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今さら聞けない建設業の労務管理 / 人材確保のために今日からできること #01

「働き方改革」は何のため?

目次

  1. 仕事と生活の両立のために、建設業において多様な働き方の導入が急務
  2.  「時間外労働の上限規制」だけじゃない。建設業の働き方改革を改めて解説
    1. 年次有給休暇の年5日取得義務(2019年4月)
    2. 労働時間の状況把握の実効性確保(2019年4月)
    3. 同一労働同一賃金(2021年4月)
    4. 月60時間超の割増率アップ(2023年4月)
    5. 時間外労働の上限規制(2024年4月)
  3. 建設業における働き方改革の目的は「生産性向上」

少子高齢化が進む中、建設業において見逃せない重要なテーマの一つが「担い手確保」です。仕事はあるのに施工ができない、といった問題に直面する方も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、建設業において社労士として活躍する株式会社アスミルの代表 櫻井好美さんに、「人材確保のための労務管理」というテーマで解説いただきます。

第1回目となる今回は、建設業における「働き方改革」がテーマ。なぜ、建設業において働き方改革が重要なのか。原点に立ち返り、改めて振り返って見ていきましょう。

櫻井 好美 氏
社会保険労務士法人アスミル 代表
株式会社アスミル 代表取締役
一般社団法人建設業サポート室 代表理事
特定社会保険労務士 / ファイナンシャルプランナー / キャリアコンサルタン
大学卒業後、営業事務やコンサルティング会社での営業職に携わった後、社労士資格を取得し開業。国土交通省委託事業「建設業における労務管理セミナー」の他、大手ゼネコン協力店会や各企業安全大会、専門工事業団体において、「労務管理セミナー」「法定福利費セミナー」「建設業における働き方改革セミナー」等多数実施。

仕事と生活の両立のために、建設業において多様な働き方の導入が急務

建設業に時間外労働の上限規制が施行されてから1年が過ぎましたが、十分な対応はなされていますでしょうか? 1年を経過してみると、私がお手伝いをさせて頂いている会社も二極化しているような気がします。「働き方改革」を労務管理の変革のチャンスの時期ととらえ前向きに取り組んでいる会社と、「現場は土曜日もやっているのに、働き方改革なんて出来るわけがない」と否定的なお話をされる会社です。人手不足は建設業に限った話ではありません。「働き方改革」をクリアしていくことは大変なことかとは思いますが、対応できていない会社であれば、今後新しい人が入ってくるのは難しいかもしれません。建設業における最終的な目的は「担い手確保」です。「できない」ではなく「どうやったらできるのか?」という視点で考えていただければと思います。そのために、なぜ「働き方改革」がスタートをしたのか、なぜ「働き方改革」が必要なのかを振り返ってみたいと思います。

下記の表をみてみましょう。この表でもわかるように、日本の人口は減少をし続けています。それと同時に高齢化が進んでいることがわかるかと思います。

65歳以上の高齢者の割合が増えるということは、年金受給者が増え、国としても社会保障費が膨らみ経済発展が難しい状況になってくることを意味します。今までよりも少ない生産年齢人口で、今までのような利益をあげていくためには、これまで以上に生産性の高い働き方をしなくてはなりません。

また2025年には、団塊の世代の方が全員75歳以上となり、後期高齢者に突入します。いわゆる「2025年問題」です。それに伴い、団塊ジュニア世代は、介護にかかわる確率があがっていきます。今は、昔のような大家族は珍しく、核家族化が進んでいますから、これまでのように女性だけが介護に関わるのではなく、男性も介護に関わらざるを得ない状況になってくるわけです。

団塊ジュニア世代といえば「残業はあたりまえ」で育ってきた世代です。この方たちが親の介護等で残業ができなくなってきます。今までは、時間制限のある働き方をしているのは育児に関わることの多い女性ばかりでしたが、これからは誰もが時間制限のある働き方を選ばざるを得ないのです。

そういった意味で、「働き方改革」は、決して「早帰り運動」ではなく「生産性を上げていくこと」であり、仕事と生活を両立していくための多様な働き方等を導入していかなくてはならないのです。

 

 「時間外労働の上限規制」だけじゃない。建設業の働き方改革を改めて解説

働き方改革には、時間外労働の上限規制だけではなくその他にもあることを忘れてはいけません。上限規制以外についても確認をしていきます。

 

年次有給休暇の年5日取得義務(2019年4月)

年次有給休暇は、本来、働いている人が好きなときに取得することができる休暇です。この法改正では、年10日以上の有給休暇付与者が有給休暇を取得しない場合、事業主が時季を指定してでも、年間最低5日は取得させなくてはいけないというものです。未だに建設業では日給月払の人がいます。「元請から有給休暇分のお金をもらっていないから、自社の社員たちに有給休暇を付与できない」「今まで有給休暇はやってこなかった」「日給なのに有給休暇があるの?」「雨の日や年末年始の仕事がない分は払ってきたから、有給休暇なんてない」等、いろんなことが聞かれます。

日給者であっても給与をもらう人は労働基準法の対象になるため、年次有給休暇は法定通り付与されるのです。今回の法改正では、事業主に取得させる義務が課せられ、取得させない場合は会社に罰金がありますので要注意です。

加えて、有給休暇は5日だけではありません。最低5日の取得であり、それ以上の付与がされている場合は当然取得ができますので、社内で取り方のルールの徹底等を注意していきましょう。

労働時間の状況把握の実効性確保(2019年4月)

「労働時間の状況把握の実効性確保」を噛み砕くと、「労働時間の適正な管理」のことと捉えてよいでしょう。日給者の方がいる会社さんは、社員の労働時間は出面表で管理をしているかもしれません。日給ですから給与の支払いに関して出面表を使っても構いませんが、それはここでいう「労働時間の適正な管理」とは言えません。「労働時間の適正な管理」には、仕事の始まりと終わりの時間(始業と終業の時間)を記録することが必須です。

建設業はどうしても工期がある仕事であるため、日々の時間管理(始業・終業の時間の管理)という考え方が浸透しづらいのかもしれません。しかしながら、適正な時間管理をすることで個々の仕事のやり方、会社としての業務の効率化を図っていくヒントが見つかっていきますので、まずは適正な労働時間管理を徹底しましょう。

さらに、できるだけ客観的な方法の記録が求められています。最近では多くの勤怠アプリがでています。働き方改革が始まり、有休の管理、時間管理等労務管理の手間が増えていますので、アプリの活用で労務管理の効率化を図っていくのも効果的です。

 

同一労働同一賃金(2021年4月)

同じ会社で働く正社員と非正規社員(契約社員・パート社員等)との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されています。改めて自社の雇用形態の整理、待遇について整理をしていきましょう。

月60時間超の割増率アップ(2023年4月)

法定労働時間を超えて働く場合の割増率が変更になりました。日給者であっても、1日8時間1週40時間を超えた場合には割増賃金が必要です。そしてこの改正では、中小企業であっても1カ月の時間外労働が60時間を超える場合には、割増率がアップされています。確認をしていきましょう。

 

時間外労働の上限規制(2024年4月)

労働時間の原則は1日8時間1週40時間です。これを超えて働く場合には、労働者と使用者とで話し合いをし、残業時間の上限を決める必要があります。この残業時間も原則は1カ月45時間年間で360時間と定められていますが、どうしてもこれ以上残業をする可能性がある場合は特別条項といい、原則を超えて働くことができます。しかし無制限に働くことができるわけではなく、この特別条項に上限がつけられたのが、2024年4月からの時間外労働の上限規制となります。すでに施行されていますので、再度確認をしてみてください。

 

建設業における働き方改革の目的は「生産性向上」

今回、改めて働き方改革を振り返ってみました。働き方改革とは、決して「早帰り運動」ではありません。誰もが時間制限のある中で働き、その中で今までのような利益を上げていく、いわゆる「生産性向上」が本来の目的なのです。

働き方改革をよい機会と捉え、自社の労働環境を見直してみましょう。採用も大切ですが、人口が減少している中、今までのような採用は難しいのです。まずは、今、在籍している社員の方たちが辞めない、定着率をあげる仕組みづくりを検討していきましょう。日給月払から月給制への取り組み、社会保険の整備、社内のルールの整備、給与の決定方法、福利厚生等、課題はたくさんあるかと思います。私たちの最終的な目的は「担い手確保」です。最終的な目的を忘れることなく、まずは第一歩を踏み出していきましょう。

株式会社アスミル / 社会保険労務士法人アスミル
URLhttps://www.asmil.co.jp/
代表者櫻井 好美
所在地〒270-0034 千葉県松戸市新松戸3-33 京屋ビル3F
寄稿: 櫻井好美(株式会社アスミル / 社会保険労務士法人アスミル)
企画・編集: 平賀豊麻、原澤香織
デザイン: 岩佐謙太朗
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