第4話 本当に必要なのは売上じゃなかった ~利益が必要な理由を理解して利益が出る経営体質になろう~

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出口 経尊 氏
心楽パートナー株式会社 代表取締役
建設業専門に全体最適で粗利を増やす経営パートナー、1975年香川県生まれ。
工事会社を経て、工務店のHP・チラシ・顧客管理・原価管理など集客や業務改善に携わる。
独自の『全体最適型・粗利増加法』で財務改善や人材育成等、経営全般の最適化をサポート。
銀行主催のセミナー講師や業務提携により、金融機関との関係も深めている。
2021年4月から香川大学大学院地域マネジメント研究科にMBA取得を目指して在学中(2023年3月卒業予定)。

前回は、1年間の会社のお金の流れから限界利益を基準にして、損益分岐点が把握できる考え方をお伝えしました。決算書をベースに、労務費などの工事原価を固定費に移動することで限界利益を算出できるのが、ご理解いただけたと思います。

コンサルティングの現場やセミナー会場では「限界利益が今後の経営の行く末を握っている」と毎回お伝えするほど、限界利益は経営において重要な数字と捉えています。逆に言えば、売上高はあくまで目安であって、それほど重要でないと言えます。もちろん、売上高が0では限界利益も0なので、売上高は必要ですが、それだけにこだわっていても、経営状況は良くならないということです。会社全体も現場単位でも、売上と限界利益、または粗利をセットにして把握していきましょう。

利益が手元にそのまま残るわけではない

①利益について

図1は、前回お伝えしたお金のブロックパズル®です。ここからは「利益」について解説していきます。正確に言えば、本業で稼いだ結果の利益だとすると、「営業利益」になります。ちなみに、本業とは定款に記載された事業目的と合致するものです。逆に本業以外だと営業外収益(入)営業外費用(出)と呼ばれていて、営業利益に足し合わせたのが「経常利益」になります。例えば、補助金や助成金は営業外収益で、借入による利息は営業外費用です。ここでは、営業利益と経常利益が大差ないという前提で「利益」としてまとめて表現します。

図1だと「利益÷売上高」の利益率は10%なので、建設業で例えるとかなり収益性が高くなっていますが、実際は黒字の場合だと5%前後でも良い方だと思います。

図1

②税引後利益について

図1だけ見ると、「利益」は会社にまるまる残るお金だと認識しそうですが、そんなことはないのを多くの方がご存知だと思います。利益がプラスになると、そこから引かれるのが「税金」です。ここでは税率を30%として利益の横にはみ出して記載しています。そして「利益-税金」を引いたものが「税引後利益」になります。「純利益」とも呼ばれていて、会社に残ったお金という意味合いです。ただし、実際に同額の現金が残っているかと言えば、そうではありません。売上や支払の計上と入出金のタイミングはズレるので、あくまで理論上になります。

よくあるのは、利益が多いほど税金も多くなるため、反射的に節税対策をして納税額を減らしたくなることです。その気持ちはよく分かりますが、今からお伝えすることを知れば、安易に節税するのは、経営状況を苦しめることが理解できると思います。

図2

③減価償却費の繰戻について

念のため「減価償却費」について説明します。減価償却費とは、1年で費用として計上できない設備投資などの費用を一定期間に配分する会計処理のことです。例えば、普通自動車だと6年で配分することになります。シンプルに計算するなら、300万円の車だと50万円/年を費用として計上できることになります。利益が沢山出そうだからと車を買って節税しようとしても、できないわけです。

続いて「減価償却費の繰戻」です。もし、現金一括払いで300万円の車を購入したとすると、1年目は300万円の支出が生じますが、2年目以降だと維持費以外の支出はありません。ところが、2年目以降も「その他」の費用として50万円ずつ経費が生じたことに会計上はなります。要するに、減価償却費は実際に使っていないお金なので、税引後利益の後に戻すという扱いにします。減価償却費の繰戻に関しては、私自身も最初からすぐに理解できたわけではないので、ご安心ください。

ただし、自社物件のショールームなどの建物、車両や重機を沢山揃える大きな設備投資を行う企業の場合は、減価償却費も大きくなるので、実際に使っていない減価償却費の繰戻は経営判断において重要な項目になります。その理由は、続きをお読みいただくと納得いただけると思います。

図3

④返済と繰越について

図3では、税金を引いた「税引後利益」「減価償却費の繰戻」で、お金が増えたようになっていますが、そこから出ていくお金があります。それは図4にある借入の「返済」です。無借金経営の企業でない限り、基本的に返済はあるでしょう。車でも会社名義でローンを組めば、返済になります(リースは除く)。ですから、返済は経費ではないということです。あと、借入の種類は短期借入金でなく、長期借入金を対象とします。商品を仕入れるための短期借入金は、一時的にお金を物に換えて、販売後にまたお金に換えるので、ここでの返済には含みません。

「繰越」「税引後利益+減価償却費」「返済」より多いと、理論上は余ったお金として、貯金できることになります。万一の備えや将来の設備投資のために貯金が必要なのは、家計だけでなく、会計も同じです。もっと正確に1年間の資金の増減を把握したい場合は、「キャッシュフロー計算書」と呼ばれるフォーマットを使って、現預金の変動金額を算出することができます。

図4

経営判断のポイントは「税引後利益+減価償却費≧返済」

金融機関は様々な指数から、経営状況を分析して業績の現状を把握しているのですが、その1つが「税引後利益+減価償却費≧返済」の計算式です。要は返済できるか否かです。仮に「税引後利益+減価償却費<返済」だったとしても、現金があれば会社はすぐに倒産することはありませんが、一定以上の利益を確保しないと、年々現金が減っていくので、どこかの時点で、税引後利益+減価償却費が返済を上回らないといけません。借入ができれば、一時的に現金は増えますが、返済と利息の支払が更に増えることになります。

2022年3月現在、これから日本全体で問題になるのが、コロナ融資の返済据置と利子補給が順次終了し、返済と利息の支払が始まることです。それにより現金が減るので、特にコロナ融資の借入金を既に使っている場合は、今まで以上に利益を増やさなければなりません。図5の建設業の新型コロナ破たん件数の月別推移を見ると、指数からコロナ禍による経営破綻が増加傾向にあるのが読み取れます。第1話でお伝えした外部環境の脅威による影響などが既に出始めていると思われます。

 

図5.建設業の新型コロナ破たん件数 月別推移

【典拠】日経クロステック 新型コロナウイルスの影響による建設業の経営破綻の推移(東京商工リサーチ調べ)

再度お伝えしますが、返済は経費と同じく口座からの引落ですが、経費でなく税引後利益以降で支払うものです。正確に分けると、返済の元金は税引後利益以降で、利息は経費です。まずは、月間及び年間の返済額がいくらなのか、3年後はいくらになるのか、返済予定額を取りまとめて、月や年単位の返済額を一覧表にしておきましょう。そうすることで、金融機関の支援の仕方が変わる場合もあります。

利益が必要な理由を返済の観点から解説しましたが、いかがだったでしょうか。例えば、日常ありがちな発注ミスや手戻りで得られる利益を失うことが「仕方ない」では済まなくなります。原価が2倍になったもので同じミスを起こすと、損失も今までの2倍になるということです。些細なミスを無くすためには、電話による口答の依頼ではなく、多少面倒でもANDPADのチャットなどで文字化して正確に伝えることが、確実な利益の獲得や損失の防止に繋がります。

次回は、利益が出る経営体質になるために、日常よくある値上げや値下げがもたらす影響について、お伝えしていきます。また、今後の12話の中で必要な利益から逆算した根拠ある売上目標の設定などにも触れていきます。

心楽パートナー株式会社
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代表取締役 出口 経尊
創業 2016年6月
本社 香川県高松市屋島西町2300-1
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寄稿:出口 経尊氏(心楽パートナー株式会社)
編集:平賀豊麻
デザイン:安里和幸