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ガーデン・エクステリア空間のプロ集団が選んだ経営戦略の転換

〜前編〜相手のためが、自分のために。「利他の精神」で独自性を確立

目次

  1. 競合は余暇産業?上質な暮らしを提案するガーデン・エクステリア業界のプロ集団
  2. 「利他の精神」がお客様を、職人を、社員を呼んできた
  3. 豊かなガーデンライフを魅せる展示場が高単価受注に貢献
  4. 「商圏拡大」から「事業ポートフォリオの拡大」へ戦略転換

2013年の設立以来、長野県を拠点に上質な「過ごす庭」と「住宅を引き立てるファサード空間」を提供している株式会社アロウズガーデンデザイン。社名の由来である「All for owners(すべてはお客様のために。)」という言葉にあるように、デザイン性と機能性を併せ持った、住む人の立場になって考えた快適なエクステリア空間の設計・施工を行うプロ集団だ。

自社を建設業や造園業ではなくサービス業であると捉える同社は、お客様とも外部パートナーともフラットな関係を結ぶべく、その基礎となる「人間力」を何よりも大切にしている。

そんな同社は、「商圏拡大」から「事業ポートフォリオの拡大」へと戦略を転換するなかで、業務の効率化を図るため、2021年にANDPADを導入。非効率な部分を改善して働き方を見直すことで、疲弊せず安心して働ける環境づくりに取り組んでいる。自社の業務や職人の特性も考慮した上で、最小限の使い方で最大限の効果に繋がるポイントを探して実践している点は、運用浸透のファーストステップとして多くのANDPADユーザーにとって役立つ観点だ。

今回は同社の代表取締役である村田勇さんにインタビューを実施。前編では、同社設立から現在に至るまでの歩み、村田さんが大事にしている「人間力」とは何なのか、それが事業や組織にどう影響を及ぼしているのか一つずつ紐解いていく。

村田 勇 氏
株式会社アロウズガーデンデザイン 代表取締役
高等専門学校で土木工学を学び、卒業後にを経て、21歳の時にエクステリア業界へ。プランナーとして工務店やハウスメーカーの案件を担当したのち、エンドユーザー向けのエクステリア&ガーデン設計施工店に勤める。2013年に同社を設立し、現在に至る。

競合は余暇産業?上質な暮らしを提案するガーデン・エクステリア業界のプロ集団

長野県を拠点に、「楽しむ庭 美しい街 そして感動の未来へ」という企業理念をもとに、上質なエクステリア空間を提案している同社。引き渡し時から5年後、10年後にさらに心地よく過ごせる植栽計画など、長きにわたる暮らしの豊かさを提供している。

そんな同社を設立したのは、代表取締役である村田さんだ。高専の土木工学科を卒業した村田さんは、測量会社に入社。その後知人から誘われてエクステリア業界で仕事をすることになった。

村田さん: この業界で仕事をするようになった当初は、工務店さんやハウスメーカーさんの下請け工事を担うエクステリア会社に勤めていました。その会社にはエンドユーザー向けのエクステリア&ガーデン設計施工店の部門もあり、別事業として切り出されたタイミングで、私もそちらに転籍。10年以上経験を積んでから、さらに半年ほど安曇野市のエクステリア会社で修行し、当社を設立しました。

株式会社アロウズガーデンデザイン 代表取締役 村田 勇氏

独立にあたり、経営について学びたい、と情報を集めた。そこで行き当たったのが、安曇野のとあるエクステリア会社だった。経営を学ぶために飛び込んだ半年間の修行だったが、その後の村田さんに多大な影響を与える思わぬ収穫があったという。

村田さん: 自分で事業を立ち上げたいのでいろいろと教えてほしい、と、期限も半年と決めてお願いしたところ「とりあえずうちに来い」と社長に言っていただけました。その社長は接客術が抜群に長けていて、お客様の心を掴む力が段違いだった。社長の横で接客術を勉強させてもらい、半年しかいなかったけれど体感としては5年分くらいの収穫がありましたね。相手へのリスペクトや礼儀など、仕事をする上で大切なことを全て教えてくださり、社長には本当に恩義を感じています。


半年間の修行期間で、村田さんは「お客様の心を掴む接客術」を学んだ。そうした経験もあり、アロウズガーデンデザインの事業は
「建設業や造園業というよりも、サービス業に近い仕事だ」と村田さんは語る。

村田さん: 当社の事業としては、主にエンドユーザー向けの外構工事の受注がメイン。しかしわれわれの会社の競合は、エンドユーザー向けのエクステリア・ガーデンショップではなく、車や旅行など、人々が楽しみのためにお金をかける産業だと考えています。いわゆる余暇産業にお金を使う代わりに、「もっと家のお庭やエクステリアにお金をかけたい」と思っていただきたい。そこには「お客様の心を掴む接客術」が求められます。社員にもこうした意識を持ってもらいたいので、社内ではお客様と相対することを「営業」ではなく「接客」と表現するように徹底しています。

自分たちを「建設業や造園業というよりも、サービス業である」と位置づけているからこそ、長野市内のエクステリア会社とも良好な関係を築いている。

村田さん: 創業時は、筋を通すためにも長野市内のエクステリア会社さんにはみなさんへ挨拶回りに伺いました。地域柄なのか、長野は業界内の横のつながりも強く仲が良い印象です。みなさんからも「うちとは客層が違うよね」と言っていただけることが多く、実際私が創業する前と後とで売上が極端に下がったという話も聞きません。限りあるパイを奪い合っているという感覚ではなく、新たに市場を創造しているという自負を持っています。その意味でやはり、われわれはお客様にサービスを提供しているという意識が強いですね。

 

「利他の精神」がお客様を、職人を、社員を呼んできた

お客様の心を掴み、ガーデン&エクステリアでお客様の上質な暮らしを提供するーーそんな同社の想いは、HPに並ぶ施工事例からも分かるように高いデザイン性が特徴だ。しかし村田さんは、「会社の一番の強みは、デザイン性よりも、社員の人間性にある」と言う。

村田さん: 当然、ある一定以上のデザイン性は大切にしていますし、ありがたいことに様々なデザインコンテストで受賞もさせていただいています。お客様から「アロウズガーデンデザインに任せれば、デザインは安心だ」と認知いただけている実感もあり、とても嬉しいことだと思っています。その上であえて言えば、会社としては「人間力」をより重視したい。担当者の人柄が良くて、お客様と馬が合う。そのベースがあった上で、さらにデザイン性の高さが乗ってくるものだと考えています。実際に、社内の人事評価制度でも、人間力を評価するような基準を設けています。


アウターブランディングでは「デザイン力」、インナーブランディングでは「人間力」と、同社の強みの見せ方を戦略的に分けて発信していることが窺える。

村田さん: 「人間力」というと、捉えにくい概念に感じるかもしれませんね。私がここで大切にしたいのは、要は「利他の精神」です。相手のために行動することが、結果的に自分にとってもよいこととして返ってくる、と考えられるかどうか。たとえば職人さんとの関係性において、「こちらが発注側だから」と偉そうにする人もいますが、それは当社では絶対にNGです。「職人さんに仕事をさせる」のではなく、「職人さんに仕事をしていただいている」という姿勢を持つことで、職人さんも前向きに仕事に取り組んでいただけますし、いざというときに助けてくれることもある。お客様との関係性においても同様で、いい意味でフラットな関係性でありたい。当然お金をいただいてお仕事をさせていただくわけですが「アロウズガーデンデザインにやってもらっている」と思っていただけるような関係が理想です。このような相思相愛の関係性を結んでいくときに大切なのが「人間力」、すなわち「利他の精神」だと私は考えています。決して偉ぶらず、相手への思いやりをもち、困ったときにはお互い様の精神を持っていると、同じ考えの人と自然と繋がっていくもの。仕事上であっても気持ちの良い関係が築けて、そのことが結果的には社員の働きやすさや働きがい、また利益率の高さとして経営にもポジティブに作用します。

「利他の精神」を持ち、相手と気持ちの良い関係を結ぶ。そんな心構えを大切にする同社は、創業当初は村田さんご夫婦2名でスタート。創業から半年後からは社員が増え始め、人が人を呼び、今では8名の組織体制へと成長した。

村田さん: 当社の社員は、パートナーである職人さんや社員の親族などからの紹介によるリファラル採用がほとんど。社員や職人さんが会社を信頼しているからこそ、安心して人を紹介してくれるし、われわれも彼らの紹介だから採用できる。採用コストがかからないことや、紹介ということで離職率が低いことなどのメリットもあります。


8名と少数精鋭の組織体制でありながら、
創業5年のタイミングで評価制度を作成2020年には就業規則や退職金制度を整えるなど、社員の就労環境改善に向けて労を惜しまないのも同社ならではだ。

グリーンは、屋内にも。

 

豊かなガーデンライフを魅せる展示場が高単価受注に貢献

同社の商圏は、長野市を中心とした周辺市町村だ。新築に比べて予算が多くなるリフォームをメインターゲットとしている。

村田さん: 新築は全体予算のなかで外構にかけられる予算が限られてしまいますが、リフォームは引き渡しから一定年数が経って必要なところに手を加えられるので、庭の施工に予算をかけられるケースが多い。そのため、新築よりもリフォームのお客様がメインターゲットになります。

価格は他社に比べて2割ほど高いですが、例えば、他社では80万円でできる工事を、当社では100万円でやったとしても、デザイン力はもちろん対応力と職人さんのクオリティの高さでお客様に価値を感じてもらえると自信を持っています。長野県は他県と比べて貯蓄率が高いと言われており、その分外構にかけられる予算も高いので、より良い暮らしの体験を創造できるようなエクステリア空間の提供を目指しています。

同社の長野市川中島にある展示場では、入り口でキリンのオブジェがお出迎え。交通量の多い77号長野上田線では一際目を惹く。展示場内には、プールやサウナ、ガーデンルームなどさまざまなエクステリア空間の提案がある。

こうした高単価での受注を実現するにあたり、同社は2019年3月に展示場をオープンした。展示場の前の道路は車の交通量が多いことから展示場の存在がたくさんの人の目に留まるようになり認知度が向上。さらに展示場を構えてからは、客単価が1.5倍に上がったという。 

村田さん: HPなどを見て来訪されるお客様が多かったので、当初展示場の場所にこだわりはなかったのですが、結果的にとてもいい立地でしたね。オブジェとして設置してあるキリンの像が目立つので、展示場の横を通ったときに見てくれていて、当社を認知してくださっている地元の方々も多いです。

プールとサウナは、展示場のシンボル的存在。展示場を構えてからは、客単価が1.5倍になりました。というのも、お客様の傾向として、実際に展示してあるものよりも少し下の価格帯に落ち着くことが多いんです。プール自体が主力商品というわけではないのですが、プール付きのお庭という”夢”を展示場で体感してもらうことで、実際の受注金額の価格帯の平均が引き上げられたようなイメージですね。

当社で工事させていただいたお客様には、予約制で無料でプールを使っていただけます。ご家族やお友達を連れてきていただいてOKとしていて、こちらも認知や集客にも繋がっていますね。

同社の展示場のシンボルであるプール。オーナー様向けにプールの利用を開放している。

 

「商圏拡大」から「事業ポートフォリオの拡大」へ戦略転換

2020年、さらなる売上拡大に向け「7年計画」を策定。店舗数は現在の1店舗から3店舗へ、売上も10億円規模までを目指すとした。ただ計画を立てた時点では受注残が売上の1/3にあたる額ほどある状況だった。現状の組織体制ではこれ以上受注を増やせば業務が回らないどころか、お客様をお待たせしてしまうため、計画を真っ直ぐに遂行しようとすれば社員も職人も増やす必要があった。とはいえ社員や職人を増やせば受注量が増やせるかといえば、そう単純にはいかない。同社の高品質な施工を実現できる新たな職人と出会うことができるかどうかの保証はなく、説明やコミュニケーションのコストを考えると社員の業務も肥大化し、結果的に人件費などの原価が膨れることも想定される。膨大な業務に追われて社員や職人が疲弊してしまい、本来の同社の強みである「人間力」を発揮できなくなるのではという懸念が、村田さんにはあった。

村田さん: 品質面の観点から、目先の売上のためにむやみに職人さんを増やすこともしたくありません。また、事業の収益性を確保するために商圏を広げるだけでは、施工品質が下がりお客様へ提供できる価値そのものが下がってしまうと思いました。

そこで、店舗拡大により売上アップを目指す「7年計画」から軌道修正。プールやサウナといった付加価値を高める方向性へシフトし、事業ポートフォリオを広げつつ客単価の向上を図る経営戦略へと転換した。

村田さん: 商圏は広げずに、顧客単価のアップを目指したいと考えました。そのために、まずは現状の業務の中で非効率な部分を改善して、働き方を見直す必要があった。そこで、社員や職人さんが疲弊せず「人間力」をさらに磨いて良質な関係性を築きながら、同時にパフォーマンスも上げられる環境を構築していこうと、施工管理ツールの導入に踏み切りました。

というのも、​「利他の精神」を保ち、相手への感謝の気持ちを持ち続けるには、まず自分たちの心に余裕があることが大切だと考えたからです。業務効率化を図ることで、業務に忙殺されない、心理的安全性の保たれた環境をつくることができ、「人間力」を磨くベースを整えたいと思いました。

こうして、業務負担を軽減することで心理的安全性を確保し、社員が疲弊せず安心して業務ができる環境を構築するために、ANDPADを導入した同社。後編では、社内外のフラットな関係性を構築している同社のデジタル化の取り組みについて紹介する。

株式会社アロウズガーデンデザイン
URLhttps://allowsgarden.jp
代表者代表取締役:村田 勇
設立2013年 2月
本社長野市川中島町原1292-2
取材・編集:平賀豊麻
編集:原澤香織、加瀬雄貴
ライター:金井さとこ
デザイン:森山人美、安里和幸
顧客担当:吉村明希子
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