1989年の創業以来、自社での職人育成に取り組み、建築工程の内製化を推進してきた株式会社平成建設。建築工程を細分化しそれぞれを外部パートナーに委託して住宅をつくり上げることが広く根付いている建築業界において、直接ものづくりに関わる主要工程にも対応できる体制を社内で整え、業界を驚かせている。
今回は、「日本一の職人集団」を目指す同社の実態を詳しく紹介していく。また、20年以上前から自社にITエンジニアを置き、基幹システムを自社開発するなど、デジタル活用も積極的に進めてきた同社のANDPAD運用方法にも焦点を当てる。
前編では、インタビューに応じていただいた4名のみなさんが、どのようなキャリアを積んできたのかを紐解きながら、木造住宅からRC造マンションまで幅広く手がける同社に根づいている風土や文化に迫っていく。
INDEX
- 創業から大工の育成に取り組み、200名を超える職人集団を形成
- 「HEISEI DAIKU MIND」が育むスキルアップへの意欲
- 多様な情報・視点に触れる仕組みをつくり、「内製化」を強化
- 職人を社員として雇用しているからこそ、最適な稼働管理が課題に
創業から大工の育成に取り組み、200名を超える職人集団を形成
平成建設は、注文住宅事業、土地活用事業、リフォーム・リノベーション事業、不動産事業の4つを総合的に展開している建設会社だ。同社は、静岡県沼津市の本社を拠点に、静岡県・神奈川県・東京都に事業所を置き、地域や時代により変化する、多種多様なお客様のニーズに対応。2024年2月に創業35周年を迎えた。ここに至るまで黒字経営を継続し、着実に業績を伸ばしている。
同社の強みは、高度な「設計・デザイン力」と自社の職人が有する「技術力」にある。建築関連での受賞歴も多く、2023年には、建築大工による木造帆船の大規模レストア「クレオパトラ号」、静岡県内に建つ住宅「森を育む丘の家」が、グッドデザイン賞・W受賞の快挙を果たした。過去にはグッドデザイン賞金賞やベスト100の受賞歴もある。
そんな同社を象徴する独自の取り組みが、「建築工程の内製化」だ。現在同社で活躍する大工は200名を超える。社員の約4割を占めているというから驚きだ。同社が築き上げてきた「職人大工集団を主体とした平成建設の内製化システム」は、建設業における優れたビジネスモデルとして、2011年にグッドデザイン賞を受賞している。
工事部で部長を務める荒井さんも、自社で大規模な職人育成を行う同社の取り組みに惹かれて入社を決めた一人だ。複数の会社で経験を積んだ転職者だからこそ分かる、同社の魅力について伺った。
荒井さん: やはり社内に「職人」がいることが他社との大きな違いです。営業や設計だけではなく、大工や多能工も同じ会社の社員なので、全員でチームを組んで仕事に取り組む一体感があります。
私は採用活動にも携わっているのですが、毎回驚かされるのが「大工になりたい」と当社にやってくる学生の多さです。一般的には、学生100人を同じ教室に集めたときに、そのなかに大工志望の学生が1〜2人いればいい方です。当社には、その少数派が40人、50人と常時集まってきます。建築に対する高い志を持つ若者とコミュニケーションをとり、一緒にものづくりを楽しみながら、現場を仕上げていく達成感を味わえるのが、当社の現場監督として働く魅力だと思います。
株式会社平成建設 本社静岡工事部・首都圏工事部 部長 荒井 治氏
一方で、バックオフィス部門の社員の目には、職人育成に力を入れる同社の文化はどう写るのだろうか。一ノ瀬さんは、新卒社員で初めて社内SEとして採用され、IT環境の整備に長年携わっている。ただ、一ノ瀬さんも、入社後の1年間は研修として工務部で働いた経験を持つ。工務部はとび・型枠・鉄筋・土工などコンクリートを扱う工事を担う多能工職人が所属する部署だ。
一ノ瀬さん: もともと小学生の頃からプログラムを書くのが好きで、学生時代からエンジニアを志望していました。エンジニアとして働ければ業種は何でもいいと、当社の勢いと部活動の延長のような活気に惹かれて入社を決めたのですが、研修として現場に放り込まれたときには正直驚きましたね。最初は強制的に労働をさせられているような気にもなりましたが、半年もすればすっかり慣れて、仲間と一緒になって荷揚げの速度を競い合ったり、楽しみながら仕事に取り組んでいました。何より「働いて稼ぐのは楽なことじゃない」「職人の仕事はこんなに大変なんだ」とわかり、社会人としての覚悟が決まったように思います。
当社は、「大工の技と精神を受け継ぐ職人集団」をモットーに掲げていますが、これは職人に限ったことではありません。職種に関わらず、社員一人ひとりが大工の誇り(*)を受け継ぐプロフェッショナルであることを表しています。私の前任者も幅広い知識とスキルを持った方で、当時の工事部長と相談をしながら基幹システムのベースをほぼ一人で開発しました。現在は、私が基幹システムの構造を理解した上で改修を加えながら、より精度の高いシステムへと昇華しています。
*編集部注:工業化以前の「大工」の仕事――憧れの存在としての大工
『工業化への道』のなかで渡辺 保忠氏は、大規模な築城と城下町の建設が一段落した1620年代になると、地縁で繋がる労働組織の統括者としての「棟梁」という名称が生まれたと説明する。技能がすぐれ統括能力にひいでた職人(すなわち、親方棟梁)は施主からの信用が厚く、仕事が集中したという。
設計から施工、平大工職人の管理や経営に至るまで、オールマイティーに対応できる大工こそが憧れられる存在であったことがうかがえる。
株式会社平成建設 本社 総務部 次長 一ノ瀬友紀夫氏
職人育成を全面に打ち出している同社には、「平成建設で働きたい」と、大工志望の学生が全国から集結してくる。平賀さんもその一人だ。
同社には、木を扱う大工が所属する「大工工事部」と、先に紹介したとび・型枠・鉄筋・土工などコンクリートを扱う多能工が所属する「工務部」がある。平賀さんは、一ノ瀬さんと同様に工務部での研修を経て「大工工事部」に配属となり、大工として経験を積んできた。
「工事部」に所属するのが現場監督。平賀さんと小野田さんは現在は工事部に所属している。
平賀さん: 2008年に「大卒の大工を採用して建築工程の内製化に取り組む会社」として、テレビ番組で大々的に当社の特集が組まれました。そのとき私は大学院の研究室に所属して建築を学んでおり、就職活動まっただ中でした。当時は明確に志望している企業がなかったのですが、番組を見た同級生から「平成建設では現場の仕事ができるようだ」と聞き、興味を持ったんです。「大工工事部」か「工務部」の選択肢がありましたが、当社で働くなら大工仕事をしたいと思い、大工工事部を志望して入社しました。
私も一ノ瀬と同じように工務部で1年間の研修を受けた後、木工事の大工として経験を積み、5年目からは大工と兼任で施工管理にも携わるようになりました。ただ、大工兼任監督になった当時は、業務の幅が広がったこともあり、注文住宅に年間2棟ほどしか携われなくなってしまったんです。大工と現場監督のいずれかに専念すれば、年間5〜6棟程度は担当できるはず。今の状況では、大工としても現場監督としても経験値を高めることができない……そんな焦りを感じました。そこで、まずは「大工の目線を活かした施工管理」に集中して取り組もうと工事部に異動し、今に至ります。
株式会社平成建設 本社静岡工事部 主任 平賀功浩氏
平賀さんのように、自ら声を上げれば別分野の業務にチャレンジできる環境があることも、内製化を打ち出す同社の特徴だ。営業、設計、施工管理、大工、アフターメンテナンス、建物管理など、ものづくりに関わるさまざまな職種が存在しているからこそ、本人の適性や希望に合ったキャリアチェンジも実現できる。小野田さんも、自ら希望を出して工事部に異動し、職人から現場監督へと転身した。
小野田さん: 親が建設業界で鉄骨関係の仕事をしていた影響を受け、私も大学では建築学科に入りました。地元企業で働きたいと思い、県内の建設会社をいろいろと見ていくなかで出会ったのが当社です。「自社で職人さんを雇用している会社は珍しい、おもしろそうだ」と興味を惹かれ、入社を決めました。
入社から8年間は工務部に所属し、工務部が管轄している「とび」「型枠」「鉄筋」「土工」といった全部門で職長まで勤めました。30歳になったことを機に、スキルアップのために工事部への異動を希望し、現在はRC造の賃貸物件の施工管理をメインで担当しています。
現場監督になって間もないころは事務作業の多さに驚きましたが、仕事に慣れていくうちに、「もっと効率化できるのでは」という思いが芽生えました。そこで最近では、Googleドライブに資料を格納して外でも仕事ができるようにしたり、部署内のデータ管理の仕方を見直したりと、手が空いた時間にITを活用した業務改善にも取り組んでいます。
株式会社平成建設 本社静岡工事部 主任 小野田雅文氏
「HEISEI DAIKU MIND」が育むスキルアップへの意欲
建設業界での職人不足を見据えて、いち早く行動を起こし、大工の育成に取り組み始めた同社。同社の秋元社長は、業界の常識を覆し続ける「異端児」として多くのメディアにも取り上げられている。そもそも同社が「大工育成」をはじめたのは、いつごろなのだろうか。
一ノ瀬さん: 創業当時から「大工」と「工務」のトップを一人ずつ社内に置いているので、社長は最初から職人を育てながら事業を展開していこうと考えていたと思います。ただ、大工の育成サイクルは一朝一夕ではいかず、先輩から後輩へ技術をスムーズに継承していく階層構造ができていることが重要です。ですから地道に大工の採用を続け、ある程度形になったのが1996年ごろだと思います。私は2002年の入社ですが、そのころには「建築工程の内製化」という言葉は、社内で当たり前のように飛び交っていました。
木材の割れた部分を引き寄せつなぐ役割をもつ「チギリ」を用いたオブジェ。“社員一人ひとりが会社のチギリである”というコンセプトを表している。それぞれのチギリは、社員が自身で削り出したもの。
一ノ瀬さん: 「職人育成」に取り組む私たちが大事にしているのは、「HEISEI DAIKU MIND(平成大工マインド)」です。数年前にブランディングを見直した際に掲げたコンセプトですが、この言葉に私たちのものづくりの原点があり、DNAとして社員に受け継がれています。
職人育成と同時に、同社は社員の「多能工化」の推進にも取り組んでいる。現在では、技術領域での多能工化にとどまらず、手がける「現場の種類」も増やしているという。
一ノ瀬さん: 以前は、戸建住宅、施設・集合住宅、リフォーム・リノベーションといった事業ドメインによって担当する社員を分け、設計や施工管理に取り組んでいました。現在では、幅広い物件を担当できるオールマイティな人材を育てるため、事業領域にこだわらずに物件を担当してもらっています。
現場監督は「木造」「RC造」「リフォーム」と幅広い物件に携わることになる。その場合、工事内容や現場の規模によって安全管理や品質管理のレベルは変わってくるのだろうか。一ノ瀬さんは、「当社の社員は本当にみんな真面目。どのような物件でも品質に対して高い意識レベルで取り組んでいる」と話す。
小野田さん: 私はRC造の賃貸マンションを中心に、木造住宅や病院の改修工事などにも携わっています。ただ、現場の規模や物件の種別によって力の入れ具合が変わるということはありません。
荒井さん: 他社からすると「そこまでやらなくても良いのでは」と思うところまでやり切るのが、仕事に対する当社のスタンスです。職人の精神を受け継いでいるからこそ、30万円のリフォームであろうと7億円のレジデンスの新築工事であろうと、同じ熱量で取り組み、同じ品質レベルを追求しています。
大工工事部や工務部が仕事をする加工場。おがくずひとつ落ちていないことに感服した。
こうした幅広い物件に携わるために必要となってくるのが、専門の「国家資格」だ。任せる物件の範囲を広げたことで、「この仕事に挑戦したいから」「自分の裁量で現場を管理したいから」と、資格取得に前向きにチャレンジする社員も増えているという。
一ノ瀬さん: 当社には一級建築士67名、1級建築施工管理技士81名、1級建築大工技能士40名と、地場の建設会社としてはトップレベルの数の有資格者が揃っています。一級建築士を持っている現場監督や大工も多く、最近では建築施工管理技士の取得を目指す社員も多いです。社内にこれだけ合格者がいれば「自分でも取れる」と思うのかもしれませんね。
平賀さん: 私は、入社してしばらくは資格取得への意欲があまりありませんでした。しかし、現場監督となり竣工した物件数が増えていくにつれ、次第に規模の大きい物件にも興味を持つようになり、資格を持っていないせいで、せっかくの大型物件に挑戦できる機会を失うことが本当にもったいないと感じるようになりました。30歳を機に、自分の技術をアピールできる材料が欲しいと考えるようにもなり、資格を取得しようと考えを変えました。
一ノ瀬さん: 自分で自らの可能性を狭めないために、当社の社員は資格取得を目指しているのでしょうね。
多様な情報・視点に触れる仕組みをつくり、「内製化」を強化
「建築工程の内製化」を推進する同社において欠かせないのが、職種間の連携だ。社内でチームを組んでものづくりに取り組むからこそ、「社員同士の動きや最新情報がノイズのように自然と入ってくる環境づくりが重要」だと一ノ瀬さんは語る。
一ノ瀬さん: 当社の本社オフィスはフロアの中央に吹き抜けがあり、社内全体が見渡せる構造になっています。他部署の動きが目に入ってきたり、社員同士の情報交換が耳に入ってきたりと、さまざまな情報が飛び込んでくる環境をあえてつくっているんです。
一ノ瀬さん: 以前、「人は集中して物事を考えているときよりも、意識が分散しているときのほうがクリエイティブなアイデアが生まれる」といった記事を目にしました。当社の社長も、みんながオフィスに集まることで課題解決のヒントを得られたり、新しいアイデアを考えつくような環境づくりを大事にしています。整然としたオフィスは自分の業務に集中できて合理的かもしれませんが、それでは当社が目指す「内製化」の価値が発揮されないのではないかと私は考えています。
本社オフィスには、福利厚生の一環として中華食堂(左)と大浴場(右)が設置されている。同じ場所で過ごす時間がコミュニケーションを活性化し、新たなイノベーションを生む。
また、同社では、今では一般的となった「360度評価」を20年以上前から導入している。これも自分以外の多様な視点からフィードバックを受けるための取り組みのひとつだ。
一ノ瀬さん: 360度評価を取り入れていることに対して、社長に「なんとなくの印象で評価することにはなりませんか」と疑問を投げかけたことがあるのですが、社長からは「なんとなくで良いんだよ」との答えが返ってきました。そのほかにも「本当に正しい査定なんて神様しかできない。普通の人間にはできないのだから、上司だけに裁量を渡すなんてもってのほかだ」とも言っていましたね。
一ノ瀬さん: また、各部門の社員たちが自分の上司を決める投票制度「CL(Chief Leader・チーフリーダー)制度」もあります。投票という形で一人一人が会社に対し意思表示する場を設けることで、人事の透明性や公正性を保つのが狙いです。
当社のブランディングには、「“平成建設ってなんかいいよね・安心だよね”といった感覚をもってもらいたい」という想いが根底にあります。これは、人の評価も同じこと。数字で評価するほうが合理的なのかもしれませんが、「この人と一緒に働きたい」といった評価に重きを置く考えが根づいています。
職人を社員として雇用しているからこそ、最適な稼働管理が必要に
社員一人ひとりが大工の誇りを受け継ぎ、各業務のプロフェッショナルを目指して仕事に前向きに取り組んでいる様子が伺える同社。ただ、そんな同社も「工程管理」や「職人の稼働管理」の課題を抱えていたという。
荒井さん: 事業用物件の現場監督、注文住宅の現場監督、リフォームの現場監督、大工兼任監督と、それぞれ担う役割や業務範囲が異なることもあり、工程表の作成方法も工程管理の仕方もバラバラで情報の集約に苦労していました。それでも、現場監督が作成した週間工程表を管理職がとりまとめて基幹システムに入力し、社員全員が閲覧できる全体工程表に落とし込むことで何とか現状を把握していました。
ただ、この方法の場合、工事に遅れが発生したときに現場監督から報告がないと、データが更新されないまま1週間が経過し、基幹システムの工程と実際の進捗に乖離が生まれてしまいます。実際に工期遅れが反映されていない古いデータを信用したまま人員配置をしてしまって、自社の大工や職人が現場に入れない事態が起きていました。
一ノ瀬さん: 当社は、大工や職人を社員として雇用しているからこそ、固定費のなかでも人件費によるインパクトが大きくなります。大工の稼働管理が最適であれば人件費がかかっても黒字を維持できますが、仕事がない時期を作ってしまうと一気に苦しくなります。現場の進捗状況を全員がリアルタイムに確認できるデータ環境の整備は、建築工程の内製化を推し進める当社にとって欠かせない取り組みでした。
職人の育成によって建築工程を内製化し、社員全員がお客様の想いに向き合いながらものづくりに取り組む体制を整えた同社。ただ、職人を自社で抱えているからこそ、最適な稼働管理が人件費をコントロールする大きな要となる。
そこで同社は、事業の枠を超えて情報を一元管理できる体制を整えるために、ANDPADの導入と基幹システムとのAPI連携に踏み切った。後編では、同社のANDPAD運用方法について詳しく紹介していく。
URL | https://www.heiseikensetu.co.jp/ |
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代表取締役 | 秋元 久雄 |
創業 | 1989年 |
本社 | 〒410-0022 静岡県沼津市大岡1540-1 |