第3話 元請会社と工事会社では現状把握の見方が違う ~出ていくお金を変動費と固定費に分けて損益分岐点を把握する~

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出口 経尊 氏
心楽パートナー株式会社 代表取締役
建設業専門に全体最適で粗利を増やす経営パートナー、1975年香川県生まれ。
工事会社を経て、工務店のHP・チラシ・顧客管理・原価管理など集客や業務改善に携わる。
独自の『全体最適型・粗利増加法』で財務改善や人材育成等、経営全般の最適化をサポート。
銀行主催のセミナー講師や業務提携により、金融機関との関係も深めている。
2021年4月から香川大学大学院地域マネジメント研究科にMBA取得を目指して在学中(2023年3月卒業予定)。

前回は、経営数字が苦手な方でもとっつきやすいお金のブロックパズル®の全体像の話と、原価の上昇やコロナ融資の返済に向けた体質改善の必要性についてお伝えしました。

これからは本題である会社のお金の流れの把握方法に入っていきます。建設業特有の考え方や事例を交えるので、ANDPADのユーザー様に合致しやすい内容になると思います。特に今回は、労務費が発生しにくいゼネコンや工務店と、労務費が発生する工事会社の違いを交えながら、お金のブロックパズル®※を用いて経営数字を図解で表現していきますので、ぜひ自社の経営判断や社内共有にお役立てください。

※お金のブロックパズル®は一般社団法人日本キャッシュフローコーチ協会の登録商標で、西順一郎氏の著書「戦略会計STRACⅡ」で紹介するSTRAC表(現・MQ会計表)をベースにして、代表理事の和仁達也氏が会社のお金の流れを図で理解できるように見える化したものです。出口経尊は一般社団法人日本キャッシュフローコーチ協会の会員です。

お金の入口と出口を分ける

図1はお金のブロックパズル®の全体像で「第2話 数字の羅列を難しく感じないためのコツ」でご紹介した図です。これを左の売上高から順を追って解説していきます。ただし、建設業により適した内容をお伝えしたいので、途中から表現が変わるところもあります。

以前、記事を印刷して自社の数字を書き込む方がいらしたので、ぜひ知って終わりでなく、実践することでご自身の理解度を確認してみてください。

図1.1年間の会社のお金の流れを表すお金のブロックパズル®

①売上高について

では、まず図2の「売上高」です。この説明はほとんど必要ないかもしれませんが、売上計上のタイミングと入金のタイミングについて少し触れます。詳しくは別の回でお伝えしますが、今回の売上計上のタイミングは完工ベースだと思ってください。入金のタイミングは売上計上の後になるため、正確な資金の動きとは異なるので、ご注意ください。追加工事が発生した場合は請求できるかどうかで、売上に違いが出るので、口頭でのやり取りだけではなく、まずはANDPADチャットなどでしっかりと記録を残し、社内外で情報共有を行う事が重要です。

図2

 

②変動費について

売上高は入ってくるお金のことですが、次はそこから出ていくお金についてです。図3にある「変動費」が出ていくお金で、売上高に比例して増減するものです。売上が増えると変動費も一緒に増えて、売上が減ると一緒に減るものなので、比例費と呼ばれることもあります。

建設業だと、変動費の内訳は大きく分けて2つあります。1つは「材料費」で、木材や設備機器などの建材です。ウッドショックなどにより原価が上昇すると、物量が同じでも変動費が増えることになります。ちなみに、ここでは在庫せずに現場で使い切った、あるいは使った分だけの費用という解釈になります。建材流通店だと受注分だけを仕入れて、すぐに販売する流れです。あと、業種によっては燃料代を変動費に入れる場合もあります。例えば、トラックやダンプ、ミキサー車、重機などを多用する場合は変動費でも良いでしょう。ここは厳密でなく、あくまで分かりやすさ優先で構いません。

もう1つが「外注費」で、ゼネコンや工務店だと協力会社への支払額です。工事会社のコンクリート工事だと鉄筋工事やレッカー、人手が足りない時の同業者の応援も外注費になります。

変動費に関する見積管理や受発注業務が曖昧になると、着工時点から損失が発生してしまう可能性があります。見積原価と実行予算、実際に完工までに生じた原価についてANDPADを用いてデータ管理することで、改善計画や損金の発生リスクを事前に潰していくことができるでしょう。

図3

③限界利益と限界利益率について

次は図4にある「限界利益」についてです。これは売上高から変動費を引いたもので、一旦残るお金になります。対象者によっては、限界利益のことを「粗利」とお伝えすることもありますが、今回は労務費の比率が大きい工事会社にも理解を深めていただきたいので、限界利益とします。

 「限界利益率」は、売上に対する割合なので、「限界利益÷売上高」の計算式になります。ここでは、限界利益率を80%と表記しているので、建設業だと当てはまる業種は少ないですが、後々のスペースの関係で高い割合にしています。限界利益率は、同じ建設業でも業種によって全く異なるため、目安を調べたい方はGoogle検索で「TKC経営指標速報版 建設業」と入力してみてください。自社の現状と比較するのに参考になると思います。せっかくなら、過去3年分くらいまで遡って違いを見比べてみてください。

図4

④固定費について

一旦残る限界利益から、新たに費用として出ていくお金が「固定費」です。固定費は売上高の増減で多少変動しますが、必ずしも比例しないので、固定する費用という意味合いになります。固定費は大きく分けて2つあり、1つが「人件費」です。決算書の勘定科目だと、役員報酬や給与、賞与、社会保険料、福利厚生費になります。もう1つの「その他」は水道光熱費や家賃、車両費などの経費です。

「利益」は図の通り、限界利益から固定費を引いたものになります。利益には営業利益や経常利益がありますが、ここでは利益として捉えていただいて、詳しくは次回以降でお伝えします。

図5

⑤労務費と現場経費について

丁寧にお伝えしたいのが、図6にある固定費の内訳です。「人件費」と「その他」をさらに2つずつに分けています。その中の「労務費」は、決算書の「工事原価報告書」にある労務費を当てはめます。決算書は会社によって少し書式が違いますが、工事原価報告書は損益計算書の内訳になります。「販売費及び一般管理費」を別紙に分けている場合もあります。

では、なぜ工事原価報告書にある労務費を人件費に当てはめたかと言えば、変動費でなく固定費だからです。「工事原価報告書=工事原価」であるため、変動費に思われがちですが、労務費は現場に従事する技能者の給与や賞与です。例えば、売上が減ったとしても、月給制だと毎月の給与はほとんど変わらないはずです。固定給の労務費を完工ベースで算出している場合は話が変わりますが、決算書でそこまで正確に管理している会社は少ないと思います。もちろん、原価管理においては、1現場あたり延べ何人工かかったのか、収益性や生産性を確認するために、日報ベースで人件費を算出する必要はあります。

あと、「現場経費」には工事原価に含まれる水道光熱費や車両費、修繕費などありますが、これも変動費でなく固定費とします。現場数が多いほど、積み上がる部分もありますが、継続的にかかる費用として固定費にすることで、会社全体の損益分岐点(黒字と赤字の境目)の目安がわかりやすくなります

図6.限界利益のお金のブロックパズル®

⑥限界利益と粗利の違いについて

着目していただきたいのは、図6の「限界利益」と図7の「粗利(売上総利益)」の違いです。比率の差が一目瞭然だと思います。私が今まで目にした決算書の傾向としては、元請会社の場合、労務費は現場監督だけなので、限界利益(率)と粗利(率)の差はそれほど大きくありません。

しかし、工事会社の場合、現場に従事する技能者の人数が人件費の大半を占めるので、その差は大きくなります。ご注意いただきたいのは、限界利益率80%を粗利率として会話してしまうと、他者の認識にもズレが生じることです。お金のブロックパズル®は、言葉の定義にズレがないか、視覚的に周りと確認できるツールにもなります。売上総利益については、損益計算書に記載されている項目なので、ご確認ください。

図7.損益計算書のお金のブロックパズル®

固定費は限界利益を生み出す投資行為

図6のように、労務費や現場経費を固定費にしたのは、それ以上に限界利益を生み出さないと利益が出ない、つまり赤字になってしまう考え方で、損益分岐点をわかりやすくするために解説しました。期首から現場毎に限界利益を積み上げていけば、期末には目標の限界利益を達成できるイメージです。

今後は、少ない固定費でいかに限界利益を生み出すかという話をお伝えしていきますが、結局、費用や時間には制約があるわけで、そのためには効率アップや無駄の削減が欠かせません。例えば、伝達事項は正確に伝わる事が目的なので、それが達成できるのなら、手間や時間が最短になる方法を選択すべきです。その役割を担えるのがANDPADです。

次回は、今回の続きで限界利益に私がこだわる理由をさらに深堀していきます。

心楽パートナー株式会社
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代表取締役 出口 経尊
創業 2016年6月
本社 香川県高松市屋島西町2300-1
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寄稿:出口 経尊氏(心楽パートナー株式会社)
編集:平賀豊麻
デザイン:安里和幸