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岡山県岡山市に本社を置く株式会社ビズ・クリエイションは、住宅業界に特化した広告会社だ。プロモーション事業とクラウド事業の2つを事業の柱とし、来場集客ツール「KengakuCloud」は地場工務店を中心に全国で導入されている。
2025年4月、ANDPADとKengakuCloud、そして住宅・不動産業界に特化したマーケティングオートメーションツール「Digima」を加えた3システムの連携に向けた協議がスタートした。住宅会社の業務全体をカバーするワンプラットフォームサービスを構築し、集客、営業、工事、経営活動までを一気通貫で支援することで、営業成果の最大化に貢献することが狙いだ。
今回は、住宅業界で独自のポジションを確立する同社の歩みやミッションに焦点を当てたインタビューを実施。前編では創業の経緯や、住宅業界に特化した理由、KengakuCloud誕生のきっかけについて、株式会社ビズ・クリエイション 代表取締役 初谷さんに話をうかがった。
クラウド事業とプロモーション事業という2本の柱
株式会社ビズ・クリエイションは、2008年に岡山県で設立された、住宅業界に特化した広告会社だ。これまで、一括資料請求サイト「イエコレ」や、地域住宅会社情報誌「家。買う?」、地元工務店だけの住宅展示場「岡山工務店EXPO」などを手がけてきた。
日本の住宅業界における情報インフラを変えたいという想いから、2016年には住宅見学マッチングサービス「iemiru」を公開。2017年には住宅業界専用の来場集客ツール「KengakuCloud」をリリースした。iemiruには、KengakuCloud上で作成された住宅見学会等のイベント情報が集約されており、ユーザーは希望条件に沿ったイベント検索し、予約することができる。住宅会社や地域工務店が抱える集客の悩みを解決する仕組みだ。
さらに2024年には面談送客サービス「KengakuAgent」をリリース。妊娠・育児支援アプリで幅広い家族層の支持を得ている株式会社カラダノートと連携し、より住宅購入意欲の高い顧客と住宅会社をつなぐ取り組みを行ってきた。
初谷さん: 私たちは「思いと想いの媒介者」であり続けることを、ステートメントとして掲げています。企業が自社の成長を目指す「強い思い」と、ユーザーが自分の幸せを目指す「純粋な想い」の間に立つ。そして、そのどちらにも実りと感動をもたらしてこそ、本物のカスタマーサクセスが実現できると考えています。

株式会社ビズ・クリエイション 代表取締役 初谷 昌彦さん
同社の社員は全体で約35名。うち20名ほどがリモートワークで、北海道や沖縄、奄美大島など全国各地で社員が働いているという。事業の柱は、クラウド事業とプロモーション事業の2つだ。
特にプロモーション事業では、ディレクター、デザイナー、マーケティングスペシャリスト、ライターなどの専門のプロモーションチームが、イベント企画から集客のための広告運用までワンストップで支援。大規模イベント「家づくり大商談会」の開催など、全国で年間1,000社以上のプロモーション実績があり、住宅会社の集客活動を直接的にサポートしている。
集客のゴールを「新規来場」と定義し、イベント運営にこだわる
そもそも住宅業界における“集客”とは何か。SNS運用やリスティング広告など、集客の手段は多々あるが、同社は集客のゴールを「新規来場」だと定義する。顧客に完成見学会やモデルハウスへ足を運んでもらうことがゴールであり、足を運ぶ理由となるのが「イベント」だ。
初谷さん: かつて住宅業界の集客は、チラシやテレビCMといった「1対多」のマスマーケティングが主流でした。しかし現在は、一人ひとりの趣味嗜好に合わせた情報を提供する「1対1」のパーソナライズマーケティングが重要度を増しています。つまり、より多くの集客を得るには、より多くのイベント開催が重要になるわけです。イベントの数が増えれば、告知ページを迅速に公開し、適切に予約を管理することも求められます。
KengakuCloudのデータによれば、過去4年間で「相談会」の予約件数は23.8倍に増加。住宅購入について個別の相談を求めるお客様のニーズに応えるためにも、相談会の定期開催は有効な手段と言えるだろう。
また、「完成見学会」は他のイベントに比べて1件当たりの予約数が最も多く、顧客の高い関心が伺える。顧客に実際の物件を体感してもらうことで、購入意欲を高める効果も期待できる。
さらに、完成見学会で複数棟を同時に公開した場合、1イベントあたりの予約数は通常の倍以上に増加。複数の物件を比較できる機会は、顧客満足度を向上させる鍵となるようだ。
初谷さん: 完成見学会と相談会を併用するなど、イベントを戦略的に組み合わせることで新規来場者が増え、住宅購入までの道筋を描けるようになる。言わばイベント運営の成功が、工務店様の成長を左右する時代だと言えるでしょう。ビズ・クリエイションでも、目的別にイベントを使い分け、組み合わせて運営することを重視しています。
集客支援と来場後のフォローを兼ね備えた住宅見学予約クラウドツール「KengakuCloud」
KengakuCloudは、住宅会社の集客関連業務の全てをワンストップで完結でき、集客業務にかかる膨大な手間と費用を大幅に効率化する、住宅業界専用の来場集客ツールだ。導入企業は全国に広がりを見せ、累計予約件数は20万件以上に及ぶ。
KengakuCloudの特徴は、主に3つ。ひとつは、誰でも直感的にイベントページを作成できること。相談会や見学会など、さまざまなイベントタイプが用意され、フォーマットに従って入力するだけでページが完成する。スマートロックを活用した無人見学会や、入居中のオーナー宅がモデルハウスになる「OB邸見学会」なども作成可能だ。

イベントページ作成画面。プレビュー機能で作成中のページをリアルタイムに確認しながら、直感的にイベントページの作成・編集が可能。(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000053.000028770.html より画像引用)
初谷さん: 工務店の方々からは「すごく簡単」「ストレスがない」とよく言われますね。ITに慣れていない方でも一連の操作が迷いなく行われるように、見た目をシンプルにするなど、かなりこだわって設計をしているんです。
2025年5月には管理画面をフルリニューアルし、AIライティング機能を搭載しました。企画趣旨を入力するだけで、AIがイベントのタイトルや本文を作成します。たとえば想定されるお客様として、「○○エリアに住んでいる4人家族で、小学生と未就学児のお子さんが1人ずついる」といった内容をざっくり入力すれば、AIが情報を補完してペルソナを作るため、より集客につながるイベントページが作成可能です。

KengakuCloudの特徴の2つめは、作成したページをSNSやHPで簡単に告知できること。イベントページごとにURLが割り当てられるため、InstagramやFacebookなどのSNSからリンクが可能。SNS広告やリスティング広告の遷移先としても活用できる。さらに、管理画面から発行されるタグを自社ホームページのソースコードに貼り付ければ、自社ホームページ内にKengakuCloudを埋め込むことも可能だ。イベント情報が自動的に表示されるため、ホームページ更新の手間を省くことができる。
また、イベントページ作成と同時に、同社が運営する「iemiru」にも自動的に情報が掲載される。「iemiru」は日本最大級の住宅イベント掲載サイトであり、月間50~60万回のアクセスを誇る。「地方×イベント種別」でのSEO上位表示に強みがあり、検索によってイベントを見つけてもらいやすくなる。

「iemiru」公式サイト https://www.ie-miru.jp/
最後となる3つめの特徴は、住宅購入検討者の情報を一元管理できること。イベント予約や資料請求、お問合せなどで関わりがあったお客様の情報は、KengakuCloud上で一元管理が可能。イベント別や日程別の申込人数を簡単に把握できるなど、予約管理機能も備えている。

(画像左)予約枠の管理画面。時間ごとに受け入れ可能な枠数を設定し、オーバーワークを防ぐ。「対応不可」の時間帯も設定可能。/ (画像右)顧客管理ページ。予約されたお客様の情報を自動的にリスト化。Excelで顧客情報を管理する必要がなく、業務効率化につながる。(https://kengakucloud.jp/service/ より画像引用)
初谷さん: KengakuCloudには、パーソナライズマーケティングを実施するために必要な機能を揃えています。システムだけの支援に留まらず、多方面からの集客支援を通じて工務店様の集客予約を横断的にサポートする、「集客支援のシステム × 来場反響を作る実支援」の掛け算が私たちの強みです。
学生時代に起業を決意。住宅業界に特化した広告会社へシフト
初谷さんが起業を志したきっかけは、大学時代にまでさかのぼる。
初谷さん: 学生時代に広島カープが買収されるかもしれない、という話があったんです。私は地元が広島なので、「広島カープを買うのは広島出身の人であるべきだ!」と熱くなってしまって。球団を買収できるほどの経営者が広島から出ていないことの悔しさから、「それなら自分が起業しよう」と。大学を卒業したら3年で起業すると決めました。

当時アルバイトをしていた中華料理屋の大将の「岡山で成功したらどこでも成功できるぞ」という言葉を胸に、岡山での起業を目指した初谷さん。クリエイティブに関わる仕事が性分に合っていると感じ、大学卒業後は広告代理店に入社。その3年後、学生時代に決意した通り、25歳でビズ・クリエイションを起業する。起業当初は、用紙の裏面に広告を掲載することでコピー機を無料で利用できるサービス「タダコピ」を西日本で展開するなど、住宅業界とは異なる領域で事業展開をしていった。
初谷さん: 住宅業界に特化したのは、岡山の工務店様との出会いがきっかけです。だいぶ可愛がっていただき、1年ほどで「広告の仕事は全部初谷くんに任せるよ」と言ってもらえました。そのとき、社長が持っていたKPI管理表のExcelが、すごく勉強になったんです。媒体ごとに反響を細かく点数付けしたもので、この仕事で住宅マーケティングのノウハウが身に付きました。

初谷さんは「このノウハウは他の会社様にも応用できるのではないか」と感じ、住宅マーケティングの横展開を考えるようになったという。
初谷さん: 工務店様は地域に数多くありますが、そのほとんどが感覚に頼った販促戦略がなされていました。当時は数字で管理する考え方が浸透しておらず、あくまで担当者のさじ加減で販促が行われていたわけです。であれば、住宅業界に特化して、このマーケティングの知識を業界全体に横展開していこうと考えました。
「モデルハウスを建てる必要はあるのか?」岡山工務店EXPOでの気づき
住宅業界に特化したビズ・クリエイションは、一括資料請求サイト「イエコレ」の運営や、地域住宅会社情報誌「家。買う?」の発行などを通じて、岡山県内の住宅業界での認知度を向上させていく。ターニングポイントとなったのは、2014年に開催した地元工務店だけの住宅展示場「岡山工務店EXPO」だった。地元の工務店16社と、住宅関連企業37社が組合となって取り組んだ、画期的な取り組みだったという。
初谷さん: 当時、岡山県は大手ハウスメーカー様のシェアが全国で最も高く、逆に言うと地元の工務店様が最も“売れていない”エリアでした。理由はさまざま考えられますが、私たちは「住宅展示場」がひとつの要因だと捉えていました。
住宅建築を検討する方の90%が、検討初期に住宅展示場に足を運んでいるというデータがあります。しかし、展示するだけのモデルハウスに億単位の投資ができる会社様はそうありません。住宅展示場に出展するのは大手ハウスメーカー様のみであり、地域の工務店様はお客様と接点を持つことができないのです。

そこで岡山工務店EXPOでは、「分譲地を地元工務店の有志16社で分割購入してモデルハウスを建築」「展示期間は6カ月間、その後は建売住宅として売却」「広告負担金を全53社で負担し、半年間のみプロモーションに投下」とした。
このやり方であれば、モデルハウス建築にかかるコストは建売住宅の売却によって回収できる。期間を絞って効果的に販促活動をすることで、1社が負担する広告費も安価に抑えることも可能だ。そしてなにより、これまで住宅展示場に並ぶことがなかった、地元工務店が建てる家を見学してもらうことができる。
岡山工務店EXPOは、大手以外にも住宅会社の選択肢があることを、幅広く知ってもらうプロジェクトとなった。
初谷さん: フタを開けてみれば、6カ月間で5,100組が来場し、見学の回数は24,000回を記録しました。最初の土日は900組以上が訪れ、田んぼのあぜ道で車が渋滞を起こすほどでしたね。最終的に参加工務店様16社で合計200棟、約40億円分の受注という大きな成果を生み出しました。翌年にはエリア内で工務店シェアの増加も見られ、新たな選択肢の周知に貢献することもできました。

通常、広大な分譲地を開発・提供できるのは、いわゆる不動産デベロッパーだ。ただ、もし不動産デベロッパーが関与していたら、土地を販売することが優先されていただろう。分譲地としての見え方が強くなれば、住宅ではなく、その土地を買いたい人のみ訪れることになる。
一方、岡山工務店EXPOでは、工務店だけで土地を手配した。販売主体なしで取り組んだため、販売圧力が大きくなく、半年間「全く売らない展示場」として運営できたのだ。このことは、結果的に多くの来場者につながった。
しかし、この取り組みは「毎年やろうと思ってもできない」という課題を残すことになる。工務店のみで、広い土地にモデルハウスを建築することは、非常に再現性に乏しかったのだ。裏を返せば、岡山工務店EXPOはさまざまな好条件が重なることで成果が生まれた、奇跡的なプロジェクトだったと言えるだろう。

初谷さんは、岡山工務店EXPOの開催中、現地でお客様を眺めていて気づいたことがあったという。それは「そもそもモデルハウスを建てる必要はあるのか?」という疑問だった。
初谷さん: 日本には、工務店様が建てた家が約2,500万戸あります。それだけ家があるなら、既に建っている家を見学させてもらえばいい。そうすれば、モデルハウスも住宅展示場も不要になるのではないか、と気づいたんです。
そこから生まれたアイデアが、「エンドユーザー同士の住宅見学」だった。CtoCで、家への訪問を許可しあうプラットフォームがあればいい。この着想が、現在のKengakuCloudの開発へとつながっていく。
「予約してまで来るわけがない」住宅業界の常識を覆したKengakuCloud
エンドユーザー同士の住宅見学を実現するにあたり、初谷さんには解決すべき課題があった。それは住宅オーナーが見学者を受け入れるメリットを作ることだった。
初谷さん: 住宅オーナー様が何らかの報酬を得るとした場合、その報酬を誰が渡すのかが課題でした。「お金を払って住宅見学をする」という慣習はないため、見学者が報酬を払うのは現実的ではありません。そこで、最初からCtoCにするのではなく、住宅会社様が介在する形でビジネスモデルを考えることにしたのです。
初谷さんが考えたのは、住宅会社が仲立ちとなり、住宅オーナーと住宅検討ユーザー(見学者)をマッチングさせる仕組みだった。現在住んでいる家を見学することになるため、マッチングには「この日に見学に行く」という予約が必要になる。しかし当時は、住宅見学の予約は「ありえない」ことだったという。

初谷さん: 当時の住宅見学は、モデルハウスや見学会場にユーザー様が予約なしで訪れる形が一般的でした。業界的にも、チラシをまいて待っていればお客様が来るもの、という考え方が主流で、「予約までして来るわけがない」という感覚だったのです。
しかし、Webで予約をして訪問する流れは、他業界では当たり前のこと。マッチングの仕組みを成立させるには、「住宅見学を予約する」ことを常識にする必要があると考えました。
こうして、同社では住宅見学予約クラウドツール「KengakuCloud」の開発をスタート。2017年にリリースを迎える。岡山工務店EXPOの大成功が、モデルハウスの存在自体を疑うきっかけになり、「エンドユーザー同士の住宅見学」というアイデアを生んだ。その結果、住宅業界に「予約」の概念を持ち込むことにつながったのだ。
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住宅業界に新たな風を吹き込むサービスとなったKengakuCloud。しかし、KengakuCloudの利用を広げていく道のりは、決して平坦なものではなかった。その困難をどう乗り越え、KengakuCloudを軌道に乗せていったのか。ANDPAD・Digimaとの連携によって、どのような未来像を描いているのか。後編では、同社のこれまでとこれからについて、さらに詳しく伺っていく。
| URL | https://biz-creation.co.jp/ |
|---|---|
| 代表者 | 代表取締役 初谷昌彦 |
| 設立 | 2008年2月 |
| 本社 | 岡山県岡山市北区今3丁目16-5 |

















