第1話 努力が報われる人はお金に向き合っている ~過去の経済ショックや現在の外部環境の脅威を踏まえて未来を考える~

  • 原価

出口 経尊 氏
心楽パートナー株式会社 代表取締役
建設業専門に全体最適で粗利を増やす経営パートナー、1975年香川県生まれ。
工事会社を経て、工務店のHP・チラシ・顧客管理・原価管理など集客や業務改善に携わる。
独自の『全体最適型・粗利増加法』で財務改善や人材育成等、経営全般の最適化をサポート。
銀行主催のセミナー講師や業務提携により、金融機関との関係も深めている。
2021年4月から香川大学大学院地域マネジメント研究科にMBA取得を目指して在学中(2023年3月卒業予定)。

心楽パートナー株式会社 代表取締役 出口経尊氏をお招きしてお送りする本連載は「『粗利』と『利益』、そして『給与』をみんなで増やすために必要なお金の話」と題し、全12話構成でお届けしてまいります。

はじめに

材料の値上がりで粗利や利益の減少、品不足による工期延長が資金繰りに影響、今後はコロナ融資の返済据置や利子補給の終了等、建設業界における外部環境の脅威に打ち勝つには社長の力だけでなく、会社全員の力が必要ではないでしょうか。
一人一人が経営を他人事から自分事として捉え、会社のお金の流れをざっくりでも理解することができれば、成果に結びつく思考や行動に変わります。
建設業全般で元請会社や協力会社のどちらの視点からも役立つ内容をお届けします。

外部環境の歴史と推移

まずは、図1の国土交通省「住宅着工統計」の実績値と野村総合研究所の予測値を参考に、住宅業界における外部環境について振り返ってみましょう。日本全体の住宅市場の推移を見ると、1991年のバブル崩壊、2度の大震災、耐震偽装事件、リーマンショックと言われる国際金融危機、消費税増税による駆け込み需要からの落ち込みなど、外部環境の大きな変化と同時に新設住宅着工戸数は大幅に減少する影響を受けてきました。過去対比で見ると1990年度の新設住宅着工戸数は167万戸、直近の2020年度はコロナショックの影響もあって81万戸、つまり新設住宅市場はバブル期と比較すると約半分以下に縮小したと言えます。2021年以降の予測だと2040年度の46万戸まで、ほぼ一直線に右肩下がりで減少しています。これは、日本全体の人口や世帯数減少と相関関係にあるのが容易に想定できると思います。2040年度の46万戸は、1990年度の167万戸から約72%減少、2020年度の81万戸から約43%減少となります。未来の数値はあくまで予測であるため、コロナショックのような予期せぬ経済ショックなど、外部環境の変化によって新設住宅着工戸数の推移が変化する可能性は、歴史を踏まえると今後も充分考えられます。
ちなみに、私が新卒で重機リース会社に就職したのは1998年4月でしたから、住宅業界においてはまだまだ活気がありましたが、公共工事や民間企業の設備投資の市場は収縮していた時期だったため、単価の下落や稼働率の低下、建設業者の倒産が多かったように記憶しています。

図1.新設住宅着工戸数の実績と予測結果

【典拠】実績値は国土交通省「住宅着工統計」より。予測値は野村総合研究所 https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2021/cc/0608_1

物が安くすぐに手に入らない時代へ

直近の外部環境の脅威で真っ先に思い付くのが、世界的な新型コロナウイルスの流行に伴うウッドショックや半導体ショックではないでしょうか。当初、コロナショックと言われた2020年前半は、水周りの住宅設備機器の部品の一部が海外生産のためロックダウンで供給が滞り、納期に影響が出ました。納期の遅延は、経営数字で見ると売上計上のズレによる赤字決算、現金回収の遅れによる資金繰りの悪化を招きました。その後は、木材をはじめ金属やコンクリートなど、様々な原材料費の高騰が企業経営に大きな影響を与えています。木材の中には価格が2倍になったものもあると聞いています。今後、為替レートが円安ドル高に進んだ場合、多くを輸入に頼る原材料費はさらに値上がりする恐れがあります。

原材料費が右肩上がりに上昇するということは、契約~着工~引渡までの期間が長い物件ほど、過去と未来の価格差が大きくなります。その差額分をエンドユーザー、元請会社、工事会社、流通店、商社、メーカーの誰かが補う必要があるわけです。皮肉な例になってしまいますが、受注残の多い行列ができる工務店ほど、原材料費の値上がり分を吸収せざるを得ない状況です。従来だと受注残の多さは、実行予算が大幅にずれない限り、未来の収益がほぼ約束されるため、経営面で安心材料になったわけですが、その常識、今までの当たり前が覆りました。私もそのような事態が起こってから気付いたのですが、あくまでこの常識は、原材料費が変わらない、もしくは下がるのが前提だったということです。今後は、原材料費は上がり続けるものという30年以上前の価値観や感覚を再び身に付ける必要があります。実際、減益の防衛策として、見積有効期限を数か月から数日レベルに縮めてリスク回避をする企業もあるようです。

ただし、机上と現実は乖離しており、例えば大手メーカーでは、メールやFAXの一斉送信で値上げの案内ができたとしても、中小企業の地場ゼネコンや工務店、工事会社だと、客先への価格反映は容易ではありません。対策としては、契約書の文言の変更で原材料費の値上がり分を反映させることもできますが、受注競争の激しい市場においては、減益に目を瞑った状況ではないでしょうか。特命で購入する動機付けや自社の強みによる差別化、値上げのマインドセットなど、ハードルが高いと感じています。
図2で供給不足と価格上昇を説明すると、①で需要と供給のバランスが保たれていたのが、②の供給の減少で①の市場均衡は崩れ、③のように価格が上昇します。供給が急激に回復されない限りは高止まり、もしくは今後も価格上昇の恐れがあります

賃金水準の上昇

図3の最低賃金の推移からコロナショック前の2019年までは右肩上がりに上昇しています。人手不足で悩まされていた企業は、雇用対策として賃金や休日の見直しを行ったのではないでしょうか。また、図4の所定内賃金の平均引き上げ額だと、建設業は全産業と比較した場合、賃金の上げ幅が高くなっており、業界全体として賃金水準の上昇が証明されています。ただし、賃金上昇を補えているのは公共工事が主体であり、民間工事においては企業負担だけ増えているのが現場での実感です。

念のため、誤解の無いように申し上げたいのは、私は賃金水準の上昇を否定しておらず、むしろ収益改善と合わせて、持続性のある賃金上昇を推奨しています。企業の発展繁栄と併せて、金銭面や環境整備など社員満足も追求すべきだと自負しております。

図3.

【典拠】JIJI.com 最低賃金額の推移 https://www.jiji.com/jc/article?k=2021062200232&g=soc

図4.

【典拠】パートなども含む労働者の所定内賃金の平均引き上げ額(月額) 厚生労働省の資料を基に日経コンストラクションが作成 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24419270Y7A201C1000000/

ドンブリ勘定では利益が出ない時代へ

原材料費や人件費が横ばいの時期は、支出を細かく把握しなくても、例年通りの売上があれば、それなりに利益が出ていたのではないでしょうか。ところが、支出がここまで変動してくると、売上だけを目安にするのは危険なため、それ以外の視点で現状把握や予測をこまめに行わなくてはなりません。
原材料費だと、システムで原価マスターや仕入れマスターを使用している場合は、常に最新の情報にしておく必要があるでしょうし、その都度、見積をやり取りする場合は、価格の変動の度に作成、または依頼する手間が発生します。

建設業は「ドンブリ勘定」の代表業種だったかもしれませんが、原材料費だと現場ごとの原価管理、人件費だと会社全体の月次決算、資金繰りだと入出金管理など、経営数字を様々な角度から見ないと、決算で厳しい結果を迎えることになります。
また、賃金水準の上昇を踏まえると、雇用者数や労働時間を生産量に比例させるのではなく、不要な手間を省いて収益に直結する業務に集中できる環境を整え、1人当たり、もしくは時間当たりの生産性を高めなくてはなりません。週休二日制を実現するなら尚更です。それにはITなどの設備投資も有効な手段になるはずです。
次回以降は、外部環境の脅威に打ち勝つための考え方や対策について、経営数字を交えながら分かり易さ優先で連載していきます。

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心楽パートナー株式会社
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代表取締役 出口 経尊
創業 2016年6月
本社 香川県高松市屋島西町2300-1
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寄稿:出口 経尊氏(心楽パートナー株式会社)
編集:平賀豊麻
デザイン:安里和幸