目次
本シリーズ「能登半島地震 復興とDX」では、ANDPADを活用しながら能登半島の公費解体に取り組んでいる解体事業者「株式会社宗重商店」と、全国から応援に駆けつけた協力解体会社の方々、そして被災者の方々へのインタビューを通して、現場の声を届けて復興とDXについて考えていく。
Vol.2では、宗重商店 代表取締役の宗守さんに、公費解体プロジェクト全体の振り返りと公費解体にかける想いについて伺った。本記事では、公費解体に携わる宗重商店の各キーパーソンへ実施したインタビューを届ける。いつもの解体工事と公費解体の違いや、実務者の目線での公費解体について、また災害におけるANDPADの価値について意見を伺った。
ブロック長の仕事とは。全てが手探りの中で始まった公費解体
宗重商店がブロック長を担当する穴水地区での推定解体棟数は約2,500棟。この棟数を、2025年10月までに完全に解体することを目標に、さらに1日でも早い完了を目指して動いている。
Vol.1、Vol.2で紹介してきたが穴水地区の公費解体の進捗は順調に推移しており、穴水では2025年10月の目標を前倒しして8月末までに終わらせる予定だ(※1)。
※1 石川県・環境省の発表資料「公費解体の加速化に向けた対応方針」より(令和6年6月22日)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/haitai/documents/r060722_kasokuka.pdf
そんな穴水町のブロック長を務めるのが、宗重商店の堀田さんである。ブロック長として、主に以下の業務を担当している。
堀田さんは、宗重商店の工事請負が決まってすぐのタイミング、2024年3月に穴水町に現場入りした。「品質安全管理課」の仕事で、行政との折衝の経験が豊富だった堀田さん。公費解体は行政とのやり取りも多く複雑な現場指揮が予想されることから、ブロック長に抜擢された。公共工事を専門に経験を積んできた堀田さんだったが「災害対応は初めてで、公費解体は何もかもが手探り。分からないことだらけだった」と、振り返る。
堀田さん: 穴水町では、公費解体が4月8日にスタートしたのですが、法律の問題や、書類の提出、工事の進め方など、公費解体については私たち宗重商店のメンバーも、役所の担当者も分からないことが多く、準備も戸惑いながら進めていました。環境省や県の資料で「公費解体のマニュアル」が用意されているんですが、記述は大枠のみで、判断は自治体に任されていたんです。
そんな暗中模索の状況だったが、少しでもスムーズに公費解体が進められるように、2月から経営管理室 室長の瀬戸さんと協力しながら協力会社の職人たちが泊まる宿泊地を探したり、地域を回りルートを確認したりして、土地勘を養った。
堀田さん: 最初にスタートした時は宗重商店の社員のチームを含めて、計3班で動いていました。そこから約半年の間で解体班も増えて、8月には穴水町だけで56班、月で100軒以上の物件の解体ができています(※11月時点では、穴水町は85班)。
どの現場に、どの班が入るか、その差配をするのもブロック長の仕事です。完了予定日と地図を合わせて見ながら、効率的に現場が回るように考えています。この辺りの地域は狭い道も多く重機の移動が大変なので、なるべく次の現場は近い場所に入ってもらうなど、工夫が必要です。
工事は、エリアごとに集中して行った方がもちろん効率は良い。しかし、隣接している家でも、公費解体の申請審査中や、三者立会が実施前など、状況はさまざまであり、効率重視で差配を行うことは簡単なことではない。また対象となる物件によって、解体工事の難易度も違い、解体班の経験も加味しなければいけない。そういった諸条件を考えながら堀田さんは、段取りを行っているようだ。
公費解体では膨大な書類の作成が必要
ブロック長の仕事は多岐に渡るが、堀田さんは1日の9割の時間を書類作成の時間にあてているという。民間の解体工事と公費解体とで比べると、提出書類の多さは段違い。公費解体は、作成する書類が非常に多い。
公費解体は、申請者に代わって市町村が解体費用を負担し、災害廃棄物の処理費用も公費でまかなう。自治体はしっかり解体が実施され、どのくらい廃棄物が発生したのか管理しなければならない。そのため、解体事業者には、細やかな廃材の分別と処理場への運搬記録を残すことが義務付けられているのだ。
穴水町の現場事務所には堀田さんを含めて5名の宗重商店の社員が常駐しているが、他の4人は主に三者立会の対応をしており、堀田さんは対自治体との業務に集中して取り組んでいる。取材で現場事務所を訪れた時もANDPADを活用しながら、書類対応を行っていた。
堀田さん: 公費解体では1件ごとに、マニフェスト(産業廃棄物管理票)や施工写真をまとめた台帳を作成して提出する必要があります。一つひとつファイリングしており、2025年10月には2,500件分のファイルが出来上がる予定です。
台帳の作成には、職人がANDPADで報告した写真を活用。公共工事に慣れていない班に対しては、上がってきた写真を見て「次回から、こういう風に撮って欲しい」とフィードバックをすることもあるが、基本的にみんな問題なくANDPADを使えていると堀田さんは話す。
また、産業廃棄物の運搬記録も、現地で職人がANDPAD黒板を使用して撮影・記録している。宗重商店が管轄している穴水町の現場をすべて合わせると、1日に4トントラック約500台の運搬があるそうだが、もちろん全て撮影していると堀田さん。膨大な写真の整理も、公費解体では欠かせない業務の一つであり、効率化が求められている分野なのだ。
三者立会の難しさと宗重商店の対応
穴水町の人口は6,927人(※ 「住民基本台帳」2024年11月30日時点)。公費解体では、8月の時点で全国から200人以上、11月時点では400人超の解体職人が集まっている。穴水町の人口に対して約3〜5%と、決して少なくない人数だ。住民が少しでも不安や不信を抱けば、品質高く、スピーディーに工事をすすめていくことに影を落とすことになる。堀田さんは、住民の方が安心して工事を見守っていただけるよう、意識して統制を図っているという。
堀田さん: 特に廃棄物の運搬は、トラブルになりやすい問題です。運搬中に廃材を落とさないように、積載方法や運転について気を付けるよう、注意喚起を行っています。ただ、どうしても隆起している箇所があり、スピードを落としても、がたつきがあります。そのため「積載物が落ちてしまったら、運転を止めて拾って欲しい」と、そして「自分達の班の物でなくても、木くずが落ちているのを見つけたら拾って欲しい」と皆さんにお願いしています。我々は、一つのチームなので。
解体工事は、重機を使って建物を取り壊すため、大きな騒音が発生する。解体中は粉塵も舞いやすい。協力会社の職人も配慮を重ねて工事を行っているが、最終的なトラブルの解決はブロック長の堀田さんが担っている。公費解体の申請者の方や、周辺住民の方とのコミュニケーションは重要なミッションだ。
堀田さん: どの仕事でも発生する問題かと思いますが、「言った、言わない」問題は避けられない課題です。基本は役所の方が対応するんですが、お金が絡む問題だったり、複雑なものは、私が説明やヒアリングに伺うこともあります。当社では関係者間で認識のズレをなるべく発生させないようにするためにも、工事前の三者立会で得た情報は、しっかりANDPAD上に記録するようにしています。
施行後のトラブルをなくすためには、「三者立会で話した内容を、職人にしっかり伝えることが非常に重要」と、宗重商店の瀬戸さんは話す。瀬戸さんは、宗重商店のDX推進者であり、公費解体のプロジェクト全体を見ている責任者の一人だ。三者立会では、どんな内容を話し合うのか。
瀬戸さん: 解体工事は、個人の財産処分に関する大変重要な工事であり、三者立会は工事範囲や対象物等を事前に確認する重要な打合せです。基本的な状況確認や、壊す範囲の相談・要望など、話し合う内容は多岐に渡ります。
まず必ず行っているのが、インフラの状態、電気・ガス・水道のチェックです。基本的には、申請者の方が電気ガス水道の供給を予め切ることになっているのですが、現状どうなっているのか我々の方でも確認します。他にも基本的な状況確認として、浄化槽の汲み取りが必要か、処理困難物があるかなどを確認していきます。
そういった状況確認を行ったうえで、工事範囲の話し合いを行います。重要なのは、公費で行うか、自費で行うかという点です。例えば、庭木、ブロック塀などは原則公費解体の対象外ですが、倒壊のおそれがあると認められる場合や、重機を入れるために撤去する必要がある場合は公費区分で工事を行うケースもあります。この立会で、何をどこまで壊すのか、補償コンサルタントと申請者の方としっかり認識をそろえます。
他にも、家財が残っていたら申請者の方と話し合うことがあります。
「壊した後に境界の区分が分からなくなるのもダメなので、どこまで壊すのかという話はシビアなんですよ」と、現地で境界の側溝やブロックを指しながら、立会で話す内容について説明してくれた瀬戸さん。確かに、堀田さんの話すように、「言った、言わない」問題が発生しやすいことも納得だ。
瀬戸さん: 宗重商店では2人1組のチームを組み、三者立会に参加しています。最初は1人で参加していたのですが、補償コンサルタントの方や被災者の方と話しながら、同時に写真を撮って、メモを取るのは難しいなと。そのため今は、1人が打ち合わせをして、もう1人がANDPADで写真を撮りANDPADの案件概要に議事録をひたすら残す体制にしています。
「とにかく、話したこと全てをANDPADに残しなさい」と、三者立会を行う宗重の社員には伝えています。ANDPADに記載された情報を見て、協力会社の職人たちは迷わず作業できるし、後々のトラブルも回避できるからです。
バックオフィスからも、公費解体プロジェクトをサポート
祖父が能登出身の堂平さんは、瀬戸さんと同じく経営管理室に所属し、金沢の本社から公費解体を支えている社員だ。
堂平さん: 現場立会が決まったら自治体からリストが届くのですが、そのタイミングで私がANDPADに案件をつくり、穴水チームの社員が立会の情報を残せるよう前準備をしています。
金沢の本社で勤務する社員と、能登半島の現場事務所で働く社員。場所を問わず、複数人で施工に関する情報を管理できることは、ANDPADの大きな特徴である。
堂平さん: 今は、新規入場者のための準備や、着工日や完工予定日などの案件のステータスを調整、アスベスト調査の報告書作りを行っています。アスベストの報告は、目視か、定量分析をかけたかで、対象物件の算定金額は変わってきます。当社からの報告書がなければ自治体も工事の発注を出せないので、行政への情報共有はスピード感を持って対応しています。
現在は、ブロック長の堀田さんなど穴水チームと連携しながら、協力会社への発信を堂平さんが行うことがある。
堂平さん: 発信する文章の中身や言い回しは、悩みながら作っています。発信内容は、行政からの指導やお願いごとが多いのですが、一方的な文章で職人の皆さんのモチベーションを下げないように、気を遣っています。もちろん元請けの立場で強く言うのは簡単ですが、私としても発災現場の最前線で働いてきたわけではないので、「公費解体の現場のことを分かっていない」と思われないように……ニュアンスはちょっと難しいんですが、そういうことは考えます。
県からの注意事項は全市町村共通で届くので、他地域で頻発するトラブルの通達も、堀田さん、堂平さんのもとに届く。穴水の職人からすると「他地域の注意通達」という見られ方をするかもしれないが、穴水で同様のトラブルが発生し近隣住民に迷惑をかけないように、他地域の情報も含めて注意喚起は継続的に行わなければならない。このコミュニケーションの塩梅について「ようやく慣れてきましたね」と堂平さんは笑顔で答えた。
協力会社への支払い管理の難しさ、元請けの責務
最後に、バックオフィスの業務として重要な請求業務についても伺った。宗重商店では「働く環境やお金の支払いで、協力会社のモチベーションを下げたくない」という思いから、工事が完了した月の末締め、翌月払いに設定している。
環境省からは「元請から下請に対しては、工事完了後、おおよそ2ヶ月以内に支払いを行うなど滞りなく事業者にお金が流れるよう」(※2)としているが、宗重商店では最短30日ほどで支払うようにしているそうだ。
※2「公費解体の課題と取組状況について」環境省https://www.pref.ishikawa.lg.jp/haitai/documents/r060722_kasokuka_sankou.pdf
瀬戸さん: 工事完了はANDPADの完了報告を見て、その日付を持って請求起算日としています。公費解体の費用は、自治体からまず構造物解体協会に支払いがあり、そこから各元請け会社に支払われ、事業者にお支払いをするというフローになっています。なので、タイムラグが生じているのは事実で、本社の方では資金繰りも気にしないといけない。そのため、ANDPADで「今月どのくらい締まるのか」を追えるのは非常に助かっています。
取材時(2024年8月)に宗重商店の宗守社長へ話を伺ったところ、「4月など、早めにスタートした工事に対する、自治体から我々への支払が遅れており、キャッシュをコントロールするのがなかなか大変」と話していた。キャッシュインするタイミングを待ってから協力会社に支払うのではなく、自社が決めたルールでパートナーである協力会社に支払いを行っている同社。動かす解体班数や、解体工事の数が多いだけに、支払いに対する業務も複雑だが、信念を持ってやり切っている。
公費解体においては「進捗度」が注目されることが多いが、公費解体に携わる異なる立場の人から話を聞くと、多様な観点で葛藤や難しい点が見えてくる。ハードルとなっている部分は制度の問題も大きく、会社単位でできることは限られている。しかし、1社の取り組みで起こせる変化もある。続くVol.4では、宗重商店が平時より進めてきたDX(デジタルトランスフォーメーション)が、今回の公費解体でどのような影響を与えているか、考えていく。
URL | https://munejyu-kaitai.com/ |
---|---|
代表者 | 代表取締役 宗守重泰 |
創業 | 1939年 |
本社 | 石川県金沢市畝田西1-112 |