WITHコロナ時代 変化する現場の働き方 導入事例インタビュー02

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佐藤 慎一郎 氏
株式会社樹の家こころ舎
代表取締役社長

金子 孝二 氏
株式会社樹の家こころ舎

株式会社樹の家こころ舎は大分市臼杵市を中心に注文住宅を提供する地場工務店だ。大分県臼杵市は造船と発酵が主産業の地域で、造船は三井系の南日本造船、臼杵造船、発酵はフンドーキンなどが有名な地域である。比較的安定した地場産業が強い同地で事業を営まれる同社は今年で創業12年を迎える。
 同社では家を売ることを仕事と捉えるのではなく、注文住宅を通じてお客様の問題を解決するLaaS(Living as a Service)カンパニーであることを目指し、お施主様の自分らしい暮らし<クラシク>を提供することを仕事として事業に取り組まれている。こうしたブランディングと価格帯、性能が相成ってか、臼杵市、大分市では競合となる企業はほとんどいないという。



 現在同社ではハイアス・アンド・カンパニーで設計(R+house)とアフターメンテナンスを、NEXST STAGEで第三者検査をアウトソーシングしているが、営業、仕様決めから施工管理業務においては社内で内製化をしている。その中でANDPADは情報共有の共通基盤として、また生産能力を逆算した年間の販売計画の策定など、経営戦略を行う上での重要な機能を担うシステムとしてご活用いただいている。
 今般の新型コロナウイルスへの対策として、2020年2月28日時点というかなり早い段階でテレワークを実施できた要因や、その際の業務の状況について、代表取締役社長の佐藤 慎一郎様と2019年に地元大分県の地方銀行から同社に転職され社内教育や仕組づくりに取り組まれている金子孝二様にお話をお伺いした。

※取材日時は2020年4月29日であり、当時の情報にて本記事は書かれています。

創業を決めた佐藤氏の原体験

代表取締役社長の佐藤氏は大学卒業後、地元の建設会社に就職するが、利益至上主義な会社の体質に馴染めず、25歳で設計士として独立、26歳の時設計事務所として事業者登録をする。しかし滑り出しは順調ではなく、独立後すぐに設計士としての壁に突き当たることとなる。
 家を作るにあたって、お客様と工務店の間に入って設計業務を行うが、お客様のご要望や想いを設計に反映させたとしても、設計通りに家が建たないことが多かったという。その大きな要因として佐藤氏は次のように当時を語る。

「職人達は自分たちがこれまで積み上げてきた経験を優先し、設計通りに建てないことだった。時には耐震構造上必要がある筋交いをお施主様が現地で職人に直接要望を受けて抜くなどしていた。あくまでも良かれと思ってお施主様の要望を叶えるために職人が取り組んだことではあるのだが、設計士からすれば構造上の大問題を起こしていることはとても看過できなかった。また、ショッキングだったのは、検査を受けた後だったら多少変更しても大丈夫だという職人の認識でした。」

佐藤 慎一郎 氏 株式会社樹の家こころ舎 代表取締役社長

そして佐藤氏にとって極めつけの経験となったのが、お引渡しに立ち合いをしたときのことだ。

「出来上がった家の状態が、設計に落とした内容とまるで違う状態で仕上がっていたんです。お施主様の奥様がこれまで職人さんに何度も設計通りに仕上げてほしいとお願いしても、納得せずに職人自身が描く形を押し通し、お引き渡しを迎えていた。その状況に奥様が悔し涙を流されているのを見て、すごくショックだったんですよね。ほかにも、断熱材の入れ方一つとっても、職人の断熱材の入れ方が明らかに湿気の溜まるやり方になっていたので、是正指示を出したところ『若いやつは黙っとけ』と現場から追い出され設計士としての自分は全く相手にされなかった。確かに当時27歳でしたし、職人に対しては若輩者ではありましたが、どうやったら職人が自分の言うことに耳を傾けてくれるのか当時すごく悩んでいました。
 そんな折、とある工務店の打ち合わせで、工務店の社長が職人に対してかなりきつく意見を言っているのを見たんです。当然、その社長が打合せの場を去った後、職人達はめちゃくちゃに文句を言うわけですよ。ところが、文句を言いつつも職人たちはしっかりと工務店の社長の指示に忠実に従って仕事をしていたんです。そこですごくシンプルなことに気づいたんですよね、いい家づくりをするにはまず職人の発注主にならないといけないのだと。」

不条理に対する自身の無力感を痛感する一方でシンプルな仕事上の力関係に気づいたことが、佐藤氏にとっての工務店経営の原体験であった。そして2008年、株式会社樹の家こころ舎を創業する。

驚異的な初回集客からの平均受注率50%

創業時から変わらないことの一つが契約前のお客様との関係構築だという。
「契約前の段階でお施主様の癖がうつる程に、お客様の気持ちになって住宅を一緒につくろうと、スタッフに伝えています。契約したら友達になるくらいの勢いでやっています」と佐藤様は語られた。
こうした関係構築の効果としてお施主様との信頼形成やお引き渡し後の紹介案件数に効果が表れている。そして特に同社がポイントとして捉えていたのは、関係構築を徹底することにより、契約までのリードタイムが短縮されるというところだ。

「初回接触から6回ほどの面談を経て、約2か月の期間でパートナー申し込みまで進むのが当社の平均リードタイムです。またローン申請も含め、お施主様らしい家づくりを共創する中でしっかりお話を詰めているので、パートナー申し込みから受注漏れすることはほとんどないですね。」
さらに、リードタイム以上に特筆すべきは驚異的な平均受注率だ。

同社のオフラインでの初回接点からパートナー申し込みまでの平均的な受注率は50%と非常に高い。
この非常に高い受注率に寄与したものとして、金子氏が入社されてから実践している<面談前のプレシート入力と壁打ち>があるという。

「来場されるお客様の乗っている車や、趣味趣向、年収、夫婦の力関係など会話する前にくみ取ることができる非言語的情報を営業がプレシートにまとめ、壁打ちを接客前に実践をします。これを続けた結果、受注率が10%程度と伸び悩んでいた営業担当が現在では40%近い受注率を取るようになりました」と金子氏はお話される一方、従来通りのやり方からさらに変革を遂げる必要性を感じているという。

「新型コロナウイルスの発生以後、リアルでの初回接点が獲得しにくくなるため、オンライン接客へ移行していくことになります。すると、これまでリアル接点で取れた情報が取れなくなり、お客様のペルソナ分析の精度が落ちることは避けられないだろうと考えています。とはいえ、これまでの蓄積である対人折衝の経験とプレシンキングの徹底はオンラインに移行しても活かすことはできるとは考えているので、今後年間計画の見直しと併せて精度を上げていきたいですね。」

ANDPADを導入した背景と選定のポイント

創業から順調に受注棟数が増えて成長していく一方で、課題となっていったのが、外部パートナーとのコミュニケーションだ。受注が増えるにしたがい、職人とのやり取りが段々と荒くなっていってしまったと佐藤氏は次のように振り返る。

「例えば図面が新しく書き換わっているのに、職人さんに渡せていなかったり、ちょっとしたトラブルが多かったんです。過去にそうした状況を改善しようといくつかITツールを積極的に取り入れてみたんですが、なかなかうまく定着しなかったんです。何かいいものはないかと情報収集をしていた時に、ANDPADに出会いました。これなら説明書もなくとも職人さんが直感的に扱えそうなツールだとすごく感じましたね」

また佐藤氏はANDPADの操作性やアプリのデザイン以外にも会社組織というところもご評価する際のポイントだったという。

「過去に利用した製品を提供する会社は建設テックのベンチャーとして2015年という早い段階からコンストラクションマネジメントのITサービスを提供していました。とてもいい会社でしたが、資金が安定しないことが要因なのか開発が遅いと感じていました。一方でアンドパッドは経営体制に安心を持てたし、何よりホームページから業界変革へのやる気を感じれたので、強く惹かれました。」
さらに、佐藤氏と交友のある工務店ではANDPAD以外のサービスを採用する会社が多かったという。そうした環境の中でANDPADをご採用いただいた理由を佐藤様は次のようにお話された。

「親交のある工務店の社長から別のアプリを触らせてもらったことがあります。ただその時これでは自社と付き合いのある職人さんは触ってくれないだろうと感じて採用しませんでした。たとえ仲のいい工務店の紹介でも使うのは自社ですし、導入を見送りました。」

「ANDPADを導入後、社内の空気がよくなった」

2019年1月にご入社された金子氏は、前職の地銀の住宅ローン担当として同社を外から見てこられたという。同社を社外からも社内からも見てこられた金子氏は、ANDPADを導入してから起きた社内の変化について次のように語る。

「ANDPADを導入する前は誰が何を今やっているのか見えず、セクショナリズムになっているように感じました。つまり各担当が自分の仕事以外への視野が持てずに、他の社員への想像力を欠いたコミュニケーションが横行していました。社員同士、お互いの仕事の進捗に対して理解がなかったことが、思いやりのない引継ぎや、想像力を欠いた対応を生み、結果として二度手間などの業務の手戻りを生む温床にもなっていました。それはつまり、『自分ばかり忙しく、ほかの社員が暇に見える』という心理状況をそもそも発生させない状況を作ることがとても重要だと感じていました。ANDPADを導入後は徐々に他の社員の仕事が見えるようになって、社内の空気がいい方向に変化しています。」

地元大分の地方銀行にて債権回収畑で住宅ローンの担当として働いていた金子氏。地銀時代の経験から、住宅が資産化されていない状況を何とか変えたいと、資産価値のある商品の提供と併せてライフプランに沿った最適な住宅ローンを提案するべく2019年1月に樹の家こころ舎へ入社されたという。

また同社では共有する情報の性質や共有対象によって、情報の流れや保管場所を分けるためにITツールを使い分けているという。

「案件に紐づく流動性のある情報はANDPADで行うようにしていますが、社内の情報のやり取りは別のチャットツールを利用して行っています。ANDPADには社内ですり合わせが完了した、<外部パートナーと共有して差し支えのない情報>を格納するような運用にしています。いわば、ANDPADは職人が見て迷わないための情報の置き場所です。一方でまだ外部パートナーには共有できる状態ではないけれど、<社内では共有しておきたい>情報はANDPADではなくGoogle Driveを活用するようにしています。ただ理想を言えば、ANDPADですべて完結できるといいと考えているので、今後の運用をより磨いていきたいですね」

社内浸透の取り組み「人は綺麗な場所にごみを捨てない」

ANDPADの導入後、着工後の業務フローをANDPAD中心に定義された同社では、今後着工前の業務工程の共有と標準化に取り組む考えだ。

「ANDPADを導入後、生産能力逆算で売り上げ計画を立てることができるようになりましたが、次は着工前の業務を型化し、社内業務の手戻りなどを無くしていきたいと考えています。例えばこのタイミングまでには、住宅ローンは通っていないといけないというものや、設計のチェックを済ませていないといけない、構造計算をしていないといけないなど、タスクの管理を標準化して、もっと大事なことに従業員の時間を使うようにしていきたいと考えています。」

そのように今後の展望を語る金子氏だが、ANDPADを社内に浸透させるために心掛けられたことがある。

「まずひとつが、しつこく何度でも使ってもらうように言うことです。そしてもうひとつが営業に使ってもらうことです。」

この2つのポイントを徹底するために工務チームとのミーティングと併せて、営業との1on1を実施しているという。
1on1の目的は、ANDPADの必要性や利用することの意味を伝え、また利用する側である営業が困っているポイントなどを話し合い、何か問題があればすぐに解決に向けて対応できるようにするためだ。ANDPADの利用を浸透していくにあたって、工事部門とのミーティングを行う意図は想像に難くないが、なぜ営業担当とも実施をするのか、その理由を金子氏に伺った。

「前の工程を後工程で乱すということは工務の性格上本来やりにくいので、工務が使おうとしたときに上流工程の営業がちゃんと使っていることを作るのが重要だと思います。工務も営業がANDPADをしっかり使って、ANDPADに情報を入れている状態を作っておくと、その流れを汲んでしっかり使ってくれます。
人の特性として散らかっている場所を散らかすことに対してはさほど抵抗感は持たれませんが、綺麗な場所にごみを捨てるというのは抵抗感がちゃんと働きます。営業が使えば社内の工務が使います。それと同じように社内の工務が使っていれば職人さんは使ってくれます。だから営業に使ってもらうというのを重要なものとして捉えて対応しています。」

またテレワークになって以降、金子氏自身時間が作れるようになったことで、ZOOMのレコーディング機能(有料版で利用可能)を用いて、動画形式でANDPADの運用方法を記録し社内教育の動画資料を作っているという。

「ANDPADの操作画面をZOOMでレコーディングするだけです。そうした素材をミーティングと併せて、各自が振り返り学習できるように社内に溜めています。ただこうした取り組みをもっと早く行い、全部門でANDPADの利用が浸透している状態を作っておくべきだったと今感じています。例えば社内で確認申請をするメンバーがANDPADに情報を入れてないと、工務と確認申請を行うメンバーの間で相互確認が発生する因子となるため、会社としてのコミュニケーションにかかるコストを下げるためには工務以外のメンバーも積極的にANDPADを利用させるべきでした。」

ANDPADに対する職人からの評価

実は、現在同社では業者を集めての業者会は開催していない。
先述のANDPAD導入背景である、棟数の伸びにしたがって現場が荒くなったという事象は社内と社外での情報共有だけが要因ではなかった。
もう一つの要素は業者間でのトラブルだ。

「例えば大工と塗装屋がお互いに仕事の仕上がりの悪さを相手の責任に擦り付けるように責任転嫁をし合っている状況だった。塗装屋が塗料を塗った結果、きれいに仕上がらなかったことを、その前工程の大工の仕上げが悪かったことに責任を転嫁する。一方で大工は塗装の仕上がりが悪いのは塗装屋の技量の問題だとお互いに仕上がりに対して責任を持たない状況だったんです。そんな状況で業者会を開催しても、業者同士の文句の言い合いだったり、元請への文句を言う場になり、建設的な場とならないことに強く課題を感じていた。」

そのため現段階では佐藤氏が愚直に現場に足を運び、協力業者へ一社一社、同社の経営方針や、住宅への想いを伝え、理念の共有を業者へするようにしているという。

「職人さん毎に考え方というのは千差万別なので、お互いに理解し合わなければ、いい住宅は建たないと考えています。特に家づくりは職人さんとの協業。スキルの高低以上に、考え方の相性の良し悪しというのはとても大きい要素です。いくら技術がある職人さんでも他の職人への態度や接し方で関係を悪化させる人もいます。そういう職人さんとはいい家を作ることはできない。一つ一つの丁寧に伝えながら、業者さんのほうから、『集まって話し合おうよ』という空気ができたら業者会をやりたいと考えています。」

そうした社外の協力業者や職人さんとの関係構築を行っている状況下ではあるが、実際にANDPADを使う業者様たちの反応はどうだったのか、佐藤氏は次のように表す。

「すごく使ってくれてますよ。今では職人さんから『電気図面変わったらANDPADにあげちょってな!』というように、ANDPADが仕事中に当たり前に飛び交う言葉になってきている。特に設備屋さん、電気屋さんは積極的に使ってくれていて、今後はメーカー担当にANDPADをもっと使ってもらえるように働きかけていきたいですね。ANDPADを使うと「楽になって儲かる」というのを感じる職人さんが増えてきて、職人さんが率先して使うようになっています。うちだけに限らず、『仕事が楽になって儲かる』ということが職人さんに浸透していけばいいなと、すごく感じています。」

WITHコロナで強く実感したANDPADの利用価値

ANDPADを利用していて特に便利だと感じている機能について、金子氏は次のように語る。

「工程表と報告機能ですね。各工程の進捗状況を表すステータスに連動する進行報告、完了報告の機能がすごく便利です。着工前、進行中、完了といった現場進捗を表す案件ステータスも便利に活用しています。こうしたANDPADの機能によって工程表に対する社内コミュニケーションが大きく変わりました。各自が業務の完成形をイメージすることができるようになりました。本来図面があれば誰がいつ何をやるべきなのかというのは見えているはずだが、ANDPAD導入前は正直先が見えてなかった。ANDPADを導入したことで会社としてのあるべき標準工程を全員が意識できる状態が作られ、家づくりの完成形から逆算した各自の仕事をできるようになりました。」
 下記は4月末時点で同社がホームページでアナウンスしていた新型コロナウイルスの感染拡大防止についての取り組みだ。現在同社では、オンライン会議システムのZOOMを活用し社内会議や、お客様とのお打合せや相談会を実施している。

「ZOOMの利用で社員に気を付けさせていることは、逆光にならないように、窓の位置を考えるなど細かい部分ですね。ただオンラインでいくらコミュニケーションが図れるといえども、自由設計である以上、材質に関しての選定はとても難しいと感じています。モノである以上材質へのお客様への感覚は大事にしないといけないので悩みどころですね。」

変化に順応する際に<変えることができるもの>と<変えることが難しいもの>があるということを実感したと話す金子氏だが、テレワークへと順応を遂げる際にANDPADの価値を改めて実感されたという。

「ANDPADがなかったら、テレワークを行うことは難しかったですね。リモートは2月末からできる人からで漸次的に行ってきました。車通勤であるということは大きい要素ですが、テレワークをやってみて、十分に対応できるなという実感を持っています。監督が社内に来る業務もあるにはありますが、クラウド環境の活用と3密にならないシフトの対応で十分に対処できています。

 また2020年5月からは全社基準でテレワークを進めていきますが、ANDPADを使うことにより、各自のタスクの進捗が見える化しているおかげで安心して業務を行うことができています。ANDPADを活用した結果、もともとテレワークできる人間はテレワークをすればよかった状況ではありましたが、これまではしてきませんでした。ある意味コロナによってテレワークを本格的に進めることができたと言えます。その結果、会社にとって本当に必要なことを考えるようになりました。今は粗利を増やすための時間を作っています。

 とはいえ、出社しなければいけない業務も実はまだあります。紙でやらなければいけない業務、つまりFAXやハンコが必要な業務。これもよく考えたら自社としては電子化して全く問題ないものなのですが、行政や外部パートナーの受け皿の問題によって出社せざる得ない状況が残ってしまっています。工事におけるFAXはANDPADの導入以後なくなる一方、住宅ローンに関しては銀行が依然としてFAXでの対応を要求している。銀行側はセキュリティを理由にFAXを要望するが、果たして本当にFAXがセキュリティとして問題がないのか疑問がある。例えば契約関係でいれば、営業のサポートスタッフが出社しないといけないケースが多く、健康への不安からくる業務ストレスになりかねないと捉えています。働き方改革を止めている要因の一つに受け手の問題というのは大きいです。」

職人の三密回避に標準工程の工期を1.5か月に長期化

そして、新型コロナウイルスの発生により同社では、3つの大きな影響を受けたという。その中でも特筆すべきポイントは職人の現場での三密を回避するために行った大きな意思決定である。

「新型コロナウイルスにより当社が受けた影響は大きく3つあります。ひとつは集客です。リアル集客が難しくなっていることが挙げられます。次に新型コロナウイルスの収束が現時点でも先行きが見えない状況であること。そして、3つめが工程です。当社では年間での着工枠を設け、その着工枠にお客様を入れていくという仕組みにしていますが、2月末以降、職人さんが現場で3密にならないように、ANDPADに登録している標準工程表のテンプレートを書き換えました。

 職人さんの健康を考える一方で、現場を止めてしまうのは職人さんにとって収入が途絶える死活問題です。ですから現場を止める判断はせず、職人さんが現場内部で密にならないよう緊急事態宣言が入ったタイミングで工程を変更しました。これまでの工期に比べて1か月半程度長期化したことで、来季24棟で着工枠を考えていましたが、着工枠のキャパシティーも18棟に下方修正しました。これはANDPADを導入してよかったポイントの一つですが、従来受注逆算で工程を組んでいたのを、ANDPAD導入以後、年間の着工枠、つまり生産能力逆算で考えるようになりました。
今回コロナを契機により粗利を確保する目的のもと、年間の18棟の着工枠に対して、営業が受注を取りに行く動きを取るように変えることができています。今は年間の粗利目標を定めて、それに向かって全社で取り組んでいます。ほかにも職人さんの感染防止対策として、当時マスクが手に入らない状態でしたので、市場流通価格に比べるとかなり高額でしたが、会社で一括購入して職人に配りました。」

withコロナの商品設計と協力業者の仕事の創出の両立へ

工程を長期化し、現場での職人の3密を回避することは年間着工枠を抑えるという経営判断につながるが、それは裏を返せば年間の職人稼働率が落ちることにもなる。職人への仕事の安定的な供給と、先に触れたお客様との非対面接客において如何にお客様の満足度を維持するのかという極めて大きな2つのテーマ。その解法として規格パッケージの開発を進めているという金子氏。その考えに至られた背景が非常にユニークなためここに紹介したい。

「今後Withコロナの状況が長期化した場合の打ち手としては、自由設計だけではなく、標準パッケージの規格を用意していかなくてはならないと考えています。大分県の臼杵市の地域では仲介業者が土地在庫を抱えていて、仲介業者の課題になっています。彼らが抱えてしまっている『売れていない土地』に対して当社が規格プランを当てて書いて、その土地に合わせたコンセプトを作り、そこに適合するお客様へ紹介をしていく。規格設計と集客客付けは自社で行い、土地の在庫は仲介が行うというプランですね。対お客様の施策であると同時に、協力業者への発注の担保にも繋がっています。この施策はいわば自社で在庫を持たない建売ですから、注文事業の年間工程に生まれた空きを活用して、協力業者へお仕事を振ることができます。したがって仲介業者の土地在庫の流動性に貢献しつつ、協力業者さんとの継続した関係を保つ取り組みとして、有効ま打ち手だと考えています。あとは当社の問題ですが、商品の特性が注文と規格は異なりますので、今後は売る営業マンを分けないといけないなと考えています。」

売り手と買い手の情報格差を埋め、技術でお金をいただきたい

規格商品の開発について語られた金子氏の目標は<売り手と買い手がフェアな状況で商売をする>ことだという。

「土地と注文の関係は、お客様のご要望をヒアリングしないとわからない。土地の良し悪しはお客様の要望次第で変わります。住宅ローンの窓口勤めの経験からも感じるところですが、多くのお客様が必要以上に良い土地を購買しており、お客様の住まいの理想に対して必要以上に多くの金額を支払ってしまっていると感じます。その要因が売り手と買い手の情報の非対称性です。」

現在金子氏が取り組む<大分の家づくりの教科書>というWEB連載はそうした住宅購買における顧客体験の改善に向けた取り組みだ。

「こうした連載を通じて、売り手と買い手との間にある情報の格差を埋めていきたいです。格差がなくなったうえで、弊社の技術を評価いただきお客様からお金をいただきたいと考えています。
自分たちが正しいと思っている家づくりがなぜ正しいのかを買い手であるお客様がご理解されたうえで、選んでいただけるようにしていきたいです。」

これからの未来に向けて

 同社の期末は6月。現時点(取材時5月)で2021年の着工枠は残5件、約75%の進捗で進んでおり、手なりでも100%達成予定で進んでいるという。目下2022年の着工枠に対しての打ち手をどう講じていくかというのが大テーマである。来期に向け、同社ではテレワークを実現したこともあり、事務作業しかしない事務所の閉鎖も視野に含め、純利益の確保へ検討を進めている。

「アフターコロナが来た時には、会社も社員もレベルアップした状態でありたいと考えています。まだ従業員間での重要ではないコミュニケーションがあるのでは無いかと考えている。既存の業務の無駄を無くしていく中で、お施主様のことをもっと考えて、もっと社内の従業員のことを考え合う時間を作っていきたいですね。だからこそ、ANDPADをもっと浸透させてよりよい運用になるよう考えていきたい」と今後の展望を金子氏は語る。

また佐藤氏からはANDPADを通じて現場の生産性が向上したことを受け、これまでアウトソーシングしていた業務の内製化に向けて意欲を覗かせていた。

「現在アフターメンテナンスはハイアス・アンド・カンパニーの外部パートナーメンテナンスに依頼しています。創業当初は自社でもメンテナンスをやっていたが、棟数が伸びていくにあたって、自社で家歴書を残すまで手が回らなくなってしまったので、外部に委託するようにした経緯があります。今後は自社メンテナンスを実施できるようにしていきたいですね。

現時点では昨年からの積み立てでの着工があるので、現場も忙しく動いているため当面は問題ありません。ただコロナの影響が一般消費者に与える影響を加味し、今後の景況感に対して資金シミュレーションを行なっています。例えば、借り入れをある一定金額したとしても、受注が止まれば、来年のある時期にはキャッシュアウトが起こりますよね。金子とともにワーストケースを想定しながら、いつまでに打ち手を講じなければいけないというのを危機感を以って取り組んでいます。」

社名:株式会社 樹の家こころ舎
https://www.kokorosya.co.jp/
代表者:佐藤 慎一郎
本社所在地:〒875-0062 大分県臼杵市野田332 コンフォート千代田1F
設立:2008年7月

取材、編集:平賀豊麻