2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」から、一年。石川県内で被害を受けた住宅は約93,000棟に上り、今も多くの人が避難生活を余儀なくされている。
本シリーズ「能登半島地震 復興とDX」では、ANDPADを活用しながら能登半島の公費解体に取り組んでいる解体事業者「株式会社宗重商店」と、全国から応援に駆けつけた協力解体会社の職人、そして被災者の方々へ行ったインタビューを通して、復興とDXについて考えていく。
Vol.1では、復興の第一歩となる「公費解体」について制度の解説を行うとともに、今回の能登半島地震における公費解体がどのような計画で進んでいるのか紹介する。復興を妨げているものとは。そして、現場では何が起こったのかデータとともに見ていく。
公費解体制度の概要
地震の発生により倒壊した建物は、誰が費用を払って撤去しているのか、気になる人も多いのではないだろうか。今回の能登半島地震のように「特定非常災害(※1)」に指定された大きな災害の場合は、公費解体制度を実施するケースが多い。公費解体では、自治体が所有者に代わって費用を負担して解体事業者へ依頼し、建物の解体・撤去を行う。
被災した住宅を解体・撤去し、更地に戻すには多くの費用がかかるため、個人で負担するのは厳しい。とはいえ、倒壊し、もう利用できなくなった建物を放置したままでは復興も進まず、二次災害の危険も伴う。公費解体制度は所有者に代わり解体費用を自治体が負担することで、いち早く人々の日常を取り戻すための支援制度なのだ。
本シリーズで取材に協力いただいた宗重商店も、公費解体の対象となる現場を毎日100件(2024年12月現在)以上動かし、被災地の迅速な復旧のため解体作業に真っ向から取り組んでいる。
また、一部の地域では公費解体以外にも「自費解体費用償還制度(自費解体)」も進められている。公費解体とは補助の形式が違い、自費解体は所有者が費用を立て替えた後に払い戻しを受けることが特徴だ。能登半島地震による倒壊家屋については、国内の災害で初めて、公費と自費の両輪で解体を進める方針をとっている。
公費解体の流れと災害対応の難しさ
公費解体は費用が国や自治体負担になるため、住民にとっては費用負担が発生しないというメリットがある一方で、デメリットもある。それは手続きの煩雑さと、解体までに時間がかかることだ。特に発災から半年間は、多くのメディアで復興の遅れを度々指摘されたが、その要因のひとつには制度活用の複雑さがある。
まず、公費解体を申請するために、所有者は申請に必要な書類を準備しなければならない。その一つが「罹災証明書」だ。罹災証明書とは、住家が被災した場合に、その被害の程度を市町村が証明するもので、各種支援制度を利用するために必要となる。所有者からの申請で自治体の職員等が被害状況を調査し、確認した事実に基づき発行される。この罹災証明書の用意が一つのハードルとなっていた。
過去の大規模災害でも課題となっていたが、今回の能登半島地震のケースも同様で、1月末の段階で石川県全体の申請数に対する交付は約20%にとどまり(※2)、2月26日時点でも64%という状況だった(※3)。棟数の多さや、通信の遮断・道路の不通など、さまざまな要因で市町によって交付状況にも差が出た。ただでさえ、自治体も人員が不足する災害時。住宅の被害程度を測る調査は、複雑かつ高度であり職員への負担が大きいという指摘もされている。
※2 参照:「令和6年能登半島地震 復旧・復興支援本部(第1回) 議事次第」P5、https://www.bousai.go.jp/updates/r60101notojishin/pdf/r60101notojishin_hukkyuhonbu01.pdf
※3 参照:「松村内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和6年3月1日」https://www.cao.go.jp/minister/2309_y_matsumura/kaiken/20240305kaiken.html
さらに他にもハードルがあり、公費解体の申請には「所有者の同意書の取得」が必要になってくる。住宅の所有者が亡くなっている場合は、相続する権利がある人全員の同意が必要で、同意を得るためにそれぞれから「戸籍謄本」と「実印を押した同意書」さらに「印鑑証明」を送ってもらう必要があった。解体を進めようにも、申請段階でつまずくというケースが一定存在していた(※4)。
次に申請が受理された後の流れについて、まずは行政が委託した補償コンサルタントによる公費解体の申請内容及び現地調査が行われる。その後、申請者・補償コンサルタント・解体事業者で「三者立会」を実施して、公費解体の準備を進めていく。
三者立会では、解体する建物の確認や解体方法、公費解体で壊す範囲や家屋内に残置された家財の扱いなどについて話し合う。2024年8月時点で、環境省は復旧の遅れについて、三者立会の日程調整等に時間を要していることにも課題があると分析しており、1日に対応可能な三者立会の数を増やすなど、円滑化・効率化を促進している(※5)。
※5 参照:「令和6年能登半島地震を踏まえた公費解体の取組と課題について」環境省https://www.bousai.go.jp/jishin/noto/taisaku_wg_02/pdf/siryo4_2_5.pdf
その後の流れは、解体事業者により建物の解体が行われて、最後に申請者と完了立会を実施。公費解体申請後は、危険度の高い家屋から解体が行われたり、解体事業者の手配の関係で、解体完了までの期間はまちまちである。特に、公費解体が始まった4月は作業を行う職人の宿泊地が不足しており、解体班数の確保にも苦戦した。
ここまで、公費解体の制度概要と流れ、それぞれの課題感を説明してきた。次に、能登半島地震における公費解体のプロジェクトが、どのような計画で進められているのか紹介する。
能登半島地震の被害の実態
以下の資料は、非常災害対策本部が発表している能登半島地震における被害の概要だ(2024年11月26日14:00現在)。
今回の能登半島地震が特徴的だった点は、元日に発生したことだ。少子高齢化と人口減少に悩む奥能登でも、帰省者が集まり「人口」が一時的に増える、そんなタイミングで災害が起きた。
住家被害は、石川県内で全壊 6,069棟、半壊 18,260棟に及び、避難者数は最大 34,000人超。亡くなった人のなかには帰省者が多く含まれている。
また、インフラの被害も甚大だった。道路、上下水道施設を中心に甚大な被害が発生し、金沢方面から能登半島に繋がる国道や高速道路も陥没が多数発生。特に1~3月は、アクセスルートが限られるなかで、交通インフラが被害を受けたことで、物資の運搬や動員も制限された。また、輪島市と珠洲市の一部地域では断水が5月まで続いた。
さらに、2024年9月21日から23日にかけて石川県能登半島では、同地域における観測史上最大クラスの豪雨が発生。土砂崩れや仮設材の流出・破損などが生じ、解体重機が流されるなど、復興にも大きな影響を及ぼしている。
能登半島における公費解体の計画
このような、地理的な困難を抱えながら、能登半島地震における公費解体は進められている。計画では、推計32,410棟の建物の解体を2025年の10月末までに、つまり震災から1年9カ月で解体工事を完了させる目標を立てている。
2024年2月に策定した「石川県災害廃棄物処理実行計画」では、推計解体棟数は22,499 棟だったため、当初予定より4割以上棟数が増えており、現在公費解体を加速させるために関係者で多くの取り組みがなされている。
11月時点で、能登半島全体で1,211班の解体班が稼働している。解体工事を請け負う事業者や現場で働く職人達は、公費解体の目標を達成するためにどんな課題を抱えており、どんな思いで現場に入っているか、現場のリアルな声は、本シリーズのVol.2以降で紹介していく。
能登半島における公費解体の体制
~全国で初めて専門工事業者の団体が一括で受注~
最後に、今回の公費解体の体制について紹介する。ここからは、石川県構造物解体協会の副会長の立場として、株式会社宗重商店 代表取締役の宗守さんにも話を伺った。
今回の解体工事は、石川県から「石川県構造物解体協会」が一括受注して、各正会員(解体事業者)に発注している。そして各正会員が工事班を確保し、各担当エリアの解体工事を統括している。
構造物解体協会が、能登半島の公費解体を一括で請け負うようになった経緯について、宗守さんは県から打診があり慎重に協会内で協議を重ねたと話す。
宗守さん: 協会は県と「災害時における建築物等の解体・撤去等に関する協定」を結んでいるため、震災が起きた翌日すぐに、県の震災担当の部署から事務局に連絡がありました。そして、県庁で集まり、「公費解体は2万3千棟ほど予定している」ことや、今後の計画について話し合いがされました。
その時に、県からは「2025年10月までに、解体工事を終わらせてほしい」ことが伝えられ、「その条件のうえ、協会で一括受託することができますか? できませんか?」と、選択肢が与えられました。
宗守さん: 棟数が多いなか、スピード感が求められるもので、今までに経験したことのないような難しいプロジェクトだと感じました。何度も協会の役員会で協議を重ねましたが、被災者のいち早い生活再建のためにも2025年10月末までに工事を終わらせると約束し、協会で一括受託したのが経緯です。
専門工事業者の団体が元請けとして一括で請け負うモデルは全国でも初めてなので、我々の働きが今後の災害復旧のマニュアルや体制づくりにも影響を与えるはずです。解体棟数の推計は32,410棟と、当初計画よりも増えてはいるんですが、それでも約束した2025年10月末までに終わらせるように、協会や正会員の業者が一丸となって業務に励んでいます。
本記事では、能登半島地震における公費解体プロジェクトの全体像と復興に伴う困難性について、データを引用しながら紹介してきた。Vol.2では、構造物解体協会の正会員として穴水町の解体工事を担当している宗重商店が、震災が起きた1月1日からどのように対応し、解体工事を進めているのか。最前線で闘う事業者の声を届ける。
URL | https://munejyu-kaitai.com/ |
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代表者 | 代表取締役 宗守重泰 |
創業 | 1939年 |
本社 | 石川県金沢市畝田西1-112 |