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「泣いて、笑って、人生トゥギャザー。」をブランドメッセージとして掲げている株式会社高垣工務店。お客様一人ひとりの「最適」を追求した家づくりを通じて、創業より70年以上にわたって地域に寄り添い続けている工務店だ。
同社の商圏は、和歌山県で最大面積を有する田辺市を中心とした紀南エリアだ。そのなかで、同社は地域トップクラスのシェアを誇る工務店として施工棟数を延ばし続けていた。しかし、2022年に年間施工棟数の約半数を受注していた営業のトッププレイヤーが退職。一気に事業基盤を揺るがす状況が訪れた。
そこで、同社は営業組織の再構築とデータマネジメントの立ち上げに着手。外部の営業研修とあわせて、顧客管理・営業管理に関わるデータ入力基盤をANDPAD引合粗利管理上に構築した。その結果、これまで「人」に頼ってきた同社の「感覚型の営業活動・営業教育」に「データマネジメント」という新たな武器が加わることとなる。同時に、業績もV字回復を果たした。
少数精鋭で事業を運営しているからこそ直面する「営業活動の属人化」「人材育成の難しさ」という課題に、同社はどのように向き合っていったのか。同じように悩む全国の地域工務店にとって学びのある同社のストーリーを、Vol.1・Vol.2・Vol.3にわたってお届けする。
Vol.1では、同社の事業内容とそこで働く人たちに焦点を当てながら、「高垣工務店らしさ」について深掘りしていく。
地域のお客様に寄り添い続ける「人生参加型工務店」
和歌山県田辺市の本社から1時間圏内のエリアを商圏として、家づくりに取り組んでいる同社。手がけているのは、自由設計の注文住宅と、規格住宅だ。ただ、「当社のお客様は、ほとんど注文住宅を選びます」と、山本さんは話す。
山本さん: 注文住宅と規格住宅の受注比率は9:1で、注文住宅が圧倒的に多いです。当社の窓口担当(※)は、全員が「お客様のためにとことん一緒に考えたい」というスタンスなので、すでにコンセプトが固まっている規格住宅を提案するのが苦手というか、下手なんです(笑)。窓口担当のセールストークでも「専属の設計士が1組1組のお施主様に寄り添います」と謳っているので当然といえば当然かもしれません。会社としては、コストや工期の面でメリットのある規格住宅の販売も拡大していきたいのですが、まだそこまで注力できていないのが現状です。
(※)同社では営業担当のことを「窓口担当」と呼んでいる。
受注の大半が自由設計の注文住宅が占めているのは、全員の意識が「お客様の夢の実現」に向いていることの表れとも言える。では、同社の一体感はどんな背景から生まれているのだろうか。
石山さん: 当社では、毎朝「高垣理念」を唱和しています。これは、私たちの最終目標である「あっとうてきにいい人たれ!」を目指すために、普段から実践している「人としての定義」を5つにまとめたものです。また、私たちは「泣いて、笑って、人生トゥギャザー。」というブランドメッセージも大切にしています。家を建てて終わりではなく、建ててからが本当のお付き合いのはじまりだと考えて、お客様の人生に寄り添う「人生参加型工務店」であることを全員が大事にしています。
「人生参加型工務店」を掲げる同社では、自社専門スタッフによるメンテナンスにも力を入れている。引き渡しから10年間の保証期間中に定期点検を実施するだけではなく、メンテナンスに関しては保証期間中も、保証期間後も随時対応しているという。
石山さん: お客様と長くお付き合いしていくために、当社で家を建ててくださったオーナー様だけをご招待する「高垣まつり」も開催しています。イベント開催にあたって、地域の方々にも広く開放するべきか検討を重ねましたが、オーナー様には「私たちだけが招かれている」というVIP感を味わってほしいと思い、あえてオーナー様限定にしました。コロナ禍の影響でしばらく開催できていなかったのですが、そろそろ再始動したいと思っています。
また、同社では、「住宅ローンや土地、工務店に不安を感じたままでは、お客様との生涯のお付き合いが実現できない」と考え、毎月1回4組限定で家づくりセミナー「いえづくりかふぇ」を開催している。
石山さん: お客様の貴重な時間を使っていただくからこそ、「高垣工務店に任せてもいいか判断するための機会として使ってほしい」と毎回伝えています。打ち合わせに進んだお客様には、設計契約を結ぶ前にもどんどんプランを出しています。情報の出し惜しみはしないですね。
入社1年目から受注棟数を伸ばす、窓口担当の若手エース
「お客様との生涯のお付き合い」を大切にする同社の温かな雰囲気に魅力を感じて入社したのが、現在新築事業部で窓口担当を務める秋吉さんだ。秋吉さんが同社に出会ったのは、何百社も企業が出展する就職イベントだった。
秋吉さん: たくさんの企業が出展するブースのなかで独特な雰囲気を醸し出していたのが当社でした(笑)。社長自らブースに立ってベルを鳴らして呼び込みをしていて、「何だか気になるな……」と思っていたらいつの間にかブースに吸い込まれて話を聞いていました(笑)。
秋吉さん: 最終的な決め手になったのは、今の上司である西本との面接です。私は幼少期からラグビーに打ち込んできて何度も挫折を経験してきたのですが、私の話を西本が泣きながら聞いてくれて、「こんなにも寄り添ってくれるんだ」と実感できました。当社の最終面接は本社に1泊して、現場見学に行ったり、社員の方々と懇親会を行ったりするのですが、そのときには「就職するなら高垣工務店しかない」と思っていました。
秋吉さんは、入社3カ月ほどで窓口担当として営業活動を開始。入社1年目で4棟、2年目には7棟を受注する目覚ましい成長を遂げている。ただ、秋吉さん自身は「現状に満足していない」と話す。
秋吉さん: 入社1年目で4棟、2年目では7棟を受注できましたが、本来はもっと受注棟数を伸ばせたのではないかと思っています。私は、決められた目標を達成するのは当たり前だと思っているので、それを超えられなかったことが悔しいですし、「入社間もないから」と理由をつけて甘えていなかったかと反省しています。
石山さん: 本人は反省点があると言っていますが、私たちにとって2023年度のMVPは間違いなく秋吉です。窓口担当の退職によって、秋吉に頼らざるを得ないという会社の事情はありましたが、秋吉はポテンシャルが高いので、きっと私たちの期待に応えてくれると信じていました。実際に、過去の新入社員の受注実績と比較しても、秋吉は基準値を大きく超えた成果を出していますし、成長度合いも桁違いだと感じています。
また、秋吉さんは同社の環境について「自分のやりたいように進ませてくれる。意見をきちんと聞いてくれる人ばかりなので働きやすい」と話す。実際に、秋吉さんは受注目標を達成するために、さまざまな工夫を凝らしてきたという。
石山さん: 建築中の物件や竣工物件の見学会は頻繁に実施しているのですが、そういった物件がないときに集客につながるツールがなくなってしまうのが課題だと感じていました。そこで、物件がないときでもお客様に足を運んでいただけるように、当社の豊富な施工実績を紹介するイベントを当社の会議室で実施しました。
常に上を目指して、自ら率先して行動を続ける秋吉さん。その行動は、どんなモチベーションから生まれているのだろうか。
秋吉さん: 私は大阪府出身なので、入社にあたってはじめて田辺市で暮らすことになったのですが、田辺市のみなさんは本当に温かい人ばかりだと感じています。温かい人たちの夢を叶える家づくりだからこそ、引き渡しではお客様にとびきりの笑顔になってほしい。それが、仕事の一番の原動力になっています。
事業の多角化と若手の成長を後方から支えるマルチプレイヤー
同社は、注文住宅・規格住宅の新築事業に加えて、2015年からは半日型デイサービスを運営する健康事業、2017年には放課後等デイサービスを運営する教育事業を開始している。これらの事業の根底には「田辺市の地域の課題と向き合う」という同社の意思がある。山本さんは、新卒で同社に入社して設計職としてキャリアを積んできたが、現在は複数の事業の責任者として活躍している。
山本さん: 私は、もともと自分には裏方が向いていると思っていますし、フロントで頑張る人を支えるような動きをするのが好きなんです。社長の石山が窓口担当、私が設計職の時代も、石山とお客様が盛り上がってお話している内容をメモに取り、具現化していく動きをしていました。
さまざまな事業の最前線で頑張っているメンバーの動きを確認して改善点をフィードバックし、またメンバーが動いていく――それが今私が担っている役割です。担当する事業が増えても、「後ろからメンバーを支える」といった意味では役割は大きくは変わっていないですね。
豊富な経験を強みに、お客様の本当の想いを探り当てるプレイングマネージャー
秋吉さんや山本さんをはじめ、同社のみなさんが全幅の信頼を寄せているのが、新築事業部長の西本さんだ。西本さんは、お客様と向き合う上で、お客様の「動機」を探り当てることを一番大事にしているそうだが、「お客様が話す動機の”オモテ”と”ウラ”を見分けられるのが西本」と、山本さんは語る。
西本さん: 当社に入社して13年、さまざまなお客様と接するなかで「お客様が求めていることは何なのか」を突き詰めて考えるようにしてきました。だからこそ、お客様のお話を聞いて「本当の動機は違うんじゃないか」と感覚的に察知できるのだと思います。もちろん私の考えが合っている場合もあれば、合っていない場合もあるので、ひとつの可能性として「本当にそうなのかな?」「これも聞いてみて」と、メンバーには伝えています。
山本さん: 西本は、お客様が「●●だから家を建てたい」というだけでは動機が不十分だとよく言っています。大切なのは「●●だから家を建てて△△したい」まで引き出すこと。例えば、「子どもが生まれたから」だけではなく、「子どもが増えて部屋が手狭になったから子ども部屋のある家を建てたい」のか、「声や生活音が気になるので一戸建てに住みたい」のか、そこまで聞けると提案の仕方も変わってきます。お客様の動機をあやふやに捉えていたり、窓口担当が「おそらくこんな理由だろう」と作り上げた動機では、お客様にとって最適な提案ができないですから。
秋吉さん: あとは、「失注理由もしっかり聞くように」と西本からはよく言われますね。「お客様の判断で受注できませんでした」で終わってしまうと、その失注からは何も学ぶことができません。なぜ失注したかを明確にして次に活かせるように、「なぜ高垣工務店ではだめだったのか」はしっかりと伺っています。
年齢や社歴に関係なく全員で意見を出し合い、お客様が本当に望む家づくりに真摯に取り組む同社。その姿勢が評判となり、現在では新規顧客の7割が、同社で家を建てたOBからの紹介だという。今後は、新しい「人と人のつながり」をさらに拡大していくために、住宅情報ポータルサイトへの掲載も開始している。
山本さん: 不動産・住宅情報のポータルサイトからの資料請求数は増えています。ポータルサイトは一度に何社にも問い合わせができる便利なツールですが、お客様から見れば、高垣工務店は気軽に資料請求したうちの一社にすぎません。ですから、資料請求の次のステップであるイベントへの誘致につながらないのが今の課題です。
そこで、西本や秋吉が考えたのが、資料を送付するのではなく直接お届けに上がる方法です。最初は、窓口担当もおそるおそる訪問していましたが、玄関口で直接お話できるお客様が思った以上に多く、それから徐々にイベントや相談会への誘致につながるようになりました。「届けてくれてありがとう」といった感謝の言葉は、社員のモチベーションになっています。
「お客様のために・地域のために」という想いを持った人材が集まり、力を合わせて家づくりに取り組んでいる同社。ただ、「人」が魅力の会社は、ひとりの退職が事業基盤に大きな影響を及ぼす。Vol.2では、営業のトッププレイヤーの離職を受け、同社が新たに取り組みはじめた「営業体制の再構築」と「データマネジメント」について詳しく紹介していく。
URL | https://takagaki.net/ |
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代表者 | 代表取締役社長 石山 登啓 |
創業 | 1952年 |
本社 | 〒646-0025 和歌山県田辺市神子浜2-20-14 |