第9話 最も重要なのは売上計上よりも現金回収 ~会社は1円でも足りなければ倒産してしまう~

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出口 経尊 氏
心楽パートナー株式会社 代表取締役
建設業専門に全体最適で粗利を増やす経営パートナー、1975年香川県生まれ。
工事会社を経て、工務店のHP・チラシ・顧客管理・原価管理など集客や業務改善に携わる。
独自の『全体最適型・粗利増加法』で財務改善や人材育成等、経営全般の最適化をサポート。
銀行主催のセミナー講師や業務提携により、金融機関との関係も深めている。
2021年4月から香川大学大学院地域マネジメント研究科にMBA取得を目指して在学中(2023年3月卒業予定)。

前回は、現場毎のお金の管理を原価管理、時間の管理を工程管理と定義して、先にゴールを決めておく重要性についてお伝えしました。原価管理においては、原材料費が安定していた時期だと、過去の実績や経験値をベースに、ドンブリ勘定で現場を進行しても、ある程度の限界利益や粗利は得られていたかもしれません。しかし、原材料費の値上がりが続いている現在では、工期が長い物件ほど収益面で致命傷になります。元請会社、協力会社を問わず、実行予算の業務の優先順位を高める必要があります。また、薄利になると今まで以上に回転率を上げるために速度が求められます。隙間時間を無くして時間密度を濃くするためには、タイムスケジュールが重要になります。

今回は、原価管理や工程管理に加えて、現金の回収の重要性についてお伝えしていきます。会社の倒産の話はネガティブな印象で敬遠されるかもしれませんが、経営のリスクマネジメントにおいては最重要課題です。ところが、立場によって回収の意識の差は大きいように感じます。実際、住宅会社で管理者向けに連続研修を行った際の事前ヒアリングでは、回収の意識の差に驚きました。大きな要因としては「自分のお金は自分事」、「会社のお金は他人事」という捉え方の違いがあるのではないでしょうか。このような話をする私も、昔は回収の事は他人事でしたので、気付いた時点ですぐに改善していきましょう。

資金繰りの基本は「回収は早く、支払いは遅く」

ご承知の方が多いと思いますが、売上計上と入金のタイミングの違いについて触れておきます。まず、売上計上は多くの場合、請求書を作成した時点で発生すると思います。その後の入金は、BtoBだと顧客の支払条件に合わせた請求月の翌月になるでしょう。店頭販売の業種に関しては、その場の現金払いで回収のタイムラグはありません。ただし、クレジットカードによる支払だと、当然タイムラグがあり、手数料が数%かかります。この手数料が利益を圧縮するのですが、購買行動の障壁を低くするには必要な手段です。

売上を計上して当月の入金にならない場合は、決算書の貸借対照表だと資産に「売掛金」、手形を受け取った場合は「受取手形」として記載されます。時が経てば、現金に変わる予定ですが、受取手形の支払サイトが60日だとすれば、翌月払いの30日+60日=90日の間は、現金化できないことになります。また、売上が例年より増えているにも関わらず、売掛金や受取手形ばかり増えてしまうと、会社の現預金は増えません。問題なのは、現金化できない期間も、毎月の固定費や返済、取引先などへの支払が生じて、現預金が減ることです。そのためには、資金繰りが必要になるわけで、桁数は違いますが、家計のやりくりと同じことを行う必要があります。多くの会社に支払条件が設定されている理由の1つには、支払のタイミングをずらすことで、できるだけ現金を多く長く保有することで、資金繰りを楽にする目的があります。資金繰りの基本は「回収は早く、支払いは遅く」と言われる所以です。

ちなみに、収益は改善し始めているのに、いつも資金繰りが厳しいと言われていた会社では、以下の傾向が見られました。


  • 顧客との支払条件の詰めの甘さなどが要因で入金遅れや未回収(売掛金のまま)がある。

  • 先代からのやり方を踏襲して、締日から支払日までの期間が15日以内で短い。

  • 工期が数か月に渡る工事物件に関して、手付金や中間金の前受金をもらえていない。

  • 工期の遅延による請求の遅れ、請求業務の後回しが慣例化している。

  • 金融機関との関係が希薄で、立替に必要な運転資金の融資を受けていない。

  • 返済の金額や期間の見直しを行わず、借換などの対策をしていない。


 

これらは、会社の仕組み不足だけでなく、お金に対するメンタルブロック(*)や意識の低さなど、根底には様々な要因があります。直近では、原材料の品薄や納期延長が工期に影響し、売上計上と入金の遅延が資金繰りを悪くしているため、業界全体で早急な改善が必要です。

(*)メンタルブロックとは、消極的な行動を引き起こす固定観念。人が何かの行動を起こそうと思った際に、自分には無理なのではないか、人から批判されるのではないか、などと思う否定的な思考のこと。または、その結果として行動を起こすことができなくなっている状態。

お金が足りないとどうなるか想像してみる

第6話「これを知ると給与の増やし方が理解できる」では、会社のお金と自分のお金である給与は繋がっている話をしました。コンサルティングや研修でも、お金のブロックパズル®を使いながら説明すると、経営数字が苦手な人や業務でお金に関わりが薄い人でも、繋がりに気付いてくれます。それを安定的に日常業務で反映させるためには、記憶に定着させる教育が必要になります。

例えば、グループワークで考えてもらう方法があります。リスクの洗い出しの代表的なものだと「What-If法」という技法があり、ある事象が発生した場合、その結果がどうなるかをシナリオで描いてリスク要因を検出します。

そして、出たアイデアについて同じようなカテゴリーに分類した後、対策を考えていきます。ポイントは、営業担当、現場担当、経理担当など様々な立場の目線で考え、改善策を出し合うことです。そのためには、入金に関する支障が他部門にどんな影響を及ぼすのかを知る必要があります。基本的には人間は意識しないと自分目線で事実を捉えがちで、相手目線で想像するためには、お互いの業務フローを理解し合う必要があります。

入金の早さが資金繰りを楽にした事例

冒頭でご紹介した住宅会社にて、「What-If法」を用いて議論した営業と経理の認識の差や改善策についてご紹介します。

図1.入金日と支払日のイメージ図

図1は、給与が25日、口座引落が27日、取引先への支払が月末とした場合、20日までに入金があれば、それを充てることができるイメージ図です。常々、経理から営業に中間金の入金予定について、できるだけ20日までにしてほしいと要望していたそうですが、一方通行になっていたようです。理解してくれる営業担当もいたそうですが、お金に対する認識不足や苦手意識から回収の優先順位が低い状況でした。

もし、20日以降の入金になるようなら、その月はあてにならないでしょうし、現金が不足しそうなら他の口座からの資金移動や借入の申し出を行う必要があります。当然、手間がかかるでしょうし、借入するとなれば利息や手数料が発生します。それを営業担当の一人一人がちょっとした努力をすることで、資金繰りの業務が大幅に軽減でき、別の業務にも着手できるでしょう。また、手元資金が潤沢にあれば、不動産などの仕入れの即決も可能になります。現預金残高が多いに越したことはなく、金融機関などが評価する財務諸表においても有効に働きます。

 

次回は、益々問われる段取りの良し悪しについてお伝えします。生産性向上や働き方改革は、限られた時間内に仕事の質と量をいかに上げられるかがポイントになります。実際、段取りの良い人には段取りの良い人が集まり、好循環になっているのではないでしょうか。

心楽パートナー株式会社
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代表取締役 出口 経尊
創業 2016年6月
本社 香川県高松市屋島西町2300-1
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寄稿:出口 経尊氏(心楽パートナー株式会社)
編集:平賀豊麻
デザイン:安里和幸