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地方の中小鉄筋加工会社が少数精鋭で取り組むDX化への挑戦

〜前編〜より良い仕事をするために、業界の構造負に向き合う

1971年に設立し、香川県丸亀市を拠点に鉄筋加工業を展開する有限会社赤澤鋼業。業界全体の人材不足に加えて、コロナ禍による景気の悪化傾向やウクライナ情勢による資材高騰など厳しい状況を強いられるなかで、同社はデジタル化に踏み切り、少数精鋭の人員体制での生産性向上に取り組んでいる。そこで、代表取締役である赤澤 栄徳氏、工務部長 片山 大輔氏にインタビューを実施。前編では、同社の特徴や強み、鉄筋業界が抱える業界の構造負に対してどのように向き合っているのかについて伺った。

赤澤 栄徳氏
有限会社赤澤鋼業 代表取締役
父が創業し、代表を務めていた同社に2000年に入社。リーマンショック後の厳しい景況感のなか2009年より現職。全国鉄筋工事業協会の青年部では業界の発展の為、「魅力ある産業、誇りある仕事へ」をスローガンに全国の同志と共に活動している。

片山 大輔氏
有限会社赤澤鋼業 工務部長
高校卒業後、鉄筋加工会社に入社。その後独立し、一時期は他業界に携わる。その後、再度鉄筋加工業に携わりたいと思い、2012年に同社に中途入社。

INDEX

 

少数精鋭であらゆる鉄筋工事を手掛ける

1971年に香川県坂出市で、父:赤澤曻氏が同社を設立、2009年から赤澤氏が代表取締役に就任し、現在の体制となった。同社は住宅・非住宅問わずあらゆる鉄筋工事を手掛け、小回りの利く少数精鋭の会社を目指している。

まず、鉄筋加工業の魅力についてお二方に伺った。

赤澤氏: 鉄筋は、強度や耐震性といった建物の根幹となる重要な役割を果たしています。一般的には人目につかないので、人命を陰で守る縁の下の力持ち的な部分を扱っているところに仕事のやりがいや誇りを感じています。

ものづくりなので、元請企業様や管理設計会社様と協議し、他の業種と相互の段取りや工程の打ち合わせをしながら進めていくのは大変ですが、最後完成した時にその苦労が喜びに変わりますね。

有限会社赤澤鋼業 代表取締役 赤澤 栄徳氏

片山氏: 建物の形状はさまざまで、なかには武家屋敷のように入り組んでいるものもあります。鉄筋はコンクリートを流し込みしたら見えなくなるものではありますが、職人が作業しやすいように加工して、その通りに組んでもらえた時に達成感を感じます。

基本的にCADも平面でしか見ることができないので、それをいかに脳内でBIMのように立体的に捉えて最適解を提案していけるかが腕の見せどころですね。

有限会社赤澤鋼業 工務部長 片山 大輔氏

赤澤氏: 図面を見ながら頭の中で最も簡単で合理的かつ効率的でコスパがいいものを組み上げていき、こちら側の答えを持っておきつつ元請企業様のご意向に沿いながら進めています。設計図には設計者の意図が組み込まれているので、それを読み解きながら最適解を見抜く力が必要になります。

お二方に共通するのは「プロフェッショナルとしての付加価値」。産業全体が人材不足に直面しているなかでも、元請企業よりもさらに深い専門知識をもち最適解を提案することで、鉄筋のプロフェッショナルとしての付加価値を生み出している同社だからこそ、元請企業と連携して顧客に価値ある品質を届けられているのだ。

鉄筋業界を取り巻く環境と構造負に対する課題

鉄筋業界を取り巻く環境は非常に厳しく、コロナ禍によって徐々に資材価格が上がってきた矢先、ロシアによるウクライナ侵攻によって顕著に跳ね上がった。これがダイレクトに影響し、工事を先延ばしにする物件やキャンセル物件が後を絶たない。同社は、戸建てに関しては従来通り材工で対応しているが、それ以外のまとまっている物件に関しては、エネルギー価格高騰のリスクを下げるために、基本的には資材支給に切り替えた。

また、四国という地域特性として、全国で工事単価が最下位で、狭い商圏で物件数が少ないにもかかわらず競合は多く、何かと厳しい状況下に置かれているのが現状だ。

赤澤氏: 建設業のなかでも鉄筋業界は一番しんどく、3Kならぬ6K(きつい、汚い、危険、帰れない、厳しい、給料が安い)と言われていて人気がないんです。また、私はやりがいに感じてはいますが、コンクリートに隠れて見えなくなってしまうものを扱うので、完成した建物を見て評価できる業種と比べると面白さは感じにくい業種であると言えます。

また、業界全体の課題として、元請企業側に図面を描き切ることができる専門知識をもった人材の育成という面で課題があるなど、発注者側の図面精度の低さや手配の段取りの悪さといった問題や、前後の工事を担当する業者の納期意識の薄さなど業界慣習的になっている構造負による影響も大きい。

片山氏: 正直なところ、手書きで適当な図面をもらうくらいなら未完成でもCADで投げられたほうがありがたいというのが本音。もちろん正確な図面をいただける元請企業様もいらっしゃいますが、そうじゃないところは「今までの経験値でやってくれ」というのが当たり前になっています。また、それぞれのメーカーごとに違う仕様を覚えなければならず、それらを加味して作業するには経験値が必要になるので新人は覚えるのも大変だと思います。ちゃんとした図面もないので、新人がミスをして手直しのために一定のロスが出てしまうことも。本来はちゃんとした図面をもらえればいい話ではあるんですけどね。

赤澤氏: 見積もりを経て金額が決まってから工事を手掛けるというのが通常ルールではありますが、スケジュールの都合で先に作業しなければならないこともしばしば。なかには前日の夜に発注連絡があることもありますが、それでもわれわれは必ず間に合わせています。また、下請けの協力会社さんのミスであっても最終的に元請企業への納品責任を取るのはこちらなので、弊社で対応することもあります。もちろん基本的には作業者がやるべきことなので協力会社さんにお願いすることもありますが、協力会社さんは次の日の工事予定が決まっていることが多いので、その場合は自分たちが代わりに直しに行くしかありません。

鉄筋は型枠大工、コンクリートの間に挟まっている業種。例えば雨が降って前工程に時間がかかり、5日あった工程が3日に縮んでも間に合わせるのが鉄筋屋の仕事なのです。どんなに前工程がズレていたとしても間に合わせてなんぼの世界であり、われわれの誇りでもあります。このように対応して当たり前だと思われているところもありますし、ロスと言ってしまえばそれまでですが、それをやり切ることで信用に変えて、先々の仕事に繋げています。10年に一度は景況感が悪くなって倒産する会社や廃業する会社も増えてきていますが、ちゃんとやっているところが生き残ると信じたいですね。

元請企業側の知識の不足や工期意識の甘さなどに対して、専門工事会社として自社の営業努力のなかで付加価値的にサポートすることで信頼関係を構築している同社。こうした業界慣習を自社なりに補っていくことで、大きな強みに変えている。

後編では、IT化に踏み切った決断の背景、ANDPADによる運用でどのように生産性が向上したのかについて迫る。

有限会社赤澤鋼業
代表者代表取締役 赤澤 栄徳
設立1971年
所在地〒763-0093 香川県丸亀市郡家町605
取材・編集:平賀豊麻
編集・デザイン:原澤香織
ライター:金井さとこ
デザイン:森山人美、安里和幸
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