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一般社団法人もりまちレジリエンスが企画・運営を行う、ものづくりの拠点「FABLABO MORIMACHI(もりまちクリエイティブセンター)」のオープニングイベントが4月9日、徳島県徳島市国府町にて開催されました。
本施設は、山の整備から製材、建築、プロダクト開発までを一体で繋ぐ、新たなものづくりの拠点です。施設内にはCNCルーター等のデジタル環境を備え、設計者・工務店・学生・企業が協働して地域資源の循環と担い手育成を目指します。
当日は、第一部の「ちょうどいい材木ラジオ」公開収録に、パーソナリティの井上達哉さん・山川知則さん(ともにVUILD株式会社)、ゲストの大岡将友さん(株式会社阿波林材)が登壇。第2部のクロストーク「循環は、デザインできるか?」には、秋吉浩気さん(VUILD株式会社)、大久保仁史さん(大久保林産業株式会社)、鎌田晃輔さん(株式会社誉建設)が登壇しました。
会場では地域や職種の垣根を越えて、これからのものづくりと産業の未来を共につくる熱い対話が交わされました。
「もりまちレジリエンス」とは
はじめに誉建設の大道映典さんがもりまちレジリエンスの設立経緯や活動内容について紹介しました。

株式会社誉建設 大道映典さん
大道さん: もりまちレジリエンス(※1)は2022年に設立され、2026年の7月で5期目を迎えます。事業内容は山林事業、開発事業や防災事業など多岐にわたります。主に県産材木材の伐採から流通、県産材の利用などについて考えており、その一つとして、FABLABO MORIMACHI(もりまちクリエイティブセンター)(※2)をオープンさせていただきました。
(※1)もりまちレジリエンスは、植林された森が抱える問題を広く伝え、解決することを目的としたプロジェクトです。(https://www.morimachi.or.jp/)
(※2)FABLABO MORIMACHI(もりまちクリエイティブセンター)
山の整備から製材、建築、プロダクト開発までを一体で行う「もりまちレジリエンス」の活動から生まれたものづくりの拠点。地域材の利用促進と担い手・クリエイターの育成を目的に、設計者・工務店・学生・企業が協働し、試作や実験、学びの機会を創出。地域資源の価値向上と持続可能な地域循環の創出を目指す。
この活動を始めたきっかけは、FABLABOがある国府町周辺の防災活動を考えたことにあります。地域の自然防災を守るためには、もともとの川上である神山町の山の整備から始めなければならないという結論に至りました。しかし、現在、山を守るための「木こり」が決定的に不足しているという現状があります。そのため、私たちはゼロから木こりを育て、彼らのサポートをしなければならないと考え、活動をしています。
森を地域産業に開く「河川流域型ウッドローカルエコシステム」
もりまちレジリエンスでは、林業や森の中だけで課題を解決するのではなく、「森を地域の産業へ開く取り組み」を推進しています。そして、森をすべての産業とつなげる「河川流域型ウッドローカルエコシステム」という仕組みを構築しました。

大道さん: 現在は約30社におよぶ個人・法人の会員が参入しており、一つの産業にとどまらず、様々な産業にまたがった取り組みを展開しています。近年では、当初の山(林業)のことだけでなく、海の漁師や農家とも連携を始めており、農業や漁業単体では解決できない課題を他の産業も巻き込んで「地域で解決する」という体制を作っています。
もりまちレジリエンスの実績とプロダクト
仕口加工機(※)(プレカット機械)を導入していることも大きな特徴です。杉などの地域の県産材は多く流通するものではないため、通常のプレカット工場では加工を断られるケースが多くあります。そのため、阿波林材が所有する工場にこの加工機を導入し、県産材をスムーズに使える環境を整えました。これまでの具体的な成果や活動は以下の通りです。

(※)1階には仕口加工機を設置している
・徳島県庁の木質化事業:昨年、徳島県庁のPR事業プロポーザルに採択され、もりまちレジリエンスのメンバーで徳島県庁の展望スペースと食堂の木質化を担当しました。
・普及・教育活動:防災活動や職人の技術、一次産業の魅力を広げるイベントのほか、インターンシップなども実施し、山や森に関する普及活動を行っています。
・「よりみちベンチ」:通常はすぐに薪やチップになってしまう最も等級の低い木材である「C材」を製材し、ベンチとして活用しています。外に置かれたベンチはいずれ朽ちていきますが、その後に人がチップにします。ベンチとしての機能を“寄り道”させることで、木材の機能価値を高めると同時に、県産材の消費拡大につなげています。

等級の低い木材を製材し、ベンチとして活用している「よりみちベンチ」
テーマ「循環はデザインできる」
プログラムのスタートに先立ち、進行を務める大道さんは、今回お披露目となった拠点で、これからの地域循環の核となる「もりまちクリエイティブセンター」がどのような場所なのか、今回のテーマに込めた想いや、建物の構造について語り始めました。
大道さん: 私たちのテーマ「循環はデザインできる」を見直すべく、イベントのテーマに設定しました。
「FABLABO MORIMACHI(もりまちクリエイティブセンター)」は、もりまちレジリエンスが運営を行っており、建物の構造は以下のようになっています。
1階(プロの場所):大工さんが普段、墨付けをして仕口を切り、県産材で家を建てるためのプレカットを行う加工工場となっています。
2階(一般に開かれた場所):総務省の「ローカル10,000プロジェクト」(※)の補助金を活用して開設されました。プロユースにとどまらず、ものづくりに関心がある企業・一般・個人・子どもまで誰でも使える場所です。(※)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/local10000_project.html
大道さん: 2階には、VUILD株式会社から購入した、建築から小さいものまで何でも作れるCNCルーター「ShopBot(https://shopbot.vuild.co.jp/)」をはじめ、3Dプリンター、シルクスクリーン、レーザーカッターなど、自動で加工ができるデジタルファブリケーション機器を多数揃えています。これらを通じて、誰もが「ものづくり作家」になれる場所です。この場所を作ったのが島津臣志建築設計事務所の島津臣志さんです。

「FABLABO MORIMACHI(もりまちクリエイティブセンター)」の1階

2階にあるデジタルファブリケーション機器の1つの「ShopBot」
第一部「ちょうどいい材木ラジオ」公開収録in徳島
木材業界で圧倒的な人気を誇るポッドキャスト番組「ちょうどいい材木ラジオ」(※)。その公開収録イベントの第一部が、熱気あふれる会場でスタートしました。パーソナリティを務めるのは、VUILD株式会社の井上達哉さんと山川知則さんです。株式会社阿波林材の代表取締役・大岡将友さんをゲストに迎えました。会場の参加者の皆様と交流しながら、「森と素材、人の“ちょうどいい”距離感」というテーマで軽快なトークを行いました。
(※)公式サイト:https://chodoii-zaimoku-radio.studio.site/
第一部の公開収録した回は下記のリンクよりお聴きいただけますhttps://open.spotify.com/episode/6lt021FkhrnVUsKVyAebmx?si=6617a90c60294f62
川上から川下までを繋ぐ「もりまちレジリエンス」のビジョン
井上さん: この「もりまちレジリエンス」という大きなビジョンは、一体どのようにして生まれたのでしょうか?

VUILD株式会社 COO 井上達哉さん
大岡さん:もりまちレジリエンスの代表理事は株式会社誉建設の代表の鎌田さんが務めていまして、弊社(阿波林材)と誉建設さんは以前から仕事でお取引をさせていただき、個人的にも仲良くしていました。ある時に鎌田さんに呼ばれて伺うと、「林業をしようと思うんだけど、どう思う?」と聞かれたんです。鎌田さんによると、もう仲間は揃っているとのこと。理事の林業をしている大久保林産業株式会社さん、切った木を運ぶ有限会社井貝重機さん、木を使う誉建設(さん)まではできているから、「製材をできますよね?」と言われまして、もちろん「やります、やりましょう!」とお答えしました。目的は地域の防災です。

株式会社阿波林材 代表取締役社長/もりまちレジリエンス理事 大岡将友さん
井上さん: その目的は、先ほどもお話にあった「地域の防災」や「町を守る」ということなんですね。
大岡さん: はい。地元の町を守るためには、人口減少や林業の衰退を食い止めなければなりません。全国どこも一緒だと思いますが、なんで担い手が減っているかというと、危険な仕事にもかかわらず給料が低いからです。そこを解決するために、山側の木を高く買って、その木で家を建てていくというサイクルを目指しています。林業に携わる方々の当日の日当を、現在の1万1000円ほどから、将来的には2万円くらいまで引き上げることを目標にしています。
山川さん: それは本当に熱い思いですね。でも、少し斜に構えた見方をすると、製材所というのは本来、極力原木を安く買うことで利益を出すのが一般的な商売ですよね。

VUILD株式会社プロジェクトデザイナー 山川知則さん
大岡さん: おっしゃる通り、それが商売ですよね。ただ、私の父親である会長がもともと起業する前に原木市場のセンター長をしていたので、丸太を売る側、つまり山側の視点に近い考え方がもともと根底にあったので、鎌田さんからお話をいただいた時も「そうだね、高く買わなければ」と再認識しました。
井上さん: もりまちレジリエンスの皆様のご関係性について教えてください。
大岡さん: もりまちレジリエンスの関係性を一言で説明するのは難しいのですが、共通しているのはメンバー全員が「徳島が好き」ということです。

山川さん: 地元愛ですね。普段からそのようなお話をされているのですか?
大岡さん: 実は、普段の会話で「徳島が好きだよね」と言葉にしたことはなかったんです。でも、「なんで自分たちはこんな活動を続けているんだろう」と突き詰めて考えていくと、やっぱり徳島が好きで、自分たちの子供やその次の世代にも同じように徳島が好きで、徳島で豊かに暮らしてほしいからやってるんだな、と気づきました。
経済合理性を超えた思いと投資
活動の異色さは、信頼関係だけでなく、各経営者が自社の利益を超えて行う「投資の規模」にも現れているようです。資金のない社団法人のために、理事たちが自社で数千万円もする高性能林業機械を買い揃え、自分たちではなく、森を育てる若手や仲間のために使わせているという驚きのエピソードが明かされます。

井上さん: 私が本当に驚愕したのは、発足当時に林業のサポートを始める際、重機や機械が必要になったときのお話です。もりまちレジリエンス自体には資金がない中で、ある理事が「じゃあ、私が買います」と言って、数千万円もする高性能林業機械を2台も自社で購入したそうですね。しかも、それを自分たちが使うわけではなく、仲間が活用している。普通は投資対効果や回収の算段を考えてビジネスをやるものですが、徳島が好きだから数千万円を投資するということでしょうか?
大岡さん: みんな「徳島が好き」だから、ということに尽きるのかもしれません。実は、私たちが今いるこの場所も、もともと阿波林材所有の2階が空いていたので、「FABLABOにするのがいいんじゃない?」と言われて、「もりまち」のためになるならやりますと引き受けた場所なんです。1階の仕口加工機もそうです。みんなで少しずつ、いや、かなり腹を痛めて持ち寄っている構造です。下のプレカット機械なども含めて、誉建設さんの社員さんが「私たちの機械、私たちの場所」という意識でいてくれるのが、私はとても嬉しいです。
阿波銀行との信頼関係
さらに話は、この阿波林材の施設投資における融資のスキームへと進みます。直接的な収益を生むわけではない「FABLABO」の設置に対し、地元の阿波銀行が融資を実行したという、裏話が語られます。
井上さん: さらに深く聞きたいのは、大岡さんが自社で融資を受けてこのもりまちレジリエンスの拠点に投資されているという点です。潤沢な余剰資金を出しているわけではなく、大変な製材事業の中で融資を受けて投資している。普通の金融機関であれば、FABLABO単体での回収計画を見て「直接的な収益はどこで生み出すのか、これでは融資は無理です」と断るかと思いますが、地元の阿波銀行さんはなぜこれを承認してくれたのでしょうか?

大岡さん: 今回は地元の阿波銀行さんの担当者さんがもともと別の金融機関にいらっしゃって、そちらにいたときにコロナの補助金事業のサポートをしてくださって、そのご縁で。
収益性を阿波林材のどの部分で生み出すかを書かなくてはいけないのでそこが一番苦労しました。直接的にこのFABLABOで木材の切れ端を使ってコースターを作り、その売上で何年かけて設備投資を回収するか……という計算をしたら絶対に貸してもらえません。
ただ、私が立てた計画は、「ここで様々な人が出会って、徳島県の木を使って家を建てたいなという人が生まれた時に、間接的に回り回って誉建設さんの家を建てる、阿波林材の住宅発注が来る。そういう間接的な回収計画を立てたい」というものでした。これを理解してくださって、銀行内で通してくださったことに本当に感謝しています。
井上さん: 地域のために活動している方々にきちんとお金が回るようにしてくれてるっていうのは地域金融として本当に素晴らしいですね。実は、今日その阿波銀行の担当者である山本さんが会場にいらっしゃっていると伺ったのですが……ちょっと無茶振りですが、ステージ前にお越しいただけますか?
客席から呼び出された阿波銀行 地方創生推進部 サステナビリティ推進課(現・阿波銀コンサルティング株式会社)山本江美子さんが登壇し、当時の審査の舞台裏を明かしました。

阿波銀行 地方創生推進部 サステナビリティ推進課(現・阿波銀コンサルティング株式会社)山本江美子さん
山本さん: もともと補助金申請のサポートを通じて大岡さんと知り合い、林業について猛勉強する中で、「阿波林材さんが栄えることが最終的には山に還元され、徳島県の林業全体が栄える」と痛感し、心から応援したいという想いが根底にありました。
融資については事業の将来性や地域への波及効果などを踏まえ、社内で検討を重ねた結果、関係部署に中長期的な事業展開や地域内での経済波及効果を踏まえた事業計画として評価を得て融資の実行に至りました。そして徳島県が推進する「ローカル10,000プロジェクト」などの制度において、県が最も強い反応を示したのがこのプロジェクトでした。
さらに、阿波林材という企業の屋台骨の強さと、大岡さんの描く将来の事業計画がしっかりしていたからこそ、この融資が実現したと太鼓判を押しました。
井上さん: 素晴らしいお話ですね!一社で起こせるインパクトよりも、もりまちレジリエンスという全体のエコシステムで起こせる経済波及効果を重視することで、結局それぞれも儲かるのではないか、というところを銀行や県がしっかりと納得してくれた。そして何より、最後は「熱意」が動かしたということですね。
大岡さん: 私一人の能力だけでは阿波林材をこれ以上大きくすることはできませんが、横を見れば誉建設の鎌田さんや他の理事がいて、お互いに同じ経営者としてリスペクトし合っています。私は仲間のおかげで「もりまち」が大きくなれば、結果として阿波林材も大きくなっていく、という考え方です。

井上さん: 普通なら自社の中に林業部門や住宅部門を作って一社で内製化しようとするところを、それぞれの会社の役割と関係性をリスペクトし、現在は約30社までパートナーシップを広げている。先に徳島が元気になるというこの全体性こそが素晴らしいですね。
「友達経済」と「信頼資本」が生み出す新しい循環
毎月1回の定例会を通じて、強い思いで結ばれているもりまちレジリエンス。井上さんは、この関係性を「友達経済」や「信頼資本」という言葉で表現します。
井上さん: 私はこのもりまちレジリエンスを知ってからずっと興奮しているのですが、先日ある友人と会話した際に、これまでの経済は、炎上商法やSNSの評価経済のように、競い合ったり目立ったりすることで認知を広げるシステムが主流だった。しかし、もりまちレジリエンスの取り組みは、まさに「友達経済」なのではないかと話していました。信頼という資本があるからこそ経済的な取引が始まり、地域の環境資本や文化的な繋がり、関係性をこれからどんどん増やしていく。その結果として、再び経済的な資本が大きくなって回っていく。明確なルールや規約がない絶妙なバランスの中でこれが保たれているのが、定量化や言語化は難しくとも、逆に素晴らしい再現性を秘めている気がします。
大岡さん: 実は、最近「そろそろ規約や会則を作った方がいいんじゃないか」という話を昨日ちょうどここでしていたところです。ただ、自分たちの持っている器以上に組織が大きくなってギスギスしてしまわないよう、まずは自分たち自身が成長していこう、という話をしています。

井上さん: 徳島の未来という、自社の枠を超えた壮大なビジョンを掲げているからこそ、これだけ多くの人がまとまり、活動できるんですね。
大岡さん: そうですね。ただ、私たちはみんな熱い想いはあっても言語化が苦手なんです(笑)。それを、きちんと整理してスライドなどに言語化してくれる大道さんのような存在がいるからこそ、この熱量が正しく伝わって、チームが成り立っています。
クロス×トーク テーマ:循環は、デザインできるか?̶̶“距離”を設計する
第2部では、VUILD株式会社代表の秋吉浩気さんによる講演を受け、誉建設の鎌田晃輔さん、そして大久保林産業の大久保仁史さんがステージに登壇。ファシリテーターの大道映典さんを交え、それぞれの立場から「いかに生活者に地域の木を届けるか、その循環の作り方」について、さらに深いクロストークが展開されました。
「建築の民主化」がもたらす新しい社会
クロストークに先立ち、秋吉さんは、デジタルテクノロジーを活用し、専門家や富裕層のものだった建築を市民の手に取り戻す「建築の民主化」のこれまでの歩みを紹介しました。
秋吉さん: 私は大学のときに、どうやって人間のレジリエンスを高めていくのか、自分でどうやって自立して生きるのかということを考えました。安くて、ほとんど誰でも手に入れられて、小さな規模で応用でき、人間の創造性を発揮させる技術があれば、各地域が自立して困ったことがあってもすぐ対応できる社会ができると考えたのが私たちの原点です。今では、これまでのように手先が器用でなくても、デジタルに慣れている子やデータを器用に作れる子ほど優れたものが作れるというパラダイムシフトが起きています。

VUILD株式会社 代表取締役CEO 秋吉浩気さん
現在、建設業界が抱える「建築費の高騰」や「職人不足」という深刻な課題に対しても、VUILDは設計から加工・施工までをデジタル技術でつなぎ、全く新しいアプローチで効率化とコスト削減を図っています。
秋吉さん: 昨今、建築費が高騰し、職人が減少する中で、見積もりに時間がかかったり、予算が合わなかったりする課題に対し、私たちはAIを活用した自動見積もりツールを開発しました。また、2億〜3億円する大型のプレカット機械の超安価版(4分の1程度の価格のもの)の開発にも注力しています。これを用いて角材を削り、建築のモジュール(部品)を工場で製造することで、東京の日本橋に建てたビルでは外壁躯体工事がわずか2日で終わりました。
VUILDの実践は、地域の木材と地元の人々を巻き込んだ参加型の建築プロジェクトとして、日本全国へ広がっています。例えば、香川県の小豆島ではオリーブ農家の社員100人と共に原木調達から加工まで行い、秋田県五城目町では5棟連棟の集合住宅を建設しています。

秋吉さん: 私たちの実践は、高知県での半径5km圏内のパビリオン創出から始まり、富山県五箇山での半径10km圏内サプライチェーン、小豆島での未経験者100人によるオリーブ農家の循環建築、さらにはボランティアと共に30日で行った震災復興住宅の再建など、日本全国に広がっています。
現在は福島市で、地域の人たちと一緒に屋根を作る、5000席の木造スタジアムの設計・施工プロセスという巨大プロジェクトに挑戦しています。(※)私たちは事業を通じて「人間再生」「地域再生」「地球再生」という社会的インパクトを追求し、世界観に共鳴する仲間を全国に増やしてともに活動していけたら良いと考えています。
トークセッション:生産者と町側使い手の距離を設計する
東日本大震災を契機に防災士資格を取得し、2019年にはBCP(事業継続計画)を策定。防災活動を通じてもりまちレジリエンスを設立し、林業から家づくりまで一体で取り組んでいる。

大道さん: VUILDさんは作り手とエンドユーザーの垣根をなくす取り組みをされていますが、私たちもりまちはどちらかというと「生産者側」の視点が強かったと言えます。今日はそれぞれの立場から、いかにお客さまへ地域の木を届けるか、その循環の作り方を深掘りしていきたいです。
まずは秋吉さんの講演を聞いての感想をお願いします。

株式会社誉建設 代表取締役/もりまちレジリエンス代表理事 鎌田晃輔さん
鎌田さん: 私はVUILDさんの大ファンで、約7〜8年前に川崎でShopBotを初めて見た時から「いつか絶対にやりたい」と思い続け、今日このFABLABOのオープンを迎えられました。本日はよろしくお願いします。
大久保さん: 私は秋吉さんの講演を聞いて、福島ユナイテッドの木造スタジアムの構想に非常に感動しました。実は弊社も徳島ヴォルティスのスポンサーをしており、林業界でJリーグのスポンサーをやっているのは当社だけなんです。いつか徳島のポカリスエットスタジアムも、このFABLABOを起点に木造になったらいいなと夢が膨らみました。

大久保林産業株式会社 取締役専務/もりまちレジリエンス 理事 大久保仁史さん
大久保さん: ……と同時に、率直に感じたこともあります。建築業界でこれだけ有名な秋吉さんやVUILDさんという会社の存在を、木材の原点にいるはずの私たち林業家が今日まで知らなかった。これって、建築業界と林業界がこれまで全然繋がっていなかったという寂しい現実ですよね。この分断の壁をどうやって壊し、リスペクトし合える若手同士で新しい世界観を作っていけるかが、これからの鍵だと思っています。
建築家が「木」に出会ったきっかけと、林業のリアルな課題
大道さん: ありがとうございます。ここで秋吉さんにお聞きしたいのですが、「木」という地域の素材に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
秋吉さん: 大学院時代にFABLABOの国際会議に参加した時のことです。アメリカやヨーロッパの方から「日本は国土の3分の2が森林というものすごい資源大国なのに、なぜ3Dプリンターで樹脂ばっかり触っているの?」「桜の木を削って打楽器を作りたいから山に連れていってほしい!」と言われました。
それまで木に触ったこともなかった私は、「そんなに日本の資源って恵まれているのか」とハッとさせられました。その後、テレビで西粟倉村の「百年の森林構想」(※)の取り組みを見て、学生ながらアポなしで現地に飛び込み、製材所のリアルに触れたのがすべての始まりでした。身近に余っている端材を削らせてもらうワクワク感から、木の背景をもっと知りたいと思うようになりました。

大道さん: なるほど、世界からの視点で日本の木の価値に気づかれたのですね。地域の木を使う意図を教えてください。
鎌田さん: 私は工務店として大工を社員として雇い、18年ほど前から現在まで必死に育ててきました。約10年前までは、すべてプレカット加工された外国産材が現場に届く仕組みに強い違和感を抱いていました。「なぜ自分たちの手で加工しないのか、なぜ目の前にある徳島の木を使わないのか」という違和感を一つずつ整えていった結果、大久保さんのような林業家の方々へと繋がっていったんです。
大道さん: 林業の目線から見て、地域の木を使うことにはどのような意味があるのでしょうか?
大久保さん: もちろん徳島県産材の木材も徳島県民からすると大切で、47都道府県のみなさんが自分の地域の木が良いと感じられるのかと思います。
私たちの代で17代目になりますが、先代から引き継いで自社で70ヘクタールほどの人工林を管理しています。一般の方は「畑から大根を抜くように」木が収穫されるイメージを持つかもしれませんが、林業のリアルは違います。私たちが日々やっているのは、「次世代に良いものを残すために、悪い木を選んで間伐する」という、ひたすら地道で伝統的な仕事です。それをやることによって川が豊かになって、海が豊かになるのかなっていう風に本気で信じていますし、本気でやり続けています。
でも、私たちは木を選べません。切ってみるまで、中が黒かピンクか、年輪が詰まっているかどうかも分からない。だからこそ、秋吉さんのような影響力のある建築家が林業のリアルを知り、これまでの固定概念を壊して「どんな木でも活かせる建築士」を育ててくれたら、私たち林業家にも多少のスポットライトが当たる明るい世の中になるんじゃないかと期待しています。

鎌田さん: 大久保さんと初めて山に入った時、「私たちは木を選べない。大工さんの技術でなんとかしてほしい」と言われたのは強烈な経験でしたね。でも本当にその通りで、つるつるの木だけが良いという従来の価値観のせいで、節があったり色が悪い木が「不細工」と買い叩かれ、山にお金が戻らない。その責任は私たち使い手側(建築業界)にもあると痛感しました。だからこそ、今こうして山と出口が一つに繋がることが必要なんです。
「使えない木はない」世界を創る
鎌田さん: 秋吉さんは、山に近い地域に機械を入れていく中で、山の現状をどう捉え、どうデザインに活かしていますか?
秋吉さん: 私は、どんな木を使ってほしいかというのは人それぞれだと感じています。また、クリエイティブなアイデア次第で「使えない木はない」と思っています。「製材機に入らないから」と捨てられている巨木や、細くて節だらけで市場に回せないような木でも、丸太のまま構造として使います。成立するような構造断面の計算を行えば、いくらでも宝物に変わります。大切なのは、市場(建築側)と山側が、使ってほしいものや課題感をダイレクトに情報交換できる「関係性のプラットフォーム」を作ることなのかと思います。
大道さん: もりまちレジリエンスは「徳島が好き」という共通の想いで繋がっていますが、日本全国でのプロジェクトでは、異なるステークホルダーをどのように巻き込んでいったのでしょうか?
秋吉さん: 全員に共通していたのは「このまま若い人が入ってこなければ、この地域は終わってしまうかもしれない」という、深刻な共通の課題感でした。イノベーションの本質は新結合、つまり本来交わらなかった領域の人たちが繋がることです。地域を動かす具体的なビジョンを掲げ、そこにプロジェクトという関わりしろを作ることで、人々をつなげていくアプローチが有効だと考えています。
大道さん: 地域の課題を前に、本来交わらなかった領域の人たちがプロジェクトという関わりを通じて繋がっていく——。まさにこの新結合こそが、これからの地域を動かすイノベーションの鍵なんですね。私たちもりまちの歩みとも深く重なる、とても胸が熱くなるお話です。そうした新しい繋がりが全国で広がっていく中で、これからの建築家と林業家の未来についてお聞かせください。

大久保さん: 建築家、大工さん、製材業など、お互いが言い分を主張するだけではなくて、同じ方向を向いて活動することが重要だと思います。建築家の方が林業の思いも持って進んでいってくれる、そういう仲間になれれば、何年後かに必ず林業の未来にも繋がると信じています。
鎌田さん: 自分一人だけが生き残っても、それは本当の幸せではないし、全く嬉しくないですよね。良い未来をつくるために人を大切にし、人と人をつなぐ活動を続けていく。そこにテクノロジーが重なれば、未来はもっと良い方向へ変わっていくと思います。
今、私たちはそうした志を持つ仲間の皆様と繋がっています。徳島全体がこうして活性化していくことで、地元の仲間や地域企業の皆様も、みんなで一緒に元気になっていけたらいいなと思っています。
大道さん: それでは、具体的なプロジェクトや、今取り組もうとしていることなどがあれば、教えていただけますか?
秋吉さん: 私たちがいくら現場で新しい挑戦を積み重ねても、次に続く仲間を増やしていくのは簡単ではないと実感しています。その根底にあるのが、教育の課題です。今の教育や資格の仕組みは、どうしてもコンクリートや鉄のビルを建てる勉強が中心になりがちです。そのため、木に触れたことがないまま建築士になる方も多く、地域の工務店さんの現場との間に大きなギャップが生まれてしまっています。
学びの仕組みそのものが変わっていかないと、次の世代にもなかなか新しい価値観が伝わっていきません。これでは、私たちがいくら現場で頑張っても、一部の珍しい取り組みで終わってしまうかもしれません。だからこそ、私が将来的に本気で向き合っていきたいと考えている大きなテーマが、この教育のあり方です。

秋吉さん: 「チェンソーも使えて、デジタルデータも作れて、林業も大工のことも分かる」という新しい人材像が、これからの産業には必要になってくるはずです。
そのための学び舎や大学のようなコミュニティを、いつか形にできたら面白いですよね。機械の開放にとどまらず、ものづくりが仕事になり、地域が変わっていく。そんな持続可能な仕組みをどう作れるか、これから考えていきたいです。
志を共にする全国の仲間と繋がりながら、林業や地域の課題に良い影響を与えられる活動を、様々なコラボレーションを通じて広げていけたらと思っています。
鎌田さん: 「FABLABO MORIMACHI(もりまちクリエイティブセンター)」について、今日はプロ向けのようなオープニングになっていますが、同時に私たちが大切に見つめているのは、地域の皆様、あるいは子どもたち、もっと身近な、例えばお母さんたちのような存在なんです。そうした次世代や地域の人たちが、デジタルテクノロジーを通じて、この場所で日常的にものづくりの楽しさに触れられる環境を、私たちはこれからもずっと目指し、育んでいきたいと思っています。

「循環は、デザインできるか?」という問いに対して、新たに誕生した「FABLABO MORIMACHI(もりまちクリエイティブセンター)」から、ひとつの温かい希望が示されたような、そんな素敵なイベントとなりました。
1階の大工さんがプレカットを行うプロの熱気と、2階の誰もがデジタルものづくりに触れられる開放感。この二つが心地よく交わるこの場所は、木を加工する施設という枠を超えて、地域に暮らす人々の想いや未来がゆるやかに集う、かけがえのない拠り所となっていく——そんな温かいコミュニティの可能性を秘めています。
















