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誉建設|100年先も変わらない“想い”を込めて——徳島に根ざした工務店が描く持続可能な地域とは〜Vo.3〜

人を活かし、地域を繋ぐ。“クリエイティブな経営”の真髄を聞く

徳島県徳島市国府町を拠点に、新築住宅事業、リフォーム宅事業、インテリア事業を展開する株式会社誉建設。同社は、地域工務店として「地域に生かされ、必要とされる企業」であり続けるために、「家づくり」「人づくり」「森づくり」「暮らしの質づくり」を主軸に、さまざまな事業・社会活動に取り組んでいる。

Vo.1では、鎌田さんが取り組んできた「人づくり」に、Vo.2では、地域産材の活用によって林業の活性化や地域防災につなげていく「森づくり」にフォーカスして紹介してきた。Vo.3では、同社の事業や取り組みを振り返りつつ、鎌田さんがどんな想いで事業をつくり、人を育てているのか、生の声をお届けしていく。

鎌田 晃輔 氏
株式会社誉建設 代表取締役
1976年徳島県生まれ。大学卒業後、誉建設に入社。2011年、同社代表取締役就任。職人不足や地域産業の低迷などの課題解決を通じて地域工務店としての地方創生に挑んでいる。誉建設の事業指針「ホマレノ森プロジェクト」として、「家づくり」「人づくり」「森づくり」「暮らしの質づくり」という4つの基本コンセプトを事業の主軸に据えて、地域循環型の建築事業を具現化しようとしている。(一社)もりまちレジリエンスという組織も創設し、地域産材を活用する仕組みを他の工務店と共有することなども検討している。

INDEX

 

社員の自己実現と企業理念の実現を重ね合わせられる組織

──鎌田さんは、BCPの策定、地域産材の活用、それにともなうサプライチェーンの構築、大工の社員化など、さまざまな取り組みを手がけていらっしゃいます。一見すると関わりがないような活動にも見えますが、そのすべてが「地域のため・人の幸せのため」を軸につながっていると感じました。

鎌田さん: 基本的には自分のやりたいことをやっているだけなんです。私のように「地域を盛り上げたい」「地域の自然を守りたい」といった想いを持つ人はたくさんいると思うのですが、それを仕事として実現できる環境に身を置ける人は実際は少ないかもしれないですね。「自分のやりたいことを一緒にやりたいと思ってくれる人」「その人自身のやりたいことと当社の事業方針が重なっている人」が周りにいて、その仲間の輪を少しずつ育てていっているから、やりたいことを実現できているのだと思います。

──お話しいただいたなかには利益を度外視した取り組みもありましたよね。これほど新しいことに取り組まれていながら、会社組織として持続的に運営できている点も素晴らしいと思います。

鎌田さん: 当社に関わる社員や協力会社さんにとって、きちんと売上が上がり、利益が生まれるのは大事なことです。徳島県では、年収500万円〜600万円の収入を得て、世帯年収1,000万円を得られればそれなりの暮らしができますし、当社でもその年収レベルは実現できます。ただ、もっと収入を上げたい、数字を上げることが何より楽しいという人は別の会社に行った方が目標を叶えられると思います。「地域で必要とされている」と実感できたときのやりがいは、お金では比較できないほど大きなものだと考えていますから。

株式会社誉建設 代表取締役 鎌田晃輔氏

──木工が大好きな社員大工さんの力を活かすために、新しい家具ブランドを立ち上げられたお話も印象的でした。社員の方々が「自分が必要とされている」と感じられる環境づくりにも力を入れているんですね。

鎌田さん: そうですね。それで言うと、ES(employee satisfaction)サポート室も、ある社員の個性を活かすために設立した部署です。ESサポート室は、写真管理や納品・請求のチェックなど、現場で働く人たちが面倒だと感じる事務や庶務を全般的に担ってくれています。現場監督や大工は“雑用”だと捉えがちな仕事ではありますが、その仕事がどれだけ丁寧にできているかで仕事の質は大きく変わります。ですから、その仕事を担うメンバーが「自分は大事な仕事をしているんだ」と思えるような部署名をつけたいと思って、ESサポート室と名づけました。

──事業方針の実現に向けて、社員を増やしていく計画は立てているのでしょうか?

鎌田さん: 正直に言うと、明確な採用計画は立てていません。これから加わっていく事業方針もあると思いますので、新しくやりたいことができたときに仲間を探していくことになると思います。むやみに人を増やすのではなく、私たちがやりたいことと日常の仕事をどう絡めていくか、社員の自己実現と会社のビジョンの実現をどのように重ねていくかをマネジメントするのが私の役割だと感じています。

 

地域の関係者を巻き込みながら事業をデザインする

──「徳島県産材・四国産材の構造材100%使用」を実現していることもすごいと思います。林業者、製材所、流通など、さまざまな人たちとの関係構築が重要だと思いますが、なぜ実現できたのでしょうか?

鎌田さん: 利益を生むためのビジネスという意識ではなく、自分が“やりたいこと”として取り組んだから、周囲の理解が得られたのかもしれません。自分たちの町を自分たちで守るため、地域工務店として何ができるかを考えた上での目標だったので、絶対に成し遂げたいと思っていました。

プレカット会社にとって、必要な時に必要なサイズの材木が手に入る大手製材木材商社は、在庫を持つ必要がないので合理的です。その点、地域産材は、林業者や製材所、工務店がお互いにリスクを背負い合わなければならないですし、手間もかかります。それでも、地域産材の活用は、故郷の森を守り、町を守ることにつながるのですから、かかった手間以上の価値があると考えています。

──地域のコミュニティに深く関わりながら、相手のメリットになることをきちんと考えて仲間を集めていらっしゃるんですね。

鎌田さん: やりたいことを思いついたときには、「この内容ならあの人に話を聞きに行ってみよう」とパッと顔が浮かびます。「この話は一緒に進めたら喜んでもらえそう」とタイミングを見計らって声をかけたり、「この人とこの人を結び付けたら話が進みそう」と戦略的に人と人をつないだりもしています。地域のなかでの相関関係や立ち位置は、常に意識していますね。

鎌田さんは、新たな取り組みや事業を考えるとき、マインドマップで思考を整理する。

ANDPADで理念の浸透を図り、地域循環型の社会をつくりたい 

──2023年からANDPADの施工管理、引合粗利管理及び受発注を、別の工務店向けシステムからお切り替えしてご利用いただいています。ANDPADの使用感はいかがでしょうか?

鎌田さん: 単純に画面が見やすいですし、情報を送ったり、更新したりしたときに動きが出るのがおもしろいですね。同じ入力作業をしていたとしても、五感をくするぐような操作感があるほうが楽しく仕事ができます。「ユーザーがどのように感じるか」を先回りして考えて、さまざまな機能を開発してくれていると感じますね。開発に携わるエンジニアの方々も多くいると聞いていたので、改善要望にもスピーディーに対応してくれるのではないかと期待しています。

──ANDPADの活用によって、どんなことを実現したいとお考えですか?

鎌田さん: 実務を効率的にしていくのはもちろんですが、協力会社さんや職人さんに対して私たちの想いをしっかりと伝えられるツールに育てていきたいですね。誉建設に家づくりをご依頼いただくお客様にとっては、現場に入る人はすべて“誉建設の人”です。たとえ社員でなくとも、私たちの考えとのズレがないように、ANDPADにはさまざまな情報や想いを集約して、協力会社さんたちとも共有していきたいです。

──最後に、今後どのように事業を展開されていくか、鎌田さんのビジョンを教えてください。

鎌田さん: 2024年で45期を迎えますが、50期に向けて組織編成を見直し、社員から役員を登用したいと考えています。意欲のある社員が現場だけでキャリアを終えてしまうのはもったいないので、事業を長く続けていくためにも一緒に経営に向き合える仲間を育てていきたいと思います。

取り組むプロジェクトとしては、資源やエネルギー、産業、人、食などが地域で循環していくような町づくりをしてみたいですね。小さな分譲住宅地を既存コミュニティの中に開発して、人や産業が双方向で行き来できるような関係性をつくり、徐々に地域循環型の社会を広げていけたらと考えています。

鎌田さん: 売上や利益を追求して、多くの税金を納めていくビジネスもひとつの社会貢献だとは思います。でも、その税金の使い道を私たちは知ることができません。地域の「より良い」ものではなく、海外の「より安い」ものを使って上げた利益は、果たして適正に社会に還元されるのでしょうか。それよりも私は、地域の環境や資源を最大限活用し、地域に利益を直接還元できるような事業がしたい。お金では換算できない利益を大切にしながら、より良い未来をつくっていきたいと考えています。経営者としては失格だと言われてしまうかもしれません。それでも、私はそんな生き様を自分の子どもたちに見せていきたいですし、自分の想いを貫いた上でしっかり利益を生む、かっこいい経営者を目指していきたいです。

鎌田さんを囲んで。左から、アンドパッド 平賀、鎌田さん、アンドパッド 村岡

故郷の豊かな自然を守り、災害に強い町をつくるため、地域産材を100%使用した住宅を建てる。木の魅力を最大限に引き出し、さまざまなものを創り出せる社員大工を育てる。故郷の木が住宅や家具へと変わっていく物語を伝え、関わる人たちにスポットライトをあてる——鎌田さんが力を入れているのは、どれも地域の「誉」を大切に守り、人が自分の「誉」を大切に育てていけるような取り組みばかりだ。だから、自然と共感を呼び、仲間が集まり、応援団ができあがっていく。

持続可能な地域をつくるために同社が構築したビジネスモデルは、地域密着型の工務店が生き残っていくための戦略のひとつと言えるだろう。得手・不得手ある多様な人材が地域で寄り合い、ヒト・モノ・カネを地域で循環させて、より良い未来をつくる。そんな地域循環共生圏の創造を目指す同社のチャレンジに、今後も注目していきたい。

鎌田様、この度はインタビューにご協力いただきまして誠にありがとうございました! 鎌田様のお考えや思い、貴社の家づくりに対する思いを改めて知ること、感じることができ、私にとってとても貴重な機会となりました。

2023年の年始に初めてお会いし、早いものでもう1年。「とてもクリエイティブで新しいことにどんどん挑戦される方だな」「関わる人のことをとても大事にされていらっしゃる方だな」と感じたことを今も覚えています。鎌田様のお人柄に惹かれたことはもちろんですが、何よりもお施主様、社員の皆様、地域の方々にとって「よりよくしたい」という思いを感じました。微力でも、私も何か貢献できないかという思いは、当時も、今も変わりありません。
そして社員の皆様とのお打合せ、ご相談をさせていただく中でも、皆様が鎌田様と同じく、お施主様に対して、また社内の他のメンバー皆様に対して、日々向き合っていらっしゃることを肌で感じ、より一層、貴社の力になりたいと思っております。

ANDPADの効果はこれから、という段階ではあると思いますが、今回のインタビューを通して、これから貴社の事業に貢献させていただけるのではないかと感じております。今後も担当一同、貴社のお役に立てるよう尽力させていただきたく思っておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

株式会社誉建設
URL https://homare-web.com/
代表取締役鎌田 晃輔
創業1979年
本社〒779-3125 徳島市国府町早淵154番地の4
取材・編集:平賀豊麻
編集:原澤香織
執筆:保科美里
デザイン:森山人美、安里和幸
顧客担当:
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