〜後編〜 職人育成塾の挑戦 職人ファーストの人材育成プログラムに迫る

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岡村 真史氏
一般社団法人職人育成塾 代表理事。
オフィスビルや商業施設、病院、学校等あらゆるタイプの建物の内装工事を手掛ける新⽇本建⼯株式会社の代表取締役社長。デジタル技術の活用や、将来を担う有能な技能工へ成長する、若手技能工育成プログラム「ヤングジャパン」にも積極的に取り組んでいる。

落合 祐輔氏
一般社団法人職人育成塾 専務理事。
建築物の耐火断熱材、左官工事業、内装仕上工事業など幅広い工事を手掛ける株式会社日建商会 代表取締役社長。多能工育成にも注力している。

伝統的な専門工事業の担い手である職人不足により、技術・技能の継承が困難になりつつあることを受け、職人文化・ものづくり文化を担う人材を育成するために2016年に香川県高松市で設立された一般社団法人 職人育成塾。国土交通省並びに厚生労働省の支援を受けて、国家プロジェクトとして若年世代の建設業離れを抑制し、優秀な職人の育成を目指したプログラムになっている。同時に、地元高松市塩江町を発信地として、地域と共に学び、地方創生にも積極的に取り組んでいる。現在、9期目を迎えている同塾の代表理事・岡村真史氏と、専務理事・落合祐輔氏にインタビューを実施。後編では、女性就業者の増加を目指した取り組み、卒塾後のキャリア支援、今後の課題と展望について伺った。

固定概念から脱却し、女性が力を発揮できる環境づくりを

建設業界の労働人口減少の課題に直面しているなか、近年では女性の雇用が増えてきているが、CADオペレーターや現場監督など技術職が多く、職人などの技能職ではなかなか進んでいないのが現状だ。四国でも女性雇用が伸び悩んでいることから、同塾でも女性職人育成に注力している。

岡村氏: 個人的にも、従来の建設業界は男性社会のイメージが強く、女性が特に技能職の分野で働くことはハードルが高いと思っていました。しかし、世界に誇る日本の職人技術を伝承させるためには、女性も活躍できる業界へと変わらなくてはならない。現場での経験値がないなかで手探りな状態でしたが、内装業は細やかな作業が多いので、女性が活躍できる仕事は多分にあるという気づきは大きな収穫でした。経営者の考え方さえ変わればできるということがわかり、今まで業界としてしっかりと向き合えていなかったのだと痛感しましたね。力仕事は体力的に厳しい場合もありますが、クロス張りや左官など女性が力を発揮できる作業はたくさんあるので、男女それぞれの違いを見極めて適材適所を考えるようになりました。

一般社団法人職人育成塾 代表理事 岡村 真史氏

このように、女性が職人の道にチャレンジしていく土壌づくりの大きな一歩を踏み出している同塾だが、今後さらに女性職人を増やしていくために必要なことは何だろうか。

落合氏: まずは、経営者の固定概念をリセットし、考え方を変えることがマストですね。そして、女性の仕事は丁寧できめ細やかなので、その良さを活かす環境づくりが大事だと思います。近年では増えてきましたが、現場でも女性トイレをつくるなどハード面だけでは解決できない課題はあるので、時間はかかると思いますね。

さらに、職人の道に進もうとする女性の障壁となっているのが、保育施設の問題だ。建設業界特有の問題として現場の始業時間の早さもある。現場の始業時刻の前となると早朝となってしまうため、対応できる保育施設が少なく、現場によっては預けることができないといった課題に直面し、断念するケースも多いのだという。

岡村氏: 保育園の問題さえクリアできれば職人として働きたいという声も多いので、安心して働ける環境を整えることが課題です。以前、行政と協力して保育園をつくろうと試みたこともありましたが、非常にハードルが高くて断念せざるを得なかった。同じような課題を抱える地方も多いと思うので、モデルケースとなってノウハウを全国展開していけたら。

就職後は個社別のフォロー体制でキャリアアップをサポート

同塾では卒塾後は社員雇用することを掲げ、就職までをしっかりサポートし、安心して職人としてスタートすることができるようにしている。

岡村氏: 一般の会社が社員に対して業務で使用するPCなどを支給するように、当社では就職時に道具一式を支給しています。従来は他産業に比べ、こうした当たり前のことができていませんでした。職人がいるからこそわれわれの仕事が成り立っていると思うので、お互いをリスペクトしながらやっていくことが重要ですし、社会一般の常識として考えると、やっとスタートラインに立てたところと言ってもいいでしょう。職人としてのキャリアを積むうちに道具にはこだわりが出てくるので、会社支給の道具以外を使いたい場合は自己負担にしています。

職人のキャリアアップについては、業種によってフォローすべきポイントが異なることから、各社が個別のフォローを行なっている。例えば、岡村氏の経営する新日本建工では、若手社員の技術、知識、安全、コミュニケーションなどの能力アップを目的とした「ヤングジャパン」というアフターフォローシステムを設け、施工技術向上だけでなく社会人としてのマナー研修も含めた、職人という枠に留まらない教育プログラムで職人を育成している。

また、落合氏が経営する日建商会では、多種多様な工事に携わる多能工を育成するためのキャリアアップ支援を職長と共に行っている。

落合氏: 作業は段階的にレベルが上がっていくので、職長と相談しながら現場での指針を決めて、それに伴ってステップアップしていくシステムにしています。また、当塾の講師やアシスタントとして教え方について学ぶ機会も設けています。

一般社団法人職人育成塾 専務理事 落合 祐輔氏

「教える」ことを通して、職長のキャリア支援にも繋がる

また、同塾は職長のキャリアアップの支援にも繋がっているのだという。授業を通して、「教える」ことを教える場としても一役買っているのだ。どの業界でも技術力の高い人材が教えることに長けているとは限らないので、人格などを含めた教育者としてのスキルが求められる。同塾の講師を務める人材は「建設キャリアアップシステム」を基準に選定しているという。「建設キャリアアップシステム」とは、技能者一人ひとりの就業実績や資格を登録し、技能の公正な評価、工事の品質向上、現場作業の効率化などにつなげるシステムで、職人にとっては資格や就業履歴を証明できるため、適正な評価と処遇が受けられることをメリットとして掲げている。

岡村氏: 建設キャリアアップシステムのゴールドカードの職人でも、技術をしっかり伝承させる能力を身に付けていなければ本当の意味でゴールドカード取得者に値しないと思っています。当塾の講師は40〜50代の職長が多いのですが、この世代は教え方や若い世代への接し方がわからない人が多い。自分たちが若手の頃のように厳しくしてしまうと、すぐ辞められてしまいますからね。授業に参加して、教えることを学んでもらうことは職長の再教育という観点でも重要なのです。職人は体が資本ですから、年齢を重ねていった時に、同塾の授業を通した技能の伝承という形での再就職の道をつくれたらと考えています。

落合氏: 職長から学ぶことで、若手も育っていくと思うんです。人に教えられる職長に着いていけば、そこから学んで自然と教えられる職人が育ちます。だから、この職長の再教育の重要性は大きい。また、一人前のスキルを身につけるのは目安として10年くらいかかるので、同塾が設立してまだ5年でまだまだこれからですが、将来的には卒塾生が独立をすることも期待していますね。

しかし、講師の基準としている建設キャリアアップシステムにも、国の基準と現場ではズレが生じており、課題も多いという。国の基準では現場に入った日数がカウントされて資格などの一定基準を満たせば認定されていく仕組みになっているが、それが必ずしも技術力そのものを評価しているとは限らない。さらに、キャリアアップシステムの指針に含まれない業種に関しては評価が上がっていかないなど、このシステムだけでは全ての業種の職人を正しく評価しきれないというのが現状になっている。どのように各社の評価制度と連動させていくか、試行錯誤をしている最中だという。

業界イメージを払拭し、モデルケースとして全国に波及させたい

現在、累計の卒塾生は134名となり、多くの職人を輩出している同塾。今後、さらにこの取り組みを全国に波及させ、職人を育成して雇用を促進していくためにはどのようなことが必要だろうか。

岡村氏: 建設業は3K(「汚い」、「きつい」、「危険」)と自虐的になり過ぎなんです。例えば、野球選手のユニフォームが汚れるのはかっこよくて、職人の作業着が汚れるのは汚いというのはおかしな話で、あくまでイメージの問題だと思うんですよ。確かに危険は伴う仕事なので、業界を上げて取り組まなければならないことではありますが、職人はもっとかっこいい仕事であると、ブランド化させていくことが必要だと思います。

課題に挙げている危険への対策としては、現在3Dで施工体験ができる事故防止システムを開発中だ。ビスを打った時の圧やボードを持ち上げた時の重さもシミュレーションできるようになる。リアルな経験を組み込んだシミュレーションを体験してから現場に入ることで、事前に気をつけるべきポイントも把握でき、作業効率も向上させながら事故防止に繋げたい考えだ。

岡村氏: あとは、職人が安心して働ける環境をつくるために、建設業事業者は社会保険への加入を積極的に促進するべきだと思いますね。現状はお願いベースで動いてしまっていることで、抜け道が存在してしまっている状態です。今までの慣例を覆すことにはなりますが、事業者が投資しないといつまで経っても変わらないと思います。

また、同塾の取り組みは旗振り役となった岡村氏の情熱と、その想いに共感したさまざまな業界団体の結束により実現できたわけだが、こうした業界団体の垣根を越えた組織形成を他エリアに展開していくためには、どのような運営面の課題があるのだろうか。

岡村氏: 運営はあくまで民間企業が行なっていますが、かなりの労力が必要になります。費用面もわれわれで負担している部分も結構あります(カット)。相当な熱量がないとうまくいかないというのは課題だと思います。今後、地方を活性化させていくためにも、ハード面やソフト面の課題を解決してしっかりと環境を整えて、全国展開できるモデルケースになれたらと思っています。

このように、一人ひとりの塾生に寄り添いながら、職人としてのキャリアを長期的に見据えた支援を行うだけでなく、講師に起用するベテランの職長のキャリアアップにも繋げ、職人全体のスキルとキャリアアップを図る仕組みをつくり上げている同塾。各業界団体の垣根を越えた取り組みは、随所から職人への敬意が感じられた。今後、同塾は現状の課題と向き合い、職人育成と雇用促進のスキームを磨き上げ、職人不足が深刻化する建設業界にとって重要な役割を担うだろう。
番外編では、現役の職人としてご活躍されている同塾の卒塾生にインタビューを実施。入塾のきっかけや受講時印象的だったこと、現在の仕事にどのように活かされているのかについて、リアルな声をご紹介する。

職人育成塾/旧塩江小学校跡地

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一般社団法人 職人育成塾
http://www.shokuninjuku.com
〒761-1612
香川県高松市塩江町安原上東365
代表理事:岡村 真史
設立:2016年11月

取材・編集:平賀豊麻
ライター:金井さとこ