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東京大工塾のしくみと大工育成について学ぶ!工務店視察研修in岡庭建設&ハウステックス

イベントレポート

目次

  1. 岡庭建設の視察
  2. 東京大工塾の仕組みと独自CCUS
  3. 東京大工塾塾生との質疑応答
  4. ハウステックス視察と東京建築高等職業訓練校の見学

一般社団法人JBN・全国工務店協会大工育成委員会主催の「工務店視察研修in岡庭建設&ハウステックス」が、11月7、8日の両日開催されました。この研修の目的は、建築大工の育成と入職者確保について学ぶことです。今回は、賛助会員である当社も研修に参加しました。岡庭建設株式会社と株式会社ハウステックスを視察し、一般社団法人東京大工塾の大工育成への取り組みについて学んだ2日間の様子をご紹介します。

岡庭建設の視察

研修には全国から計74人が参加。参加者はA、B2つのグループに分かれて、それぞれ岡庭建設、ハウステックの現場を視察しました。

当社が属するBグループでは、岡庭建設が手がける住宅を見学させていただきました。移動中には、岡庭建設独自の職人制度に関する解説が行われ、参加者は評価制度の重要性について認識を深めました。同制度は、従来の「見て覚えろ」という指導を脱し、大工の成長を可視化することに特化しています。具体的な達成項目を重ねることで、若手が自分の成長段階と、それが給与にどのように反映されるかを可視化しています。

岡庭建設が手がける現場を見学する参加者の皆様

見学させていただいたのは、「ゼロエミ ガルテン YAGISAWA」(※1)と名付けられた分譲プロジェクトでした。「ゼロエミガルテン」の由来は、人にも地球環境にもやさしい東京都独自の住宅づくりの取り組み「東京ゼロエミ住宅」(※2)とガルテン(ドイツ語で庭)を組み合わせて生まれた名前です。農家地主からの依頼に基づき、施主側で電線の地中埋設に対応したことで、空が開けた美しい景色を味わえます。この現場には、岡庭建設の若手大工たちが実際に入り、切磋琢磨しながら家づくりを進めています。

(※1)ゼロエミ ガルテン YAGISAWA:https://okaniwa.jp/zeroed_garten/

(※2)「東京ゼロエミ住宅」とは、高い断熱性能の断熱材や窓を用いたり、省エネ性能の高い照明やエアコンなどを取り入れた、人にも地球環境にもやさしい都独自の住宅です。「ゼロエミ」とは「ゼロエミッション(ZERO EMISSION)」の略です。(参照:東京都・環境局https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/home/tokyo_zeroemission_house/gaiyou)

東京大工塾の塾生である岡庭建設の若手大工の方にインタビューをしたところ、まずキャリアアップシステムと社内での評価テーブルが明示されたことによって、ご自身のキャリアデザインを描きやすくなったというお話がありました。「どの資格をいつまでに取得しよう」「〇歳の時にはこの技能レベルになっておこう」など、具体的な目標を設定しやすくなったことで、将来の展望が可視化され、職務に専念できるという安心感につながっているとのことでした。また、18歳で大工の道に進むことで、高校の同級生が大学を卒業し新卒社会人になる頃には、技能レベルも向上し、給与も高い状態が作れる可能性があるという点についても、環境面で満足している大きな理由だと話されていました。その後、それぞれが家を見学し、建物の緻密さや木のぬくもりを感じました。

記事はこちら:https://one.andpad.jp/magazine/10573/

東京大工塾の仕組みと独自CCUS

建設業界にとって大工人口の急激な減少と高齢化は喫緊の課題です。

株式会社丸三ホクシン建設代表の首藤一弘さんは、この現状に対し、工務店は大手ハウスメーカーとは異なり、一棟一棟に対応できる「多能工的な大工の育成が使命」であることを強調されました。

担い手確保の現状と解決策について、首都圏建設産業ユニオン(※3)の清水致子さんは、2030年には建築大工が21万人にまで激減するという予測を提示。この原因は、労働環境、賃金、キャリアパスへの不安にあるとし、その克服にはCCUS(建設キャリアアップシステム)を基軸とした変革が不可欠だと語られました。若者が希望を持てる産業にするために、技能経験に応じた適切な処遇とキャリアパスの見える化が必要であり、それが「建設業の新3K(給与・休暇・希望)につなげていく」道であると提言されました。

(※3)首都圏建設産業ユニオンHP:https://www.kensetu-union.jp/

教育の現場からは、東京建築高等職業訓練校(※4)事務局長の蛭田悟詩さんが登壇。1958年から続く訓練校の歴史と、地域の大工育成における拠点としての役割を紹介されました。特に、次世代の担い手が若い状況において、JBNや東京大工塾との連携による指導者育成と、手道具での習得を基本的に目指して技能を伝承していくことの重要性を解説されました。

(※4)東京建築高等職業訓練校HP:https://tokyokenchiku.jp/

そして、大工人口の減少を具体的なシステムで乗り越えようと取り組まれているのが、東京大工塾(※5)です。東京大工塾は、若年大工数の増加と技術の継承を通じて、伝統木造建築の安定供給体制の構築を目的とした組織です。工務店による大工の社員化を始めとし、キャリアパスを明確にすることにより、大工職の魅力を世に広く周知する為の取り組みを行っています。大工人口の減少と高齢化という危機感から、2016年10月に設立されました。

(※5)伝統木造建築の安定供給体制の構築を推進する拠点。小規模工務店が抱える「若手を独力で育成できない」という共通の課題に対し、支援金を支給したうえで社員大工を育成している。雇用先の現場での実地訓練と、職業訓練校での体系的な基礎学習を組み合わせ、実践と理論の両面からプロの大工を育成しています。

国の建設キャリアアップシステム(CCUS)は、就業日数と資格に特化し、大工の「1棟できる」といった実務的な技術レベルが分かりづらいという課題がありました。また、CCUSの運用は、技能者が現場に入場・退場する際に、カードを現場に設置されたカードリーダーにかざし、就業履歴を記録することを基本としていますが、現場ではカードリーダーの設置が進まないことも普及の壁にもなっているようです。

これに対応するため、東京大工塾は「東京大工塾版キャリアアップシステム」を策定しました。プロジェクトリーダーを務める株式会社創建舎の吉田薫さんは、大工が辞めていく背景に、教育や報酬の仕組みがバラバラになっているという課題があると指摘。その解決策として、教育を「コストではなく、会社の資産である」と捉え、技能と報酬を連動させ、教える人が報われる仕組みを体系化しました。このシステムを通じて、大工が豊かに暮らせる職業として社会的な地位を向上させることを目指されています。東京大工塾版CCUSレベルの定義は、実務技能を反映させるため、評価シート(4段階評価)を用いて技能を判定します。

■東京大工塾の能力評価基準(暫定版)
レベル1:塾生大工技能者(仕事を知り、理解し、上司指導のもと作業を学ぶレベル)
・就業日数目安:0日〜
・賃金目安:300万円〜
・資格・講習等:丸のこ取扱教育、フルハーネス教育

レベル2:見習い大工技能者(指導を受けながら、基本的な作業を正確に行うことができるレベル)
・就業日数目安:430日〜
・賃金目安:350万円〜
・資格・講習等:足場組立て等作業従事者、玉掛け技術者、石綿特別教育

レベル3:標準大工技能士(木造在来工法の主要な工程を理解し、一人で一棟の施工を任せられるレベル)
・就業日数目安:1,075日
・賃金目安:500万円〜
・資格・講習等:2級大工技能士、木造物組立作業主任者

レベル4:上級大工技能士(現場全体の管理・指導ができる、職人の核となるレベル)
・就業日数目安:2,150日〜
・賃金目安:700万円〜
・資格・講習等:1級または2級大工技能士、職長・安全衛生責任者、木工加工機械主任

東京大工塾塾生との質疑応答

東京大工塾の制度説明の後には、東京大工塾塾生への質疑応答の時間が設けられ、参加者は、若い世代の大工との交流から、建設業の未来について考えました。中でも、多くの参加者が関心を寄せたのが、「大工を目指す若い世代を増やすには?」という喫緊の課題に関する質問です。

これに対し、塾生からは率直な意見が発表されました。具体的には、入社直後につらい作業の時期が長く続き、仕事の楽しさを知る前に辞めるケースが多いという現状に言及。その上で、マニュアルで何をすれば一人前になるかを明確にし、成長の喜びを早い段階で感じられるようにする「仕事の見える化」や、大工が主人公のドラマなど、メディアで職業の魅力を発信する「メディア展開」の必要性などが挙げられました。

さらに、塾生からは、同世代の仲間との繋がりの重要性についても、切実な声が上がりました。1社で大工を1名採用するのが精一杯という工務店も多く、それだけでは新しく入った大工の心細さを一社独力では拭い去れない現状があります。しかし、東京大工塾で学び合うことで得られる同期がいることの心強さ、同世代の大工と仲間として関係性を育むことは、建設業を志す大きな力となります。仲間と出会い交流を深めることで、もし大工の道を挫折しそうになったときでも、同期の存在が諦めることを抑止する効果がある、という話も共有されました。

ハウステックス視察と東京建築高等職業訓練校の見学

まず、ハウステックスの本社を視察させていただき、企業としての取り組みをご説明いただきました。

見学させていただいたハウステックスのショールーム

同社には、本社機能に併設された地域とのコミュニティスペースがあります。同社が掲げる「くらしのもと」という理念をかたちにした複合施設「くらもとBASE」(※6)です。人が集まり、時間を共有し、文化が育まれる場所、暮らしの出発点であり基盤となる空間を目指されています。社員や関係者が交流し、心休まる「くらもとカフェ」、そして映画も楽しめる「くらもとシネマ」のご紹介では、まず働く人が誇りを持ち、お客様や地域から愛される場を創出することが重要だと話されていました。

(※6)ハウステックスHP:https://www.housetecs.co.jp/base/

午後は、バスで移動し、東京建築高等職業訓練校を見学しました。訓練校では、1年生の四方転びの課題や、2年生の一級技能士の課題、そして和室の造作や差し金を用いた墨付けなど、徐々に、現場で継承の機会が減っている伝統技能を含む、実践的な訓練内容について詳しくお話を伺いました。

訓練校が提供する同期という存在の価値について、改めてその意義を教えていただきました。
同校事務局長の蛭田悟詩さんは「訓練校で出会う友達というのは、大事な友達だと訓練生が口々に言っています。同世代の仲間が、年齢・性別が違っても、同じ目的を共にする仲間として存在することの意義は、孤独に陥りがちな若手にとって、非常に大きいです」と話していました。訓練校は、技能を伝承する実務を通じて成長する環境であると同時に、若手大工の精神的なセーフティーネットとしても機能しており、建設産業の未来を担う大切な拠り所となっていることを肌で感じました。

本研修は、大工人口減少という危機に対し、東京大工塾が目指す正社員雇用と体系的な教育の仕組みを共有する場となりました。特に、実務技能を適切に評価する「東京大工塾版CCUS」の策定は、業界の構造的な課題を工務店が集団で乗り越えようとする先進的な取り組みです。塾生の経験からは、若手の定着には明確なキャリアパス、技能に見合った処遇、そして働く環境の改善が不可欠であることが改めて示されました。アンドパッドも、この課題解決に向けた歩みをともに進めてまいります。

一般社団法人 東京大工塾(株式会社タカキ 東京設計事務所内)
URLhttps://www.tokyo-daiku-jyuku.com/
代表者理事長 佐藤 義明(株式会社ハウステックス)
設立2016年
本社東京都東大和市中央1-1-5 3F
企画・取材: 平賀豊麻
取材・執筆・編集: 齋藤夏美
デザイン: 漆間健介
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