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少子高齢化が進む中、建設業において見逃せない重要なテーマの一つが「担い手確保」です。仕事はあるのに施工ができない、といった問題に直面する方も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、建設業において社労士として活躍する株式会社アスミルの代表 櫻井好美さんに、「人材確保のための労務管理」というテーマで解説いただきます。
人手不足が深刻化する今、社員の定着率向上には、心理的安全性の高い職場づくりが不可欠です。社員が自身のライフサイクルの中で予期せぬ出来事(育児、介護、自身の病気やケガなど)に直面した際も、「この会社なら安心して働ける」と思える環境があれば、人生の大きな転機で離職することなく働き続けることができます。第6回となる今回は、社員の「仕事と生活の両立」を支援するための制度に焦点を当てます。
株式会社アスミル 代表取締役
一般社団法人建設業サポート室 代表理事
特定社会保険労務士 / ファイナンシャルプランナー / キャリアコンサルタント
働く人を守る社会保険・雇用保険の各種給付金
社員の方が何らかの理由で仕事が出来ない状態の時、社会には様々な制度があります。もちろん、仕事をしていない期間に会社が給与を支払うことはありませんので、会社側もこれらの制度を正しく理解し、適切に運用することが求められます。本記事では、建設業の事業主や人事・労務担当者が知っておくべき、社員を支える公的制度とその正しい知識について解説します。
仕事中や通勤中のケガや病気への備え(労災保険)
仕事中や通勤途中でケガをし、お仕事ができない場合には、社員は労災保険の給付を受けることができます。休業した最初の3日間は労災保険の支給はないため、この3日間については会社が平均賃金の60%の休業補償を払う必要があります。4日目からの休業補償は労災保険から1日につき平均賃金の80%が社員に支給されます。

労災保険で受けられる主な給付、厚生労働省資料より作成
プライベートでの病気やケガへの備え(傷病手当金)
プライベートでケガや病気になった場合、会社には給与を支払う義務はありません。ただ、その休業期間、健康保険から傷病手当金という給付が社員に支給されます。
■傷病手当金
支給内容:標準報酬日額の3分の2に相当する額
支給期間:支給開始日から「通算」して1年6カ月
(注)最近では「がん」の抗がん剤治療等で、一定期間を入院し一度会社に戻り、再度入院といった闘病方法を繰り返される方もいます。健康保険の傷病手当金も、以前は給付がスタートした日から最大1年6カ月が支給されていましたが、現在は、同一の傷病については支給開始から通算して1年6カ月の支給が受けられるようになりました。そのため、仕事と入院を繰り返すといった両立支援も視野に入れていく必要があります。

出典:全国健康保険協会https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3040/r139/(注)建設国保や組合健保の場合、給付内容が異なりますので、加入している医療保険へ確認をしてください
育児・介護休業法の改正
令和7年4月、10月に育児介護休業法の改正がありました。今回の改正は就業規則の変更も必要になってきていますので、しっかり内容を確認しておきましょう。
少子高齢化が進む日本において、育児や介護と仕事の両立支援は、もはや、あれば良い制度ではなく、企業の責務です。特に、従来の女性だけが育児をするという考え方から脱却し、男性も育児に参画することが、女性の就業継続率を高める鍵となります。
育児休業と給付金
育児休業は、原則として子どもが1歳になるまで(延長事由があれば最長2歳まで)取得できる制度です。休業期間中は給与の支払い義務はありませんが、一定の要件を満たせば雇用保険等から社員に対して給付があり、会社も社員も社会保険料が免除されます。

給付のイメージ

2025年10月改正のポイント「柔軟な働き方が義務化」
特に、10月の改正では、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、柔軟な働き方を実現するための措置を会社として導入することが義務化されました。
会社は下記の5つの項目から2つを選び、社員の方はそのうちの1つを選択して利用ができるといった制度です。法律で義務化されていますので、「できない」ではなく、何ができるか?といった工夫をしていきましょう。
■柔軟な働き方を実現するための5つの項目
①始業時刻等の変更
②テレワーク等(10日以上/月)
③保育施設の設置運営等※べビーシッターの費用負担等でもOK
④養育両立支援休暇の付与(10日以上/年)※無給でもOK
⑤短時間勤務制度
法改正についての詳細はこちらをご参照ください:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf
介護休業と給付金
介護休業とは、社員が要介護状態(負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある家族(※)を介護するために取得できる休業です。介護休業の期間は、対象の家族1人につき、通算93日までです。93日以内であれば、最大3回にわけて休業することができます。
(※)要介護状態にある対象家族とは、配偶者(内縁含む)、父母(養父母含む)、子(養子含む)、配偶者の父母(養父母含む)、兄弟姉妹、祖父母、孫のことを指します。

ANDPAD ONE編集部より
育児・介護と仕事を両立しながら働くユーザー様のインタビュー記事もぜひご覧ください。
株式会社Lib Work様:https://one.andpad.jp/magazine/20690/
同社の工程コスト管理課は土日休み。学校や保育園が休みである土日に合わせて休むことができるので、子育てをしている世代にとっては、働きやすい環境を組織づくりとDXで構築されています。
坂井建設株式会社様:https://one.andpad.jp/magazine/19540/
2018年からANDPADを取り入れ、生産性向上に向けて分業体制を整えている同社。子育て、介護など多様な生活スタイルに合わせて柔軟に働ける環境を整備されています。
東海イーシー株式会社様:https://one.andpad.jp/magazine/11811/
介護や出産、育児。社員のライフステージの変化に、会社として対応できる体制整備に取り組む同社。リモートワークの推奨や社員のサポートもあり、工事管理など在宅勤務が可能なポジションも用意されています。
株式会社建.LABO様:https://one.andpad.jp/magazine/7130/
産休・育休を経て限られた時間で生産性高く働く必要を感じた女性社員がANDPADの活用で自分が仕事を抱え込むのではなく、社員それぞれ自分でできることを自分で行えるような仕組みを構築されました。
旭ホームズ株式会社様:https://one.andpad.jp/magazine/7196/
同社は、広島県で初の男性育休を取得されました。ANDPADを活用することによるスムーズな「仕事の引き継ぎ」も育休取得の後押しとなったようです。
オーガニックスタジオ新潟株式会社様:https://one.andpad.jp/magazine/4501/
ANDPAD導入でリモートワーク環境を整備した同社は、社員が現場を離れても業務を継続できる体制を実現。産休・育休を経て復帰した社員が家庭・仕事の両立を実感するなど、多様な働き方を支える体制を構築されています。
株式会社小川防災様:https://one.andpad.jp/magazine/11807/
内勤で現場を支えている同社の業務サポート課では、現在13名の社員のうち4名の社員が産休・育休を取得。子育てと仕事を両立できる環境を整備されています。
蟹澤教授 × 女性技能者協会 イベントレポート:https://one.andpad.jp/magazine/12774/
芝浦工業大学 建築学部 教授の蟹澤 宏剛氏と一般社団法人女性技能者協会 代表理事の石川由希恵氏などが「制度と女性の定着」というタイトルでパネルディスカッションを実施した内容をレポートにまとめています。
定着率をあげるために
女性の就業率は向上していますが、依然として出産・育児による離職が多いのも現実です。核家族化が進み、女性だけでなく男性も育児に参画をしていかないと、女性の就業率は上がっていきません。また最近では、団塊世代の高齢化に伴い、親の介護に関わる40代~50代の離職も増えています。育児も介護も、その対応が必要な期間は一時的なものです。この時期に「辞めさせない」という選択こそが、企業にとって最大の人財確保になります。会社として両立支援の制度をしっかりと定着させることで、働けない状況の時にも助け合う職場環境が醸成され、結果として社員は安心して働くことができます。病気や育児、介護等と仕事との両立支援は、社員の長期的な活躍を支援し、企業の成長を持続させるための、極めて有効な経営戦略なのです。
| URL | https://www.asmil.co.jp/ |
|---|---|
| 代表者 | 櫻井 好美 |
| 設立 | 2014年9月 |
| 本社 | 〒270-0034 千葉県松戸市新松戸3-33 京屋ビル3F |
















