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宗重商店|能登半島における解体工事の現状〜Vol.1〜

公費解体とは? 何が被災地の復興を妨げるのか

目次

  1. 公費解体制度の概要
  2. 公費解体の流れと災害対応の難しさ
  3. 能登半島地震の被害の実態
  4. 能登半島における公費解体の計画
  5. 能登半島における公費解体の体制~全国で初めて専門工事業者の団体が一括で受注~

2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」から、一年。石川県内で被害を受けた住宅は約93,000棟に上り、今も多くの人が避難生活を余儀なくされている。

本シリーズ「能登半島地震 復興とDX」では、ANDPADを活用しながら能登半島の公費解体に取り組んでいる解体事業者「株式会社宗重商店」と、全国から応援に駆けつけた協力解体会社の職人、そして被災者の方々へ行ったインタビューを通して、復興とDXについて考えていく。

Vol.1では、復興の第一歩となる「公費解体」について制度の解説を行うとともに、今回の能登半島地震における公費解体がどのような計画で進んでいるのか紹介する。復興を妨げているものとは。そして、現場では何が起こったのかデータとともに見ていく。


公費解体制度の概要

地震の発生により倒壊した建物は、誰が費用を払って撤去しているのか、気になる人も多いのではないだろうか。今回の能登半島地震のように「特定非常災害(※1)」に指定された大きな災害の場合は、公費解体制度を実施するケースが多い。公費解体では、自治体が所有者に代わって費用を負担して解体事業者へ依頼し、建物の解体・撤去を行う。

被災した住宅を解体・撤去し、更地に戻すには多くの費用がかかるため、個人で負担するのは厳しい。とはいえ、倒壊し、もう利用できなくなった建物を放置したままでは復興も進まず、二次災害の危険も伴う。公費解体制度は所有者に代わり解体費用を自治体が負担することで、いち早く人々の日常を取り戻すための支援制度なのだ。

本シリーズで取材に協力いただいた宗重商店も、公費解体の対象となる現場を毎日100件(2024年12月現在)以上動かし、被災地の迅速な復旧のため解体作業に真っ向から取り組んでいる。

※1 特定非常災害は、死者・行方不明者、避難者が多い、または建物倒壊が多数発生するなど「著しく異常かつ激甚な災害」が対象となり、内閣府にて被害の大きさを総合的に判断した上で指定される。これまで、阪神・淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)、令和元年台風第19号(2019年)、令和2年7月豪雨(2020年)が指定されており、令和6年能登半島地震(2024年)で8例目となる。

公費解体は、全ての被災建物が対象となるわけではなく、罹災証明書(又は被災証明書)で「全壊」・「大規模半壊」・「中規模半壊」・「半壊」と判定された建物が対象となる。

また、一部の地域では公費解体以外にも「自費解体費用償還制度(自費解体)」も進められている。公費解体とは補助の形式が違い、自費解体は所有者が費用を立て替えた後に払い戻しを受けることが特徴だ。能登半島地震による倒壊家屋については、国内の災害で初めて、公費と自費の両輪で解体を進める方針をとっている。

 

公費解体の流れと災害対応の難しさ

公費解体は費用が国や自治体負担になるため、住民にとっては費用負担が発生しないというメリットがある一方で、デメリットもある。それは手続きの煩雑さと、解体までに時間がかかることだ。特に発災から半年間は、多くのメディアで復興の遅れを度々指摘されたが、その要因のひとつには制度活用の複雑さがある。

まず、公費解体を申請するために、所有者は申請に必要な書類を準備しなければならない。その一つが「罹災証明書」だ。罹災証明書とは、住家が被災した場合に、その被害の程度を市町村が証明するもので、各種支援制度を利用するために必要となる。所有者からの申請で自治体の職員等が被害状況を調査し、確認した事実に基づき発行される。この罹災証明書の用意が一つのハードルとなっていた。

過去の大規模災害でも課題となっていたが、今回の能登半島地震のケースも同様で、1月末の段階で石川県全体の申請数に対する交付は約20%にとどまり(※2)、2月26日時点でも64%という状況だった(※3)。棟数の多さや、通信の遮断・道路の不通など、さまざまな要因で市町によって交付状況にも差が出た。ただでさえ、自治体も人員が不足する災害時。住宅の被害程度を測る調査は、複雑かつ高度であり職員への負担が大きいという指摘もされている。

※2 参照:「令和6年能登半島地震 復旧・復興支援本部(第1回) 議事次第」P5、https://www.bousai.go.jp/updates/r60101notojishin/pdf/r60101notojishin_hukkyuhonbu01.pdf
※3 参照:「松村内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和6年3月1日」https://www.cao.go.jp/minister/2309_y_matsumura/kaiken/20240305kaiken.html

さらに他にもハードルがあり、公費解体の申請には「所有者の同意書の取得」が必要になってくる。住宅の所有者が亡くなっている場合は、相続する権利がある人全員の同意が必要で、同意を得るためにそれぞれから「戸籍謄本」と「実印を押した同意書」さらに「印鑑証明」を送ってもらう必要があった。解体を進めようにも、申請段階でつまずくというケースが一定存在していた(※4)。

権利者が複数人に渡っている場合、取得が困難なケースも存在していたと考えられる。

※4 復旧・復興の遅れから、 全壊など建物性が失われていると判断した場合には関係者全員の同意がなくても公費解体・撤去を進めることが可能となるように5月28日より方針を変更した。

次に申請が受理された後の流れについて、まずは行政が委託した補償コンサルタントによる公費解体の申請内容及び現地調査が行われる。その後、申請者・補償コンサルタント・解体事業者で「三者立会」を実施して、公費解体の準備を進めていく。

三者立会では、解体する建物の確認や解体方法、公費解体で壊す範囲や家屋内に残置された家財の扱いなどについて話し合う。2024年8月時点で、環境省は復旧の遅れについて、三者立会の日程調整等に時間を要していることにも課題があると分析しており、1日に対応可能な三者立会の数を増やすなど、円滑化・効率化を促進している(※5)。

※5 参照:「令和6年能登半島地震を踏まえた公費解体の取組と課題について」環境省https://www.bousai.go.jp/jishin/noto/taisaku_wg_02/pdf/siryo4_2_5.pdf

宗重商店が行った三者立会の様子。宗重商店では、2人1組でチームを組み、三者立会に参加している。1人は話し合いを担当し、もう1人がそこで話された内容をANDPADに正確に記録していく。その場ですぐにデータで残すことで、「言った、言わない」問題をなくして、解体を行う職人に作業内容を齟齬なく伝えるようANDPADを活用している。

その後の流れは、解体事業者により建物の解体が行われて、最後に申請者と完了立会を実施。公費解体申請後は、危険度の高い家屋から解体が行われたり、解体事業者の手配の関係で、解体完了までの期間はまちまちである。特に、公費解体が始まった4月は作業を行う職人の宿泊地が不足しており、解体班数の確保にも苦戦した。

ここまで、公費解体の制度概要と流れ、それぞれの課題感を説明してきた。次に、能登半島地震における公費解体のプロジェクトが、どのような計画で進められているのか紹介する。

 

能登半島地震の被害の実態

以下の資料は、非常災害対策本部が発表している能登半島地震における被害の概要だ(2024年11月26日14:00現在)。

非常災害対策本部の資料をベースにANDPAD ONEで制作。速報であり、数値等は今後も変わることがある。「令和6年9月能登半島豪雨」による災害被害は含まれていない。 出典:「令和6年能登半島地震による被害状況等について(令和6年11月26日14:00現在)」内閣府 https://www.bousai.go.jp/updates/r60101notojishin/r60101notojishin/pdf/r60101notojishin_53.pdf

今回の能登半島地震が特徴的だった点は、元日に発生したことだ。少子高齢化と人口減少に悩む奥能登でも、帰省者が集まり「人口」が一時的に増える、そんなタイミングで災害が起きた。

住家被害は、石川県内で全壊 6,069棟、半壊 18,260棟に及び、避難者数は最大 34,000人超。亡くなった人のなかには帰省者が多く含まれている。

(左)能登半島の家屋に特徴的な黒瓦。表裏の両面が釉薬(ゆうやく)で覆われており、雪が滑り落ちやすく耐寒性に優れているが、一般的な瓦と比べて重量がある。倒壊の要因のひとつとして瓦の重さについても言及されている。(右)発災からおおむね1カ月前後で撮影された輪島市内の様子。輪島市では、大規模な火災被害も発生した。写真は石川県ホームページから引用。

また、インフラの被害も甚大だった。道路、上下水道施設を中心に甚大な被害が発生し、金沢方面から能登半島に繋がる国道や高速道路も陥没が多数発生。特に1~3月は、アクセスルートが限られるなかで、交通インフラが被害を受けたことで、物資の運搬や動員も制限された。また、輪島市と珠洲市の一部地域では断水が5月まで続いた。

発災からおおむね1カ月前後で撮影。(左)金沢から能登半島へのルートのひとつ、のと里山海道(横田IC~徳田大津JCT)の様子。(右)輪島市内の様子。それぞれ写真は、石川県ホームページから引用。4月には主要道路の緊急復旧は完了していたが、あくまで緊急復旧のため、取材に訪れた8月時点でも道路のガタつきが目立った。

さらに、2024年9月21日から23日にかけて石川県能登半島では、同地域における観測史上最大クラスの豪雨が発生。土砂崩れや仮設材の流出・破損などが生じ、解体重機が流されるなど、復興にも大きな影響を及ぼしている。

 

能登半島における公費解体の計画

内閣府の資料をベースにANDPAD ONEで制作。写真は石川県ホームページより引用。 参照:「令和6年能登半島地震に係る災害応急対応の自主点検レポート」内閣府, https://www.bousai.go.jp/updates/r60101notojishin/pdf/kensho_team_report_gaiyo.pdf

このような、地理的な困難を抱えながら、能登半島地震における公費解体は進められている。計画では、推計32,410棟の建物の解体を2025年の10月末までに、つまり震災から1年9カ月で解体工事を完了させる目標を立てている。

2024年2月に策定した「石川県災害廃棄物処理実行計画」では、推計解体棟数は22,499 棟だったため、当初予定より4割以上棟数が増えており、現在公費解体を加速させるために関係者で多くの取り組みがなされている。

2024年12月末までに、1万2千棟の解体完了を目標に進められている。冬季は積雪の影響で、解体工事のペースが落ちることを見越した計画が立てられている。図は石川県・環境省の資料をベースにANDPAD ONEで制作。参照:石川県・環境省「公費解体加速化プラン ~公費解体見込棟数の見直しと対応~」 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/haitai/documents/r060826_kasokuka_shiryou.pdf

市町村によって解体の進捗も大きく異なり、穴水町のブロック長を担当している宗重商店は、能登半島全体の解体工事を牽引している。2024年7月からは志賀町、9月からは輪島市の解体工事も応援に入り、穴水町と同様にANDPADを用いて、解体工事の管理を行っている。表は石川県の資料をベースにANDPAD ONEで制作。参照:「公費解体の進捗状況(令和6年11月末)」

11月時点で、能登半島全体で1,211班の解体班が稼働している。解体工事を請け負う事業者や現場で働く職人達は、公費解体の目標を達成するためにどんな課題を抱えており、どんな思いで現場に入っているか、現場のリアルな声は、本シリーズのVol.2以降で紹介していく。

解体工事の平均工期は延べ床面積によって変わってくる。「能登半島は昔ながらの屋敷のような大きな家もあり3週間かかる家もあります。ただ、全体を平均すると10日ほどで進められています」と株式会社宗重商店 代表取締役の宗守さんは話す。

 

能登半島における公費解体の体制
~全国で初めて専門工事業者の団体が一括で受注~

最後に、今回の公費解体の体制について紹介する。ここからは、石川県構造物解体協会の副会長の立場として、株式会社宗重商店 代表取締役の宗守さんにも話を伺った。

今回の解体工事は、石川県から「石川県構造物解体協会」が一括受注して、各正会員(解体事業者)に発注している。そして各正会員が工事班を確保し、各担当エリアの解体工事を統括している。

インタビューを元にANDPAD ONEで制作

構造物解体協会が、能登半島の公費解体を一括で請け負うようになった経緯について、宗守さんは県から打診があり慎重に協会内で協議を重ねたと話す。

宗守さん: 協会は県と「災害時における建築物等の解体・撤去等に関する協定」を結んでいるため、震災が起きた翌日すぐに、県の震災担当の部署から事務局に連絡がありました。そして、県庁で集まり、「公費解体は2万3千棟ほど予定している」ことや、今後の計画について話し合いがされました。

その時に、県からは「2025年10月までに、解体工事を終わらせてほしい」ことが伝えられ、「その条件のうえ、協会で一括受託することができますか? できませんか?」と、選択肢が与えられました。

構造物解体協会の副会長を務める、宗重商店の宗守重泰さん。現在は、構造物解体協会の正会員として能登半島の解体工事を指揮しながら、協会の副会長の立場として県の災害廃棄物処理定例会議や市町工程管理会議に毎週参加している。

宗守さん: 棟数が多いなか、スピード感が求められるもので、今までに経験したことのないような難しいプロジェクトだと感じました。何度も協会の役員会で協議を重ねましたが、被災者のいち早い生活再建のためにも2025年10月末までに工事を終わらせると約束し、協会で一括受託したのが経緯です。

専門工事業者の団体が元請けとして一括で請け負うモデルは全国でも初めてなので、我々の働きが今後の災害復旧のマニュアルや体制づくりにも影響を与えるはずです。解体棟数の推計は32,410棟と、当初計画よりも増えてはいるんですが、それでも約束した2025年10月末までに終わらせるように、協会や正会員の業者が一丸となって業務に励んでいます。

仮設住宅は、体育館などの避難所生活から解放するために、建築基準法なども緩和して応急的に建設されるものなので、長期の居住を予定していない。そのため、仮設住宅から恒久的な住まいに移行する動きが重要となる。家としての機能を失った、倒壊・半壊の建物を解体することは、恒久的な住まいの確保を行う上でも欠かせない。(石川県HPの情報を参考にANDPAD ONEで制作 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kenju/saigai_portal.html

■応急仮設住宅について

災害救助法が適用されると、第四条に基づいて避難所及び応急仮設住宅が供与される。対象者は「住家が全壊又は流失し、居住する住家がない者であって、自らの資力では住宅を得ることができない者」とされている。今回の能登半島地震における供与期間は下記のように定めている。
1.建築工事が完了した日から2年以内
2.災害時に借家・公営住宅に居住されていた方は、入居日から1年以内

※恒久的な住まいの確保後や断水等のライフラインの復旧後、速やかに退去する必要があります。
参照:「応急仮設住宅(建設型)について(災害救助法:令和6年(2024年)能登半島地震)」https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kenju/saigai/r6oukyuukasetsujyuutaku.html#seibi

本記事では、能登半島地震における公費解体プロジェクトの全体像と復興に伴う困難性について、データを引用しながら紹介してきた。Vol.2では、構造物解体協会の正会員として穴水町の解体工事を担当している宗重商店が、震災が起きた1月1日からどのように対応し、解体工事を進めているのか。最前線で闘う事業者の声を届ける。

株式会社宗重商店
URLhttps://munejyu-kaitai.com/
代表者代表取締役 宗守重泰
創業1939年
本社石川県金沢市畝田西1-112
取材・編集:平賀豊麻、市川貴啓
編集:市川貴啓、原澤香織
執筆:市川貴啓
デザイン:森山人美、安里和幸
お客様担当:西野秀
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