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全国各県の中核地方ゼネコン約70社で組織され、次世代の建設業を学ぶ「一般社団法人 新・建設業 地方創生研究会」。アンドパッドも賛助会員として活動に参加する同研究会主催のもと、2026年7月14日(火)、PPP事例視察ツアーが開催された。
今回の視察先は、兵庫県神戸市にある「NATURE STUDIO」だ。141年の歴史を持ち、2015年に廃校となった神戸市立湊山小学校の跡地を活用し、2022年に誕生したコミュニティ型複合施設である。
本記事では、事業主体である株式会社村上工務店の代表取締役社長であり、当日は自らガイドを務めていただいた村上豪英さんのお話をもとに、本プロジェクトの立ち上げの経緯や事業スキーム、そして建設業がまちづくりにどのように関わっていくべきかのヒントを探る。

PPP事例視察ツアーの様子。
141年の歴史を紡ぐ。廃校跡地を「自然と暮らす地域」の拠点へ
「NATURE STUDIO」が位置するエリアは、平清盛ゆかりの地であり、開港直後には多くの人口流入があった「明治のニュータウン」である。戦災や震災の被害が抑制的であったために、現在でも木造密集住宅地が残っている。しかし、主要駅からあまり遠くないものの、アクセスはバス便に依存しており、目的地となる施設に乏しく、エリアイメージが希薄になっているという課題を抱えていた。

平清盛ゆかりの「雪見御所跡」を、史跡として敷地の一角に残す。
2015年に湊山小学校が廃校となり、2019年に神戸市役所によるサウンディング調査およびコンペを経て、村上工務店が跡地利活用事業者として選定された。村上さんは、「他社は建物をすべて解体し、ドラッグストアなどにする予定だったと噂に聞いています。しかし私たちは、地域社会で学校が担っていたアイデンティティなどの役割を引き継ぐことに大きな意義があると考えました」と語る。
そこで掲げたビジョンが、「自然と暮らす地域をつくる」である。エリアの将来像として、空き地や空き家を活用して緑ゆたかな住宅地になる未来を設定し、旧湊山小学校の跡地を活用して、肩肘張らずに自然と暮らす、持続可能な地域をつくることを目指した。
敷地内には、かつての校庭を活用した「エディブルガーデン」が広がり、ハーブショップやレストラン、さらには保育施設や小規模の介護施設などが集まっている。施設の随所に旧校舎のフローリングや家具がリユースされており、地域の記憶を大切にしながら新たな価値を生み出している。


HERB SHOP
異例の「水族館」と「ブルワリー」による集客エンジン
NATURE STUDIOの最大の特徴は、廃校跡地に「水族館」と「ブルワリー」という、異色の施設が併設されている点だ。

みなとやま水族館
当初はヘルスケア関連施設と子育て支援施設を軸とした複合施設を検討していたが、エリアの将来像と合致する集客機能として、体育館棟1階を活用した水族館の設置を検討することになった。
村上さんは、「地域の人に受け入れられるためには介護施設や地域のコミュニケーションの場が大事だと考えていました。しかし、結局人が少なくなって学校も立ち行かなくなった場所なので、強力な『集客のエンジン』がないとうまくいかないと考え、たどり着いたのが水族館だったんです」と振り返る。

水族館に併設されているFISH PONDではニジマス釣り体験ができる。釣ったニジマスは施設内のオープンカフェでフライにして食べることもできる。施設内での回遊性や滞在時間を高める工夫だ。
民間事業者が600平方メートル程度の小規模水族館を運営する例は少なく、運営の引き受け手が見つからなかったため、村上工務店が直営で運営することになったという。しかし、これが大きな成功を収める。「みなとやま水族館」は、大型水族館のように巨大な魚やイルカがいるわけではないが、「生きものと語ろう」をコンセプトに、水槽に極限まで近づいて小さな生き物をじっくり観察できる没入体験を提供している。靴を脱いでクッションに座りながら鑑賞できるエリアもあり、年間約12万人を集客する強力なエンジンとして施設全体を牽引している。

じっくり魚の生態を観察することができる空間づくりを目指し、水槽の周りにはクッションや椅子が設置されている。
一方のブルワリー「open air 湊山醸造所」は、元給食室だった場所をリノベーションして作られた。地上階の日陰で目立たない場所であったため、食品の生産に最適だと考えたという。村上さんは「いつかビールの会社をしたいという夢があった」と明かす。ビール醸造所は平日の経済効果を担保するための生産機能として検討されたが、結果として「私の小学校で今ビールを作っている」といった大人になった同校の卒業生の声に象徴されるように、地域の誇りや愛着を高めることにもつながっている。

視察ツアー参加者に向けて熱心にブルワリーの立ち上げに関して説明される村上さん。

「open air 湊山醸造所」で作られたクラフトビールは、フードホールのエントランスに構えるビアカウンターやタップルーム「open air 神戸元町店」で楽しむことができる。


NATURE STUDIOのフロアマップ
民間主導のPPP事業スキームと資金調達のリアル
NATURE STUDIOは、行政からの指定管理料などに依存しない、民間主導のPPP(公民連携)事業の先進的なモデルである。
事業スキームとしては、神戸市との間で15年間の定期借地権(1回延長可能性あり、15年間)を結んでいる。建物のうち、校舎棟と体育館棟は有償譲渡を受け、新築棟を含めて事業会社である村上工務店が所有している。
事業費は約15億円で、そのうち建築工事費が約10億円を占める。資金調達は全額市中銀行からの借り入れで行っており、行政からの直接的な補助金はない(事業再構築補助金は一部活用)。
「15年の定期借地権で多額の投資をし、銀行からお金を借りるのは非常に難しかった。異業種へのチャレンジとなる水族館運営に難色を示す金融機関も多かったが、水族館がなければ全体が回らないと考え、諦めずに交渉しました」と村上さんは資金調達当時を振り返り語られた。
また、施設全体の運営やプレイスメイキング(※)を担っているのが、有限会社リバーワークスである。この会社は村上さんが個人的に創業した会社であり、村上工務店とは資本関係がない。リバーワークスは、ハーブショップの運営やガーデンの管理を行うとともに、施設内外の人や企業をつなぎ、コミュニティを育む結節点としての役割を果たしている。

写真右:村上工務店の「75周年記念誌」(発行:村上工務店 広報委員会、編集:リバーワークス)。写真左(上から):奥兵庫図鑑(編集:リバーワークス)、NATURE STUDIOのリーフレット(発行:村上工務店)、フリーペーパー「SOCIAL BIOTOPE」(編集:リバーワークス)。
地域に循環を生み出す、ソーシャルビオトープとしての役割
NATURE STUDIOは、単なる商業施設ではなく、地域の課題を解決し、新たな循環を生み出す拠点となることを目指している。村上氏はこの概念を「SOCIAL BIOTOPE(ソーシャルビオトープ)」と呼ぶ。ビオトープが生態系回復の拠点として機能するように、この施設も地域の人のつながりを再生する拠点として機能するという考え方だ。

経済的な波及効果として、観光需要による外貨獲得や、ビールやハーブのアロマスプレーなどの製造による生産機能、そして医療保険・介護保険などの保険収入を見込んでいる。テナントを含めると約100人規模の雇用(うち80人規模の新規雇用)を創出しており、施設内に学童保育を併設することで、働きやすい環境も整えられている。
環境面での循環も重視している。ビール醸造の際に出る副産物「麦芽カス」をコンポストで堆肥化し、敷地内のハーブ栽培に活用する循環を構築している(現在は休止中。今後再開予定)。
また、地域医療や福祉の場としての役割も大きい。新築棟には小規模多機能型居宅介護施設が入り、訪問医療・看護の拠点なども入居を予定している。障害を持つ方の就労支援として、ハーブショップや水族館での仕事などを創出し、施設内で経済が回る仕組みづくりに挑戦している。
さらに、施設周辺の木造密集住宅地の防災性を高めるため、神戸市役所や神戸大学と連携し、まちづくり協議会の立ち上げに向けたワークショップを継続的に開催している。

建設業がまちづくりにコミットし、自ら事業を創り出す意義
最後に、一地方の建設会社である村上工務店が、なぜこれほどまでにリスクを取り、複雑なPPP事業に挑戦するのか。そこには、建設業界が抱える構造的な課題への危機感と、経営トップの強い信念があった。

「建設会社は、いくら本業で頑張っても最後は価格競争になってしまう。この競争から抜け出すためにはどうすればいいか、ずっと考えていた」と村上さんは明かす。
そんな中、過去の震災の経験などから「まちのために自分ができることをやろう」と決意し、神戸市内の公園「東遊園地」での社会実験(URBAN PICNIC)などを通じて、場づくりのノウハウを蓄積してきた。
「こうした事業を社内で理解してもらうのは、簡単ではありませんでした。NATURE STUDIOのプロジェクトの中でも、社内的な賛同を集めにくかった部分はいろいろありましたが、会社の将来像まで含めて考える責任者は自分しかいないと考え、覚悟をもって決断しました」と、トップとしての覚悟を語る。
その結果、NATURE STUDIOの取り組みは全国から注目を集め、今では多くの視察者が訪れるようになった。「PPPの分野で自分たちは一歩も二歩も先を行っている。今では、他の案件でも『村上工務店は水族館も公園もやっている、ちょっと違う会社だ』と評価されるようになった」という。
さらに、こうしたまちづくりへの取り組みは、採用活動にも良い影響を与えている。「まちづくりや社会課題を解決するプロジェクトに、自分も関わりたい」という志を持つ優秀な人材が集まるようになってきているのだ。
「本当に心から地域のことを考えて、これが必要だと思ってやっていれば、必ず助けてくれる人が現れる」。村上さんのこの言葉は、建設業が単なる「ハコモノをつくる産業」から、「まちの未来をともにつくり、育てる産業」へと進化するための大きなヒントとなるだろう。

廃校となった小学校を、地域の記憶を残しながら「自然と暮らす」コミュニティ拠点へと生まれ変わらせた「NATURE STUDIO」。水族館やブルワリーというユニークな集客機能を持ちながら、行政の補助金に頼らず民間主導で事業を成立させている点は、全国のPPP事業という枠を超えた、地域と建設会社の共創共存のモデルケースと言える。
ハードをつくる建設業の力と、ソフトを育むプレイスメイキングの力を掛け合わせることで、地域に新たな価値と循環を生み出す。村上工務店の挑戦は、地方創生における建設業の新たな可能性を力強く示していた。















