〜後編〜若手人材が集まり活躍する地方工務店の成長戦略 /4代目経営者が取り組んだリブランディングとHR戦略、そしてDXに迫る

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堀江 龍弘氏
株式会社ホリエ 代表取締役。新潟大学工学部建設学科卒業後、大手ハウスメーカーに入社し、営業職として従事。2010年家業である同社に入社。シエルホームデザイン、家具事業、ホテル事業、レストラン事業、不動産事業を立ち上げ、2.5億の売上を13億円に成長させた。「HOTEL SLOW VILLAGE」は、楽天トラベルアワードを受賞。一級建築士、MBA(経営学修士)取得。

山形県南陽市を拠点に、地域工務店として人に優しく、環境にも優しい家づくりを目指している株式会社ホリエ。「リゾートに、住まう。」というコンセプトで、リゾートのようなデザインが融合した高品質な家づくりを強みとしながら、地域に密着した持続可能な経営体を創り続けるために、同社は新卒採用及び若手人材育成にも注力している。注文住宅事業だけでなく、家具事業、リノベーション事業「RE:BAUM」、ホテル事業「HOTEL SLOW VILLAGE」、レストラン事業「6DINING」、そして「ciel Green Lounge」など、地域に新たな意味をもつ場所をつくり続けている。今回は、業界内からも注目を集めている同社代表取締役・堀江龍弘氏へのインタビューをciel Green Loungeで実施。全2回でご紹介する。後編では、多事業展開の目的、多くの若手が活躍する同社の採用・人材育成の取り組み、今後の展望について深掘りしていく。

前編はこちら

「生きる、を彩る。」、多事業展開と3つの目的

高性能かつ意匠性の高い家づくりで新たな価値を生み出し、住宅事業を成長させていった同社だが、現在ホテル事業、レストラン事業といったさまざまな事業も展開しているのも注目すべき点だ。こうした多事業展開の目的は下記の3つが挙げられる。

堀江氏: 元々レストラン事業はやりたいと思っていたいのですが、チラシなどの広告が効かなくなって新規顧客との接点が減っていることを受け、新たに人が集まる場所をつくることで、そこをきっかけに住宅事業に繋げられるのではと考えました。ホテル事業は、住宅事業や家具事業のノウハウを活かして、住宅のモデルハウスに使えるようなホテル経営をしたら面白いのでは? と思いスタートさせました。事業の多角化によって会社としての強みができたので、採用面にも大きなインパクトがありましたね。

2020年に全社員を巻き込んだプロジェクトとして1年かけて当社のミッション、ビジョン、コアバリューを言語化しました。各事業を立ち上げたのが先でそれぞれ経緯も異なりますが、「生きるを、彩る。」というミッションを実現するために、地域の生活や、皆さんの心を彩っていきたいという思いは同じ。どの事業においても当社が建築として得意としている上質な空間や体験を軸として持ち、大切にしています。

また、地域を活性化させる目的もありますが、地方創生の大義だけでやってしまうと持続性が保てないことが多い。だからこそ、住宅事業における受注やリクルート戦略といった会社にとっての実利に繋がる要素をプラスすることで、持続的な取り組みになるようにしています。

堀江龍弘氏 株式会社ホリエ 代表取締役

新卒採用強化のための取り組み

若手の人材不足が深刻な課題となっているエリアが多いなか、同社の社内平均年齢は29歳と非常に若く、同世代が多いことから和気藹々とした雰囲気になっている。

堀江氏が家業に戻ったタイミングは10名ほどの家族経営的な組織体制だったが、先々の会社としての成長を見据えて新卒採用にシフトしたのは2014年。採用コンサルティング会社にアドバイスをいただきながら、ワーク・ライフ・バランスを重視する世代に向けて、「若手が活躍できる」「早く帰れる」という働き方や職場としての魅力を訴求し、2015年入社として3名を採用した。当時は、同社の採用力は強くなく、全員地元採用で就職先が見つかっていなかった学生が中心だったが、そのなかでも会社づくりに貢献している人材もおり、最初の新卒採用者のなかには現在の幹部もいる。

堀江氏: 実は山形県内には建築学科がある大学がなく、建築系の学生を取ろうとすると県外からの就職を勝ち得ないとならない環境だったので、どう他社と差別化していくかを考え、言語化し、仕組みをつくっていきました。文系の学生には働き方や職場としての魅力が訴求ポイントになりましたが、建築学生の採用は就職先の選択肢が多く、難航しました。そこで、当社を知ってもらう機会をつくるために、東北6県+新潟県の大学の建築学生を対象とした建築設計コンテストを仕掛けました。あくまで採用のためのコンペという立ち位置で、大学に当社のポスターを掲示して学生に認知していただくことが第一目的なので自社主催で実施したところ、そのコンペのポスターをきっかけに当社を知った学生が入社してくれました。

実は、このプロジェクトは入社1年目の社員がメインで行い、予算の使い道を含めて全て決めてもらいました。それが「若手が活躍できる」実績にもなり、翌年からのリクルーティングでのアピールにも繋げていくことができたのです。新卒採用を強化したタイミングから若手にリクルーティングに携わってもらっているので、今では私が採用の最終面接に出ないことも多いですね。

東北6県+新潟県の建築を学ぶ学生を対象にした、建築デザインのコンクール

入社1年目の社員がメインで進めたリクルーティングプロジェクト。東北6県+新潟県の建築を学ぶ学生を対象にした、建築デザインのコンクールのカバーグラフィック

はじめは東北に縁のある人を採用していたが、徐々に仙台などエリアを広げていき、来年度の新卒採用は11名が入社予定。11名の枠に対して県内外から340名の応募があり、岐阜県や福岡県出身など、全国から優秀な人材を獲得することに成功している。

また、数年前から社員大工の採用にも注力し、現在社員大工は10名、平均年齢は20代半ばの若い世代が活躍している。地域大工の高齢化という問題を解決すべく、大工チームを「シエルクラフトマンズ」とブランド化することで正しい価値を与え、大工として働きたいという若手を増やしていく戦略だ。

腕利きの職人たちによる高い技術と確かな経験によって、こだわりのデザインを具現化し、高気密高断熱住宅を実現することが可能になっている

堀江氏: 今はモノの差別化が難しくなってきているからこそ人を差別化することが重要だと考え、ブランド化をしました。プロフェッショナルであり、それが規模化しているというのが当社強みです。未来の施工力を確保しつつ、高性能な住宅建築の質を担保でき、採用にも繋がるという状態を5年以上かけて築き上げてきましたが、今後より差別化のポイントにすべく、種を蒔いているところです。

裁量を与えて若手が活躍できる組織に

独自の新卒採用手法を取り入れている同社だが、入社後の新人育成においては、できるだけ若手にスポットライトを当てて、なるべく裁量を与えるというのが堀江氏の信念だ。

2〜3年前から会社の運営上の質の担保と、優秀な社員のスキルの引き上げを目的としてさまざまなプロジェクトを実施し、若手の人材育成にも積極的に取り組んでいる。ミッション策定や、リクルート、ファッション委員会などプロジェクトは多岐に渡り、リーダーは決めるもののティール組織で運営し、新人がリーダーになることも。自分の業務範囲だけに捉われず、興味のある人が手を挙げて就業時間内で行っている。堀江氏がテーマを出すものもあれば、社員発信で発足することもありケースバイケースだが、あくまでそれぞれのプロジェクトメンバーに任せることで主体性が生まれ、社員のやりがいと成長に繋がっているのだという。

堀江氏: 試行錯誤をしながら、長期的なプロジェクトでも期限を決め、要件定義をどこまで下ろすべきかなど自由にやれるようにサポートする体制を整えていきました。ANDPADなどデジタルツールを活用して生産性を向上させることで、就業時間内に通常業務以外のプロジェクトにも参加できる時間が確保できています。経営戦略室がプロジェクトのマネジメントをするようにしていて、ミーティングには私も入ったりはしますが、社長というよりはメンターとしての立場で大枠の意思決定などメンバーが描けない部分をサポートしています。あくまで教育者としての立場で、全ての責任は私が取るというスタンスです。新人がリーダーになることもあるので、キャリアの浅いうちからいろいろチャレンジができるのがやりがいになって面白いと言ってくれていますね。今後は、ミドル層がプロジェクトをどんどん回せるようになってくると面白くなると思います。

例えば、昨年飯豊町にシェアハウス「RE:BAUM」、今年南陽市にシェアラウンジ「ciel GREEN LOUNGE」をオープンしたが、これらも若手主導で進めたプロジェクト。シェアラウンジは、1年目の社員4名が設計から全てを担当したのだという。

また、基本的なビジネススキルを身に付けるために、入社後2ヶ月間、日報と併せて800字レポートを毎日提出し、タイピング能力と自分の考えをアウトプットするトレーニングを行っている。

堀江氏は全てのレポートに目を通し、毎回コメントを付けて戻してコミュニケーションを取りながら対等な立場でコミットすることで、新人との関係性を構築する場にもなっている。

南陽市のシェアラウンジ「ciel GREEN LOUNGE」。かねてから家具ショップをやりたかったという堀江氏。家具ショップとして運営するとなると人材や在庫などの問題があり、ラウンジとして運営することに。実際に家具を使ってもらって良さを体験してもらい、家具事業や住宅事業に繋げていく戦略だ。

今後の展望について

若手に裁量を与えることで主体性を育み、生き生きと働く社員に魅力を感じて、新たな人材が集まってくるという好循環が生まれている同社。今後、どのような未来を描いているのだろうか。

堀江氏: 今後も、当社のミッション「生きるを、彩る。」、バリューの「上質な感動と豊かさに満ちたライフスタイルを創造する」に基づいた仕事をしていきたい。

現在年間40棟を手掛けていますが、地元だけではなく県外にも広げていけたら。地元だけでなく福島と仙台にモデルハウスを展開していますが、規模化することがコアな目的ではなく、ミッション・バリューに基づいた事業をやり続けていくことで結果的に規模化していけたら。

これからは、住宅業として優秀な設計士や職人を残していけるかという懸念があるので、今まで培ってきたホテル業やレストラン業のノウハウを活かした複合施設を建設し、マスターリース方式で運営予定です。日本ではあまりない形態なので、会社としてのアピールポイントになるのではと考えています。今までやってきたことが繋がるような取り組みになると思っています。

また、新潟県では1棟貸しのバケーションレンタルをスタートさせる予定。地方は宿泊業の多様性に乏しく、県内、隣接県の人のためのレジャー的な役割をもった施設が希薄。こういった自分自身がユーザーとして思っていることを、一つひとつ形にしていけたら。

そして、何より建築技術を通して、地方を輝かせたい。メインは住宅事業ですが、他事業展開することで各方面の優秀なプロフェッショナルが参入してきてくれて業界自体が盛り上がりますから。住宅業界がシュリンクしていくのを指を咥えて見ているのではなく、地方や建築業界にそれまでなかったことをどんどんトライしていくことが大事。われわれは地方に住んでいるからこその説得力もあると思っているので、今後も積極的にチャレンジしていきたいです。

多事業展開で会社として成長しながら地方創生に繋げていく、所謂倫理資本主義の世界を実現している同社。さらに、多事業展開によって会社の魅力が増すだけでなく、事業の中核を若手が担うことで自然と会社の「顔」となり、彼らの働き方に共感した新たな若い世代の採用を広げている。同社の取り組みは、若手採用に苦戦する地方工務店にとって一筋の光のように感じた。同社の今後のチャレンジにも注目していきたい。

株式会社ホリエ

https://www.cielhome.jp

〒999-0604

山形県西置賜郡飯豊町椿2529

代表取締役:堀江 龍弘

創業:1917年

 

取材:金井さとこ、兼俊陸
ライター:金井さとこ
デザイン:安里和幸
編集:平賀豊麻