社し、現職。
 
標(しめぎ) 正輝 氏
株式会社アルプスピアホーム 工事管理部 工事統括 責任者
ハウスメーカーに新卒入社し、施工管理、現場監督などを経験。12年近く勤めた後、同社に入社し、中南信支店、東北信支店などを経て現職。

INDEX

 

社員の誰もが「商品とストーリー」を語れる。全てはお客様の安心・納得のため

 「信州の気候風土を活かした暖かな住まい」を実現するために、住宅性能と標準装備にこだわり、適正価格でお客様に提供することを大切にしてきた同社。長野県内に6つのショールームを構え、「ショールームから始まる家づくり」のスタイルを貫いている。

そんな同社の顔であるショールームには日々エンドユーザーが訪れる。同社の特徴は、そうしたお客様に対して接客を行うのが「営業社員に限らない」という点だ。たとえ経営企画部であろうと、工事管理部や経理総務部であろうと、誰もが同社の「未来基準を満たした家づくり」について語れる状態を目指しているという。

清水さん: 私たちは地域に根ざした住宅会社として、「長野県で高品質かつ暖かい家をつくり、適正な価格でお客様に届けたい」という想いで日々取り組んでいます。ショールームには「信州の暖かい家」をつくる住宅性能と標準装備を取り揃えていて、当社の「未来基準の家づくり」を実感いただけます。

当社の家づくりの想いに共感して社員は集まっていますから、「自社の商品の魅力を伝えられること」は当然求められます。お客様も、社員の誰からも同じ説明があれば、ご安心していただけますよね。そうしたことから、社員は毎週ロールプレイングを行っています。

標さん: 当社は商品を売ることよりも、お客様にいろいろ見ていただき、まずは何かしら興味を持っていただくようなおもてなしをすごく大事にしています。毎週のロールプレイングのほかに筆記・実技試験も設けています。ロールプレイングの試験では、試験を受ける社員がお客様に説明する側に立ち、試験官が採点します。当社では社員の誰もが「商品とストーリー」を語れることを大切にしています。

株式会社アルプスピアホーム 工事管理部 工事統括 責任者 標 正輝氏

清水さん: 創業当初からロールプレイングはしていますし、住宅の提供を主軸としていますから、働いているスタッフの役割は関係なく、自分たちの提供しているものをきちんと案内できること、それを全員が同じレベルでできることが大事です。もちろん商品コンセプトや標準装備である理由、なぜそれをパッケージにして価格に反映しているのか。そういうことは最低限、伝えられないといけません。ただし、ロールプレイング試験で一番大事にしていることは、装備やパッケージの細かい内容よりも、お客様にどう伝えれば安心、納得していただけるのかという点です。


アンドパッド
平賀
実際に取材当日、清水さまと標さまにお出迎えいただき、そのままショールームツアーをしていただきました。清水さまのこれまでのキャリアを伺うまでは営業出身の方かと錯覚するほどに、自社の商品の魅力や商品企画の背景となる思想や想いについてご自身の言葉として生き生きとお話している様に驚きました。
 

「耐震等級3」「劣化対策等級3」「維持管理対策等級3」といずれも最高級性能で、「断熱等性能等級5」もZEH基準相当だ。信州の気候に適した暖かい家を実現する性能を備え、充実の住宅設備と仕様をフル装備。諸経費や外構も含めた標準価格が「38のコンセプトプラン」としてHP上にも掲載されている。30坪未満のプランから、50坪を超すプランまで幅広く、なかには2,000万円を切るプランもある。いずれも同社が「適正価格」と謳うにふさわしい価格帯と言えるだろう。

清水さま: お客様の家づくりのイメージをしっかりお聞きした上で、標準装備の中できちんと提案し、イメージを実現する。ショールームではそういったご安心、ご納得をしていただけるような案内を心がけています。お客様によっては「標準以上のものが欲しい」という方もいますし、逆にここまでの仕様は不要だという方もいて、そのあたりは足したり引いたりしながら柔軟に対応します。

ロールプレイングの試験官としても、同社の接客水準を高める立場にいる清水さん。そんな清水さんは、同社に入社した当初は「人と話すのが大の苦手で、ロールプレイングもやはり苦手意識があった」というから驚きだ。

清水さん: 私はアルプスピアホームが創業してから7年目に入社しました。もともとは建築学校で建築設計を学んでおり、地元のゼネコンに新卒入社。3年後、地元のIT系企業に転職し、長野県内の図書館のデータベース化という仕事を手掛けました。その時に仲良くなった前職のスタッフが先にアルプスピアホームに入社していて、その人から「面白い会社があるよ。話を聞きに来てみない?」と誘われました。社員のつてで人材を探す、いわゆるリファラル採用が入社のきっかけです。前職は技術営業でしたが、建築デザインが好きだったため、アルプスピアホームでの面接では「広告企画をしたい」という希望を伝えました。面接の場で当時の役員からアルプスピアホームの家づくりのコンセプトなどを聞き、共感。「元気で楽しそうな会社だな」というのが率直な印象でした。何度か話しているうちに、最初の訪問から3~4カ月後には入社を決意しました。


株式会社アルプスピアホーム 経営企画部 DX推進室 責任者 清水良憲氏

清水さん: 入社当初は人と話すのが苦手でしたから、ロールプレイングをしてもなかなかうまくいかず、正直「自分は人に何かを伝えるなんてできない。自分にお客様案内ができるのだろうか」と疑問を抱くこともありました。その時、石田社長に「自分がつまらなそうにロールプレイング(案内)をしていては、お客様に何も伝わらない。伝える側がしっかりと想いを発信し、楽しそうにしないと、お客様が家づくりを楽しいなんて思うわけがない」と諭されました。それはまったくその通りです。

それ以降、ショールームにお越しいただいたお客様への対応の大事さは、どのセクションに所属していても同じだと分かりました。だから、私は経営企画部で営業ではありませんが、ロールプレイングはずっと徹底して続けています。お客様に私たちの家づくりを理解していただき、安心・納得して依頼いただくことも、私はもちろん、スタッフ全員に求められている役割だと今は素直に思います。

パートナーとの関係づくり、社員への教育機会提供で「仁を尽くす」家づくりを実現

標さん: 当社では、家づくりに関わる職人さん、協力会社さん、設備メーカーさんのことを「パートナー」と呼んでいます。元請、下請は関係なく「家づくりに携わる仲間たち」という意味合いです。この水平分業の関係も、創業当初から大切にしていることです。パートナーにも切磋琢磨してもらえるよう、商品の見直しを商品開発プロジェクトのメンバー中心に日々行っています。例えばキッチンが4メーカーあるとしたら、「お客様に標準装備としていずれかの商品を提案したいが、どんな提案ができるか」といったオーダーをして、提案してもらったものとそれまでの実績を踏まえて取り扱う商品を決定します。

清水さん: 一般的に新築住宅は、お客様に対して不透明な部分も少なからずあります。そのため、もっとしっかりお客様の方を向いてじっくり提案することが大切なのですが、それだけでは足りません。現場で働くパートナーにも我々の思いを知っていただかなければ、お客様と真摯に接することができませんし、実際に住宅品質にも少なからず影響が出てきます。


ショールーム内にあるパートナーとの打ち合わせスペース。普段、パートナーとお客様は直接接する機会が少ないので、アルプスピアホームではあえてガラスの間仕切り越しにお互いの様子がよく見えるような設計にしている。

標さん: 私は前職のハウスメーカーに新卒で入社しました。現場監督も経験し、松本市にも仕事で定期的に来ていました。私も清水と同じで、前職で知り合った人が先にアルプスピアホームに入社していました。当時は成長フェーズでリファラルを強化していたようで、その人から声を掛けてもらってリファラル採用されたのが入社のきっかけです。ずっと現場畑で施工管理をしていた経験もありましたから、石田社長(当時は専務)に面接していただき、「会社に来てほしい」という熱意をお話しいただきました。私としては、「最初から役員が直接話をしてくれるのか」と驚きました。最初は工事責任者などが面接するのが通例だと思っていましたから。石田社長は、私が思っていた一般的な役員という感じではなく、1人の人間として真剣に接してくれたというイメージです。

新卒採用の就職後3年以内の離職率は、全国平均で約3割といわれている。一方で、アルプスピアホームでは離職率が約12%と業界屈指の低水準で、風通しのよさ、働きやすさが表れている。そこに至った背景とは。

標さん: 以前はリファラル採用が多かったのですが、2012年に新卒採用を開始し、現在はかなり力を入れています。新卒は、何よりも育て方が大事だと思います。そこで当社では「フレッシャーズアカデミー」という、新卒1年目スタッフ全員参加かつ役員直轄で、月に一度、1年間通して行う研修があります。簡単に言えば、社長自らが月1回、年12回で丸1日かけて社会人の基礎を徹底的に教えています。

清水さん: カリキュラムに若干の修正はもちろんありましたが、基本的に開始当時から内容はそんなに変わっていません。フレッシャーズアカデミー内の各セッションごとに新卒社員内で担当を割り振り、担当するセッション内容について自ら勉強して仲間の新卒社員に伝えるという方法をとっています。自分がしっかりインプットしてなければ、アウトプットとしてきちんと相手にうまく伝えられません。そのあたりは、どのセッションも四苦八苦しながらやっていると思います。

標さん: 2年目以降の社員には「APHアカデミー」という教育の場を設けています。こうした研修に対して、「とりあえずやっておかないと」という感覚の社員もなかにはいるかもしれません。しかしながら、研修を通じて自分の行動や立ち位置が明確になると、この先、必要なスキルがわかってくる。自分の目指す位置では何をしなければならないかが明確で、誰もが平等に学べる場となっています。



「耐震等級3」が標準、安心の家づくりにこだわり契約の半数が紹介、口コミ経由

同社の家は、住宅品質確保法に基づく住宅性能評価の等級で最高ランクの「耐震等級3」が標準だ。安心構造でかけがえのない家族の命と大切な家を守る。この等級の取得には、住宅性能評価機関に申請し、検査を受けて合格する必要がある。それだけ時間もお金もかかるため、住宅会社によっては機関の正式な認定を受けずに「耐震等級3相当」と謳う場合もある。だが、両者は全くの別物だ。同社はなぜ「耐震等級3」にこだわるのか。

清水さん: 当社の最優先事項は「お客様のための家づくり」ですから、「耐震等級3」の取得や「制振ダンパー」の標準提案にコストや時間が多少かかっても、それが最終的にお客様のためになるのであれば必要なことです。効率だけを追い求めていくわけではありません。あくまでも愚直に、そのお客様のために家をつくるというのが一番の目的です。もちろん、各セクションの中で効率化や納期管理などは大事なのですが、そこは営業や工事などの各セクション長がしっかり情報共有してなんとか回してきたと思います。

ただ、ここ最近は関係者が増えてきて、当社の思いだけでまとまる人数ではありません。そこで、工事現場は施工管理の効率化が、発注業務についても電子化できる仕組みが必要といった状況になってきました。

標さん: 各セクションで業務のフローがあり、若手や新人でも一から理解できるようにしています。要となるのが、営業の「プラン確定」です。プラン確定日を起点として、その日付を基幹システムに入力することで、着工日からお引渡し日までの重要日程が自動で出る仕組みになっています。そのなかで構造計算のタイミングについても出てきます。イレギュラーも当然出てきますが、そこは各所が連携を取り、基幹システムで日程変更やその後の段取りなどを関係者で確認、調整しています。

またお客様ごとのプランはアナログな方法ですが、回覧しています。チェックする人が決まっていて、その人の回覧が終わらないと営業から工事への引き継ぎができません。お客様とのやり取りを経て営業が図面を確定させ、それを工事担当者が確認し、その次に責任者、関係部署が確認します。その過程で修正が必要な箇所があれば指摘が入り、修正対応されていることが確認されて初めて営業から工事担当者に引き継がれるという流れになります。その間、デスク(アシスタント)が日数管理をして着工が遅れないようチェックしてくれています。

清水さん: こういうフローの仕組みは、ガチガチに固め過ぎると「何のためにするのか」「窮屈だ」と不満を抱く人もいます。当社ではそうならないような人材育成を強みとしているので、社員の社風や理念の理解度が高い。「これをやらないとお客様に満足いただけないよね」と、目の前の業務と理念とを結びつけて考えられる人が多いと感じます。

清水さん: 当社のお客様はサポーターのようにわれわれを応援してくださる方が多く、ご親族やご友人をご紹介していただけます。新築のお申し込み時に取ったアンケート内容を見ると、ほぼ半数が紹介からの契約です。当社はただ商品を売るのではなく「お客様のための家づくりをしていますよ」という姿勢を大切にしていて、そこを気に入っていただくケースも多いです。当社の営業プランナーが良かったから任せたといった回答も、アンケートではよく出てきます。本当にうれしいお言葉です。

同社のアンケート回収率はなんと9割以上。最初の申し込み段階と、建物が完成したときに回答いただくものがあるという。

清水さん: 工事も、営業も、アンケートはしっかり回収します。理由は、お客様がどんな思いで引き渡し日を迎えられたか、お家づくりの満足度を知りたいからです。担当者は知っているかもしれませんが、顧客満足度がどれぐらいだったか、商品開発でどこが足りなかったのかというのを全社的に見るためには、アンケートを取るしか方法はありません。中には10点満点で3点、4点などもあり、厳しいお言葉をいただくことも正直あります。むしろ、そうしたご意見をしっかり次につなげていくためにも、アンケートを重要視しています。四半期ごとの全体会議で「10点満点表彰」というものがあり、工事担当でも、営業担当でも、お客様から10点満点をいただければ全スタッフの前で表彰されます。

標さん: アンケートの点数が査定のベースになるわけではなく、その評価を全員できちんとお祝いしようという取り組みですね。その点数が蓄積され、1年間で営業と工事のトップをさらに表彰します。

アンケートの点数については、そのままにせず、お客様にきちんと理由の聞き取りを営業担当と工事担当にしてもらいます。それを各部署に落とし込み、どれだけ改善できるか。それが重要です。そこからお客様との付き合い方を変えていかなければいけないケースもあります。アンケートについては、お客様からの回答と、それに対するコメントまで営業や工事の担当者がしっかり書いた上で、役員、社長まで目を通します。

清水さん: 地元・信州でなりわいをしている企業として、「信州自体を元気にしていきたい」という想いがあります。引き渡し棟数が創業から数えて累計3,000棟となるなか、オーナーさん同士が繋がれば、もっとできることが増えるという考えから、オーナーズ倶楽部を立ち上げました。例えば、オーナーさんが何かお店をしていれば、そこからオーナーさん同士の輪が広がることもあるでしょう。ご家族を含めると、ものすごく範囲が広がります。そこを繋ぐ役割を当社ができたらと考えています。これは今後の重要な取り組みでもあります。


社訓「仁を尽くす」を実践し、新しい生活スタイルを提案している

「仁を尽くす」という社訓の通り、同社は顧客、協力会社、メーカーに対して誠実に向き合いながら成長してきた。「オーナーズ倶楽部」というかたちで絆を結び、創立20周年感謝祭では総来場組数2,000組、来場者数4,000人に及ぶ大盛況のイベントとして結実した。その一方で、ここ数年で着工棟数は伸びていながら、それを管理する現場監督、パートナーの人数がなかなか増えず、人手不足の中で生産性アップのために業務効率化が求められていた。後編では、ANDPADとANDPAD受発注の導入で実現した業務効率化についてさらに聞いていく。


株式会社アルプスピアホーム
URLhttps://www.a-p-h.co.jp/
代表者代表取締役 石田 正也
創業1999年6月
本社〒399-0038 長野県松本市小屋南1-13-1
取材・編集:平賀豊麻
編集:原澤香織、市川貴啓
ライター:大根田康介
デザイン:森山人美、安里和幸
カスタマーサクセス:川鍋颯
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