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今さら聞けない 建設業の労務管理/ 人材確保のために今日からできること #07~前編~

就業規則について考えよう

目次

  1. 就業規則について
    1. なぜ就業規則が必要なのか?
    2. 外注(一人親方等)にも就業規則は適用されるのか?
  2. 就業規則作成のルール
    1. 就業規則の構成
    2. 就業規則の作成義務
  3. 就業規則の作成手順
    1. 最も重要なのは「周知」
    2. 就業規則に記載しなくてはいけないこと 
    3. 服務規律の重要性
  4. 就業規則作成のポイント
    1. 【試用期間】トラブルを防ぐ運用の秘訣
    2. 【年次有給休暇】制度の理解とルールの明確化
  5. 定着率をあげるために

少子高齢化が進む中、建設業において見逃せない重要なテーマの一つが「担い手確保」です。仕事はあるのに施工ができない、といった問題に直面する方も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、建設業において社労士として活躍する株式会社アスミルの代表 櫻井好美さんに、「人材確保のための労務管理」というテーマで解説いただきます。

建設業界でも人材確保が激化する昨今、働く人が会社を選ぶ基準は「給与」だけでなく、「安心して働ける環境かどうか」にシフトしています。その土台となるのが「就業規則」です。 「うちは人数が少ないから関係ない」「作っても誰も読まない」と思われがちですが、実は就業規則こそが、労使(※)トラブルを防ぎ、会社と社員を守るツールとなります。

(※)労働者(働く人)と使用者(会社・事業主)を合わせた言葉

第7回目となる今回は、「就業規則」がテーマです。意外と知らない「就業規則の基本」や「外注と社員の扱いの違い」、そして「トラブルになりがちな試用期間・有給休暇」について、わかりやすく解説します。

櫻井 好美 氏
社会保険労務士法人アスミル 代表
株式会社アスミル 代表取締役
一般社団法人建設業サポート室 代表理事
特定社会保険労務士 / ファイナンシャルプランナー / キャリアコンサルタント
大学卒業後、営業事務やコンサルティング会社での営業職に携わった後、社労士資格を取得し開業。国土交通省委託事業「建設業における労務管理セミナー」の他、大手ゼネコン協力店会や各企業安全大会、専門工事業団体において、「労務管理セミナー」「法定福利費セミナー」「建設業における働き方改革セミナー」等多数実施。

就業規則について

労働基準法において、就業規則の作成・届出義務が生じるのは「常時10人以上の従業員を使用する事業場」と定められています。しかしながら小規模な組織ではルールが明記されておらず、「社長に確認しないと分からない」という声もあり、属人的な運用になりがちです。

実は、従業員が抱く会社への不信感は、労働条件そのものよりも、こうした「ルールの不透明さ」や「判断基準の曖昧さ」に起因することが多いのです。従業員が安心して働ける職場づくりのためには、まずは社内のルールである就業規則を作成することが第一歩です。

なぜ就業規則が必要なのか?

就業規則とは、会社で働くときの労働条件やその会社のルールを決めたものです。パートやアルバイトといった雇用形態であっても、従業員を1人でも雇っていればそこには雇用関係が成立し、労働法は適用されます。最近では労使トラブルも増え、その原因の1つに経営者が労働法を理解していないことがあげられます。またルールが明確でないと求人票をだすこともできません。人を雇用する以上、人数規模に関わらず就業規則を作成することをおすすめします。

外注(一人親方等)にも就業規則は適用されるのか?

就業規則は「雇用」をしている従業員の方が対象です。「専属」であって外注費でお仕事をされている方は「請負」となり、労働法の対象にはなりません。そのため「専属」の方は就業規則の適用外となります。

就業規則作成のルール

就業規則の構成

就業規則は、大きく分けて、「法律で決まっている労働条件」と「会社のルールである服務規律」の2つの要素で構成されています。

・労働条件:賃金、労働時間、休日など、会社が守るべき契約内容 
・服務規律:挨拶、身だしなみ、職場の秩序など、従業員に守ってもらいたいルール

就業規則の作成義務

就業規則の作成・届出義務は、「会社単位」ではなく「事業所単位」で考えます。1つの事業所(本社、支店、営業所など)で10人以上の従業員がいる場合、就業規則を作成し、管轄の労働基準監督署へ届出をする必要があります。

【判断のポイント】
ここでの「従業員数」には、正社員だけでなくパート・アルバイトも含まれます 。 例えば以下のようなケースは、いずれも合計が10人以上となるため、届出義務の対象となります。

就業規則の作成手順

最も重要なのは「周知」

就業規則は、会社が主体となって自由に作成することができます。法律を下回ることなく、公序良俗に反することがない内容であれば、従業員の方々の同意は必要ありません。

労働基準監督署への届出時には「従業員代表者の意見書」の添付が義務付けられていますが、たとえこの意見書に反対意見が書かれていたとしても、就業規則そのものの効力に影響はありません。あくまで、意見を聞くという事実が必要になります。大切なことは従業員への「周知」です。

就業規則に記載しなくてはいけないこと 

就業規則には必ず記載しなくてはいけない「絶対的明示事項」と、会社でルールを定める場合には記載が必要となる「相対的明示事項」の2種類があります。

服務規律の重要性

「毎日寝不足で会社にくる社員がいるけど、どうしたらいいのですか?」「仕事時間中にスマホばかり見ている社員がいるのですが、どう対応したらいいですか?」等、法律で直接禁止されているわけではありませんが、組織として業務を遂行する上では守ってもらいたいことがあると思います。

「そんな常識的なことを、わざわざ就業規則に書く必要があるの?」ということも聞かれますが、世代や育ってきた環境が異なれば「常識」の基準も異なります。そのため会社の共通ルールとして、服務規律を利用しましょう。

【服務規律例】
・常に健康に留意し、明朗はつらつたる態度をもって就業すること
・業務上の失敗、ミス、クレームは事実を速やかに上長に報告すること
・服装などのみだしなみは常に清潔に保つこと

就業規則作成のポイント

ここでは、実際の運用でつまづきやすい「試用期間」と「年次有給休暇」について、作成時のポイントを解説します。

【試用期間】トラブルを防ぐ運用の秘訣

①試用期間はどんな期間?
試用期間とは、採用した従業員が「この仕事に向いているのか?」「勤務態度は問題ないか?」等、これから長く働いていけるのかの適正を見極める期間のことです。試用期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、試用期間が過度に長いことは、労働者の地位を不安定にすることからあまり好ましくはありません。一般的には3カ月~6カ月程度で設定することが多いようです。
【試用期間の延長】
試用期間の延長についても、根拠もなく使用者の都合で勝手にすることはできません。ただ、2カ月ほどが過ぎてくると使用者も「従業員として本採用しても大丈夫かな?」と感じることがあるかと思います。その際には試用期間の延長ができるよう、就業規則にも「試用期間を延長する場合がある」という規定を記載をしておきましょう。

②「試用期間なら解雇できる」は誤解
「試用期間中は、その人物の能力等を見極める期間だから、こちらの期待に見合わなければ解雇すればいいよね」とおっしゃる経営者の方がいます。これは大きな誤解です。試用期間であっても一度採用をした以上、労働契約は成立するため、簡単に解雇することはできません。労働契約を解消するためには、「客観的・合理的で社会通念上相当であるという理由」が必要になるため、就業規則には、「本採用の取り消し事由」というのを記載しておくことが望ましいでしょう。
【能力不足での解雇】
また、「能力がないからやめてもらう」といったお話をされる経営者の方がいますが、実務上はそう簡単ではありません。会社には従業員を教育、指導する義務があるため、単なる能力不足を理由に解雇することは法的にハードルが高いのが現実です。そのため、採用段階や試用期間中での最初の「見極め」が非常に重要になってきます。

前述の通り、試用期間はその人の人物や能力が自社にふさわしいかを評価・判断して本採用を決める期間です。法的には「解約権留保付労働契約」と呼ばれ、通常の本採用後に比べれば、解雇が認められやすい期間となっています。あくまで「客観的・合理的な理由」が必要であり、無制限に解雇できるわけではありません。
また、手続き面でも注意が必要です。 入社してから最初の14日以内であれば即時の解雇が可能ですが、「14日を超えて」しまった場合は、通常の正社員解雇と同様の手続きが必要になります。

具体的には、14日経過後に解雇を決めたとしても、その場ですぐに辞めさせることはできません。法律上、「解雇日の30日以上前に予告する」か、即時に解雇したい場合は「30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う」義務が生じます。

③雇用のミスマッチを防ぐ「有期労働契約」の活用
採用時の面接だけでは、実際のスキルや現場との相性を完全に見極めることは難しいものです。そこで、最初から無期雇用(一般的には正社員)とするのではなく、期間を定めた「有期労働契約(契約社員など)」からスタートするのも一つの方法です。
【有期労働契約のメリット】
有期労働契約とは、6カ月や1年といった期間を定めて労働契約を結ぶ方法です。 いきなり無期雇用(正社員)でスタートするのではなく、まずは期間を区切ることで、会社側は能力や適性をしっかりと評価でき、働く側も「この会社が自分に合っているか」を確認できます。万が一、適性が合わない場合でも、契約期間満了という形で契約を終了できるため、労使双方にとって「入社後のミスマッチ」によるトラブルを防ぐことができます。
【採用力と定着率を両立させる工夫】
一般的に、有期契約のみでの募集は、安定を求める求職者から敬遠されがちです。そこで有効なのが、募集要項に「正社員登用制度あり」と明記し、その実績や基準を示すことです。
これにより、「今は自信がないが、実績を積んで正社員を目指したい」という層や、「まずは現場を知ってから判断したい」という層へアプローチが可能になります。単なる期間契約ではなく、「正社員になるためのステップアップ期間」と位置づけることで、目標を持って業務に取り組んでもらえるため、結果として質の高い人材の確保と定着につながります。

【年次有給休暇】制度の理解とルールの明確化

①年次有給休暇とは?
年次有給休暇とは、業種、業態に関わらず一定の要件を満たした労働者に対して与えなければならない「賃金が支払われる休暇」のことです。正社員に限らず、日給者やパートタイム労働者であっても、要件を満たせば有給休暇は発生します。

②年次有給休暇の付与日数

パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者については、年次有給休暇の日数は所定労働日数に応じて比例付与されます。比例付与の対象となるのは、所定労働時間が週30時間未満で、かつ、1年間の所定労働日数が216日以下の労働者です。

③年次有給休暇の取得について
年次有給休暇は労働者の権利です。そのため労働者が請求した時季に与えるのが原則です。しかし、建設現場などでは、当日の朝に突然「休みます」と言われても、代わりの人員を手配できず現場が止まってしまう恐れがあります。そのため、就業規則において「有給休暇は〇日前までに申出をすること」といった取得のルールを決めておくことが重要です。

④その他の重要事項
年次有給休暇については、法律で定められた義務と、会社が導入を検討すべき制度があります。しっかりとルール決めをしておきましょう。

年5日の取得義務化(義務): 2019年より、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、年5日の取得が義務付けられました。従業員が自主的に取得しない場合、会社側が時季を指定して休ませる必要があります。
計画的付与制度(選択): 労使協定を結ぶことで、年次有給休暇の一部(5日を超える分)について、あらかじめ計画的に取得日(夏休みや年末年始など)を割り振ることができます。
時間・半日単位の取得(選択): 必要に応じて、1時間単位や半日単位で年次有給休暇を取得できるルールを設けることも可能です。

定着率をあげるために

今はインターネットで何でも調べることができる時代です。会社側が詳しく知らなくても、働く人たちは法律を知っています。従業員の方から質問をされ適切な回答が得られなければ会社への不信感につながってしまう恐れもあります。

就業規則は決して難しいものではなく、会社にとって必要なものです。今回は就業規則のほんの一部を紹介しましたが、これを機会にぜひ就業規則の見直しや作成にチャレンジをしてみてください。そして、専門家の方に相談をし、自社の風土にあったものを作成してみましょう。

後編では、現場で実際に起こりうるリアルな課題に焦点を当てます。 会社の秩序を守る「服務規律」や、トラブル時の「解雇・退職」のルールなど、経営者が知っておくべき「会社を守るための就業規則」について深掘りしていきます。

株式会社アスミル / 社会保険労務士法人アスミル
URLhttps://www.asmil.co.jp/
代表者櫻井 好美
本社〒270-0034 千葉県松戸市新松戸3-33 京屋ビル3F
  
寄稿: 櫻井好美(株式会社アスミル / 社会保険労務士法人アスミル)
企画・編集: 平賀豊麻、原澤香織、田中萌菜、齋藤夏美
デザイン: 横井香南、岩佐謙太朗

 

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