第6話 これを知ると給与の増やし方が理解できる ~会社のお金である会計と家庭のお金である家計は繋がっている~

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出口 経尊 氏
心楽パートナー株式会社 代表取締役
建設業専門に全体最適で粗利を増やす経営パートナー、1975年香川県生まれ。
工事会社を経て、工務店のHP・チラシ・顧客管理・原価管理など集客や業務改善に携わる。
独自の『全体最適型・粗利増加法』で財務改善や人材育成等、経営全般の最適化をサポート。
銀行主催のセミナー講師や業務提携により、金融機関との関係も深めている。
2021年4月から香川大学大学院地域マネジメント研究科にMBA取得を目指して在学中(2023年3月卒業予定)。

前回は、値下げや値上げの影響で利益がいくらになるか、クイズ形式でお伝えしましたがいかがだったでしょうか。初めて知った方もいれば、分かっている方もいらっしゃると思いますが、大事なのは日常で出来るかどうかです。さらに続けられるか、教えられるかで会社の業績は大きく変わります。ぜひ、受注金額の折衝の際は、利益を意識してみてください。

さて、今回は会社のお金が自分達の給与にどう影響するのか、お金のブロックパズル®を使ってお伝えしていきます。「会社のお金=他人事」から「会社のお金=自分事」に意識が変われば、限界利益を増やすことや固定費を減らすことが自分事になります。人は自分の事にしか興味が無いという前提で進めていけば、社内で認識が変わる人も増えるでしょう。

会社のお金は他人事でなく自分事

1.給与明細や家計簿

図1は家計のブロックパズルで、給与明細と家計簿を合わせたものだと思ってください。会社のお金は1年間で表記していましたが、給与は分かりやすいように1か月にしています。給与明細をお持ちの方は、比較すると理解が深まると思います。

「総支給」は、基本給や手当などを含め、会社から給与として支払われるものです。そこから社会保険料や税金が天引きされます。この割合は、世帯当たりの人数など条件によって変わります。社会保険料には健康保険、年金、雇用保険などがあり、人口減少から今後も負担率の増加が予想されます。ここでは総支給の2割で想定しています。

総支給30から保険・税金6を引いたものが「手取り」で24になります。銀行口座への振込や、手渡しされる金額です。手取りから以降が家計簿に関係するため、手取りが給与の高い安いを判断する材料になりがちですが、給与を支払う側と受け取る側の立場の違いで捉え方が異なるところです。生活費が手取りを下回れば貯金ができるのは、会社の繰越と同じです。できれば、残った分を貯金するのではなく、積立のように強制的に引き落とした方が貯まりやすいと思います。逆に生活費が手取りを上回れば赤字になり、貯金を取り崩すか、他から借りる必要があります。家計も赤字続きだと存続できないのは会社と全く同じです。将来的には子供の成長に合わせて学費が増え、部下ができれば交際費も増えるでしょう。更に物価の値上がりで家計は厳しくなるため、節約にも限界があり、手取りを増やすことを真剣に考える必要があるのではないでしょうか。

図1.家計のブロックパズル

2.会計と家計の繋がり

図2は会社のお金である会計の人件費と家計の繋がりを表したお金のブロックパズル®です。会社にとっては社員の給与だけでなく、社長の役員報酬も人件費になります。ちなみに、家計のブロックパズルにある「社保会社負担分」とは、給与から天引きされる社会保険料とほぼ同額の会社負担分を表しています。ここが給与を支払う側と受け取る側の認識の違いです。

給与を増やすと言っても、基本給や役職手当は急に増えるものではありません。給与が短期的に増えるのは残業手当と賞与です。残業については責任を全うするという意味では必要というのが前提ですが、ここでお伝えしたいのは、残業手当の0.25倍分の負担はお客様から貰えるものでなく、会社負担だということです。固定費の人件費が増えれば、利益が減ってしまうため、会社としては増やしたくないのです。なぜ、利益が必要なのかについては第4話でご紹介しています。

賞与を増やそうと思えば、固定費のその他を減らし、変動費も減らして限界利益を増やす必要があります。販売価格の値上げや販売個数の増加は限界利益を増やす要素になります。

ポイントは、変動費や固定費のその他が具体的にどんなものがあるのか、厳密でなくてよいので分類する必要があります。売上が増減すると比例する費用が変動費、売上が増減しても比例しないのが固定費だと思ってください。

会社の1人1人が限界利益を増やし、人件費以外の固定費を減らす意識や行動になれば、理論上賞与を増やすことはできるかもしれません。またその場合は、会社は目標以上の利益を確保でき、それが給与にも反映されるようになります。一般的に「給与の3倍稼げ」と言われる対象は、限界利益のことです。ざっくり言うと、会計のブロックパズルの人件費と同じ1倍の稼ぎだと、固定費のその他が補えていません。2倍でトントン、3倍で部下や後輩、バックオフィスの部門を賄うイメージです。

もちろん、社長の考え次第で還元の仕方は変わるので、見極める必要はありますが、意識や行動レベルが高ければ、業界で引っ張りだこになるでしょうから個人として損は無いでしょう。

図2.会計と家計のブロックパズル

生産性の目安である労働分配率とは

図3は、お金のブロックパズル®に「労働分配率」を追記したものです。労働分配率とは「人件費÷限界利益」で生産性の目安になります。労働分配率の数字が低いほど効率的とされ、少ない人数で限界利益を多く稼いだ、あるいは人件費が安いと捉えることができます。逆に数字が高いほど非効率とされ、人数の割に限界利益が稼げていない、あるいは人件費が高いと捉えることができます。ちなみに、労働分配率の基準については建設業でも業種によって異なりますので、「建設業 労働分配率 TKC」で検索してご確認ください。

https://www.tkc.co.jp/bast/disp_bast.asp?param=site:zenkokukai,gyosyu:kensetsu

原材料の高騰で限界利益が低下する中、従来通りの人件費だと労働分配率は上昇します。限界利益と労働分配率を維持するには、今いる人数で極力残業せずに、完工物件数や販売個数の増加、値上げの必要があります。そうなると、今までと同じ仕事のやり方だと難しいのではないでしょうか?仮に残業手当が発生しても、法的に労働時間の制限があります。週休2日制もいずれ必須になるでしょうし、少ない人数で今まで以上の限界利益を稼がないと、給与を上げるのも厳しくなります。今こそ、外部環境の厳しさをチャンスと捉え、仕事のやり方に疑問を持ち、業務フローなどを見直す機会にしないと事業の継続が危うくなるかもしれません。

図3.労働分配率を追記したお金のブロックパズル®

とある社長の若き日の失敗談

最後に、とある社長の若き日の失敗談をお伝えします。当時20歳代で現場に従事していた頃、自分のミスで手戻りが発生し、休日出勤で挽回して工期に間に合わせたそうです。責任を全うして意気揚々としていたところ、当時の社長から「おまえは得をしている」と苦言があったとのこと。理由は、手戻りで材料費と外注費が余分にかかったにも関わらず、給与として残業手当を得ているからです。追加の変動費と人件費は、会社にとっては持ち出しになります。その苦言を通して、ミスを挽回する責任とお金の支出の問題は切り分けて捉える必要があると気付いたそうです。今では社員に対して導く立場の社長も、最初から自分の行動と経営数字が結び付くとは思っていなかったということです。

次回は、社長1人だけでなく、幹部と一緒に必要な利益から売上目標を逆算して根拠を持たせるだけでなく、報酬を決める基準など、自分事にしてもらう考え方について、お伝えします。

心楽パートナー株式会社
https://shinraku.biz/
代表取締役 出口 経尊
創業 2016年6月
本社 香川県高松市屋島西町2300-1
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寄稿:出口 経尊氏(心楽パートナー株式会社)
編集:平賀豊麻
デザイン:安里和幸