本シリーズ「能登半島地震 復興とDX」では、ANDPADを活用しながら能登半島の公費解体に取り組んでいる解体事業者「株式会社宗重商店」と、全国から応援に駆けつけた協力解体会社の方々、そして被災者の方々へのインタビューを通して、現場の声を届けて復興とDXについて考えていく。
シリーズ最後の記事では、能登出身者の声を届けるとともに、アンドパッドとして今回の取材を通して感じたことを届ける。
慰労会に込めた、解体職人への感謝の気持ち
Vol.1でも紹介したが、能登の公費解体の完了目標は2025年10月末の予定だ。まだまだ被災地での解体関係者の闘いは続いている。石川県は、災害からおよそ1年のタイミング、2024年末時点での中間目標を定めており、解体見込み棟数32,410棟に対して、約38.4%である12,445棟の解体が完了していることを目標としていた。記事制作の11月のタイミングで進捗は34.0%であり、まだまだ倒壊した建物も残っていることから、さらなるペースアップが求められている。
そんななか宗重商店が担当する穴水地区は、11月末時点で44.1%と順調な推移を見せており、ブロック長の堀田さんは「目標の2025年10月より前倒して、8月末には終わらせたい」と話していた。
宗重商店は穴水町以外にも、2024年7月から志賀町、9月からは輪島市の応援にも参加しており、宗重商店の関係者と協力会社の職人たちは、解体工事が1日でも早く終わるように復興に身を捧げながら働いている。
アンドパッドの取材チームが能登に訪れた8月3日、穴水町の職人たちが宿泊しているベースキャンプ「ふるさと体験村 四季の丘」では、宗重商店の主催で慰労会が開かれていた。慰労会は、猛暑の中で骨身を惜しまず働く協力会社の職人たちに感謝の気持ちを伝えるために開かれたもので、参加は任意だったが8月段階で現場に入っているほぼすべての職人、200名を超える人たちが集まった。
慰労会での食事は、宗重商店の社員総出で準備。また、宗重商店の社員も参加しているフラダンスグループのダンス披露が行われるなどして会場は大いに盛り上がった。
宗重商店の宗守社長は集まった職人に対して、このように感謝の意を伝えた。
宗守さん: 穴水に来るたびに更地が増えていると体感しており、ANDPADで工事の終わった後の写真を見て、穴水の景色が変わっていっていることを感じています。順調に推移しているのも皆様の日々の努力のおかげです。改めて本当にありがとうございます。
会場の飲み物の提供は、「四季の丘」の「みんなのチカラ食堂」(※)を仕切っている新出さんが行っていた。新出さんは、能登出身者。自分が経営していたお店は被災して、営業停止を余儀なくされていた。
高校のときから、ボランティア同好会をつくり、阪神淡路大震災などのボランティアにも参加してきたという新出さん。能登半島地震では、発生直後の1月2日から朝昼晩炊き出しを行うなど、災害支援に尽力してきた。
慰労会のスタッフとして参加したベースには、解体工事を行う職人への感謝の気持ちがあったという。
新出さん: 宗守社長とは20代の頃からの知り合いで、地震があった後、「公費解体プロジェクトで食の部分で助けてくれないか」という連絡をいただきました。「みんなのチカラ食堂」のスタッフは10人いますが、被災していない人はいません。私も被災しています。
なので、いま食堂で朝晩の食事を提供していますが、復興に携わっている職人の人たちには本当に感謝しています。そして、今日もたくさんの人が集まりましたが、この人数の住環境を整えて、働きやすい環境を整えようとする宗守社長の心意気に本当に心を打たれますし、これから「食」の面で自分も協力したいと思っています。
竹澤さん: 多くのメディアでは、被災地の報道が減ってきているように感じます。けれど、レッスンで能登によく来ているのですが、実際はまだまだ復興の途中です。生徒の中には、「公費解体を申請しているけど、周りを見れば手つかずの物件ばかりで、まだまだ自分の番は回ってこなさそう」と話している人もいます。私自身、隣の七尾地域に住んでいますが、今日穴水に来てみて、更地になっている場所が多くて驚きました。
本当に、真剣に、皆さん身を粉にしながら、1日も早い復興のためにと、能登の被災者のことを思いながら働いてくださっている。すべては「人」なんだなと、ここに来てわかった気がします。
生徒の方から直に「職人さんが来てくれて助かっている」という話を聞いていたので、今日職人の皆さんに御礼を伝える場をいただけてうれしかったです。皆さんは、被災地のヒーローだと思っています。
解体は街づくりである
解体工事にどんなイメージがあるだろうか。被災者の方々とお話する機会が多い宗重商店の関係者や職人の方々の話や被災当事者の話を聞き見てきたのは、「壊す」ことは新しい創造に繋がることを意味していること。そして、解体が進み景色が変わっていくことが、街の希望になっているということが分かった。
堀田さん: 解体工事とは何か。私は「街づくり」だと思っています。解体は、新しい何かをつくるために「壊す」ことであり、解体工事がなければ次に進めません。解体をして新しい物を建てる、そのプロセスを通して自治体が潤い、街の生活者の暮らしが豊かになると考えています。解体工事の完了立ち会いで「ありがとうございました」と言われることがあるのですが、それが私たちのやりがいや活力につながっています。
ご年配の方の中には、ここから新しい家をもう一度建てるというのは現実的に難しい人もいると思います。ただ、住めなくなった家が解体されて更地になって、何もない状態になることで気持ちもリセットされて、何かしらの希望を持つ足がかりになっていただければ。前向きな気持ちになっていただければと思っています。
宗守さん: 能登って、自然にあふれた素晴らしい場所なんですよね。1日でも早く街が新しいスタートを切れるように、関係者全員で取り組んでいきたいと思っています。
また公費解体の2年間が終わった後も、「能登に営業所を残した方がいいかな」とも今は考えています。地元の人に「宗重でよかった」と思ってもらえるように、街の人々や県、自治体からの期待を超えられるような働きを、後半戦も続けていきます。全員で一致団結して、みんなのチカラで復興に取り組みますよ、我々は。
街の希望をつくる、ヒーローたちの挑戦はまだまだ続く。2025年10月末までの公費解体の終了を目指し、みんなのチカラを合わせて。
編集後記:アンドパッドが目指すもの
2024年6月上旬、ANDPAD AWARD 2023の授賞式にて。DXカンパニー部門の最優秀賞を受賞した宗重商店に「復興支援の取り組みと現状」の特別講演をしていただきました。それをきっかけに生まれたのが、今回の能登の取材です。公費解体の現状や、関係者がどのような思いでこの復興のプロジェクトに挑んでいるのか伺い、記事で伝えてきました。(ドキュメント動画もこちらで公開しています。)
同時に、お話を伺いながら、テック企業の立場として「復興とDXの可能性」について考えてきました。テクノロジーの力で、どのような支援ができるのだろうか、どういった部分に役に立てるだろうか、と。最後に、アンドパッドの取材チームという立場から、取材を通して感じたことを編集後記という形で記したいと思います。
アンドパッドは「幸せを築く人を、幸せに。」というミッションのもと、クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を提供しています。幸せを築く人たちを、テクノロジーの力で後押ししていき、慌ただしい現場のなかに、心のゆとりを生み出す。私たちは、ミッションにそのような思いを込めています。今回の取材を通して、取材チーム一同、改めて「幸せを築く人を、幸せに。」の意味や価値、可能性に力を感じる機会となりました。
能登での取材を通し感じたことは、DXは “点” ではなく “線” だということです。DXは、ツールを導入すれば(点の行動で)成し遂げられるものではありません。今回、宗重商店がANDPADを活用して、不確実性の高い公費解体のプロジェクトで着実な成果をあげているのは、同社が平時からDXを推し進め、文化醸成に取り組んできたからこそ。そうした日々の延長線上に、DXが価値を発揮している風景があるのだと思います。
公費解体の現場は危険も伴う。現場をいくつか回らせていただき、あり得ない角度で曲がった建物をいくつか見て、それを実感しました。また、通常の解体工事とは勝手が違う家屋を事故なく壊し、定められた2年という解体完了の目標に向けてスピードを伴いながら解体する必要があり、非常に難易度の高いミッションだと痛感しました。
さらに、宗重商店の現場では、被災者に寄り添った解体を行っています。工事の緊張性が高く、かつ慌ただしい現場の中でも、被災者の立場に立つことを忘れない。それは簡単なことではないです。だからこそ余計に、お話を伺った職人の皆さんから、ANDPADが日々の業務に役立っていると言っていただけたことを光栄に感じました。
毎日の報告業務や写真撮影、工事情報の正しい伝達。日々の業務を効率化したうえで、ミスのない工事を行いやすい環境を整え、現場の職人の心の余裕を生み出す。そういった部分に、ITの力で支援できることは、まだまだあるはず。
また今回の取材では、皆さんが口を揃えて「被災者のため」にという思いを語ってくれました。その思いがつながりながら、穴水では工事が進められています。そして、思いをデータでつなぐハブとしてANDPADがありました。
DXというと業務効率化の文脈が語られることが多いとは思いますが、データで人と人の思いの線を紡いでいくことも重要だと今回の取材で学びました。誰もがアクセスできるデータとして、情報が残っていく。そのデータを基に現場が動き、工事の進捗が被災地の希望につながっていく。何のためにDXを進める必要があるのか、という大きな問いに対する一つとして、人と人とをつなぎ、幸せづくりを行うことがあるのではないでしょうか。
インタビューで宗守さんは、「アンドパッドさんも大事なパートナー」と話してくださいました。ANDPADを導入しているパートナー企業のDX推進の支援を行い、そして働き手の心のゆとりをつくり、その先の幸せづくりをお手伝いする。改めて、DXの価値とアンドパッドが成すべきミッションを考えることができました。
取材に協力いただいた宗重商店の皆さま、そして忙しい現場の手を止めてお話をいただいた職人の方々、ベースキャンプのサポートに深く御礼申し上げます。
2024年8月2〜3日と、丸2日にわたって、能登半島の穴水地域で公費解体を進めている宗重商店さんと、その指揮下で公費解体を進める職人さんたちに各現場を回りながら話を伺ってきました。その様子をまとめ、ダイジェストでお伝えしたのが今回の「能登半島地震 復興とDX」シリーズです。
取材を通して感じたこと、それは「DXとは決して “ITツール” ではない」ということでした。
DXとは “変化” です。
その変化はITツールという手段だけでは起きません。もちろん「起きやすく」はなります。
建設DXを進めるうえで、重要なのは人であり、風土であるーーそのことを痛烈に体感しました。
また、私たちアンドパッドのミッションである「幸せを築く人を、幸せに。」について。
この言葉に込められた意味と、現場で起きていることとの関係性を感じずにはいられませんでした。
「幸せ」だった景色を、ある日突然地震によって奪われた被災者。
壊された景色を「解体」して、復興できる状態を「築く」解体職人。
密着取材を進める中で、ANDPADがなかったら、被災者に寄り添いながら、的確にいい仕事はできなかったと、言葉の程度の差はあれど職人の皆さまが一様にそう仰ってくださいました。
能登の穴水地域は、アンドパッドのミッションがひときわ輝いて体現されている場所です。
私がアンドパッドで働く意味が、そこにはありました。
1月1日のその日まで、大事に大事に住み継がれた大きな日本家屋や、家族の思い出が詰まった住宅。
すべてがひしゃげて潰れているわけではありません。
一見壊れていなさそうでも、基礎や構造体が曲がってしまっている住宅も多いです。
全壊、半壊と、構造物の機能を失った公費解体対象の瓦礫は、1月1日まで被災者一人ひとりの大事な日常の象徴でした。
解体が進まなければ地域の復興はありません。
解体は希望の入口です。
しかし壊されるのは大事な日常の象徴の家です。いざ自分の家が解体されるとなると、心配そうに、不安そうに、現場を見守る方が多いそうです。中には涙を流される方もいます。
そんな視線を受けながら、丁寧かつ迅速に重機を使って壊すオペレーター。
倒壊した自宅から大事なものを回収してほしいといったご要望もあります。
それらの内容を現地立ち会いした宗重商店の社員さんがANDPADに入力し、実際に工事に携わる現場の職人さんがそれを見てバトンをつなぎます。
家族の写真、遺影、位牌、バイク、帯など、思いが詰まった大事なもの。
避難所での生活には空間に限りがあります。どんなに思いの詰まったものであっても、代々受け継いできた一族の大切な品々であっても、すべてを持ち出すことはできません。
せめて、せめて、これだけはお願いしますと、痛切な思いが解体職人に向けて託されます。
ANDPADに記載されたその内容を、職人さんたちは皆、目にしています。
被災者の気持ちに寄り添いたい職人さんの気持ちとはうらはらに、技術をもって「壊していく」解体。
この背反する感覚を携えながら毎日毎日、危険と隣合わせで、娯楽もなく、働き通しています。
それでも、被災者のためにやるんだと、力強い言葉を発していました。
心身両面で過酷な環境で働く職人さんたちは、今日も公費解体の工事を続けています。
ご要望に沿いきれないこともあります。公費解体の目標は、あくまでも「解体」を進めていくこと。
瓦礫の中から大切な思い出の品を取り出すという行為は、あくまで努力目標であり、誠意です。
人の思いで成り立っている行いにほかなりません。
こうした仕事を見ているからこそ、地域住民の方たちは、解体職人の方々へ「ありがとう」とお礼を伝え、ちょっとしたサポートをしてくれる。被災して本当につらい状況にいるのにも関わらず、自分たちに感謝してくれる、そんな言葉を力に変えて、次の現場に向かう職人さんたち。
そこには、期待を超え合う連鎖がありました。
そうした仕事を日々続ける、全国から集まっている職人さんたち。
宗守さんの縁で能登の復興支援に駆けつけた方もいれば、過去の被災体験を通じて解体業に身を投じ、東日本や熊本といった震災被災地の復興経験をもって能登に入ってきた方々、さまざまいます。20代〜60代まで年齢もさまざま。外国人のチームもいます。
屈強で、いかつい。強面な印象で一見近寄りがたい彼らが、いい仕事を通じて、被災者から、希望をつくるヒーローとして尊敬と感謝の気持を集めています。
そこにANDPADが常にある。
それが穴水地域の公費解体の現場でした。
私たち取材チームも参加させていただいた慰労会は、事前の出欠では120名の予定が当日まさかの200名以上の参加。ほぼ全班全職人が参加する、総勢250名の大懇親会となりました。
200名を超える、復興解体の最前線で働く職人さんたちで埋め尽くされた廃校の体育館。
全員が毎日ANDPADを使うユーザー。
耳を澄ますと、ANDPADという言葉も頻繁に飛び交っていました。
慰労会は、そんな場でした。
過度な表現や「感動のためのストーリー」は作りたくはないという気持ちを常日頃から抱え、リアルを届けることをモットーにしている自分が、あえて言いますが、間違いなく彼らはヒーローだと思います。
そんな「幸せを築く人たち」の間で、「ANDPAD」が共通言語として浸透している様を見て、心底震えました。
改めて、「幸せを築く人を、幸せに。」の意味や価値を、そして可能性と力を感じました。
被災現場でANDPADを使った彼らが、「あのとき俺達はANDPADを使ったんだぜ」と、後に誇れるようなアンドパッドでありたいと強く思っています。
改めて、宗重商店の皆様、応援で全国から駆けつけた協力会社の皆さまへ、深くお礼を届けたいです。
密着取材の機会をいただけたこと、忙しい中で手を止めてお話を伺わせていただけたこと、そして過酷な現場でもANDPADをお使いいただいていること、本当に感謝が堪えません。
宗守社長、瀬戸さん、忙しいなかでコーディネートしてくださり、また同じくパートナーとして仲間として迎えてくださり本当にありがとうございました。
結びに、2024年9月に能登を襲った水害。追い打ちをかけるような発災に胸を痛めております。
道は険しくとも、能登半島の復興は必ず実現されると信じています。
本特集記事を読んでくださった方が、少しでも石川能登の地で奮闘している方々に関心をお持ちいただけたら、そして、また美しい能登が戻って来る未来へ大きな期待をお寄せいただけたらと、切に願っております。
私たちアンドパッドは、石川と能登の復興を応援しています。
みんなのチカラで!
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代表者 | 代表取締役 宗守重泰 |
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