大工工務店として創業し、東京・東村山市を拠点に、『地域工務店だからできる、人と人、人とまちが「つながる」暮らし』を実現するために、永く住み続けられる住まいを手掛ける相羽建設株式会社。家づくりだけでなく、ドミノ工法、家具、施設の3つのFCを展開して全国各地にノウハウを提供し、加盟店は延べ180社にものぼる。今回は、代表取締役・相羽健太郎氏にインタビューを実施。全3回でご紹介する。Vol.2は同氏社長就任後の経営理念再定義からの地場工務店としての選択、商圏の集中とポートフォリオの拡大、そしてオーナーフォロー徹底の決断について迫る。
経営理念を定義し、地元に密着した会社へ
2010年、同社の創業40周年のタイミングで代表取締役に就任するにあたり、相羽氏は経営理念について再検討を行った。元々あった経営理念は社内に掲示され日々唱和を行っていたものの、長文であったこともあり社員一人ひとりに浸透しているとは言いづらい状態だった。そこで、「相羽建設の使命とは何か?」を再確認するために、改めて会社としての経営理念をスタッフと一緒に考え、それまでの経営理念を集約化した「つながる人すべての暮らしを豊かにする」と定義した。トップダウンではなく、社員を中心に会社をつくっていこうというのが相羽氏のスタイルだ。
相羽氏: お客様には、「相羽は面白い会社」と言われたい。私たちは、創業時から現在まで多くのお客様をはじめ、社内のスタッフ、職人、地域の方々に支えられてきました。そんな「人のつながり」に感謝し、つながる人たちの暮らしをより豊かにすることに貢献し、仲間になれたらと考えています。
会社としてのビジョンを定義したことを受け、事業の方向性についても見直す必要性が生じた。当時は新築メインで事業展開してきたなかで、時代的にもお客様がインターネットで同社を知って来場されるケースも増えていたこともあり、問い合わせの多い世田谷や杉並などに拠点を増やす計画も出ていた。しかし、職人からは「仕事の時間を増やしたいから、移動時間は減らしてほしい」と反対され、会社として商圏を絞って商品を広げるか、商圏を広げて商品を絞るかの選択を迫られた。工務店の都合によって商圏を広げたとしても、工務店というのは地域に根ざす以上、容易に撤退することはできない。職人が仕事をする、お客様へのフォローというポイントにおいて、「距離」は重要な要素だった。
相羽氏: 地場工務店というのは地域に土着しているので、良くも悪くもなかなかそこを離れられない。地縁や地域のしがらみもあると改めて感じました。
例えば世田谷に支店を構えたとして、万が一会社が経営不審に陥って支店の世田谷の店舗と創業の地である東村山の店舗のどちらかを閉めなければならなくなったら、支店を閉めることになる。
そうなった時に、支店で新たに取引を始めた職人には本店付近の案件でも仕事を絶やさないためにお願いしなくてはならなくなりますが、職人の移動時間が長くなり負荷をかけてしまうので、取引が途絶えてしまうことにもなりかねない。
お客様に対しても同様で、支店がなくなればその分メンテナンスを行う本社の負荷もかかるので回りきれなくなるかも知れない。お客様も遠くの本社まで相談に行くのも縁遠く感じてしまうかも知れない。
そうなると、その地域のお客様に対する責任を果たせませんし、職人の雇用も守れず無責任なことをしてしまいます。それでは誰も幸せにならないなと思いました。だから、車で30分〜1時間くらいの商圏に絞って、地域に密着してやっていくべきだと、前者を選択。その分、商品でありサービスを広げていこうと決めました。
元々、会長が新潟から上京してきて地縁ゼロの状態から大工工務店としてスタートした会社なので、それまではあまり地域を意識したこともなかったですし、地域活動に熱心でもありませんでした。ビジョンを言語化したことを機に、どう地域と関わるかということを考えるようになりました。
以前は、分譲を含めて新築が85%、残りは不動産という割合だった同社だが、今は新築が50%、リフォーム25%、施設20%、不動産5%という割合になっている。商圏は車で30分〜1時間圏内だが、東京都内の遠方のお客様から同社で建てたいという要望があれば、環七通りから西側のエリアであれば商圏の拡大に伴う手間賃を頂いた上で対応することもあるという。商圏人口で言えば約2000万人規模であるが、商圏人口が売上を決める地方とは異なり、商圏という考え方はしておらず、同社のブランドのファン=マーケット規模となっている。
リフォーム・メンテナンス事業を花形部署に
経営理念の定義をきっかけに地域貢献や地域活動など、地域とどう関わるかが大きな事業要素となった同社。地域に根ざした工務店として成長していくためには、これまで引渡しをしてきたオーナー様に対して、会社として向き合わなければならないという想いが強くなったという。また、住宅はリピート率が低いため、売って終わりだとLTVの最大化には繋がらない。継続的な生涯取引をしていかなければならないが、事業としても自社顧客のLTVを最大化する施策をほぼやっていない状態だった。
当時、同社にはリフォーム事業はなく、会長の弟が経営をしていた別会社がリフォームを請け負っていたが、地域との関わりにおいてリフォームは必要不可欠になると考え、メンテナンスとリフォームを兼ねた部署を立ち上げた。そして、メンテナンスサポートのための有料会員制度「家守りの会」を発足し、オーナー様に向けて3〜4回に分けて説明会を開催した。
相羽氏: この件について会長に相談した時は、今まで引き渡し後のオーナーに対して積極的に顧客管理、定期的な接触をしてきていなかったということもあり、「寝た子を起こすな」と反対されました。それでも約1000組に招待状を送付したところ、600組の返信があり、説明会にご参加いただきました。最終的には、会長も説明会に登壇して、今までの対応についての謝罪、そしてこれからの当社の姿勢をしっかり説明してくれました。そのおかげもあり、結果的にはご参加いただいた600組からは1件もクレームはなく、そのうち300組には有料会員制度を選択していただきました。
「家守りの会」では3つの会員形式を用意し、メンテナンス業務を区分けして商品化。2年間は無料の定期点検で、3年目からは有料プランに移行するかどうか選択をする仕組みになっている。有料プランへの移行率は50%で、脱会率も低く、安定した会員数を確保できているという。OBだけでなく、自社施工以外のお客様向けのプランもあり、施工会社が倒産してしまったり、関係性が悪化してメンテナンス依頼をできないケースにも対応している。この会費収入により人件費が確保でき、専属の人員配置が可能になっただけでなく、点検で訪問した際に、リフォームの紹介にも繋げていける体制を構築した。
相羽氏: リフォームやメンテナンスは過去にお引渡ししたお客様になるため、引き渡し物件の多いベテランほどメンテナンス案件を抱えてしまう。かつ、メンテナンスには安心感を与える丁寧な対応が求められるので、誰でもできるわけではない。当社は定期点検をベテランが担当し、お客様との関係性構築してリフォームにしっかり繋げていくようにしています。点検の際には将来必要になる点検やリフォームについても、いつ・どれくらいの金額がかかるかをご提示するなど、点検、営業、FPとしてライフイベントで必要なお金の相談などの役目を担っています。10年間年1回ペースで顧客訪問していると、お引渡し時の担当よりメンテナンス担当のほうがお客様と親しくなっていますね。お金をいただくからこそちゃんと点検がサービス化できていて、10年以上の実績からお客様にも信頼を寄せていただいており、法人とメンテナンス契約をしているケースもあります。
メンテナンスサポートで固定費を賄うという観点は、FCと同じ考え方。現在、リフォームは4億の事業規模ですが、営業がいなくても紹介で賄えているのはメンテナンスサポートの仕組みのおかげです。「家守りの会」がブランドイメージを含めた当社の根幹になりつつあり、まだまだ伸び代はあると思っています。住宅業界は新築至上主義なところがありますが、今後、メンテナンスを花形部署にしていきたいですね。
相羽健太郎氏 相羽建設株式会社 代表取締役
メンテナンスサポート体制を構築した同社だが、修繕金についてはまだまだ課題があると言う。マンションには修繕積立金制度があるが、戸建ては施主任せになっているのが現状だ。子供を授かるタイミングで住宅を建てる人が多いなか、10年、20年と住み続け、いざ修繕のお金が必要な時には子どもの学費が必要になるタイミングでもある。本来将来の計画として見えているはずのライフイベントであっても、お施主様任せだとなかなか捻出できないというケースは多い。そうなると修繕が本来必要な住宅にそのまま住み続けなければならなくなり、結果としてオーナーのQOLを下げてしまうことに繋がりかねない。
相羽氏: 以前はお客様には新築時に修繕積立金代わりに生返戻金型の積立保険を提案したことも。返戻金型であれば元本割れはしないですし、当社も代理店として手数料収入があるのがメリットでしたが、現在は適切な商品がなくなってしまった。この問題は1社で取り組んで変えられるものではないので、業界規模で取り組んでいきたいですね。家づくりで一番大切な部分であるファイナンス部分をサポートできるような仕組みができたら良いと考えています。
職人の働きやすさを考慮し、現場までの移動範囲を限定することから地域密着型として、事業の多角化を行っていった同社。地域工務店としてやっていくために今まで注力していなかったストックの資産化のためにリフォーム・メンテナンス事業を立ち上げ、メンテナンスサポート「家守りの会」の管理ビジネスもスタートさせた。
自社の強みを明確にした上で既存顧客に対する真摯な対応から、職人を大事にする地場工務店としての矜持や、新築市場の縮小に備え、今まで向き合わずにいた引渡し後の顧客に真摯に向き直していったこれまでの10年の歩みといった、事業ポートフォリオの最適化を進めてきた同社のいわば第1.5創業期をお届けしてきた。
Vol.3では、創業50周年を迎え、第2創業期に突入した同社が取り組んでいる、これからの10年を見据えた職人育成の仕組み、デジタルの活用と今後の展望について伺う。
URL | https://aibaeco.co.jp |
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代表者 | 代表取締役 相羽健太郎 |
創業 | 1971年1月 |
所在地 | 〒189-0014 東京都東村山市本町2-22-11 |