第7話 目標に根拠があれば思考や行動が変わる ~幹部と一緒に必要な利益から売上目標を逆算すれば自分事になる~

  • 経営
  • 会計
  • 財務
  • ANDPAD引合粗利管理
  • ANDPAD受発注

出口 経尊 氏
心楽パートナー株式会社 代表取締役
建設業専門に全体最適で粗利を増やす経営パートナー、1975年香川県生まれ。
工事会社を経て、工務店のHP・チラシ・顧客管理・原価管理など集客や業務改善に携わる。
独自の『全体最適型・粗利増加法』で財務改善や人材育成等、経営全般の最適化をサポート。
銀行主催のセミナー講師や業務提携により、金融機関との関係も深めている。
2021年4月から香川大学大学院地域マネジメント研究科にMBA取得を目指して在学中(2023年3月卒業予定)。

前回は、会社のお金を会計、家庭のお金を家計として、それぞれ繋がっていることをお伝えしました。また、限界利益に占める人件費の割合である労働分配率が生産性の目安であることも、ご理解いただけたと思います。限界利益を増やし、人件費以外の固定費を抑えることが給与アップには欠かせないわけで、それには時間密度や速度が大きく影響します。

さて、今回は1年間の根拠ある売上目標の立て方について、お金のブロックパズル®を使ってお伝えしていきます。「会社のお金=他人事」から「会社のお金=自分事」に意識を変える重要性は従来の話と同じです。

腹落ちした目標が自分事、押し付けられた目標が他人事だとすれば、プロセスである思考や行動が全く異なるため、当然結果も変わります。そもそも、トップである社長の言葉の表現が明確になります。

必要な利益を明確にする



図1

図1は、1年間の売上高~返済・繰越までをお金のブロックパズル®で表しています。根拠ある売上目標の算出は、右から左に逆算していきます。まずは、必要な利益から求めます。利益から後の税金と税引後利益、減価償却費の繰戻、返済、繰越については、第4話の「本当に必要なのは売上じゃなかった」で詳しく説明しています。

基本的には「税引後利益+減価償却費≧返済」を前提としています。実際の資金繰りとは異なりますが、この考え方を続けていくと、会社の貯金は増えます。金融機関が経営状況を評価する1つの見方です。図1だと、年間の長期借入金の返済が6となっています。コロナ融資など借入本数が2つ以上の場合は、返済予定表を作成して月間と年間の返済額が分かるようにしておきましょう。返済6については利息を含まない元金のみとなります。

繰越3は、目標設定だと貯金したい金額を予め決めることになります。「いくら貯めたいですか?」と質問すると、「沢山あるほどいい」と答える方もいらっしゃいますが、現実的な数字を仮で当てはめてみます。目安は、リスク管理だと万一の備えとして、固定費の〇か月分をいつまでに貯めるという考え方があります。例えば、災害等で営業できない場合、復旧に2か月かかると想定すれば、固定費の2か月分が必要です。図1だと、固定費70÷12か月×2か月=11.7となります。もう1つはビジョン実現で、〇年後に設備投資を行うために自己資金としていくら貯めるかという考え方です。投資目的によっては、自己資金が必要になるものがあるので、予め金融機関に相談しておいた方が、より目標が明確になると思います。

次は、減価償却費の繰戻ですが、これは減価償却費をそのまま当てはめてください。実際に費用として使っていないので戻すという考え方になります。詳しくは第4話をご覧ください。決算書の販売管理費と原価の明細にあたる工事原価報告書(製造原価)の2つに分けて減価償却費を記載している場合は合算してください。ここまでで、以下の計算式で必要な税引後利益を算出することができます。

 

税引後利益=返済+繰越-減価償却費の繰戻

 

図1だと、返済6+繰越3-減価償却費の繰戻2=税引後利益7となります。赤文字のように、返済が3増えてになった場合は、必要な税引後利益も同じく3増えて10となります。今期の途中で減価償却費が増えた場合は、前期の決算書に足す必要があり、逆に償却が終わる場合は引きますが、詳しくは税理士さんに確認した方が間違いないでしょう。

ここまでは足し算と引き算ですから、容易に計算することができますが、税引前の利益を算出するのは割り算になります。

 

利益=税引後利益÷(1-0.3)

 

図1だと、税引後利益7÷(1-0.3)=利益10となります。0.3という数値は法人税の税率で約30%としています。赤文字のように、税引後利益が3増えた場合は、必要な利益は14.3となります。正確にお伝えするなら、ここまでで経常利益を求めたことになります。営業外収益である補助金や助成金、本業以外の収益に関しては予測が難しいと思いますが、営業外費用の返済の利息は大よそ予測できると思います。その場合は、逆算で求めた利益10に利息を足した営業利益を利益目標とします。営業利益とは本業で稼いだ利益のことです。

 

営業利益=経常利益+利息(営業外費用)

 

ただし、利息が利益を圧迫しない金額であれば割愛して構いません。営業利益と経常利益を利益として、シンプルで分かりやすくしましょう。大事なのは根拠ある目標設定が腹落ちすることです。

固定費をざっくり予算化する



図2

図2では、人件費や事務所及び現場経費を固定費として予算化します。過去3期分の決算書を元に採用人数や機械の購入、広告宣伝費など、増減しそうな固定費を洗い出します。ここでは、図2に赤文字で記載したように労務費を23.7、現場経費を17とすることで、固定費を75.7としました。もし増員する場合は、想定する総支給に約1.2を掛けて、社会保険料の会社負担分も含めて計上してみてください。予算化と書いていますが、建設業の場合は数十万単位でざっくりです。第3話の「元請会社と工事会社では現状把握の見方が違う」で詳しく説明していますが、重要なのは現場の労務費や現場経費も固定費にすることです。逆に言えば、材料費と外注費以外の出ていくお金は全て固定費とします。これも分かりやすさ優先で、損益分岐点を大よそ掴むことができます。計算式は以下の通りです。

 

固定費=人件費+その他経費

 

必要な限界利益目標を設定する

限界利益を明確にするのは至って簡単で、想定される固定費と必要な利益を足すだけです。図3の赤文字の数字をご覧ください。固定費75.7+利益14.3=限界利益90となります。多少増員するにしても限界利益を13%UP(80→90)するとなれば、原材料費の高騰や品不足による遅延がある現状だと、容易ではないと思います。あと、限界利益に占める人件費の割合である労働分配率が48.6になり、生産性が上がることになります。計算式は以下の通りです。

 

限界利益=固定費+利益

 



図3

売上目標を設定する

ようやくこれで売上目標を立てることができます。過去対比や他社対比より根拠があると思うのですが、いかがでしょうか。特に物価上昇で条件が変われば、過去対比はあてにならないかもしれません。



図4

図4では赤文字のように限界利益率を80から75に下げてみました。原材料費の高騰に販売価格の転嫁が遅れると想定したからです。逆に発注ミスや手戻り工事を減らす前提で限界利益率を高く想定して目標を立てるのも1つです。どちらにしても、楽観的でなく、少し厳しめにみておけば、利益目標は達成しやすいですし、少なくとも赤字になりにくいでしょう。計算式は以下の通りです。

 

売上高=限界利益÷限界利益率

 

売上目標は、限界利益90÷限界利益率0.75=売上高120、前年比120%となります。

例えば、売上2億円なら2億4000万円、5億円なら6億円、10億円なら12億円です。漠然と120%UPだと言っても、闇雲に行動するだけでは、売上高は達成できたとしても、限界利益率が想定より下がれば、限界利益目標の達成は難しくなります。売上目標を達成することが重要ではないので、売上高120が現実的でない数字であれば、他のブロックを見直していきます。主力の商品やサービスの構成を変えることで、限界利益率を高めることができるかもしれません。また、仕入先を見直して変動費を見直す方法もあるでしょう。効率化を図って残業時間を減らせれば、人件費を抑えることができます。事務所や現場経費でも削減できることは多少なりともあるはずです。要は、実現可能な戦略を具体的に考えることが重要で、売上高が10%UPでも必要な利益を確保できることもあります。実際に固定費を2減らして73.7、利益14.3を足せば、限界利益目標は88となり、限界利益率を80%に設定すれば、売上高は110となります。

机上の話に思えるかもしれませんが、実際にコンサルティングの現場では、部門管理者も交えて、社長を含めて車座で限界利益を各部門に割り振り、目標設定の議論を毎年何時間もかけて行っています。気が重い側面もあるようですが、会社の数字が自分事になっているわけで、毎月進捗会議を行っていると、管理者の発する言葉が変わりました。厳しい言い方になりますが、お金のことを知らないことは不幸であり、教えていない会社は罪かもしれません。

こうした会社の数字、いわば健康状態の把握は日頃から社員でもできるようにしておくことができれば、さらに軌道修正や差分対策というのもリアルタイム性を兼ね備えていきます。会議や目標設定のために数字を集めなくともANDPAD引合粗利管理やANDPAD受発注を日頃から利用してさえおけば、常に自社の健康状態を把握することができるのでおすすめです。

目標達成のポイントは売上の細分化

売上目標を達成するためのポイントは細分化です。売上は主に3つの構成で分けて考えることができます。

 

売上=客数×客単価×リピート率

 

これは業種によって比率が異なります。新築住宅が主だと客数を常に増やす必要がありますが、リピート受注はリフォームで新築だとほぼ無いと思います。工事会社だと元請会社から新たな現場の依頼があれば、リピートになります。

改善策を部門で考えるなら、営業部だと新規の客数が増える営業戦略を立て、商品企画部だと客単価が上がる商品開発を行い、アフターサービス部だと既存客への提案により、売上UPに繋げます。部門で分けるほどの規模でない会社でも、このように分けて考えるのは全く同じです。仮に客数3%、客単価3%、リピート率4%をそれぞれアップすることができれば、客数103%×客単価103%×リピート率104%=売上110%になります。特定の人や特定の部門だけが努力するのではなく、売上UPに向けて誰もが貢献できるわけです。

 

次回は、原価管理や工程管理など、お金や時間を決める重要性についてお伝えします。

心楽パートナー株式会社
https://shinraku.biz/
代表取締役 出口 経尊
創業 2016年6月
本社 香川県高松市屋島西町2300-1
https://shinraku.biz/contact/

寄稿:出口 経尊氏(心楽パートナー株式会社)
編集:平賀豊麻
デザイン:安里和幸