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秋野先生の寄稿コラム連載「教えて!秋野弁護士!建築業界の法律トラブル相談所」の第22回となる今回は、現場技術者の「専任義務」合理化について解説いただきます。
建設業界における技術者不足や資材高騰を背景に、建設業法施行令が改正され、現場技術者の配置基準が見直されました。
本記事では、専任義務の対象金額引き上げや、ICT活用を条件とした「兼務」解禁の具体的な要件を整理。さらに、緩和に伴う実務上のリスク対策や、ANDPADを活用して「責任を果たせる遠隔管理」を実現するためのポイントについて紹介していただきました。
2017年度 慶應義塾大学法科大学院教員(担当科目:法曹倫理)。2018年度慶應義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習(民法))。
2020年岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師に就任。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。
資材高騰・人手不足が招いた「専任義務」の限界と転換点
監理技術者等の配置と「専任」のルール
建設業者は、工事現場における施工の技術上の管理をつかさどるものとして主任技術者を置かなければいけません。発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者は、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額が一定以上の場合は、主任技術者ではなく監理技術者を置かなければならないとされています(現行の建設業法第26条第1項、第2項)。
また、主任技術者又は監理技術者(以下「監理技術者等」という。)は、公共性のある施設若しくは工作物又は多数の者が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるものについては、工事現場ごとに、専任の者でなければならないとされており(現行の建設業法第26条第3項)、重要な工事について、政令では請負代金の額が4,500万円(建築一式工事の場合は9,000万円)以上のものと規定されています(令和7年2月1日から近年の建設工事費の高騰を踏まえ、特定建設業許可をはじめとする各種の金額要件について見直しがなされました)。
工事現場における専任義務の原則と例外
なぜ一定金額以上の工事で専任の主任技術者が必要なのか。
工事の規模や複雑性が増す工事現場の場合、技術的な管理や品質確保、安全対策などの重要性が高まるため、建設業法は、主任技術者の専任配置を求めています。
単なる制度上の義務ではなく、工事の成功と安全を支える重要な仕組みです。上述の金額基準の引き上げは、物価や人件費の上昇を踏まえたもので、より現実的な運用を目指しています。

「専任」の定義と、エース級人材活用の課題
ここでいう「専任」とは、他の工事現場に係る職務を兼務せず、常時継続的に当該工事現場に係る職務にのみ従事していることを意味するものであり、必ずしも当該工事現場への常駐を必要とするものではありません。ですが、各建築会社のエース級の技術者を当該1現場だけに貼り付けにするのは、人材活用という観点から見ても、もったいない人の配置であり、ICTを活用することにより、管理の質を下げずに複数の工事現場を担当できるようになれば、業務効率が上がるし、技術者不足を補うことも可能となるはずです。
また、資材価格高騰に伴う工事金額の上昇が、専任を要する工事の増加につながり、技術者の負担がさらに増している問題もあります。
監理技術者・主任技術者の専任義務合理化の概要
専任義務の対象金額引き上げ
一つ目の改正ポイントは、前述の通り「金額要件」の見直しです。 2025年(令和7年)2月1日より、建設業法施行令の改正に伴い、技術者の専任義務が発生する請負代金の額が以下のように引き上げられました。
主任技術者の専任を要する工事
4,000万円 → 4,500万円 以上に引き上げ
(建築一式工事の場合は 8,000万円 → 9,000万円 以上)
この改正は物価や人件費の高騰に伴い、専任義務を要する現場が多くなってしまうことに対する対処としてなされています。
例外として認められる「監理技術者」と「主任技術者」の兼務要件
改正建設業法では、専任制がもとめられる現場技術者(主任技術者・監理技術者)について、下記の要件を満たせば兼任可能とし(第26条第3項ただし書、第4項)、令和6年12月13日に施行されました。
また、同じ要件を備えた営業所の専任技術者が専任工事について職務の兼務をすることも可能となり、こちらも令和6年12月13日施行されています。
【兼務が可能となる要件】
・請負代金の額が1億円(建築一式工事の場合は2億円)未満である
・兼任する現場間移動が容易である(1日で巡回可能かつ移動時間が概ね2時間以内)
・情報通信技術を利用し現場の確認ができる
・下請次数3次までとし、監理技術者等との連絡をする連絡員を配置した場合には、2現場まで兼任可能※特に問い合わせが多い「連絡員」「下請次数」「ICT機器」の具体的な運用ルールについて、このあと解説します。

出典:国土交通省【建設業法】現場技術者の専任合理化https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001854111.pdf
実務上の重要要件:連絡員・下請次数・ICT活用
現場技術者の兼務要件である連絡員
建設工事が土木一式工事又は建築一式工事の場合の連絡員は、当該建設工事と同業種の建設工事に関し「1年以上の実務の経験を有する者」が連絡員の要件です。
連絡員は、例えば工程会議や品質検査などが複数の工事現場で同時期に行われる場合に、監理技術者等が遠隔から指示を行う際、工事現場側でその内容を適切に伝達するなど、円滑な施工管理の補助(事故対応を含む)を行うことが役割です。
連絡員には、当該建設工事への専任や常駐を求めるものではありません。また、連絡員の雇用形態についても、直接的かつ恒常的な雇用関係は必要ありません。
「下請次数は三次まで」の数え方
「現場技術者の兼務要件の中に「下請次数は三次まで」とありますが、この数え方とは工事全体なのか、それとも自社からなのか教えてください。」という法律相談を多く受けます。
この点は、ICTを活用する自社が注文者となった下請契約から数えて、下請次数が3を超えていないことが必要です。なお、請負契約時の下請次数は3以内だったものの、工事途中に下請次数が3を超える場合、それ以降は専任特例を活用できず、配置技術者を工事ごとに専任で配置しなければなりません。
求められる「情報通信技術(ICT)」の水準
現場技術者の兼務要件のうち「施工体制を確認できる情報通信技術の措置」や「現場状況を確認できる情報通信機器の設置」とは具体的にどのようなものか。
例えば、一般的なスマートフォン・タブレット端末での連絡体制構築で足りるのか。もしくは、入退場管理システムやカメラ等により常時、遠隔からの状況確認が可能としなければならないのか。「現場状況」とは作業場全体?映像・音声両方必要?双方向のコミュニケーション可能も?といった法律相談も受けます。
この点は、配置技術者が、遠隔で工事現場の状況を確認できる映像及び音声の送受信が可能な情報通信機器が設置され、かつ、通信環境が確保されていることが必要です。なお、情報通信機器については、遠隔の現場との必要な情報のやりとりを確実に実施できるものであればよく、一般的なスマートフォンやタブレット端末、WEB会議システムでも差し支えありません。

法改正に伴う留意点と実務上のリスク管理
今回の改正は業務効率化の大きなチャンスですが、運用を誤れば重大なリスクにつながります。実務上のリスク管理として、以下の点に留意が必要です。
「形式的な配置」に終わらせないための注意点
兼務にあたっては、形だけの配置とならないよう、実質的な体制構築が求められます。
1.連絡員の役割を明確にする
連絡員は監理技術者等の遠隔指示を現場に伝達する補佐役です。工事の品質・安全・工程に関わる情報を正確に把握・報告できる体制を構築し、連絡員の役割を明確にすることが大切です。
2.実務経験のある人材を配置する
連絡員の実務経験は、主任技術者の経験と同様の考え方で認められます。単なる名義貸しではなく、現場対応力のある人材を選定する必要があります。
3.専任・常駐義務がないことを誤解しない
連絡員に専任・常駐は求められませんが、責任の所在は請負会社にあります。雇用形態は出向者でも連絡員になれますが、施工管理の補助責任は明確にしておく必要があります。
兼務のリスク:品質低下を防ぐ仕組みづくり
遠隔管理であっても品質を維持するために、以下の4つの仕組みを整備しましょう。
1.ICT活用による遠隔管理の強化
・Web会議、現場映像共有、電子施工記録などを活用し、技術者の指示をリアルタイムで伝達。
・遠隔でも品質・安全・工程の管理が可能な環境を整備します。
2.施工体制台帳の合理化と透明化
・台帳の作成義務が合理化される一方、記載内容の正確性がより重要になります。
・補佐体制や連絡員の役割も明記し、発注者との信頼構築に活かしましょう。
3.教育・研修の実施
・連絡員や補佐者に対して、施工管理・安全・品質に関する研修を定期的に実施。
・実務能力の底上げにより、名ばかり補佐を防止します。
4.責任体制の明文化
・契約書や施工体制において、補佐者の役割と責任範囲を明文化。
・万が一のトラブル時にも、対応責任が明確になります。
遠隔管理について
遠隔管理が可能になることで、現場における即時対応力が低下する懸念があります。こういったリスクを排除するために、遠隔管理でもリアルタイムで連絡を取り合えるICTを活用すること、リアルタイムに現場状況を把握できる仕組みを導入する必要性があるでしょう。
遠隔管理が可能になっても、施工管理の最終的な責任は請負業者が負います。
監理技術者や主任技術者が現場に常駐しない場合でも、品質・安全・工程の管理責任は変わりません。
おざなりな遠隔管理を実施することによるリスクは、そのまま請負業者のリスクとして跳ね返ってくるので、しっかりとした管理を実施する必要があります。
ANDPAD ONE編集部より
秋野先生の解説を踏まえ、ITツールは、「業務効率化」はもちろん、遠隔からでも「監督責任」を果たすための手段として再定義する必要があるのかもしれません。 特に重要になるのが、スマートフォンやタブレットを活用した「映像によるリアルタイム共有」です。ANDPADでは、こうした遠隔での現場管理やコミュニケーションの効率化を推進する「ANDPAD遠隔臨場」を提供しています。 本機能は、単なる映像確認に留まらず、ワンプラットフォームで「ビデオ通話」や「複数現場の状況一覧確認」が可能です。既存のANDPADアカウントで即座に利用でき、360度カメラや定点カメラ、ウェアラブルカメラなど多様なデバイスとも連携。図面と紐づいた画像管理や、リアルタイムな指示出しを通じて、法改正対応に不可欠な「確実な遠隔管理体制」の構築をサポートします。
「合理化」を追い風に、働き方と安全性を両立へ
収入と休日の両立へ、鍵は「建設DX」
建設業の働き方改革の推進により、4週8休以上の建築現場が増えてきました。工期を延ばせば可能なことであり、その分、現場諸経費は高くなるでしょうが、発注者から請負代金を支払ってもらえれば何の問題もない、むしろ、建設業界の魅力を高める取り組みであり、方向性は良いと思います。
他方で、現場職人の労働日数が減ることにより、収入ダウンとなってしまっては元も子もありません。従って、収入を維持・向上させながら、休日も確保する方策を考えていかなければならず、私は、建設DXの推進が鍵になると考えております。
法改正で明確になった「DXの努力義務」と「負担軽減」
国も「DXの努力義務」で後押し。ペーパーレス化のメリットも
今回の法改正では、兼務の緩和だけでなく、元請けが下請けに対してDX指導を行う「努力義務」や、ICT活用による公共工事での「書類提出免除」など、国全体でデジタル化を推進する方針が明確に打ち出されました。
これらは、建設業者がDXに取り組むための強力な追い風となります。
※この「DX努力義務」や「書類免除」の詳細については、非常に重要なテーマですので、また別の機会に詳しく解説したいと思います
これからの建設業への期待
建設業法の中に建設DXの位置づけが明確化された点は高く評価できます。 今回の法改正が、単なるルールの変更に留まらず、建設DXを一気に促進させ、業界全体の生産性向上を果たす転換点となることを期待しています。
| URL | https://takumilaw.com/ |
|---|---|
| 代表者 | 代表社員弁護士 秋野卓生 |
| 所在地 | 〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-8 第2紀尾井町ビル6階 |















