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わずか3年で年間80棟が170棟へ その成長を実現したIT化の取り組みとは?

古川 和茂 氏
坂井建設株式会社/ディテールホーム CMO

INDEX

ITやWEB関連企業のみのキャリアから 建設会社への入社を決めるまで

ここ数年ほどの間に、坂井建設は大きな成長を遂げることができました。その要因のひとつとして、建設業界内ではかなり特殊な私のキャリアが影響しているところもありますので、まずはそのあたりのお話をさせていただければと思います。

私の生まれは新潟になりますが、実家はうなぎ屋を営んでおり、私自身も幼少期は板前になるものだと考えていたぐらい、建設業界ともITともはほぼ無縁の環境で育ちました。

高校進学の際に、当時の新潟では非常に珍しい情報システム科がある高校を見つけたのですが、その学校に興味を持ち、そこに入学したタイミングこそが私がIT技術に関わりはじめたスタートラインとなります。

高校でエンジニアリングを学び、卒業後はIT関連技術を扱う鹿島建設の子会社に就職しました。そこで工程管理に関するソフトウェアの開発に携わるのですが、商品・サービスをつくるだけでなく、実際に販売し、購入したユーザーがどのように考えているかを知りたいという思いから、BtoBビジネスを展開しているIT企業へ転職します。そこでは法人ユーザー向けECサイトの運営を担当し、ホームページやWEBマーケティングに関する理解を深めることができました。その後もインターネット広告を扱う会社やゲームの開発を行う会社に移り、ジャンルは違うものの様々なITやWEBテクノロジーに関する知識を増やしてこられたと思います。つまり、いまの坂井建設に入社するまで、一貫してITに関わるキャリアを歩んできました。

幸いにも東京でそのようなキャリアを順調に重ねることができていたのですが、母が病気で倒れてしまったこともあり、3年ほど前に生まれ故郷である新潟へ戻ることを決断しました。

実は、新潟での仕事にあてがあったわけではなく、ほぼノープランでの帰郷です。最低限の生活ができれば良いぐらいの感覚で仕事を探していたのですが、偶然にも現在の職場である坂井建設がWEB担当者を募集していました。

そこで、さっそく面接に伺い、社長と専務に会ってみると、非常に雰囲気が良かったんです。直感的に「面白そうな方々」だと思いました。

当時、坂井建設は事業を大きく拡大しており、とても勢いがありました。私の偏見かもしれませんが、そういった会社の社長はどこか上から目線な対応になりがちな気がしています。しかし、社長や専務からはそのような雰囲気をまったく感じられず、社員やパートナーとなる外部協力会社に対しても気配りを常に忘れないような考え方を持っていると思いました。

実は、私が新潟で仕事を探すにあたり、ひとつだけ条件を設けていました。それは、何の仕事か?ではなく、誰と一緒に仕事ができるか?ということです。社長、専務と話し、「ここであれば、その条件をクリアできる。」そう考えたことが、私が坂井建設に入社を決めた一番のポイントです。



WEBマーケティングの重要性 その成果をもたらす人材と経営方針

坂井建設は創業70年を超え、従業員数は70名ほどになります。組織としては、創業時からの事業である土木事業部が約15名、2006年にスタートした住宅事業部が約55名、経理など本社機能を担当するスタッフが約5名です。

さらに分類すると、営業、設計、施工管理、積算、マーケティングといった組織がありますが、実を言うと、かなり柔軟性を持った運営がされています。どういう事かというと、「営業だけでなく設計もやりたい」だったり「全工程を担当したい」だったり、各従業員の希望によって担当する仕事の範囲を決めているというかたちです。

経営的には、少々ややこしいマネジメントになるかもしれません。しかし、「やりたいことがやれる」といった裁量権が与えられるため、従業員のモチベーションはかなり高く維持されており、結果として業界標準に比べ離職率は非常に低いレベルに保たれています。人材不足のために優秀な人材の確保が難しく、採用コストも高いといった今の建設業界にマッチしたオペレーションなのではないかと個人的には考えています。

私が入社前に社長や専務から感じ取った雰囲気同様に、全社的に社員は真面目で常にまわりへの気配りができる人が多いため、とても仕事がしやすい環境で業務を行うことができています。

先ほどお話しした通り、以前の私は建設業界とあまり関わりがなく、ほぼすべてのキャリアでITやWEBに関わる仕事をしていました。通常の建設会社では、営業を担当していた方や、社内で比較的ITに詳しい方を私のようなWEBやITに関わるポジションに置いたりするケースが多いかと思います。中には、専任ではなく兼任で担当しているような会社も多いのではないでしょうか。

坂井建設では、私が専任でWEBマーケティングや情報システム関連の業務を担当しているのですが、今年に入ってから専任メンバーが増えるなど、社内におけるWEB・IT関連業務の重要性は高まってきていると思います。こういった組織体制は、以前からITやWEBマーケティングの可能性を高く評価していた現社長の意向でもあります。

片手間でITやWEBマーケティングを行うのではなく、十分な予算や人材リソースを割いて経営を行ってきたことが、ここ3年ほどで年間棟数を80棟から170棟へと倍以上に伸ばすことができた要因のひとつになっているのではないでしょうか。

時に、投資が積極的すぎると感じることもあり、私の方から「そこまでは・・・」と返すような場面があったりするほどですので(笑)。

私の入社以前の集客・マーケティングは、ダイレクトメールや看板広告など、いわゆる昔ながらの方法がメインで行われていました。今は、それらの手法がゼロになったわけではありませんが、ほとんど行っていません。ほぼ全ての集客をWEB経由に切り替えました。

その効果のひとつを挙げさせていただくと、ホームページやWEB媒体からの資料請求が毎月100件前後になりました。以前が毎月10件ほどだったため、約10倍の増加率になります。年間にすると、120件だったものが1200件に増えるわけです。

この数字だけ見ても、各建設会社はユーザーの変化に合わせて、集客手法を大きく変えていく必要があると思います。もちろん、広告媒体のすべてをWEBにしたからといって、それだけで集客が大きく増えるわけではありません。坂井建設は、ブランディングにも注力しています。

現在の新潟市場はローコスト住宅が主流ですが、新潟のユーザーにあわせてデザイン性を重視しており、費用が多少かかっても「かっこいいよね」とお施主様に満足していただけるようなラインを狙っています。

正直なところ、受注数や売上だけを上げることを考えるのであれば、ローコスト住宅に商品ラインナップを寄せた方が良いかもしれません。しかし、そうではない路線を貫くのは難しい経営判断ですし、そのベースを踏まえてWEBマーケティングを展開するといった一貫性を持つのは簡単なことではありません。そのあたりのコンセプトが統一できているのが坂井建設の大きな強みなのかもしれないですね。

建設会社の経営効率化を実現する 情報システムの選択と導入

WEBマーケティング以外にも、私には重要な役割があります。それはIT活用による全社業務の効率化です。つまり、一般の会社でいうところの情報システム部になります。

私が3年前に坂井建設に来た当日、本当に驚いたことがあります。それはFAXがメインコミュニケーションツールだったことです。紙の印刷も大量でした。多少の噂は聞いていましたが、「まさかここまでアナログとは・・・」とけっこうな衝撃を受けました。私の近くに座っていた現場監督たちも、事務所にいる時はひたすら電話をしている感じです。

さすがにメールは使われていましたが、メーリングリストがなかったため、同じ内容のメールを送信先ひとりひとり別々に送る方法でした。そうなると当然ながら送信漏れが発生し、「言った言わない」「伝えた伝えてない」となり、メール後もフォローの電話をしなくてはなりません。現場監督たちがひたすら電話となるのも仕方ないことです。そこで、情報を一元化し、コミュニケーションをスムーズに行えるようなシステムの導入を検討します。

私の入社以前、坂井建設がITシステムやソフトウェアをまったく使っていなかったわけではないのですが、以前使っていたシステムはUI(ユーザーインターフェス)がわかりにくく、結果として使用頻度が上がらないという状態になっていました。

そういった事情もあり、新たに導入するシステムの選定ではUIのわかりやすさを徹底的に追求しました。複数のソフトウェアを比較検討した結果、株式会社オクトが提供するANDPAD(アンドパッド)の使い勝手が抜群に良いとわかります。

そこで、まずは私ひとりで使用テストを行い、導入後の運用イメージを固めた後、費用対効果や導入後に実現できるコスト削減額などの情報をまとめて社長にプレゼンしました。 結果、早々に導入が決まるのですが、スピード感を持って導入が実現できたのは、IT投資に積極的だった社長の存在が大きいでしょう。

世の中に便利なITツールやシステムは大量にありますが、それを社内に浸透させられるかどうかは旗振り役次第だと実感しています。坂井建設の場合、私だけでなく会社のトップである社長が旗を振ってくれたからこそ導入がスムーズに行えたのだと思っています。



ANDPADの優位性や便利な機能

ANDPADを使い始めて強く実感しているのは、建設業界こそUIのわかりやすさにこだわるべきだということです。建設業界は、まだまだITに慣れていません。だからこそ直感的に操作方法がわかるようなソフトウェアやアプリがでないと使われなくなってしまいます。

また、データを使えば使うほど課金されるようなシステムの場合、使用者がその点を気にして使用を躊躇してしまう可能性があると考えました。そうなってくると、現場写真の保存がされないなど本来使いたい機能をフルに活用することができません。そのような心理的制限がかからないと考えたこともANDPADを選んだ大きなポイントのひとつです。

ANDPADの導入を進めるコツは 社外協力会社の巻き込み方に

システムの切り替えにあたって、社内の一部から多少は不安の声がありましたが、ANDPADのサポートもあり、概ねスムーズにシステム変更を行うことができました。

問題は、社外の協力会社の方々にいかに使っていただくか、です。まずは昨年(2018年)5月の社内向けの説明会、ならびに7月の協力会社向けの安全大会でANDPAD導入の説明を行うことを目標とし、そこに合わせて準備を進めました。

安全大会当日に、ANDPADログイン用のメールアドレスと名前を記入していただくための用紙を準備し、可能であればその場で回収。回収できない場合は後日FAXで送ってほしい旨を伝えたのですが、安全大会後にFAXはほとんど戻ってきません。このままだと協力会社への導入がまったく進まない、と正直焦りました。

そこで、協力会社が再度集まる夏の納涼会で一社一社にお声がけをしたり、定期的に説明会を開いたりしては「写真だけ撮ってくれれば、それ以外のことは覚えなくていいです!」くらいに内容を絞って浸透をはかりました。

おそらく当初はかなり煙たがられたとは思いますが、最終的には「わかったわかった」と渋々ながらも使用をはじめてくれる会社が増えました。そこから自社の施工管理担当もANDPADの便利さが分かってくると、さらに協力会社に向けて導入を促してくれるようになりました。

今までのキャリアで多様なシステムを扱ってきた私が考えるに、新しいシステム導入のコツは「難しい」という先入観を与えないことだと思います。そして、段階的に、使用する機能を案内し「意外と簡単」という印象を持ってもらうことです。さらに、導入後のメリットをきちんと伝えることができれば導入は進むでしょう。

今年(2019年)5月の安全大会ではANDPADの「報告機能」に絞って説明を行いました。報告機能を使用することでお互いが楽になる点も強調しています。一回の説明会ですべての機能の説明をせず、まずは本当に使いたい機能ひとつに絞って社外への案内を進めることが、結果的には近道になるかもしれませんね。



ANDPAD導入後の成果

導入して約1年が経ちましたが、成果は目に見えるかたちで出始めています。

まず、社内での話をすると、大量だった印刷物が激減し、残業時間も減りました。現場監督が事務所で電話し続けるようなこともなくなり、営業時間内に事務作業ができ、適切なタイミングで現場に行けることが増えました。

社外の協力会社についても、当初は多少の反発もありましたが「使い慣れれば楽」という認識が広がり、今では「ANDPADが無い世界は考えられない」くらいのことを話してくれる方も増えてきています。

こういった良い流れを更に推し進められるよう、わからないことがあったらすぐに参照できるような坂井建設専用のANDPAD使用マニュアルを私が独自に作成しています。

いかにUI(ユーザーインタフェース)が優れたシステムであっても、ほっとけば浸透していくといったことは私の経験上ありません。推進者がコツコツと進めるしかない部分もありますが、徐々にでも使用率が上がっていけば、必ず会社全体の生産性も上がってくると信じています。

坂井建設の今後と 建設業界が向かう未来について

私が入社してから約3年が経ちましたが、その間にIT化がかなり進みました。ガラケーだったものがスマホに変わり、データ保存先はクラウドになり、オンライン受発注やデジタル署名のシステムが導入されました。

わずか3年という期間の間に変わったことも多く、全社員がすべての機能を使いこなせているわけではありません。しかし、建設業界の外では当たり前のように行われているようなスピード感を持ってIT化を進めていけば、建設業界を見る目も変わってくるのではないでしょうか。

非効率で長時間労働が当たり前というような業界に対する認識が変わり、建設業界にいることが「かっこいい」というイメージが一般に広まれば、優秀な人も集まり、日本の建設業界は良い方向に向かえると思います。

個人的にも、そういう想いを持った方々とどんどんとつながっていきたい。それが坂井建設や建設業界に貢献できる一番の近道だと考えています。

坂井建設株式会社/ディテールホームの詳細情報は以下URLをご参照ください。

https://www.detail-home.com/

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