秋野先生の寄稿コラム連載「教えて!秋野弁護士!建築業界の法律トラブル相談所」の第23回となる今回は、2024年6月に成立し、2025年12月までに全面施行の「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」の内容のうち、「工期ダンピング規制の強化」について解説いただきます。
工期ダンピングとは、建設工事を施工するために通常必要とされる期間よりも著しく短い工期を設定する請負契約をいいます。
無理な工期設定は、労働者の健康と安全を脅かし、結果的に品質低下のリスクも生じてしまいます。このような、建設業界が抱える構造的な課題を解決するために、国は法改正という形で本腰を入れることになりました。
今回の改正建設業法では、注文者だけでなく受注者側にも、「著しく短い工期での請負契約の締結」を禁止する規定が追加され、適正な工期の設定が法的に強く求められる新しいルールが示されました。
本稿では、この通達の前後での工期設定のルールの変化や、受注者として注意すべき法的ポイントについて、ご紹介します。
2017年度 慶應義塾大学法科大学院教員(担当科目:法曹倫理)。2018年度慶應義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習(民法))。
2020年岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師に就任。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。
建設業法の改正
建設業は、日々の社会インフラ整備のみならず、地域の守り手として、有事の際の即応体制を維持するという、国民の命と財産を守る極めて重要な役割を担っています。
しかし現在、この大切な役割を次世代へ繋いでいくための基盤が、深刻な担い手不足や資材価格の高騰により揺らぎ始めています。特に、現場技能者の皆様の賃金の原資となる「労務費」が、資材高騰のしわ寄せを受けて削られてしまうような事態は、決してあってはなりません。建設業に携わる方々が、その専門性と貢献度に見合った正当な評価を受け、未来に希望を持てる環境を整えることが急務です。
こうした状況を受け止め、今回の法改正では、現場の「処遇改善」を根幹に据え、資材高騰分を適切に価格転嫁することで「労務費へのしわ寄せ」を防止する仕組みが強化されました。さらに、適切な工期設定やデジタル技術の活用による「働き方改革と生産性の向上」を強力に推進することで、限られた人数でも高い品質を維持し、同時に心身のゆとりを生み出せる、持続可能な建設業の実現を目指しています。
ANDPAD ONE編集部より
処遇改善に関する記事はこちら:https://one.andpad.jp/magazine/20714/
デジタル技術の活用に関する記事はこちら:https://one.andpad.jp/magazine/21802/
資材高騰による労務費のしわ寄せ防止についての記事はこちら
工期が著しく短い場合、長時間労働が不可避となる等、技能者の就労環境が悪化するおそれがあります。そこで、建設業法第19条の5では、注文者に対し、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約の締結を禁止しています。
一方で、受注者が著しく短い工期で請負契約を締結することに対する制限は従前、ありませんでした。そのため、受注者側には「発注者からの工期短縮の要求を拒めば、次の仕事がもらえなくなるかもしれない」という懸念があり、無理な工期を承知で引き受けてしまう実態もありました。
このような自ら積極的に、あるいは断れずに短工期で受注してしまう構造は、結果としては、受注者側の社員だけでなく、受注者の協力会社の皆様にまで過度な負担を強いる「しわ寄せ」の連鎖を生む要因となっていました。そこで、改正建設業法は、第19条の5に、建設業者に対し、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約の締結を禁止する規定を追加しました(同条第2項)。改正建設業法は、令和7年12月12日に施行となりました。
通常必要な工期よりも著しく短い工期とは何か、という点については、中央建設業審議会が作成・勧告している工期の基準(※)を参照に判断することになります。
(※)https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000190.html
■工期に関する参考資料
・東北地方整備局資料
https://jsite.mhlw.go.jp/iwate-roudoukyoku/content/contents/haxtutyuusyanominasamahe.pdf
・近畿地方整備局資料
https://www.kkr.mlit.go.jp/kensei/kensetsu/qgl8vl0000003iuv-att/202310_tekiseikouki_b.pdf
工期ダンピングが禁止される理由
建設工事で工期ダンピングが行われると、下記のリスクが発生する可能性があります。
長時間労働
工期ダンピングによって必要とされる期間よりも短い工期が設定されると、納期に間に合わせるため、長時間労働につながる可能性があります。
労働基準法では1日8時間・1週40時間という法定労働時間が定められていますが、極端に短い工期の現場では、このルールを守りたくても納期に間に合わないという矛盾が生じ、結果として、健康を害しかねないほどの長時間労働が当たり前になってしまうリスクがあります。
構造物の安全性や耐久性への影響
工期ダンピングにより、工期が短く設定されてしまうと、必要な工程を省くなどの手抜き工事が発生し、本来あるべき施工品質の確保が困難になるリスクがあります。
建設業界の就労環境の悪化
建設業界では、注文者から請け負った仕事を請負業者がさらに協力会社に依頼するといった重層的下請構造になっています。二次請け、三次請けの協力会社は、無理な工期を設定されても、「断ったら仕事を回してもらえないかもしれない」という不安から仕事を受けざるをえない場合もあります。
このような状況が続くと、適正な工期で仕事を行うことが困難になり、就労環境の悪化を招くリスクがあります。
建設業法の改正のポイント
改正前の建設業法でも、施工に通常必要と認められる期間よりも著しく短い期間を工期とする請負契約の締結を禁止していました(建設業法19条の5)。
しかし、改正前の建設業法の工期ダンピングの規制は、デベロッパー等の建設工事の注文者を対象としたものですので、受注者は対象外となっていました。そのため、改正建設業法では、受注者の側においても、施工に通常必要と認められる期間よりも著しく短い期間を工期とする請負契約の締結を禁止しています。
建設業法改正により、注文者・発注者の双方に工期ダンピングが規制されましたので、現場の労働者を酷使せずに、適正な工期の設定が促されることが期待されています。
なお、工期ダンピングにより建設業法違反となると、国土交通大臣または都道府県知事により勧告がなされ、勧告に従わない場合には公表される場合があります。
現場でできること
ANDPAD ONE編集部より
法改正により、受注者側にも著しく短い工期での契約が禁止される今、現場に求められるのは「感覚ではなくデータに基づいた交渉と管理」です。適正な工期と利益を守るために、ANDPADをご活用いただけます。
「ANDPAD施工管理」は、ANDPADの標準機能。工程表や写真、図面、報告などをクラウド上で効率的に管理・共有できる製品です。
・ANDPADの工程表では、資材の到着遅れや前工程の進捗具合などで起こる工程変更も、ANDPAD上で最小限の手間で更新することが可能です。発注者・受注者の皆様は、工事の進捗管理にご活用ください
・ANDPADチャットでは、書類管理・契約変更協議の履歴や進捗状況の共有を円滑に行うことにお役立ていただけます。発注者・受注者の皆様は、書類や協議に関するやり取りの証拠を残す場としてご活用ください
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令和7年12月12日に完全施行
2024年問題と呼ばれている残業の上限規制がスタートする前は、労使協定さえ結べば時間外労働は、制度上は青天井でした。そのため、長時間労働を前提とした突貫工事と呼ばれる工期設定がなされる建築現場もあり、建築業は、3Kと呼ばれる若者から敬遠される業種となってしまいました。
この反省を踏まえ、今回の改正建設業法があるわけですから、働き方改革を進めるという意識のもと、長時間労働を前提としない適切な工期の設定が不可欠となります。
この改正建設業法および関連する政令などが令和7年12月12日から完全施行されました。
皆様も、この改正建設業法施行にあわせ、適切な工期設定に意識を働かせると共にITツールも積極活用して、自社の働き方改革に努めて頂きたいと思います。
| URL | https://takumilaw.com/ |
|---|---|
| 代表者 | 代表社員弁護士 秋野卓生 |
| 所在地 | 〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町3-8 第2紀尾井町ビル6階 |
















