第5話 値下げと値上げがもたらす影響を考える ~ちょっとした値下げで赤字、ちょっとした値上げで利益倍増~

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出口 経尊 氏
心楽パートナー株式会社 代表取締役
建設業専門に全体最適で粗利を増やす経営パートナー、1975年香川県生まれ。
工事会社を経て、工務店のHP・チラシ・顧客管理・原価管理など集客や業務改善に携わる。
独自の『全体最適型・粗利増加法』で財務改善や人材育成等、経営全般の最適化をサポート。
銀行主催のセミナー講師や業務提携により、金融機関との関係も深めている。
2021年4月から香川大学大学院地域マネジメント研究科にMBA取得を目指して在学中(2023年3月卒業予定)。

平賀豊麻
株式会社アンドパッド 経営戦略本部 社長室
コミュニティマネージャー兼ANDPAD ONE Director
2018年5月に株式会社アンドパッドに入社。
アンドパッドのインサイドセールスの一人目として、1年半で延べ500社様との商談機会を創出。
その後2019年12月より社長室へ異動コミュニティマネージャーに就任。
2020年12月からはコミュニティサイト「ANDPAD ONE」を設立、Directorを兼務。
約33万人のANDPADユーザーのCXの向上を目的としたコミュニティ形成をミッションとする。

前回は、なぜ会社に利益が必要なのか返済と繰越(貯金)の視点からお伝えしました。1年間の「税引後利益+減価償却費≧返済」であれば、基本的には会社のお金が減り続けることはありません。ただし、売掛金や買掛金などの入出金のタイミングの違いにより、現預金残高は増減するので、実際のお金の動きとは異なります。

今後、問題になってくるのは、2022年からコロナ融資の返済据置と利子補給が順次終了し、返済と利息の支払が始まることです。コロナ融資は延命措置の側面があり、借入金を既に使った場合は、返済額が増えるため、今まで以上に利益を増やす必要があります。

そこで今回は、お金のブロックパズル®を使って「利益」に着目し、利益を減らさない考え方、利益を増やす考え方について、アンドパッドの平賀さんと一緒にクイズや実例を交えながら、お伝えしていきます。

今回は計3題を出題。ともに図1をベースに考えていただきます。

図1



図1は、1年間の売上100に対して変動費60(材料費+外注費)、限界利益40、固定費35、利益5(営業利益)、限界利益率40%、利益率5%という状態を表しています。技能者の「労務費」は変動費でなく固定費にある人件費に含みます。労務費が無い場合は「限界利益」を「粗利」という言葉に置き換えてもらって構いません。

値下げで利益を減らさない考え方

出口氏

では早速問題です。価格競争に巻き込まれたことで、通常価格より平均5%値下げしました。物件数や規模は同じと仮定した場合、利益はいくらになるでしょうか?シンプルに考えていただくために、変動費、固定費は同じとします。

アンドパッド 平賀

値下げしたことで変わるのは売上ですよね。あとは、限界利益率と限界利益も減っていきますね…

出口氏

ここで取り扱うのは、日頃よくある「値下げ」についてです。業界や地域によって値下げは慣例化しています。建設業では当たり前で、大阪では挨拶代わりと聞いたことがあります。値下げを求めてくる側は口癖になっていることが多いため、そこに根拠があるかと言えば、あまり無いのではないでしょうか。

 

ちなみに、私も飛び込みを含め、多少は営業経験があるので、選ばれるために値下げしたい気持ちはわかりますが、値下げは最も簡単な受注方法です。よくある話ですが、値下げを一番やりがちなのは社長で、理由は最終の意思決定者だからです。確かに社長は「上司に確認します」と言えません。

 

値下げの土俵に乗らない対策としては、個々だと関係性の構築、会社だと付加価値の見える化などの努力が必要になります。

平賀

出口さん、今回の場合、もしかしてこれでは利益が出ないのではないですか?

出口氏

はい、このような場合には利益は出せません。問題の答えとしては「利益は0」です(図2)

出口氏

5%の値下げを続けてしまうと、利益は無くなってしまいます。お金のブロックパズル®でも利益のブロックが無くなりました。元々、利益5で利益率5%だとすれば、利益0で収まりますが、利益3だとすれば、▲2の赤字になってしまいます。研修で値下げのクイズを出した時が、最も気付きのリアクションが大きいのですが、日頃当たり前にやっていたからだと思います。

 

価格交渉の際、お金のブロックパズルが思い浮かぶようになると、値下げできない理由を明確に説明しようと思えます。また、値下げしたとしても桁数が1桁2桁減るようになります。それを1年間繰り返して増収増益、数年続けて財務を健全化できた企業は沢山あるので、値下げを踏みとどまることは経営に重要なことです。

値上げで利益を増やす考え方

出口氏

引き続き、図1を使って問題を出していきます。今度は逆に値上げをする話です。これは変動費が同じで値上げした場合と、原材料費が高騰して値上げした場合の2パターンを出題します。

 

それでは、2つ目の問題です。付加価値の見える化で、通常価格より10%値上げできました。物件数や規模は同じと仮定した場合、利益は何倍になるでしょうか?ここでも変動費、固定費は同じとします。

平賀

今度は値上げできたので、売上が上がるということですね。それと連動して、限界利益率と限界利益も変わってきそうです。

出口氏

値上げの話を進める前に必要なのは「値上げは悪」という概念を払拭することです。これは日本特有の文化なのかもしれません。

 

付加価値とは自社の強みです。強みを価格に反映できている企業と、そうでないところでは、販売価格や限界利益、そして利益に差が生まれます。

 

付加価値の見える化については、内部要因の強みと弱み、外部環境の機会と脅威を掛け合わせて戦略を立てる「クロスSWOT分析」がよく用いられます。さらに、セグメンテーション(市場の細分化)・ターゲティング(狙う市場の決定)・ポジショニング(自社の立ち位置の明確化)の「STP分析」、商品戦略・価格戦略・流通戦略・販促戦略の「4P分析」など、マーケティングのフレームワークを使って、売れる仕組みを具体化していきます。

 

工務店やリフォーム会社のような一般消費者を対象とするBtoCの業態は、価値を見える化した企業が多いと思いますが、工事会社のような企業を対象とするBtoBの業態は、手付かずのまま価格競争に巻き込まれているのではないでしょうか。

 

平賀

専門用語が多くて難しく感じますが、売れるために順序立てて考えていく枠があるイメージですね。

出口氏

日常の業務に追われると「重要だけど緊急でないこと」は優先順位が下がってしまいがちですが、第3者などを交えて非日常の中で戦略を立てることは、経営において重要な業務の1つです。

 

問題の答えについては、「利益は何倍になるか」という質問でしたので、答えは「3倍」です(図3)

出口氏

利益15だと売上110に対して利益率13.6%になるので、一律10%の値上げは建設業だと難しい話かもしれませんが、原価が同じで10%値上げできれば、利益が3倍になるという感覚をこのクイズを通じて、ぜひ身に付けてみてください。5%値上げでも利益は2倍の10になるので、現実的な方で覚えていただいても構いません。

 

ちなみに、1つ目の問題の答え「5%の値下げで利益が0」も同様に覚えておいてください。腹落ちすれば、思考が変わり、言葉や行動が変わり、業績が変わります。

原材料費の高騰で利益を維持する考え方

出口氏

図1がコロナ前だとすれば、次の問題では、2022年3月現在も続いている原材料費の高騰を当てはめて考えていきます。

 

3つ目の問題です。原材料費の高騰により変動費が60から10増えて70になりました。物件数や規模は同じと仮定した場合、利益5を維持するには販売価格を何%UPする必要があるでしょうか?シンプルに考えていただくために、変動費、固定費は同じとします。

平賀

販売価格=売上高なので、つまり売上高を変えるということですね。利益と固定費が変わらないということは、限界利益40も変わらないということですね。

出口氏

答えの出し方は至って簡単ですが、最も難しいのは顧客との交渉だと思います。品薄で商品が手に入りにくい場合は、高くても買わなければなりません。これは「見せかけのロイヤルティ(忠誠心、愛着、信頼)」の可能性があり、代替商品が見つかれば、すぐに他社へ移ります。同じ値上げでも、質問2のように付加価値に共感した指名買いであれば「真のロイヤルティ」となります。選ばれている本当の理由が何なのか把握しておくことが大切で、原材料の供給が安定した時にどちらのロイヤルティが選ばれ続けるのか、容易に想像ができます。

 

今後は、市場規模の縮小による販売個数の減少を想定して1個当たりの限界利益を増やし、会社全体の限界利益40を維持する戦略が必要になることもあるでしょう。

平賀

コロナ融資の返済や固定費が増えるようなら、限界利益の目標設定を見直す必要も出てきそうですね。

 

3つ目の問題について、お金のブロックパズル®で考えると簡単ですね。

出口氏

そうですね。今回の問題「販売価格を何%UPする必要があるか」に対しての答えは「10%」です(図4)。

出口氏

どうでしょうか。原材料費の値上がり分を価格にそのまま反映できれば、限界利益率は40%から36.4%に下がりますが、利益5は維持でき、売上は10%伸びたことになります。

 

ここで2つ注意点があります。1つは売上が10%伸びたのは原材料費の高騰によるもので、販売個数や客数が増えたわけではない可能性があるということです。売上が右肩上がりになったのをどう評価するか、見誤らないように気を付けてください。

 

もう1つは前回もお伝えしたミスによる損害が大きくなることです。材料の発注間違い、施工ミスによる手戻りが生じると、再び原材料費が必要となります。その原材料費が今までよりも高くなるということです。ミスが続けば、今まで以上に利益が簡単に吹っ飛ぶのを社内に浸透させる必要があります。

平賀

売上が上がったことを手放しに高く評価するのは危険。そして原価をしっかりと管理していくことが利益の確保には重要ということですね。

 

日々の粗利や営業マン毎の契約売価が月次単位で見える化できてくると、ヘルスチェックにつながりますね。

出口氏

次回は、会社の利益の増やし方と合わせて、給与の増やし方や基準についてお伝えしていきます。会社のお金と自分の給与が繋がっていることを理解できれば、経営が他人事から自分事に近づきます。

心楽パートナー株式会社
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代表取締役 出口 経尊
創業 2016年6月
本社 香川県高松市屋島西町2300-1
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寄稿:出口 経尊氏(心楽パートナー株式会社)
編集:原澤香織
デザイン:安里和幸