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誉建設|100年先も変わらない“想い”を込めて——徳島に根ざした工務店が描く持続可能な地域とは〜Vo.2~

故郷の自然を守り、安心して暮らせる町をつくるために

徳島県徳島市国府町を拠点に、新築住宅事業、リフォーム住宅事業、インテリア事業を展開する株式会社誉建設。同社は、地域工務店として「地域に生かされ、必要とされる企業」であり続けるために、「家づくり」「人づくり」「森づくり」「暮らしの質づくり」を主軸に、さまざまな事業・社会活動に取り組んでいる。

今回は、地域社会の持続性を追求してビジネスモデルを構築し続けている、同社の代表取締役を務める鎌田晃輔さんにインタビューを実施。地域工務店の二代目として、鎌田さんが大切にしているのは「違和感から逃げないこと」だという。Vo.l1では、建築業界の「人」にまつわる違和感を解消するためにスタートした「大工の社員化」や「社員の個性を活かした事業の創造」について詳しく紹介した。Vo.l2では、「故郷の豊かな自然を未来を生きる子どもに残せないのはおかしい」という強い想いから、地域防災や「森づくり」に取り組む鎌田さんの活動にフォーカスして紹介していく。

鎌田 晃輔 氏
株式会社誉建設 代表取締役
1976年徳島県生まれ。大学卒業後、誉建設に入社。2011年、同社代表取締役就任。職人不足や地域産業の低迷などの課題解決を通じて地域工務店としての地方創生に挑んでいる。誉建設の事業指針「ホマレノ森プロジェクト」として、「家づくり」「人づくり」「森づくり」「暮らしの質づくり」という4つの基本コンセプトを事業の主軸に据えて、地域循環型の建築事業を具現化しようとしている。(一社)もりまちレジリエンスという組織も創設し、地域産材を活用する仕組みを他の工務店と共有することなども検討している。

INDEX

 

東日本大震災をきっかけに地域防災の活動に参加

鎌田さんは、約8年前から自らが住む徳島市国府町の自主防災組織の活動に参加している。自主防災組織は、「自分たちの地域は自分たちで守る」という意識のもと、自治会や町内会などの単位で結成し、お互いに協力しながら防災活動に取り組む組織だ。

平常時は、防災知識の普及や防災訓練の実施などに努め、大規模災害発生時には、災害情報の収集・住民への伝達、避難誘導、救護活動、炊き出しなどを行う。自然災害が頻発する日本にとって重要な組織ではあるが、なぜ鎌田さんは自主防災組織への参加を決めたのだろうか。

鎌田さん: 自主防災組織に参加するきっかけになったのは、東日本大震災です。当社は、2002年にはSE構法の登録施工店となり、耐震性が高く、安心・安全な家づくりに取り組んできました。しかし、東日本大震災で倒壊した建物が津波に流される様子を目の当たりにして、自然の前では人間はあまりにも無力だと痛感したんです。

同じころ本社から離れた鳴門市でモデルハウスを建築していたこともあって、「家族と離れた場所で災害に見舞われたら」と不安が募りました。これは私だけではなく、それぞれの現場で作業をしている社員も同じ不安を抱えるだろうと考え、何か対策を講じなければと思ったのです。

株式会社誉建設 代表取締役 鎌田晃輔氏

「自分に何かできることはないか」と調べはじめた鎌田さんは、まず「防災士」の資格を取得した。そうすると、「防災士」有資格者のなかで年齢の若い鎌田さんに、「国府町の自主防災組織を統括する連合会を結成したいので事務局をやってくれないか」と徳島市の危機管理課から声がかかったという。

鎌田さん: 東日本大震災を通じて、地域のなかで助け合える関係性をつくることが大事だと身に染みて感じたので、二つ返事で事務局の活動を引き受けました。国府町の自主防災組織は当時25拠点あり、その連合会である「国府地区自主防災連合会」には、すでに2,500世帯が加入していました。ただ、町内会に入っていない若い世代や単身者などを含めると国府町に居住しているのは実際は5,000世帯にものぼります。そこで、未加入の地域住民の安全も確保できるように、町内会単位ではなく、小学校区域の居住者・事業者へと対象範囲を広げ、いざというときに全員を守れる組織へと変えていきました。

鎌田さん: 災害発生時には、従業員やその家族の生命を守ることを第一に動きながら、地域の工務店としていち早く事業を再開し、地域の復旧活動にあたらなければならないと考えています。そこで、当社ではBCP(事業継続計画)を策定し、定期的に訓練や研修を行って社員の対応力や判断力向上を図っています。

また、東日本大震災を契機に発足した一般社団法人 全国木造建設事業協会(以下:全木協)にも所属しています。全木協は徳島県と「災害時における応急仮設木造住宅建設に関する協定」を締結しており、災害発生時には全木協に加盟している工務店が木造の応急仮設住宅建設に取り組みます。いざというときに、徳島県内に木造仮設住宅を組織的に供給できるように体制を整えているんです。


災害に強い町をつくるため、地域の仲間と山を守る活動を開始

自然災害に対する危機感を、自主防災組織での活動や地域工務店としてのBCP策定へと広げていった鎌田さん。2022年には、安⼼して豊かに暮らせる町を未来につないでいくために、健康な森づくり・町づくりに取り組む「一般社団法人もりまちレジリエンス」を立ち上げた。

鎌田さんが国府町商工会の仲間と結成した「もりまちレジリエンス」では、山林の手入れをしたい人の相談も受け付けている。伐採する機械の貸し出し、運搬、付加価値のある商品づくりのサポートまで担い、林業の活性化を促している。右の写真は、もりまちレジリエンスの理事3名と、個人で活動する木こりさん。


「もりまちレジリエンス」の創設メンバーは、鎌田さんと、電気通信設備保守のための伐採を行っている⼤久保林産業株式会社(徳島市国府町)の代表・⼤久保仁史さん、クレーンなどの建設重機を扱う有限会社井⾙重機(徳島市国府町)の社⻑・井⾙新吾さんだ。

同じ地域に生まれ育ち、商工会の仲間でもあった3人は、地域の防災活動に参加するなかで、町を流れる鮎喰川の上流域にある神山町の森を守ることが、安心して暮らせる町づくりのキーポイントになると考えたという。

鎌田さん: 私たちが住む徳島市国府町には、一級河川の鮎喰川が流れています。子どものころはよく鮎喰川で泳いだものですが、今は砂利が堆積して川の底が上がり、植物がうっそうと茂っていて、子どもたちが泳ぐのが難しい川になってしまいました。ただ、普段は干上がったような状態なのに、集中豪雨のときには川に一気に水が流れ込み、いつ決壊してもおかしくないような状況になってしまうんです。

調べてみたところ、鮎喰川の上流域にある手入れの行き届かなくなった森に問題の根っこがあるとわかりました。徳島県はもともとは林業がさかんな地域ですが、戦後から林業者が減り続けて木が伐採されなくなり、森林が整備されなくなってきています。間伐が適切に行われれば、地表近くまで太陽の光が届いて根や幹の成長が促進されますし、草木も生えて、土壌から水を吸い上げる力が強くなります。この「山の保水力」の低下が、土砂災害や洪水被害の発生確率を高めているのです。

同社の加工場の外には、山から切り出された木材が並ぶ。

鎌田さん: 今は徳島駅前の道路や花壇にも草が生い茂り、荒れてしまっています。自分たちが愛してきた地域の自然や景色を子どもに受け継いでいけないのはおかしい、このままではいけないと強く思いました。そこで、自分たちが本業で培った経験や専門知識を活かして、山を守る仕組みをつくれないかと考えて「もりまちレジリエンス」を立ち上げました。

「もりまちレジリエンス」は、徳島県神⼭町を拠点に、⼿⼊れが滞っている⼭の間伐や切り出した木の運搬、製材加⼯までの流れを協働で⾏い、⽊材の新たな利⽤価値の創造を目指す団体だ。重機やクレーンを提供して間伐をサポートしながら、地域の林業家や製材所ともタッグを組んで木材の流通にも関わっていく。また、神山の杉や林業の魅力を発信するイベントや防災訓練にも参加して活動の幅を広げながら、地域での存在感を高めている。

 

独自のサプライチェーンを構築し、地域産材の使用率100%を達成

地域産材の積極的な活用によって森や山を守っていく「もりまちレジリエンス」の活動は、同社の新築住宅事業から派生した取り組みと言える。同社は、事業指針「ホマレノ森」において、「県産・四国産の構造材の使用率を2020年度までに100%を目指す」と掲げて事業に取り組んできた。同社はこの目標を達成し、現在も地域産材の使用率100%を維持しながら新築住宅を建て続けている。

鎌田さん: 以前使用していた構造材は、プレカット会社から仕入れていた大手商社などからの輸入木材が中心でした。プレカット会社に「地域産材を扱えないか」と相談してみましたが、必要なときに必要なサイズが手に入る輸入木材のほうが扱いやすいようで、良い答えは得られませんでした。それでも、林業の活性化や災害対策を考えれば、地域産材を積極的に使用したほうが絶対にいいと考えていたので、現在の仕入れ先である阿波林材さん(徳島県三好市)に協力をお願いしたんです。

地域産材への切り替えを進めてみて分かったのは、木材を乾燥させる時間を確保することが大事だということでした。地域産材を高品質な構造材へと加工するためには、十分に時間をかけて木を乾燥させなければなりません。当初は阿波林材さんだけでなく他の製材所からも地域材の仕入れを行っていたのですが、やはり木材の品質が安定しないことが課題でした。そんなときに阿波林材さんが「私たちが木材をストックしておいて、十分に乾燥してから供給する体制を整えます」と提案してくださったんです。そこで仕入れ先を阿波林材さんに完全に切り替えました。

阿波林材さんにしてみれば、「すべての発注が自社に来るはずがない」と半信半疑だったかもしれませんが、当社は阿波林材さんに1年間継続して発注をしました。この実績が信頼となり、現在は阿波林材さんが当社用の地域産材を常時500立米ほどストックしてくれています。

また、鎌田さんは「地域産材のストックは、BCPの観点で考えてもメリットが大きい」とも話す。

鎌田さん: 工務店が事業を継続するためには、木材は必要不可欠なもの。不測の事態が起きて木材が輸入できなくなってしまったら、すぐに事業が立ちいかなくなるでしょう。その点、私たちが扱っているのは身近な地域産材ですから流通の心配は必要ありません。当社はすでに1年半以上は事業が継続できる木材もストックしています。コロナ禍前から木材のストックをはじめていたので、ウッドショックの影響も受けることなく、価格据え置きでお客様にご提供できました。



現在は、阿波林材が徳島中央森林組合を通じて、神山町の木を中心に仕入れ、ストックしているという。ただ、最初は森林組合から仕入れを断られたそうだ。鎌田さんはどのようにして仕入れを実現したのだろうか。

鎌田さん: 神山町は、私の父の出身地で縁のある町です。また、地域防災の観点でも、私が住む町の上流域にある神山の木はぜひ仕入れたいと考えていました。しかし、森林組合からは「計画伐採をしているから、供給先も伐採量も決まっている。そのため、誉建設のために少しの数を出すというのは難しい」と言われてしまいました。

困って地域の仲間に相談したところ、その仲間の会社が木の伐採を担当してくれることになったんです。ほかの製材所や林業者さんにも協力を頼み、自分たちで木を伐採して運び、製材加工できる体制を整えました。この体制が現在の「もりまちレジリエンス」の取り組みにつながっています。

鎌田さんが力を入れる地域防災や「森づくり」には、「故郷の自然豊かな風景、地域に残る伝統を未来のこどもたちにつないでいきたい」といった強い想いが込められている。その想いに共感した人たちが続々と鎌田さんの周りに集まり、新しい事業やコミュニティが生まれている。

地域のプレイヤーを巻き込んだ地域産材の新たなサプライチェーンは、鎌田さんが「安心して暮らせる町をつくるため」に現状を変えるチャレンジを続けてきたからこそ実現できたことだ。地域防災を切り口に地域社会の持続可能性を追求してきた結果が、「誉建設」という地域工務店の存在意義にもつながっている。

ただし、これは決して「鎌田さんがすごい、鎌田さんだからできた」というストーリーでは終わらない。地域の工務店経営者は、等しく“地域の課題を解決するヒーローとなる可能性”を秘めているはずだ。鎌田さんが違和感と向き合い地域課題の解決に向けて取り組んでいったストーリーは、同じように違和感から逃げずに真正面から取り組みさえすれば、地域工務店の経営者一人ひとり(今これを読んでいるあなた)が、紡ぐことのできるストーリーであるはずだ。鎌田さんのお話からはそんなことを、大きな尊敬と期待を込めて感じた。

続くVo.3では、鎌田さんがどんな想いで工務店経営に取り組んでいるのか、さらに掘り下げていく。

株式会社誉建設
URLhttps://homare-web.com/
代表取締役 鎌田 晃輔
創業1979年
本社〒779-3125 徳島市国府町早淵154番地の4
取材・編集:平賀豊麻
編集:原澤香織
執筆:保科美里
デザイン:森山人美、安里和幸
顧客担当: 



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