第8話 原価管理や工程管理に必要なのは覚悟と軌道修正 ~お金と時間のゴールを先に決めることで理想に近づける~

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出口 経尊 氏
心楽パートナー株式会社 代表取締役
建設業専門に全体最適で粗利を増やす経営パートナー、1975年香川県生まれ。
工事会社を経て、工務店のHP・チラシ・顧客管理・原価管理など集客や業務改善に携わる。
独自の『全体最適型・粗利増加法』で財務改善や人材育成等、経営全般の最適化をサポート。
銀行主催のセミナー講師や業務提携により、金融機関との関係も深めている。
2021年4月から香川大学大学院地域マネジメント研究科にMBA取得を目指して在学中(2023年3月卒業予定)。

前回は、利益目標、固定費の予算化、限界利益目標、限界利益率目標、売上目標など、逆算で設定する方法についてお伝えしました。漠然とした目標ではなく、根拠を持たせることで1年後の結果は大きく変わります。社長1人で考えるよりも、幹部と一緒になって考えた方が、会社のお金のことを自分事に捉える人が増えます。例えば、幹部は生産性向上のために部下とコミュニケーションを図って育成に力を入れ、現場毎の収益性を高めるために工事原価に目を向けるようになります。また、仕事がきつい時もお金のことが頭にあれば、言葉が変わり、愚痴が改善案になります。その分、目標に向けてのプレッシャーはあるようですが、社長と視座が合うようになり、経営者の考えが浸透します。目標設定の際は毎年実践し続けていただけると効果を実感できるようになります。

さて今回は、原価管理と工程管理についてです。具体的なやり方というよりは、主に考え方の話になります。原価管理については、施工管理を主体とした元請会社、技能者による施工作業を主体とした専門工事会社では、考え方に多少違いが出ます。工程管理については、元請会社が主体となって工程表を作成していると思いますが、協力会社である専門工事会社では工程表が無くても、工程を組んで指示を出していると思います。要は、お金と時間に関するゴールを明確にしておくことが後の結果にも大きく変わるということです。

坪単価見積が弊害になっている?

戸建て注文住宅の販売・設計・施工を手掛ける元請会社では、見積提出までの速度が重視されるため、坪単価による価格設定が主流だと聞いています。経営サポートを行う工務店で営業力がある会社ほど、坪単価でプラン提案をしています。確かに、案件毎に協力会社へ見積りを依頼し、回答のあった見積金額を変動費として積み上げて提案するのでは、時間や手間がかかり過ぎます。協力会社にとっても負担がかかります。競合が存在する時のプラン提案の出遅れは、受注活動において命取りなので速度が重要なのはご承知の通りです。

ところが、昨今は世界的なコロナ禍の影響が発端となり、原材料費が高騰しています。逆に今までの価格の安定が異常値だったかもしれませんが、坪単価を頻繁に見直さないと必要な限界利益を確保できなくなっていきます。また、同じ坪数でも形によって壁などの面積に違いが出るため、限界利益率のばらつきが大きくなります。これは、コロナ禍前からあった課題ですが、原材料費の高騰が続いたことで、変動費の増加分を吸収しきれなくなっています。変動費の差を吸収し続けられるのは、図1の①コストリーダーシップ戦略がとれる大手企業くらいでしょう。ただ、大手企業ほど間取りや仕様などに制限を明確に設けています。

 

図1.ポーターの競争戦略類型 3つの基本戦略

【典拠】中小企業庁 競争戦略の類型 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b2_1_2.html

受注後も変動費が不明確なまま、時間の制約から実行予算を組まずに着工する話を時々耳にします。仕様が明確になっていない影響もあるようで、協力会社からの見積金額が想定以上であれば、施主様から追加費用をもらうのは仕様が変わらない限り、難しいと思います。竣工して最後に初めて変動費が分かる手探りの状況に問題意識を持っている方は多いですが、現場を仕上げることが優先されがちです。ただ、どんな仕事でも時間の制約はあり、新築住宅の着工戸数が右肩下がりになる市場の中で、中小企業においては1棟ずつ着実に利益を生む必要があります。実行予算を組み、その枠内で原価管理を行うことは経営において重要なことです。予算というゴールを決めることができれば、それを目指すことができます。逆にゴールを決めることが苦痛になるため、無意識に避けているケースもあります。特に社長がプレーヤーの場合、意思決定の権限があるため、ゴール設定の優先順位が下がる場合があります。実行予算を組む受発注業務は手間がかかると思いますが、ANDPADの機能の活用などにより、極力手間を掛けずに決まり事として取り組まないと、売上高がいくらあっても必要な利益の確保ができない、もしくは赤字になってしまう可能性があります。

先日、年間50棟以上の注文住宅を手掛け、増収増益を続けてきた工務店の社長から、セミナー後に相談がありました。初めて増収減益の赤字になったとのことで、実行予算を組めていなかったことが要因の大半でした。

専門工事会社も材工の実行予算を立てよう

専門工事会社と聞いて思い浮かぶ業種は、地盤調査や改良工事、基礎工事、仮設工事、大工工事、屋根工事、外壁工事、板金工事、電気工事、給排水設備工事、サッシ工事、内装工事、美装工事など沢山あります。それに、プレカットだと工場での加工作業、建材流通店だと運搬作業などの労務費が発生します。特に材料費と施工費がセットの材工で請け負う専門工事会社だと、第3話「元請会社と工事会社では現状把握の見方が違う」でもご紹介していますが、図2のお金のブロックパズル®のように、材料費である変動費の管理と、限界利益から支出する労務費の管理が現場毎の利益を左右します。実際、労務費は会社全体のお金から言えば、固定の人件費として捉えますが、現場単位だと1人工〇円×人工数として人工計算をする場合が多いのではないでしょうか。難しそうな言葉になりますが、会社全体のお金は財務会計、現場や部門ごとに割り振る考え方は管理会計と言われていて、財務会計と管理会計が全てイコールになることはありません。ただ、財務会計≠管理会計を財務会計≒管理会計として近似値にする必要はあると考えています。

 

図2.お金のブロックパズル®

そこで重要なのが、1日あたりの人工代の設定と日報の管理、現場毎の間接経費の割り当てです。人工代と間接経費の設定については、既に各社ルールがあると思います。私事になりますが、2022年4月現在、MBA取得を目指して通っている香川大学大学院にて、工事会社における人工代や間接経費の適切な設定方法を卒業研究のテーマとして取り組んでいます。財務会計と管理会計の結果を近づけることと、現場毎の収益を事前と事後で明確にすることで意思決定を正しく行えるようにするのが目的です。

専門工事会社でも時間の制約により、実行予算を組まずに見積金額をベースにして着工している場合が多いかもしれませんが、原価管理をする上で目標値として材料費と人工数の実行予算が有るのと無いのとでは、収益に違いが出るのは元請会社と全く同じです。

その前に、技能者の日報管理が必要不可欠で、現場毎に誰が何時間携わったのか把握できる体制を整えなければなりません

人工計算については、1人工8時間が主流です。同時に使った材料費も現場毎に把握できれば、竣工後の原価管理は粗方できるはずです。専門工事会社でもANDPADを利用する会社が多くなってきていますが、まさに現場入退場時の報告で人工と作業内容の報告をすることで、これまで紙や口頭で情報を吸い上げてEXCELで原価管理していたのを効率的に行うことができるようになります。まだ原価管理を行えていないという場合でも、頭の中だけで終わらせず、まずはドンブリ勘定でよいので数値化することをお勧めします。現場毎の限界利益や労務費、間接経費の改善の積み上げが1年後の利益に大きな差を生みます

お金だけでなく時間も有限

工程管理については、予め工期が決まっている場合が多いため、それに間に合わせるために逆算して細分化していると思います。ただ、工程管理についても属人性があり、工程を組んで関係者とこまめに共有できる人と、事前の相談・途中の連絡・結果の報告(報連相)を怠るためなのか、行き当たりばったりになる人がいます。得手不得手は誰にでもありますが、建設業は1人で完結できる仕事ではないので、工程管理はステークホルダー(関わる人達)の満足に必要不可欠です。例えば、日給月給の職人さんにとって1日空いてしまうことは死活問題です。類は友を呼ぶで、仕事の質が高い人ほど段取りの良い人に集まり、品質も生産性も高い集団となります。先ほど、専門工事会社の人工数でお伝えした通り、少ない人数で1現場を終わらせることが利益になり、次の現場に労働力を投下できれば、会社全体として回転率を上げられるので、速度は収益向上のための必須項目です。

ちなみに、工程を決め切れない人には言葉の遣い方に特徴があります。例えば、期日を伝える際に「今週末まで」のように、ふわっとした抽象度の高い言い方になりがちです。今週末だと金曜日か土曜日か、そもそも何時までなのか、期日の判断が相手任せになっています。逆に「〇日金曜日の〇時まで」だと具体度の高い言い方なので意思疎通にズレがありません。1日ずれることで後工程がずれるのは想像できると思います。これも習慣化の1つなので、自分にも他人にも期日を明確にする習慣を言葉から変えてみてはいかがでしょうか。

ゴールを先に決めるのはお金だと予算、時間だと期日です。どちらにも共通して言えるのは、未来を決める覚悟と決めた事を実現するための軌道修正が必要になります。

 

次回は、会社の資金繰りに欠かせない現金回収の重要性についてお伝えします。売上と利益は現金の動きとは異なります。会社は1円でも足りなければ倒産するので、入金や支払管理は経営において肝になります。

心楽パートナー株式会社
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代表取締役 出口 経尊
創業 2016年6月
本社 香川県高松市屋島西町2300-1
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寄稿:出口 経尊氏(心楽パートナー株式会社)
編集:平賀豊麻
デザイン:安里和幸